アルカナ・シャドウは仮面の戦士の夢をみるか?   作:ほろろぎ

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Case3 戦う:夢の中の力

 あんなとみくるが姿を変えた名探偵――キュアアンサーとキュアミスティック。

 その凛とした立ち姿を見た瞬間、胸の奥でなにかが引っかかった。

 

 ──この姿を、どうやら俺は知っているらしい。

 

 フリルをあしらった衣装も、鮮やかな色彩も、二人を包む神秘的な輝きも。

 どこか懐かしいはずなのに、その記憶だけが霧のむこうに隠されたように思いだせない。

 

 手をのばせば届きそうなのに、あと一歩でそれは彼方へと走り去る。

 もどかしさを抱えたままの俺の目前で、二人の少女は怪盗団ファントムの一員、ニジーが生み出した怪人――ハンニンダーへと駆け出した。

 

 

「えぇいっ!」

「やぁーッ!」

 

 

 迷いのないかけ声とともに、アンサーとミスティックが正面から飛びこむ。

 しなやかなパンチや蹴りが、ハンニンダーへと叩きこまれていく。

 

 どうやら武器の(たぐ)いは持っていないらしい。

 拳と脚だけで戦うその姿は、華奢(きゃしゃ)な少女とは思えないほど力強い。

 

 

(……もっとも、探偵が本職なら、剣や槍をふり回している方が違和感しかないか)

 

 

 俺はポチタンを抱えたジェット先輩とともに、後方でただ戦況を見守るしかなかった。

 

 情けなさに拳をにぎりしめる。

 本当ならあの二人より年長者の俺が前に立ち、彼女らを守るべきなんじゃないのか。

 

 なのに現実は、守られているのは俺の方だった。

 無力感に苛まれる俺たちの前で、ペン型のハンニンダーが体を大きくしならせる。

 

 

『ハンニン、ダーッ!!』

 

 

 次の瞬間、頭部らしきペン先の部分から、真っ黒な液体が勢いよく()き出された。

 

 

「危ない!」

 

 

 二人は間一髪で敵の攻撃を回避した。

 黒い液体は背後の木々へと降りかかり、その幹を瞬く間に染め上げる。

 

 青々としていた葉は色を失い、まるで命を吸い取られたかのように変色した残骸と化した。

 

 

「マコトジュエルの力があれば、こんなこともできる! 強力なウソの力は、誰にも止められないパワーになるんだ!」

 

 

 ハンニンダーの後ろで、ニジーは得意げに、煽るようにそう言った。

 俺もジェット先輩も、アンサーとミスティックも、その言葉に反感を覚える。

 

 

「エリザさんのペンで……」

「なんてことをするの!」

「ちがうよ、もうボクのペンだ。ファンになりすませば、簡単にゲットできる。ウソをつかうって、こんなに容易(たやす)いものさ」

 

 

 ウソで他人を(あざむ)き、ダマす。

 まるで、それは自分にとって当たりまえのことだと言わんばかりに。

 いや、それどころか誇らしげですらある笑みを浮かべ、ニジーは胸をはって言い放った。

 

 

「欲しいものは、なんでもウソで手にはいる!!」

『ハンニン、ダ・ダ・ダ!!』

 

 

 ハンニンダーは両腕を広げ、さらなる力を込めて攻撃を放った。

 黒い墨液が砲弾のようにかたまり、雨あられと連続で撃ち出される。

 

 アンサーとミスティックは敵の予想外の手に、動きを止めてしまった。

 このままじゃ直撃する……ッ

 

 

「やめろぉおおおーッ!!」

 

 

 俺はたまらず地面を蹴った。

 そのまま二人を守るため、小さな体をかばうように両手を広げる。

 

 次の瞬間、墨の砲弾は容赦なく俺の背中を直撃した。

 

 

「ぐぁっ……!?」

 

 

 息がつまるような激しい痛みに視界が揺れる。

 足から、体から力が抜けていく──。

 

 遠ざかる意識の中で、俺の名を呼ぶプリキュアたちの声が、かすかに耳にとどいた……。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 意識を失った――はずだった。

 なのに次の瞬間、俺は公園のど真ん中に立っていた。

 

 当然見覚えのある景色だが、しかしそこにいるはずの人たちがいない。

 アンサーもミスティックも、ジェット先輩もポチタンも。

 そして敵であるニジーの姿も、どこにも見当たらなかった。

 

