アルカナ・シャドウは仮面の戦士の夢をみるか?   作:ほろろぎ

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Case6 光る:三人目の名探偵

 俺がいつも夢で見てきた少女──それが現実にも存在した。

 名前は、森亜るるか……。

 彼女が残した警告じみた言葉は、いったいなにを意味するんだろう──。

 

 

「どうしたんですか、恭司さん?」

 

 

 るるかのことで思案にふけっていた俺にかけられたみくるの声。

 なんでもない、と誤魔化すように微苦笑を浮かべる。

 ひどく個人的な問題だし、()()()()に打ち明ける話でもないだろう。

 

 ジェット先輩のゴーグル盗難事件が解決してから、すでに何週間かが経過していた。

 俺は頭を軽くふって気持ちを切り替える。

 

 るるかのことを考えるより、()()()()に意識を集中すべきだろう。

 

 

「それで、なんだったっけ?」

「ここ、まことみらい市にある宝生美術館へ、怪盗団ファントムから犯罪を予告する手紙が届けられたんですよ!」

「聞いてなかったんですか?」

 

 

 呆れ顔のあんなとみくるに素直に頭を下げ、話しの続きをうながした。

 

 

「手紙の内容は、美術館の一番目玉の展示品である『星明かりのプリンセス』を盗みに行く、というものです」

「ああ、最近テレビでも話題になってた超高級ネックレス、だっけ」

「うちの事務所も評判になってきたからな。噂が向こうの耳にはいって、依頼がきたってわけだ」

 

 

 ジェット先輩から怪盗団の予告状を受けとり、目を通す。

 なんの変哲もないただの手紙だが、短い文面からは、かならず盗みを成功させるという強い意志がにじんでいた。

 

 

「予告された時間まであとわずか。早速調査に向かいましょう!」

 

 

 美術館オーナーという大きな相手からの依頼で、みくるはすっかりはりきっている様子。

 彼女の号令で俺とあんなは、ポチタンを連れて問題の美術館へと足を伸ばした。

 

 目的地についた俺たちは、すぐさまオーナーの了承を得て館内へと踏み入る。

 中は親子連れからカップルに単身者と、数えきれないほどの一般の観覧者でごった返していた。

 犯行予告を受けていても、この来館者の多さでは急に営業を休むことはできなかったようだ。

 

 

「名探偵さんたちのお噂は(うかが)っておりますわ! なんとしても犯人を捕まえちゃってくださいね!」

「まかせてください!」

「星明かりのプリンセスも守ってみせます!」

 

 

 寄せられる期待に応えようと、あんなとみくるは元気いっぱいに答える。

 

 館内にはすでに多数の警備員が手配され、慌ただしい様子で動き回っていた。

 ガラスケースに展示されている件のネックレスを見る。

 拳ほどの大きさのエメラルドグリーンの宝石が、純金製のフレームに収まっている名品。

 

 あんなとみくるは「はなまる綺麗」だとウットリしていたが、あいにく男の俺には宝石の輝きの良さはいま一つわからなかった。

 

 

「この展示ケースは超最新鋭の防犯設備で、あたくしの顔をカメラで読みとらないと開かないようになってますの」

 

 

 つまり、事実上オーナー以外の人間には、宝石をケースから取り出すことはできない。

 おまけにケースは超強力な特殊ガラス製で、象でも壊すことは不可能だと。

 

 複数の監視カメラも作動しているし、この宝石──星明かりのプリンセスは二十億というとんでもない価格が付いているため、その警備にも抜かりはないようだ。

 

 

「これなら簡単に盗み出されることも無さそうだな。俺たちはとりあえず、犯人がどこからくるか……侵入ルートを探してみよう」

 

 

 いちど三方に別れ、手分けして抜け道などがないか調べることに。

 

 二人はミラールーペを、俺はカメラ──ゼッツフォンと名づけた──を手に、館内をくまなく見回ってみる。

 壁や天井、床まで一切の見落としも無いように、バッタ一匹でも違法に入り込む余地が無いように──。

 

 しかしどれほど入念にチェックしてみても、正規の出入り口以外に通り抜けできるような抜け穴といったものは、見つけることはできなかった。

 こんな厳重な警備の中で、いったいどうやって盗みに入るつもりだ?

