あんなとみくるが変身する二人の名探偵プリキュアに続いて、森亜るるかもまた第三の名探偵へと姿を変えた。
月夜を背景にした金髪と黒のドレスをまとう彼女の名は、キュアアルカナ・シャドウ。
れっきとした名探偵のはずの少女はしかし、怪盗団ファントムに身を置いている……。
「やめろ、るるか! なんで君がアンサーたちと戦う必要がある!?」
恭司の説得にも少女は耳を貸さない。
これまでキュアアルカナ・シャドウ──るるかは有森恭司のことだけは特別視しているふしがあったが、それでも尚……。
黒のプリキュアは、彼の仲間であるキュアアンサーとキュアミスティックに対する猛攻を止めようとしない。
闇夜に
しかし──ゆえに、アルカナ・シャドウの動きを見ていた恭司は、唯一の不審な点に気づくことができた。
(るるかの身のこなしなら、すぐにアンサーとミスティックを動けなくすることもできるはずだ。なのにいつまで経っても……。まさか──彼女は手加減している……?)
まるで決着をつけることに戸惑っている、もしくは最初からそのつもりがないような敵少女の戦い方。
そこにはどのような真意があるのか……。
アルカナ・シャドウの内心を知らないアゲセーヌが、業を煮やしたように声をあげる。
「ちょっと、遊んでないでさっさとプリキュアやっつけるし! ってことで、ハンニンダーよろしこ~」
『ハンハン!』
二十億円の価値を持った首飾りから生まれた怪物──ハンニンダーがギラりと宝石のごとく瞳を光らせた。
目もくらむほどの輝きは二筋のビームとなり、戦闘中のプリキュアたちへ向かう。
ターゲットはアンサーとミスティックの二人。
だけのはずだが、射線上には狙っているのかどうか、アルカナ・シャドウもふくまれていた。
三人ともに、背後からのハンニンダーの光線投射に気づいていない。
さしものプリキュアでも怪物のビーム──それも二十億円もの価値をもった光線をまともに身に受けては、ただでは済まないはず。
恭司は考える間もなく、とっさにビームの射線上に飛び出した。
「危ないッ!! うあぁぁあーッ!?」
生身の体で直接攻撃を防ごうとしても焼け石に水。
ゆえに恭司は組み合う三人の少女を、体当たりで突き飛ばしたのだ。
必然、彼が代わって怪人のビームの直撃に晒されることに。
「「恭司さん!!」」
「──ッ!」
アンサーとミスティックは悲鳴のように名前を叫び、アルカナ・シャドウも声こそあげなかったが、その表情は焦燥に満ちていた。
名探偵二人は即座に倒れている恭司に駆け寄り、アルカナ・シャドウも戦いの手を止め後ろから心配そうな眼差しを送っている。
恭司の服はビームの威力で焼け焦げ、肌にも火傷や出血の痕が。
アンサーとミスティックはすぐにでも彼を病院に運びたかったが、それをハンニンダーやアゲセーヌが許してくれるものか……。
と、にわかに恭司の傷だらけの体が、淡い緑色の光に包まれる。
光の中で、彼の負った怪我や衣服の破損は見る間に癒されていった。
「これは……カプセムの力」
「えっ?」
「どういうこと?」
緑光を目にしたアルカナ・シャドウのつぶやきに、ミスティックとアンサーが首をかしげる。
「おそらく彼は今、夢の中で活動している」
「じゃあ、さっきの光は……」
アルカナ・シャドウは視線を恭司から外し、背後で彼女らの様子をうかがっていたハンニンダーに向けた。
怪物は不自然な格好で動きを止めており、アゲセーヌはすぐに攻撃を再開しろと騒いでいる。
しかし宝石を模したハンニンダーの体は、硬直したまま夜霧と化して月夜の空気に溶けていった。
残されたアゲセーヌは理解がおいつかない様子で動転している。
「ちょっ、ハンニンダー!? どこいったしー!?」
「彼が夢の中で倒した。仮面ライダーゼッツの力で」
アルカナ・シャドウはそう短く告げると、プリキュアの姿を解いた。
彼女の横を素早くポチタンが駆け抜け、ハンニンダーから解き放たれた月明かりのプリンセスをマコトジュエルに変え、体内にとりこでいる。
「──帰ろう、アゲセーヌ。任務は失敗」
「えぇッ!? んもう、チョベリバー!」
帰投をうながするるかより一足先に、アゲセーヌは屋上から飛び降りた。