 不気味なまでに静まり返った公園にいるのは、ただ一体。

 ハンニンダーだけだ。

 けれど、その怪物もぴくりとも動かず、まるで時間が止まってしまったように、その場に立ちつくしている。

 

 

「ここは……この世界は……」

 

 

 辺りを見回す。

 風は止み、音も、気配も、なにもかもが現実から切り離されたような違和感。

 

 どこか輪郭(りんかく)のぼやけた、不思議な空気感……。

 この感覚には覚えがあった。

 

 

「そうだ、ここは()()()だ」

 

 

 俺はさっき、アンサーとミスティックをかばってハンニンダーの攻撃を受けた。

 その衝撃で意識を失い、そして今、夢を見ているんだ。

 そう考えれば、この異様な光景にも納得がいく。

 

 その時だった。

 不意に、携帯の着信音が静かな世界に鳴りだしたのは。

 

 

「……ッ?」

 

 

 聞き覚えのある音だ。

 ポケットに入れてある、俺の電話の着信音。

 その音だけが、俺の夢の中で響いている。

 

 

「夢の中に、電話がかかってくる……? いや、誰かがかけてきたわけじゃない。ただの電話がかかってくる夢、なのか……?」

 

 

 ありえない。

 普通に考えれば、夢の中へ電話がつながるなんて、あるはずがない。

 誰が、どうやって現実から夢へ連絡なんてできるというんだ。

 

 それなのに、なぜだろうか。

 俺は、その突拍子もない考えを否定できなかった。

 

 ――これは、誰かが現実から夢の中にいる俺に連絡してきている。

 

 画面を見ると、一通のメールが届いたことを知らせていた。

 そのメッセージはたった一言。

 

 

「『Remember your power』──『自分の力を思いだせ』、だって……?」

 

 

 自分の、力。そんなもの……。

 俺はただの、どこにでもいるごく普通の記憶喪失者、そのはずだ──。

 

 

「……いや、違う」

 

 

 その言葉が、自然と口をついて出た。

 

 

「俺には、俺の力は……ッ」

 

 

 その時だった。

 夢の世界の空に浮かぶ赤い月が、真昼の月が輝きをおびはじめる。

 

 光は流れる川のように優しく空から降りそそぎ、ゆっくりと俺の右手へ集まっていった。

 やがて光はひとつの形となり、それを見た俺の口は、その名を迷いなく言葉にする。

 

 野球ボールよりもひと回り小さな、球体状のアイテム。

 

 

「──『カプセム』」

 

 

 俺が何者なのかも、どこから来たのかも、まだ思い出せない。

 それでも、この力だけは違う。

 

 頭の奥深くに刻み込まれたであろう、眠っていた感覚の一端が、少しずつ呼び覚まされる。

 

 これは、間違いなく俺の力だ。

 

 

『……ハン……ニン……ダァーッ!』

 

 

 怪物のうなり声が響いた。

 さっきまで人形のように動かなかったハンニンダーが、俺を警戒するようにゆっくりと動きはじめる。

 

 まるで、この力を目覚めさせることを恐れているかのように。

 俺は静かにカプセムを握りしめた。

 

 

「……さあ、やろうか」

 

 

 俺は赤いカプセムを、そのまま自らの胸へと押し当てる。

 

 

「──変身」

 

 

 その一言と同時に、カプセムが赤く輝いた。

 次の瞬間、赤い光とは対照的な、真っ黒なモヤがあふれ出す。

 それは生き物のように俺の体へまとわりつき、一瞬で全身をのみこんだ。

 

 黒い闇が体を包みこみ、俺の肉体そのものを書き換えていく。

 悪夢のような漆黒のボディスーツが、胸から足先へ、そして腕、首、顔へと次々に形成される。

 その黒を切り裂くように、鮮やかな赤いラインが全身へと走った。

 

 つま先から頭の先まで、一切のスキなく、俺の体は戦うための姿へと変わっていく。

 

 

『ハンッ……!?』

 

 

 ハンニンダーが息をのんだ。

 

 さっきまで相手にしていたプリキュアとは違う。

 目の前に立つのは、人でもなければ怪物でもない。

 

 異質な戦士。

 その姿に、怪物は思わずたじろいだのだ。

 