 まさか──犯人は、すでに館内に……?

 

 

「仕事熱心ね」

 

 

 混雑するお客さんの間をぬって侵入経路の確認をおこなっている最中、不意に聞き覚えのある声が耳に届く。

 ふり向いて、思わず目を見開いてしまう。

 

 

「るるか!? なんで君がここに……!?」

 

 

 黒い髪飾りとそろいの黒のケープをまとった彼女。

 その美しさは、ここに飾られている美術品のひとつとして展示されていてもおかしくないと錯覚させるに十分である。

 

 まわりでは変わらず多数の観覧者の話し声が響き、人の流れも途切れるところがない。

 それでも、ざわめきに包まれた館内でるるかの声だけは、不思議と澄んだ音色で俺の耳へとどいた。

 

 

「私も仕事」

 

 

 少女のひと言は、俺にどうしようもない嫌な予感をあたえた。

 いや、予感ではない──これは直感だ。

 聞きたくない答えを、それでも確認せざるを得ない。

 

 

「まさか……あの犯行予告をだしたのは、君なのか? つまり……君も怪盗団ファントム──!?」

「…………」

 

 

 るるかは答えない。表情一つ変えない。

 だがその無言での返答は、言葉の外で俺の問いを肯定したということに他ならない。

 

 

「なんで……なぜ怪盗に手を貸すんだ!? なにか弱みを握られているとかなら、俺たちが力になれるかもしれない! 事情を話してくれ!!」

「……過去を覚えてなくても、やさしいところは変わらないのね」

「──やっぱり君は、俺を知ってるんだな」

 

 

 彼女はやなりなにも答えず、ただどこか昔をなつかしむような、もの悲しげな瞳を一瞬浮かべただけ。

 しかし俺にはそれで十分だった。

 

 るるかは黙って身をひるがえすと、人ごみの中へするりとまぎれあっという間に姿を隠してしまう。

 

 あとには行き場のないもやもやだけが胸に残された。

 俺はくすぶる思いを抱えたまま、ひとまずあんなたちと合流を果たす。

 

 犯行予告まであと数分──そしてついに、その時はくる。

 

 

「えっ、真っ暗!?」

 

 

 出し抜けに館内の照明すべてが落とされ、あたりは暗闇に包まれた。

 慌てるあんなとみくるを落ち着かせている、わずかな間に照明が復帰する。

 

 と、ガラスケースに一枚の手紙が張り付けられているではないか。

 ケース内の宝石はいまだ無事にそこにあるようだが……。

 

 あんなが手紙の文面を読み上げる。

 

 

「『星明かりのプリンセスは すりかえられたニセモノ あしからず』……大変だ!」

「まあ、なんてこと……っ!?」

「──ダメ! これは罠です!!」

 

 

 なにかに気づいたのか、みくるが止めるのも聞かず、オーナーは大慌てでケースを開封した。

 

 罠……そうか!

 ケース内の宝石はまだ手つかずで、ウソの文言で不安をあおり、ケースを開けさせることが目的なのか!

 

 勘づいたのが遅かった──。

 むき出しとなったネックレスは、どこかから飛んできた紫色の影に引っぱられあらぬ方向へ。

 

 影の正体はポチタンに似た子ぎつねを思わせる小さな妖精で、それは遠方で待機していた森亜るるかの元へ合流する。

 るるかの手には妖精がかすめ取っていった首飾り、星明かりのプリンセスが……。

 

 

「ポチタンが反応してる……やっぱりあれにはマコトジュエルが!」

「っていうか、あの人誰!?」

「さよなら、名探偵さんたち」

 

 

 るるかはそう言って、煙玉を投げて煙幕の中に姿を消す。

 混乱するみくるとあんなを連れて、俺たち三人はすぐに彼女のあとを追った。

 

 るるかが逃げたであろう先には階段が。

 彼女が向かったのは、屋上か、地下か──。

 

 

「地下へ行きましょう! こういう時、逃走ルートは地下だとパターンが決まって──」

「……いや、上だ!」

 

 

 探偵もののセオリーに詳しいみくるの案だが、俺は直感的に、あの子なら屋上へ向かうだろうと考えた。

 俺は彼女の思考が推測できるほど、るるかと近しい間柄だったのだろうか……。

 

