アゲセーヌとハンニンダーの出現にともなってつくりだされた密室空間に囚われたあんなとみくる。
だったが、あの後しばらくして……二人はなんとか敵を倒したようで、無事に元の世界であるこちらへと戻ってきた。
共に怪我も無い姿を見て、俺は心底安堵で胸をなでおろす。
主犯のアゲセーヌは逃がしたものの、ウミガメの置物の盗難事件自体は無事解決をみるのだった。
それから数日して、キュアット探偵事務所は再び動き出した。
とはいえ二階はいまだに手つかずの空き室のまま。
人の気配もなく、静かに室内の時間は停止している──。
そんな二階を見たあんなとみくるは、いいこと思いついたという風に顔を見合わせ、一つの提案をした。
それは、空き室を店舗として活用すること。
「これは事務所の宣伝のためにもなるんだよ」
あんなが胸をはって言うと、みくるも勢いよくうなずく。
「グッズを売れば、事務所の活動資金にもなります!」
二人そろって力説する姿に、ジェット先輩は腕を組んだまま難しい顔をしていた。
最初はあまり乗り気ではなかったものの、少女らの打算たっぷりな説得を聞きつづけるうちに、とうとう観念したようにため息をつく。
「……わかったよ。せっかくだ! どうせ売りだすなら、がっぽがっぽ稼ぐぞ!!」
「「「お~!!」」」
俺たちの元気な声が、事務所いっぱいに響く。
こうして売りに出すことになったのは、ジェットが発明した女性向けのコスメグッズだった。
◇ ◆ ◇ ◆
いま俺たちは、お店になる予定の二階のスペースを改装している最中だ。
といっても大がかりなものではない。
グッズを展示するための棚や、室内を飾りつけるための花などの搬入作業を、業者の人とともにおこなっているのである。
少しずつ形になっていく店内を見ていると、自然と俺たちの期待もふくらんでいく。
そんな矢先だった。
ジェット先輩がいつも身につけているゴーグルが、どこにも見当たらなくなってしまったのだ。
そのゴーグルは、彼がただファッションとして身に着けているものじゃない。
かつて、発明家としての考え方が凝り固まっていたジェット先輩を変えてくれた恩人、その人から受けついだとても大切な品だという。
だからこそ、ゴーグルがなくなったと知ったときのジェットは、ひどく取り乱していた。
普段は冷静を気取っている彼がこんなにも動揺している姿を見るのは、俺も初めてである。
「心配するな、ジェット先輩。俺とあんなとみくるで、必ず見つけてみせるから!」
迷わず、力強く言い切る。
ジェット先輩は、俺の恩人で、友だちで、大切な仲間だ。
そんな人を、いつまでも悲しみに暮れさせるわけにはいかない。
いま事務所には、改装工事のため何人もの業者が出入りしている。
ゴーグルがなくなったのは、その人たちが来てからだ。
まずはそこを疑うべきだろう。
俺、あんなとみくるは、すぐに調査を始めた。
「まずは、ゴーグルを盗った人の足あとを追いかけてみよう」
あんなはジェット先輩の発明品である虫メガネ型のアイテム、プリキットミラールーペをとりだした。
俺も自前のカメラで床を走査してみるが……
「人の出入りが激しいから、足跡も混在していて、どれが犯人のものか見分けがつかないな」
「とりあえず、三つほどに絞りこめましたよ!」
みくるがそう言って、候補の三人を呼び集める。
「今回の犯人も──」
「ああ、きっと怪盗団ファントムの連中だろうな」
あんなと話していると、犯人候補の三人の業者がそろった。
俺とあんな、みくるはそれぞれの特殊アイテムで三人を調べていくが、おかしなところは今の所見つからない。
業者三人は探偵の調べを受けるのは初めてのようで、ソワソワとした雰囲気で……
いや。
彼らの中で一人だけ、慣れた様子の人物が目についた。
取り調べに慣れている人間……?
そんなにトラブルに遭遇しやすい人なのか?