 静まりかえった夢の世界で、この空間にいるのは俺とハンニンダーだけ。

 だから俺は、ただ一人の共演者へ向けて、自分の新たな名を告げた。

 記憶の底から浮かび上がる、その名は……

 

 

「今の俺は――『仮面ライダーゼッツ』。夢で戦う、独りの戦士だ」

 

 

 雄たけびをあげ、ハンニンダーが一直線に突っこんでくる。

 

 俺は静かに右足へ力をこめた。

 体表を走っていた赤いラインが、より強く発色する。

 

 全身を流れるエネルギーはすべて右脚へ集まり、ライトグリーンだった脚部の装甲は鮮やかな赤へと染まった。

 

 

「消えろ……インパクトバニッシュ──!」

 

 

 迫りくるハンニンダーの勢いを利用して、俺は渾身の蹴りを叩きこんだ。

 赤い一撃がハンニンダーの胴体をつらぬく。

 

 

『ハ……ンニ……ッ!?』

 

 

 怪物は苦しげな声をあげると、その背後に「777(スリーセブン)」をかたどったエネルギーの残像が浮かぶ。

 

 次の瞬間。

 ハンニンダーは生みだされた時を巻き戻すように、その体が元の黒紫のモヤへと変わり、夢の世界から静かに消えていった。

 まるで、この悪夢が晴れていくように。

 

 

「終わった、か……」

 

 

 そう思った瞬間、夢の世界そのものがゆっくりと薄れていく。

 俺の意識もまた、現実へと引き戻されはじめていた。

 

 いや……まだ終わりじゃない。

 

 あっちでは、まだ事件が続いている。

 その思いを胸に、俺は目覚めゆく意識へ身をゆだねた──。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

「恭司さん!」

「しっかりしてください!」

 

 アンサーとミスティックは、倒れたままの恭司にすがりつく。

 自分たちをかばい、ハンニンダーの攻撃をまともに受けたのだ。

 そのショックは計り知れないだろう。

 

 少女たちは必死に彼の体を揺すり、何度も名前を呼びかける。

 もはや戦いを続けられるような状況ではなかった。

 

 そんな二人の様子を見ても、ニジーは口元をゆがめるだけ。

 

 

「おやおや、もう終わりかい? ならばやれ、ハンニンダー!」

『ダーッ!!』

「「っ!」」

 

 

 ハンニンダーが、少女らの体ほどもある大きな腕を振り上げる。

 迫る一撃を前に、アンサーとミスティックはとっさに目を閉じ、体をこわばらせた。

 

 ――しかし、いつまで待っても衝撃はこない。

 

 

「……え?」

 

 

 おそるおそる目を開けた二人の視界に映ったのは――。

 さっきまで地面に倒れていたはずの恭司が、ゆっくりと体を起こす姿だった。

 

 その動きには、もう苦しげな様子はない。

 まるで怪我などしてないような……否、事実彼の背中には、怪物の攻撃を受けた痕跡が消えているではないか。

 

 

「……もう大丈夫だよ」

 

 

 恭司は少女らを安心させるように、小さくほほ笑み、そう言った。

 直後だった。

 

 

『……ハ、ハン……!?』

 

 

 ハンニンダーの体が、(ほど)けていくように黒紫色のモヤへと変わりはじめる。

 まるで存在そのものが消し去られるように、怪物は粒子となって空気へと溶けていった。

 

 その光景は、さっき夢の世界で終わりを迎えた、あの瞬間をそのまま再生したかのようで。

 一連の流れを見たこの場にいる者たち──恭司以外の──は、例外なく言葉を失った。

 

 誰もが予想しなかった結末に、とくに大きく動揺したのはニジーだ。

 

 

「は、え……? な、なんでハンニンダーが……!?」

 

 

 自分の切り札が、何の前ぶれもなく消えた。いや、消された。

 現実を受け入れられず、ニジーは混乱したように周囲を見回している。

 

 そして、ある可能性へたどり着いた。

 

 

「まさか……キミが……なにかしたのか……!?」

 

 

 視線の先にいるのは、アンサーとミスティックに支えられるようにして立ち上がった恭司。

 

 だが彼はハンニンダーの攻撃からプリキュアをかばい、そのまま意識を失ったはずだ。

 戦える状態でも、状況でもはなかった。

 それなのに――なぜ。

 

 アンサーとミスティック、そしてジェット先輩もまた、おなじ疑問を抱いていた。

 

 恭司はいったい、なにをしたんだ?

