現実世界で初めて変身できた俺──ゼッツの姿を見たアンサーとミスティックが、いつぞやの夢の中のように声をかけてくる。
「恭司さん、なんですか?」
「その姿が仮面ライダー……」
黒と赤と緑に彩られたゼッツのフォームは、敵の持つ預言書にも載っていないのだろう。
眼前のウソノワールも警戒を強めている。
「アンサー、ミスティック。まだ戦えるか?」
「はい!」
「もちろんです!」
「なら……ケリをつけるぞ──!」
ウソノワールの強さは最初の一撃でいやというほど思い知った。
まだダメージから回復していない俺たちでは、三人がかりでもまともにやれば勝てるか怪しい。
なら──
「全力で決めるッ」
胸中のカプセムが渦巻くように回転すると、体中の力が右脚の一点にすべて注ぎ込まれていく。
全身を走る赤のエネルギーラインがシルバーに退色し、反対に右脚は太陽のごとき輝きを帯びる。
二人はミラールーペを操作して、アンサーは大剣を、ミスティックはレイピアのような細身の長剣をつくりだした。
俺たち三人はタイミングを合わせて、同時にウソノワールに向かって飛んだ。
「アンサーはなまるソード!!」
「ミスティックストライク!!」
「インパクト オーバーバニッシュ!!」
ウソノワールはビームを放って妨害するも、それで止まらず俺たちの攻撃は、奴の胸へと叩きこまれた。
「ヌウッ!?」
うめき声をあげて鎧の巨体が後ずさる。
膝をつくウソノワール、その胸部には大きなヒビが入っていた。
「──砕くまではいかなかったか」
「で、でもダメージは与えられましたよっ」
疲労で肩を上下させつつも、ミスティックは言う。
俺たちが持てる全ての力を注ぎ込んでの渾身の一打だったが、それでもウソノワールの鎧は破壊できないとは……いったいなにで出来てるんだ、アレは?
「よくも我がボディを……」
「いけません、ウソノワール様! ここは撤退しましょう!」
怒りのボスに一度引くことを進言するニジー。
二人の問答の最中、不意にウソノワールの鎧の亀裂から──黒いモヤが溢れだしてくる。
「ッ!? いけない、逃げて──!!」
悪夢のような色をするそれを目にしたキュアアルカナ・シャドウが叫んだ。
少女の表情はこれまで目にしたことがないほどの真剣みで、ありありとした恐怖の色が浮かんでいる。
俺たちもニジーたちも、アルカナ・シャドウの青ざめた顔と謎のモヤを前に動揺し、逆に動くことができなかった。
モヤは収束し、やがて人型のシルエットをとった。
「……ぇ、あれは──ゼッツ?」
アンサーのつぶやき。
目の前のシルエットは、ゼッツの顔を左右に引き裂き、奥からおなじ赤い複眼を持つ顔が這い出てこようとしているような……そんな異形の頭部をした、まさに怪人。
『──よぉ、久しぶりだなぁ……』
ゼッツのような姿をした怪人が言葉を発した。
その声はおどろおどろしく、まるで地獄を生きる魔王のような重苦しさを内包している。
「……『カタストロフ』……まさかこちら側に出てくるなんて」
『ハハッ、
アルカナ・シャドウが怪人を見て、忌々し気につぶやいた。
ゼッツに似た怪人──カタストロフは俺に視線を向けながら、少女と会話する。
どうやらカタストロフは俺とアルカナ・シャドウのことを知っているようだ。
少女の方でも奴のことを知っていて…………いや、違う。
るるかだけじゃない……俺も、カタストロフを知っている──!?
……そうだ、俺はあいつと──そして、るるかと……!