るるかは、いまだ横たわり目覚めない恭司にチラと視線を投げ……思いを残すような素振りを隠して背を向ける。
「……その人が目覚めたら、伝えておいて。ゼッツがいても、今のあなた達では……ファントムにも、
そう言って、るるかも美術館を後にした。
月夜の中、残されたあんなとみくるは途方に暮れてしまう。
彼女が告げた謎のメッセージが本当なら──怪盗団ファントムとは別の「新たな敵」がいるという事実に。
◇ ◆ ◇ ◆
宝石盗難予告事件から一月ほどが経過した。
俺こと有森恭司はその時の怪我を心配したみんなから、しばらく事務所で静養をいいつけられていたんだ。
怪我はあの時、夢の中でゼッツのリカバリーの力で完璧に治していたんだが──みんなの気づかいに甘えることにし、事務所で大人しくジェット先輩と留守番を務めていた。
しかし、いつまでも休んでばかりはいられない。
特に
『ハンニンダー!!』
久しぶりに事務所のみんなと外食に出かけた時、運悪くレストランで事件に遭遇。
あんなとみくるが素早く解決し、それで終わりと思っていたが──犯人に扮装していたニジーがハンニンダーを生みだしたため、現在二人は市街地で交戦中という。
「やれ、ハンニンダー! エルボーロケット発射だ!!」
「そこは素直にロケットパンチだろッ」
この密室空間にいるのは他に俺一人。
ただ黙って見ているだけではいけない。
ハンニンダーに指示を飛ばすニジーを捕まえようと飛びかかるも、直前でヒラリとかわされてしまう。
あきらめずに何度となく捕らえようと試みるが、その度にギリギリで避けられ……軟派な性格とおなじくつかみどころのない奴だ。
「むぅ……さすがにフザケた姿でも怪盗団の幹部だな。動きが軽やかだ」
「そういうベイビーも、結構いい身体能力をしているじゃないか。褒めてあげるよ」
けっこう激しく動き回ったが、互いに息切れはしていない。
向こうが
とくに運動はしていないけど……いや、もしかしたら記憶を失う前に、どこかで鍛えていたのかもしれないな。
「けど、いくらフィジカルがよかろうとライダーとやらに変身できなければ、しょせんは無力な人間さ」
「
一輪のバラをとりだし気どった仕草のニジー。
彼の隣にいつの間にか立っていたるるかが、俺をそう評した。
高く見てくれるのは嬉しいが、悔しいけど今の俺ではニジーの言うように、敵に対してなすすべがないのもまた事実……。
「まあ、確かにただの人間とも言いきれない動きだったけどね? まるで、
ニジーの言葉が耳に入ったのと同時に、頭をガツンと殴られたかのような強い衝撃が俺をおそった。
『組織』──『エージェント』──なんだ、これは。
この二つの言葉に、かつてない強力なデジャヴを覚える。
頭の中でこの二単語がリフレインして消えない。
なにか……あと少しで記憶の底のトビラの鍵が外れそうな──。
『ハンニンダー!?』
背後から響いた怪物の断末魔の叫び声で、俺の思考は中断される。
キュアアンサーとキュアミスティックが敵を倒したようだ。
同時に密室空間も解除され、通常の世界に俺たちは帰される。
ひとまず安心した。
今回は俺がゼッツにならなくてもよかったことに。
二人も成長して強くなっているってことだな。
「まずいな、ハンニンダーが……」
「なら、私がいく」
普段ならハンニンダーが倒されれば、残された幹部は即撤退するのがセオリーだ。
しかし今回に限っては、ニジーもるるかも帰るそぶりを見せない。
それどころか少女はキュアアルカナ・シャドウへとその身を変え、さらなる戦いに挑む姿勢である。
不審に思った俺は彼女に声をかける。
「るるか──いや、アルカナ・シャドウ! いったいなにが起きてるんだ……?」
俺を無視して二人のプリキュアの元へ向かおうとした彼女の足が、いきなり止まった。
「──ダメ、遅かった」
「えっ?」
アルカナ・シャドウとニジーの視線が、俺とアンサー、ミスティックからあらぬ方向へ逸らされた。
二人の表情には、なにか焦りの色が浮かんでいるように見える。
彼女らの見ている先の空間が、ぐにゃりと歪んだ。
視界の一角を強引にねじ曲げ、こじ開けるようにして……全身に金属製の鎧をまとった、巨躯の男が姿を現す。