 

 そんな周囲の困惑をよそに、青年は静かにニジーを見つめかえす。

 つづけて、まるで当然のことを説明するように答えた。

 

 

「夢の中で、俺が戦って、倒したのさ」

「夢の中だって……? なにを意味のわからないことを……」

 

 

 まるで理解できない。そんな話があるのだろうか?

 けれど、目のまえで起きた現実を否定することもできなかった。

 

 

「そうとしか説明できない。でも、事実だ」

 

 

 恭司の声には迷いがなかった。

 まるで自分でもまだ理解できない力を、それでも確かに受け入れているような声色だった。

 

 

「……どうやら、そこのプリキュア以上に厄介なことが起きはじめたようだね……」

 

 

 ニジーはつぶやくように言った。

 目的だった「エリザのペン」の強奪も失敗してしまった。

 

 ならば、今は退くべき。

 そう判断したニジーは、懐から球体状の爆弾をとり出し、地面へと叩きつける。

 

 

「キミたちのことは覚えておくよ、ベイビー!」

 

 

 最後にそう言い残し、ニジーは煙につつまれて、この場から姿を消したのだった。

 

 

「一体どういうことだ、恭司! ぼくはなにも聞いてないぞ!?」

 

 

 脅威は去り、戦闘の緊張はようやく()かれた。

 あんなとみくるは変身を解除し、いつもの姿へ戻っている。

 

 二人は落ち着いている様子だが、彼女たちより古い恭司の知り合いでもあるジェット先輩は、混乱の真っただ中だ。

 パニック中の友人をスルーして、恭司はとりあえず、消滅したハンニンダーの足元に転がっていたガラス製のペンを拾いあげた。

 

 

「これがエリザさんのペン、かな? 壊れてないみたいで、よかったよかった」

「おい! 聞いてるのか、恭司!」

「聞いてるよ。ひとまず今は、エリザさんにペンを返しにいこう。あとは事務所に帰って話そう」

 

 

 恭司は困ったように笑い、ペンを大事そうに持つ。

 そうして公園を後にする四人と一匹。

 

 夕暮れの静けさが戻ったその場所で――彼らの姿を、ひとりの少女が木の影からじっと見つめていた。

 

 くすんだベージュ色のセミロングヘア。

 その髪には、小さな黒いリボンが飾られている。

 

 身につけているケープもまた同じ黒色で統一されており、可憐さの中にどこか近寄りがたい、静謐(せいひつ)な空気をまとっていた。

 まるで周囲の時間から切り離されたような少女の肩には、ポチタンと同じような小さなマスコットの姿があった。

 

 子ぎつねを思わせる愛らしい姿。

 しかしその雰囲気には、どこか知性を感じさせるものがある。

 

 少女のそばに寄りそう妖精――マシュタンが、小さな声で彼女に問いかけた。

 

 

「どうやら、手遅れだったみたいね」

 

 

 その言葉に、焦りや残念がる様子はない。

 ただ事実を告げるだけの、淡々とした声音。

 

 少女は公園を去っていく恭司たちを見つめたまま、静かに答えた。

 

 

「まだ、大丈夫」

「これからどうするの?」

「とりあえず、様子を見る……それでダメなら……」

 

 

 そこで少女の言葉が止まる。

 

 

「ダメなら?」

 

 

 マシュタンが続きをうながす。

 少女はほんの少しだけ目を()せた。

 

 

「……手荒なことは、したくない」

 

 

 それだけを告げると、少女はゆっくりと歩き出した。マシュタンを肩に乗せたまま。

 

 誰もいなくなった公園に、静かな夕暮れの気配だけが残された──。




 早くもバーが赤くなりました。応援してくださる皆様、ありがとうございます。

 やっとオリ主もゼッツに変身できましたね。

 オリ主が変身する展開は早い方がいいだろうと普段は1話か2話くらいまでに入れるようにしてるんですが、それで評価が良くなったことはなく…
 今回はじっくり丁寧にやって3話までかかってしまいましたが、特にこの辺のテンポの速さ遅さは気にすることでもないんですかね…?
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