笑っている──。
やわらかく、ほほ笑みを浮かべている。
少女が一人、花園の中で、太陽のまばゆい光を受けながら、真っ白な日傘をさして。
踊るように──。
いつも、そんな夢をみる……。
「きろ……おい、そろそろ起きろ……!」
耳もとに同居人の少年の声が響いた。
刹那、花園と少女の姿は朝霧のようにかき消え──俺は夢の
風にゆれる少女のベージュ色の髪のイメージが、目覚めたあとでもかすかに脳裏に残った。
木造のモダン風な屋敷の中で、俺にあてられた部屋の壁かけ時計の針は、すでに昼ちかくを指している。
寝過ぎた、な……。
肩にのしかかる眠気でぼんやりした頭を振り払い、とりあえずあいさつを返す。
「おはよう、ジェット……」
「先輩、な」
「おはよう、ジェット先輩」
洋風の名前にぴったりの金髪に年代物のゴーグルを装着する少年は、自分の名前に「先輩」という敬称をつけさせることにこだわる。
外見は俺より年下としか思えないジェット先輩は、ベッドから出ようとする俺の前に、ノートサイズの鏡を見せてきた。
鏡面には寝ぐせの残る茶色がかった黒髪と、純日本人の黒い瞳をもつ男──つまり俺の、まだ眠さののこる顔がうつっている。
「これは誰だ?」
「イケメン」
俺に鏡を向けたまま聞いてくるジェットに、小粋なジョークでこたえてみる。
いや実際に、自分で言うのもなんだが、かなりルックスはいい方だと思う。
こんな容姿に生んでくれた、どこでなにをしているのかもわからない両親に、心中で感謝をささげる。
少年は呆れた顔で、もう一度おなじことを聞いてきた。
「俺だよ」
「名前は?」
「恭司。
「ぼくは覚えてる。けどお前は、
「不思議と、名前だけは憶えてるんだよな。あと年齢も、十八歳」
「まだ他のことは思いだせないのか?」
うなづく。
なにを隠そうこの俺は、見た目通りの好青年で、どこにでもいるごく普通の記憶喪失者なのだ。
「ならいい。なんだか表がさわがしいから、代わりに見てきてくれないか?」
「それはいいけど……ジェット先輩は?」
「ぼくは色々といそがしいからな、今ちょっと手がはなせない」
「わかったよ、すぐに確認してくる」
この家にお世話になっている身としては、家主の手をわずらわせることはできない。
「といっても、ジェット先輩がくる前から、俺はここに住んでたんだけどな」
真っ白なシャツに素早く袖を通すと、正面玄関へと向かいながら独り言ちる。
先に住んでたとはいえ、記憶のない俺にはこの家が自分の持ち家だと証明できないし、そもそも本当に自宅であるのかすらわからなかった。
気がついた時、俺はこの家のベッドの中で独りだったのだから。
結局、手続きやその他もろもろの関係で、記憶のない俺に住宅の管理はできないと判断され、ジェット先輩が仮の家主となったのだ。
そのまま追い出されても不思議じゃなかったんだが、彼の好意で俺はこれまで通り住まわせてもらっている、というわけ。
そんなことを思い起こしつつ、チャイムが鳴りつづけているドアを開けた。
「はいはい、どちら様ですか」
「ここ、キュアット探偵事務所ですよね!? 依頼したいことがあるんですけど!」
玄関の向こうに立っていたのは、中学生ほどの年齢であろう二人の少女。
開口一番に叫んだのは、あずき色のロングヘアが印象的な方。
肩で息をしながらも、真っすぐこちらを見つめる瞳には、なにか切羽詰まった色が宿っている。
もう一人は、鮮やかなオレンジ色の髪が目を引く女の子だった。
どこか都会的なセンスを感じさせる服装が、この辺りでは見かけない雰囲気の持ち主だ。
対照的にも思えるそんな二人の子どもが、いったいなんの用で
「とりあえず、中にどうぞ」
なんとなく大変なことが起きそうな予感がした俺は、二人を家へとひき入れる。
ひとまず名前を聞いた。
あずき色の髪が小林みくるで、オレンジ髪が明智あんな、ね。
「それで、早速依頼を……」
「たしかにここは、キュアット探偵事務所だったけど」
「だったけど? なんで過去形なんですか? ……まさか」
「うん、今はもうやってないんだ」
「「ぇ……えぇ~っ!?」」
仲がいいのか、二人はそろって同じような悲鳴を上げた。
キュアット探偵事務所とは、俺たちが今いる家の名前。
この家は探偵活動をするために建てられたもの、だというのは俺もジェット先輩に聞かされて驚いた覚えがある。
それも、ただの探偵ではない。
「じゃ、じゃあ、私たち以外の名探偵プリキュアは……」
「いないぞ。行方不明だ」
応接間にいる俺たち三人のもとへ、話が聞こえたのか、作業の手があいた様子のジェットやってきて答えた。
名探偵プリキュア──それはどんな謎でも難事件でも、まるっとキュアっと解決する、探偵の中の探偵の名称。
以前そういう風に、俺も彼から教えられたが……
(プリキュア……なんか妙に気になるんだよな、その名前)
名探偵プリキュアに憧れてここをたずねてきたというみくるは、その対象がいないと知ってショックをうけている様子だった。
「探偵になって、名探偵の先輩といっしょに事件を調査するのが、私の昔からの夢だったのにぃ~……」
「夢、か……夢が叶わないのはツラいよな」
「落ち込むのは早いよ、みくる! 先輩がいないなら、私たちがなっちゃえばいいじゃん。その名探偵に!」