 果たして少女は屋上にいた。

 まるで俺たちを待ち構えるように、月光を背にたたずんで──。

 

 

「どうして、ここがわかったの」

「君ならここに来る気がした」

「──そう……」

 

 

 静かに交錯する俺とるるかの視線。

 共にいる二人の少女は、ある意味通じているかのような俺と彼女の関係に、認識が追いつけていないようだった。

 

 と、あんなが「あっ」となにかに気づいた声をあげる。

 

 

「さっきネックレスが盗まれたとき、妖精がいたよね?」

「そういえば……ってことは、まさかあの人──!?」

 

 

 正面、月明かりを背に屋上に立つるるかの横に、紫色の子ぎつねの姿をした妖精が浮かんでいる。

 

 俺も二人の言葉でいまさらながら気づいた。

 あれは、おとも妖精だ──。

 そう……るるかも、あんなとみくると同じ力を持っているんだということに。

 

 

「あなたたちも変わりなさい、プリキュアに。そうしないと、このまま街の中に逃げちゃうけど──?」

「「ッ」」

 

 

 るるかは首元にさげていたペンダントを、対抗的にあんあとみくるもポケットから懐中時計型のアイテムをとり出し、両者が一瞬の光に包まれる。

 

 

「神秘と秘密でつつみこむ……キュアアルカナ・シャドウ」

「どんな謎でもはなまる解決! 名探偵、キュアアンサー!!」

「重ねた推理で笑顔にジャンプ! 名探偵、キュアミスティック!!」

 

 

 るるかが姿を変えた第三の名探偵プリキュア──アルカナ・シャドウ。

 元の彼女とおなじく、その身は黒を基調としたドレスで着飾られていた。

 くすんだベージュ色のセミロングヘアは長髪に変化し、夜空に浮かぶ月の光を受けて金色に輝いている。

 

 

「るるかは、夢の少女で……現実にも存在していて……彼女も名探偵プリキュアで……そのうえ敵──!?」

 

 

 これまで蓄積された情報の洪水で俺の頭は半ばパニックに。

 アンサーとミスティックもまた、正義の存在のはずのプリキュアが悪の怪盗団に組している事実に混乱をきたしていた。

 

 が、るるか──今はキュアアルカナ・シャドウはそんなことにはお構いなしで、アンサーとミスティックに攻撃をしかけてくる。

 手刀や蹴りの一発一発が、夜の闇に重く響く。

 

 彼女の身体能力はアンサーたちより圧倒的に上で、ミスティックと共に二人は翻弄されっぱなしだ。

 それはプリキュアとしてのスペックの差か──いや、るるか自身の経験値の違いのなせる業だろう。

 

 とにかくアンサーとミスティックは防戦一方である。

 このままでは二人はいずれ倒されてしまい、宝石は盗み出されることになるだろう。

 

 

「こうなったら……いや、しかし……」

 

 

 前の時と同じく、俺はどこかへ頭を打ち付け無理矢理意識を失って、夢の世界でゼッツとなり二人を援護する手を考えた。

 しかしかつてのその強攻は、そのことを知ったあんなとみくるにかたく止められている。

 なによりあの時のるるかの悲し気な顔が、俺に同じ手を企てることを躊躇させた。

 

 

「ちょっと! なに遊んでるしー!?」

 

 

 事態はさらに厄介なことに。

 

 怪盗団ファントムの別メンバーである少女、アゲセーヌまでも乱入してきたではないか。

 アゲセーヌは、るるかが奪い彼女のおとも妖精が持っているネックレス──星明かりのプリンセスをハンニンダーに変えてしまう。

 

 いまだ経験の浅いキュアアンサーとキュアミスティック、そして変身もままならない俺。

 それに対して敵は──未知のプリキュア、アルカナ・シャドウと幹部の少女、そして宝石の怪物が一体。

 

 どう考えても劣勢の中で、俺にできることは……!?




ようやくタイトルにもなってるアルカナ・シャドウちゃんを出せました。

そしてこのピンチの状態で書き溜めが無くなったため、今後の投稿の間隔も開くようになると思います…一部プロットも見直さなければ

更新はあせらずにお待ちください。
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