いや、答えは一つだ──俺たちはうなづき、それを指摘する。
「犯人はあなたです!」
「私たちの調査にも取り乱さず、プリキットみたいな不思議な道具を見てもそ知らぬふり……」
「ボロを出さないよう平静を
果たして該当の人物は、身にまとったウソの姿を脱ぎ捨てた。
「あ、よくぞ見破ったぁ!」
歌舞伎の役者のようないで立ちの怪盗団の一員は、自分をゴウエモンと名乗る。
懐からとりだした
直後、ゴウエモンがジェット先輩のゴーグルをハンニンダーへと変え、密室フィールドが展開される。
ただ一つ、奴にとっても誤算だったのは……今回は俺も、この空間に巻き込まれたこと。
「なんだとぉ!?」
「恭司さんもいる!」
「なんで!? この前は入れなかったのに!?」
ゴウエモン、あんな、みくるがそれぞれ驚きの声をあげている。
「俺にもわからないが……たぶん、ゼッツの力が俺の体になじんできたから、とかじゃないか?」
他に解釈のしようもないので、とりあえずそう結論付けた。
しかし──
「はッはッはぁー! どうやら、おまえさんだけ姿を変えられないみたいだなぁ!!」
そう、二人の少女は名探偵プリキュアになったのに、俺は変わらずゼッツになれないでいた。
やはりここも異空間といえ現実と地続き。
ライダーの力はどうしても夢でしか得られないようだ。
『ハン! ニン! ダー!!』
初っ端からゴーグルハンニンダーが、キュアアンサーとキュアミスティックを追い込んでいく。
敵の強さから、ジェット先輩の込められた想いの強さがうかがえるが……今はそれに思いをはせている場合じゃない。
「……こうなったら」
戦闘は事務所を出て、外の道路で展開している。
俺は戦いの余波で壊れたアスファルトの塊を拾い上げた。
十分な重さをもったそれなら、これから俺がやろうとしていることを叶えてくれるだろう。
俺はためらうことなく、そのコンクリート片を自分の頭へと思いきり振り上げた。
「ッ……!」
鈍い音が響くより前に、俺の腕は誰かにつかまれ、コンクリート片が頭部に直撃するのは阻止されてしまう。
俺を止めたのは、かつては夢の中でしか会えなかった少女。
現実に現れた彼女の、くすんだベージュ色の髪が静かに風に揺れる。
花のようなかすかな香りが鼻先をくすぐった。
どこか物静かで、感情を表に出さなかった彼女。
だけど今は違う。
その紫の両目は、はっきりとした怒りをたたえていた。
夢でも現実でも、初めて見た感情の色だ。
「なにをしようとしたの……」
「──無理やり気絶して、夢に飛び込む」
「それで、ゼッツの力を使おうと……?」
「ああ」
短く答えたその瞬間、俺の腕をつかむ少女の手の力が強まった。
彼女はわずかに目じりに涙をにじませながら言う。
「……そんなことは、やめて……!」
自分で自分の頭を打って気絶しようなんて無茶苦茶な手段を、彼女は
……どうして。
どうしてこの子は、そこまでして俺の身を案じてくれるんだ……?
遠くからアンサーとミスティックの悲鳴が聞こえた。
みれば二人はもう、かなりギリギリのところまでハンニンダーに追い詰められている。
このままでは二人が──!
俺はかまわず、少女の腕を振り払った。
「すまないが今は──こうするしか無いッ」
さっきよりも勢いを込めて、今度こそ自らの頭部をコンクリ片で打ち付ける。
そして、強制的に意識を失うのだった。
◇ ◆ ◇ ◆
夢の世界で目覚める俺。
眼前では現実と地続きのように、二人のプリキュアとハンニンダーが戦いを続けていた。
「さあ、やろうか──変身」
手中のカプセムを使い、俺は戦闘用の黒いスーツに身をくるんだ戦士──仮面ライダーゼッツへと変わる。
俺の姿を見て、アンサーとミスティックも声をかけてきた。
「恭司さん、なんですか?」
「その姿が仮面ライダー……」
「ああ、一緒に闘おう! ──夢の中だけどな」
ハンニンダーがゴーグルを光らせる。
なにやら強いエネルギーが奴の体に収束していくのが、目に見えてわかる。
「気をつけてください! すんごいビームを撃ってきますよ!!」
「大丈夫、俺に任せて」
ミスティックの警告を受け、俺は自分の力を調整する。
果たして充填を完了した極太のビームが、俺たち目がけて照射された。
「──『バリア』……!」
その一言で、ゼッツの体を走る赤いエネルギーラインが緑色に変わる。
若々しい樹々の生命力を感じさせるような、鮮やかなグリーンだ。
俺は両手を前方へ突き出す。
掌の先で緑のエネルギーが渦を巻き、それは分厚いオーラの障壁となって俺たちを攻撃から守る盾となった。
放たれた光線はシールドへ激突し、その威力は徐々に削がれいく。
ついには俺たちへ届くことなく、空中で霧散した。
「すごい……!」
「私のミスティックリフレクションより派手……」
驚嘆の声をあげるアンサーと、対照的になんだか落ち込んでいるようなミスティック。
俺、なにか悪いことでもしたんだろうか……?