背にはマント。
顔は仮面で隠され、ナポレオンを思わせる帽子をかぶった様は、まさに王者の風格を漂わせている。
「だ、誰……?」
「るるかさんが言ってた、新しい敵……?」
とつぜん現れた鎧の大男に対して、目を丸くするミスティックとアンサー。
アルカナ・シャドウのおとも妖精──マシュタンというらしい──が口を開く。
「いいえ、あれはウソノワール様。怪盗団ファントムのボスよ」
ウソノワール……あれがアルカナ・シャドウたちを配下に置く、敵の首領。
どうりで異様なプレッシャーを放っているわけだ、体中からイヤな汗が止まらない。
アンサーとミスティックも、俺たちを迎えに来たジェット先輩とポチタンも、配下であるニジーとるるかに至っても、ここにいる者全員が奴の圧に恐れを抱いていた。
ウソノワールは右手に一冊の本を出現させ、それに目を通しはじめる。
「……やはり、ここまできてもお前たちのことは
「みらあじゅの書?」
俺の疑問の声に、ウソノワールに代わってマシュタンが答える。
その本は彼女たち妖精の祖先が記した、未来を予言できる書物だという。
「書に記されぬお前たちプリキュアとライダーは……排除せねばならぬ邪魔者──!」
こちらに向けられたウソノワールの指先が、一瞬キラリと輝く。
次には俺とアンサー、ミスティックは強い衝撃を受けて吹っ飛ばされていた。
さっきウソノワールの指先が光ったのは、そこから放たれたビームの前兆だったということに攻撃を受けた後に気づく。
「「うぅ……っ」」
「ぐっ……あぁ……」
たった一発の敵の攻撃はすさまじい威力をもって、俺たち三人の体に強いダメージを与えていた。
これまで戦ってきたハンニンダーのそれとはまるで桁違いの強さ。
被害の範囲は対象である俺たち三人にとどまらず、周囲の地形や建物にも破壊の痕を刻んでいた。
この威力……まさにウソノワールの体は、
(マズい……このままじゃ、俺も二人もやられる……!)
朦朧とする頭の中で、俺はこの虚ろな意識をそのまま夢の世界にスライドさせることを思いつく。
しかし──今、このまま夢の中でゼッツに変身して……そこで戦ったとして、ウソノワールに対して勝てる見込みはあるのだろうか?
なぜかこの時、そんな疑念が俺を捕らえた。
たった一発の光線で、俺もアンサーもミスティックも行動不能にされてしまったんだ。
それほどの強敵を相手にして、いくら仮面ライダーの力を使ったとしても、果たして夢というあやふやな世界で確実に勝利を収められるのか……。
「我が大王となる悲願……すべてをウソで覆った世界の実現のため──消えろ! プリキュアとライダー……!!」
「待ってッ!!」
うつろな視界の中、俺たちを庇うようにアルカナ・シャドウがウソノワールの前に立ちはだかったのが見える。
ああ……やっぱりるるかは、ただの悪い奴じゃないんだ。
ボスであるウソノワールに歯向かうなんて、あとでどうなるか分かったもんじゃないだろうに。
それでも彼女は……ただでさえぼやけていた視界が涙でさらににじむ。
「どういうつもりだ、アルカナ・シャドウ」
「……そ、それは……」
「邪魔をするなら、お前もウソで支配するのみ。──ッ!?」
ウソノワールを前に押し問答でるるかが時間を稼いでくれたおかげで、俺は一つの打開策を思いつき、それをすぐに実行に移した。
俺が手にする「赤い球体」を目にしたウソノワールが言葉を詰まらせ、無機質な仮面の下の顔が驚愕に歪んだのがわかる。
「貴様……それは──!?」
「ああ、カプセムだ。かすむ意識が、夢の世界とこちら側の現実世界で行き来していたからな。……無理矢理繋いで、こっち側に夢の中のカプセムを持ちだせたよ」
これは賭けだが……基本的に
「さあ、やろうか──変身」
球体を胸に埋め込むように押し当てると、黒い煙のようなものが俺の体をつつみ……夢の中の戦士『仮面ライダーゼッツ』は、
ボスのウソノワール様も出張してきたことで、この作品もそろそろ佳境に入ってきました。といってもまだ話は続きますが。
次回はゼッツとプリキュアのタッグvsウソノワール様と、ゼッツが現実に出てきたことによる弊害が…