「……私たちが……?」
「ああ、それはいいかもしれないな。この家を使ってるのも、俺とジェット先輩の二人だけで持てあましてたし」
「おい、勝手に決めるなよ!」
あんなと一緒にみくるをはげましていたところ、声をあげたジェット先輩にあんなは当然の質問をよこす。
「そういえば、あなたは誰?」
「ぼくはここ、元・キュアット探偵事務所の天才発明家だ」
「プリキュアが調査につかう道具とかをつくってた、らしい」
「子どもが?」
「子どもじゃない、これでも二百二十二歳の大人だ! わざわざロンドンの本部から来たんだからな!」
「すまない、彼はああ見えて
「だから子どもじゃないって言ってるだろ!?」
幼い容姿に似合う様子でぷりぷりと怒ってみせるジェットも、大人ぶった俺の言葉もジョークだとスルーして、あんなは俺の顔に視線を向けた。
「お兄さんは?」
「俺はここの
「じゃあ、お兄さんが名探偵プリキュアじゃ……」
「こいつは違う。ロンドン本部の探偵事務所に問いあわせても、こいつの身元はわからなかった。謎の男だよ」
冷静さをとりもどしたジェット先輩が、俺に代わって説明してくれる。
名探偵のトップを
と、先ほどのみくるの言葉にひっかかりを覚えた俺は、二人に聞きかえす。
「さっき『私たち以外の』って言ったけど、まさか君たちも」
「はい、私たちも名探偵プリキュアになっちゃったんです。この子の力で」
「ポチ~!」
ふいに奇妙な鳴き声が響いた。
声が聞こえたのは、あんなが肩からさげている、動物をデフォルメしたような可愛らしいポーチ。
マスコット状のポーチ……だと思っていたものが、モゾモゾと動きだす。
まるで赤ん坊が、お腹が空いてグズりはじめるように。
それを見た俺とジェット先輩は、別々のおどろきをもってポーチ──ポチタンという名前だそうだ──を見た。
「これ生きてるの!? 動かないから、ただのグッズだと思ってた」
「こいつは、時空の妖精!?」
ポチタンをかかげたあんなの口から語られる事実に、俺たちは衝撃を受ける。
なんと彼女は、
もちろん、あんな自身の能力などではない。
時空の妖精と呼称されるポチタンが、彼女をこの時代に連れてきたとのこと。
あんなのヒザのうえで、ポチタンは得意げにエッヘンと胸をはる。
「けど、事故なんだろう?」
「だから私、このままじゃ元の未来に帰れないかもしれないんです」
「それをなんとかするため、名探偵プリキュアの力を借りたくてここに来たのか……」
そこまで聞いた俺は、やっと二人が家をたずねたわけを理解した。
「しかしジェット先輩も言ったように、この事務所はもう閉鎖されてるんだ」
「なんとかできないんですか?」
なんとかしてあげたいが、俺もジェットも名探偵どころか、ただの探偵ですらない。
打つ手なしと知って沈むあんなとみくる。
その沈黙の重さを打破するように口を開く少年のゴーグルが、キラリと光った気がした。
「今、この妖精は力を失ってる。それをとりもどせたら、もう一度時間移動ができるんじゃないか?」
さすがジェット先輩、なんて冷静で的確な推理なんだ。
ポチタンのエネルギー源は「マコトジュエル」と呼ばれる、人間の想いの結晶。
あんなを未来に帰してあげるため、みくるは協力を申しでる。
「わたしが必ず、あんなを元の世界に戻してあげるわ!」
「うん、それまではよろしくね、みくる!」
二人は笑いあい、かたく手をとりあった。
すべてはマコトジュエルを集めるため、それ以上に困っている人たちを助けるため。
そんなあたたかな光景が、俺の胸にチクリと小さなうずきを与えた。
……仲間。
その一言が、小さく、けれどしっかりとした響きで胸中をこだまする。
同時に、白くかすんだ記憶の彼方で、誰かがやさしく笑いかけてくる気がした。
そこに手をのばしても、蜃気楼のように触れられないもどかしさだけが残る。
(俺にも、こんな風に信じあえる仲間がいたのだろうか……)
理由はわからない。
それでも胸の奥だけが、「いた」と静かに告げていた。
「……ジェット先輩」
「なんだよ」
「俺たちも、二人に力を貸してあげた方がいいんじゃないかな?」
それは事務所に籍を置く事実という以上に、そうしなければならない使命感が俺の中に湧きあがったから。
「ぼくらは探偵の助手であって、ここにいた先代のプリキュアはもういないんだぞ」
「でも、今、後輩の新しい名探偵が生まれたじゃないか」
「……ぼくは自分の目で見たことしか信じない。二人に名探偵としての実力があると判断できるまで、うんとは言わないぞ」
「頭が固いなぁ。さすがおじいちゃん」
「誰がおじいちゃんだ!! 子どもあつかいするか年寄りあつかいするか、どっちかにしろ!!」
わめくジェットと、それをからかう俺。
ふざけたムードの中でただ一人、ポチタンの様子が変わった。
「ポチッ!?」
耳をピンと立たせなにかを感じているような様は、これからはじまる大変な物語の幕開けをにおわせた。
たんプリの番組人気と、るるかちゃんのキャラ人気、このふたつに便乗すれば自分の作品でも高評価してもらえるのでは…?
という打算全開ではじめた物語ですが、ちゃんと面白くつくれてるという自信はあるので、どうか感想と高評価、お気に入り登録をおねがいします(土下座)