ハンニンダーは力を使い切ったようで、ぜえぜえと肩で息をしているような疲れた動きを見せている。
あれだけ強力な攻撃をくりだしたのだ、消耗して当然だろう。
そしてその隙は、見逃すべきじゃない──!
「いまだ!」
俺の声で、二人は調査にも使ったミラールーペを操作する。
俺もバリアを消し、右脚にエネルギーを集中させ──
「「プリキュア フライングスペクトル!!」」
「インパクトバニッシュ!!」
アンサーとミスティックが一羽の鳥のようなエネルギー体となり、敵へ突っ込む。
そして、俺こと仮面ライダーゼッツもまた、全力の飛び蹴りを放った。
三人の必殺技は同時にハンニンダーへと叩き込まれる。
『ハンニンダァアアア──!?』
叫びと共に、怪物の体は夢の世界へと霧散した。
ジェット先輩の強い想いがこもったゴーグルを媒介にして生まれた強敵だったが、しょせんそれは誤った力の使い方の産物。
俺たち三人の彼を想う気持ちが重なった一撃は、ウソでつくられた怪物に受け止めきれるものではなかったのだ。
一件落着、さあ夢から覚めよう──とした俺の前に、先のベージュ髪の少女がふたたび姿を見せた。
「君は、いつもの夢の──いや、違う」
「そう。今の私は、現実の私」
「君も夢の中に入れるのか……」
俺はゼッツの変身を解き、少女へと向きなおる。
いつの間にか、キュアアンサーとキュアミスティックの姿は消えていた。
ここは夢の世界。
静まり返った空間には、俺と少女だけが残されている。
まるで舞台の上に立つ役者のように、ぽつんと二人きりだった。
「……そんなことより、もう二度と、こんな無茶な真似はやめて」
怒りをふくんだ静かな声だった
だけどその言葉には、俺を案じる気持ちがはっきりと込められている。
彼女はあれほど真剣に止めてくれたのに、俺はその親切心からの忠告を振り切って、この夢の世界へ飛び込んできた。
腹を立てても当然だろうな。
それにしても、だ。
どうしてこの子は、ここまで俺のことを気にかけてくれるんだろう……?
「君はいったい誰なんだ? 俺のことを知っているのか?」
問いかけても、少女はなにも答えない。
ただ、どこか悲しそうに目を伏せるだけだった。
その表情を見ていると、まるで――。
俺が彼女のことを知らないこと、思い出せないこと。
それ自体に傷ついているような、そんな気がしてならなかった。
「せめて名前だけでも教えてくれないか?」
少女は少しだけ視線を揺らす。
しばしの
だが結局、俺の頼みに彼女は迷うように、なにかを試すように口を開く。
「……森亜、るるか」
「るるか……」
その名前を口にした瞬間、胸の奥がかすかに熱を帯びた。
心の底の底の奥深くから──この名前をとても大切なものとして残しているような、不思議な感覚が込み上げてきた。
やっぱり俺は──この子を知っている……?
るるかはそんな俺を見つめると、最後に静かに言い残す。
「人間は、誰にも言えない秘密を抱えている……そして、その苦しみから逃れたがっている……」
その言葉だけを残して、るるかの姿は光に溶けるように夢に消えていった。
あとに残ったのは静寂と、胸に引っかかる大きな謎だけだった。
本編では犯人担当はニジーでしたが、順番に出番を回すためゴウエモンに変更しました。
ゼッツは色的に緑のエスプリムが風属性っぽい感じがするのに、実際は青のテクノロムがそれなのややこしい…