『こっちに来るのは初めてだからな……ちょっと、力を出してみるか──!!』
カタストロフが雄たけびを上げる。
それはまさに、世界を崩壊におとしいれる、終末の音色だった。
怪人の体から放射状に、赤黒い強烈なエネルギーの波動が放たれる。
波動は俺たちを巻き込んで、アスファルトをえぐり、樹々をなぎ倒し、建造物を砕いて──辺り一面を分け
◇ ◆ ◇ ◆
『今日お昼ごろに、まことみらい市の住宅街の一角で、大規模な爆発が起きました。幸いこの爆発では死亡した人はいませんでしがた、多数の怪我人が──』
キュアット探偵事務所の応接室で、俺は唐突に目を覚ました。
テレビから流れる、怪人の引き起こした大破壊のニュースの音で意識が引き戻され──いや、テレビは点いていない。ラジオも流れていなかった。
「あれ……、なんのニュースを聞いてたんだっけ……」
「──どうしたの?」
ソファに座っていた俺のすぐ真横から、少女の声がかけられる。
隣に腰かけているのは、あんなでも、みくるでもない。
そういえば、ジェット先輩もポチタンの姿も見えない……。
「ねえ、大丈夫?」
「君は……!?」
キュアアルカナ・シャドウ──変身を解いたその姿は、森亜るるか。
くすんだベージュ色のセミロングヘアがふわりと揺れる少女の柔らかな表情は、これまで彼女をつつんでいた張り詰めたような緊張の糸などまったく見えない。
「なんで君がキュアット探偵事務所に居るんだ」
「おかしなことを言うのね。ここは元から、私たちの家じゃない」
「俺たちの? ……そうか、そうだったっけ……?」
「まだ寝ぼけてるの? 仕事でつかれてるんじゃない?」
「しごと……あぁ、そうか。俺は」
「それも忘れた? あなたは極秘防衛機関『
「──そうだった。俺は、悪夢を糧に発生する怪人『ナイトメア』を倒し、人々を守るため組織に入ったんだ。そしてるるかは」
「私も、CODEとおなじく人に害を及ぼす悪党を捕まえるため、名探偵プリキュアになった」
「CODEとキュアット探偵事務所は、共に人間を守るために組織された部隊だったな」
「そうよ、やっと思いだしたのね──」
俺はこれまで見ていた悪夢のような夢を振り払うように、軽く頭をふった。
「イヤな夢だった……夢の中で、俺はるるかのことを忘れていて、その上敵対関係になってたんだ」
「ただの夢よ。私が──
そうだ。るるかは俺の、かけがえのない大切な妹だ。
夢の中で俺たちの苗字が違っていたのは、
森亜はるるかの母親の苗字で、有森は俺の父親の苗字。
俺と彼女は、「義理の兄妹」の関係だったのだ。
どうしてこんな大切なことを思いだせなかったのか……夢ってやつは、やっぱり不思議だ。
俺の隣のソファに座ったまま、窓からひろがる景色に目をやりながら、るるかが言う。
「ねえ、それより外を見て。せっかく二人のお休みが重なったのに、今日は雨」
「そうだな。そういえば、久しぶりにどこかに遊びに行く約束をしてたんだっけ」
「だから、少し残念。でも──私、雨の日って好きなの」
「そうなのか?」
「うん。だって、昔のことを思い出すから」
懐かしむような声は、俺にもその過去の記憶を思い起こさせた。
あれは両親が再婚して、俺とるるかが出会いそれなりの時間が流れた頃──。
父はCODEのエージェントの、母は名探偵としての仕事で二人とも家を開け、俺とるるかで留守番をしていた時だ。
あの日もこんな雨……いや、もっと酷いどしゃ降りの夜だったな。
『おにいちゃん、くるしいよぉ……』
運悪く、るるかは朝から熱を出して寝込んでいた。
夜になっても熱は引かず、いそがしい両親には仕事の機密上連絡がつかない。
俺は薬を飲ませ、隣で額のタオルを変えてやることしかできなかった。
『このままじゃ、死んじゃうよ……』
『バカ言うな、すぐによくなるよ』
『死んじゃったら、もう、アイスがたべられない……』
るるかはそう言って涙をこぼした。
アイス……そういえば、こういう病気の時にはアイスを食べさせるといいと聞いたことがある。
台所へ向かうが、冷凍庫の中にアイスはない。
俺はすぐさま、レインコートと財布を手に家を飛び出た。
『待ってろ、るるか! すぐにアイスを買ってきてやるからな!』
台風の中かと思われるほどの暴風と叩きつける雨の痛みに耐え、夜でも開いてるお店を見つけるために四方八方を探し回ったっけ……。
「そのあと兄さんが食べさせてくれたアイスのおかげで、すぐに熱も引いた」
「薬のおかげだろう?」
「兄さんのおかげよ。私はあれがきっかけで、前以上にアイスが好きになったの」
隣に腰かけているるるかが、そっと俺の体を抱きしめるように両手を回した。
肩に頭をあずけ、甘えるように言葉を続ける。
「そして、兄さんのことも──前以上に大好きになった……」
るるかの声が脳を揺らすように響いてくる。
まるで甘い蜜を溶かしこまれるように、意識がボヤけて……次の瞬間、俺たち二人は出し抜けに家の外に立っていた。
開けた通りの目の前には、とてもとても高いビルが屹立している。
「あれ、ここは……どこだ?」
「まことみらいタワーよ。今日は二人でお出かけするって約束だったでしょ?」
「ああ、そうだった。……でも、さっきまで雨が降っていたような……」
「また寝ぼけちゃったの? せっかくのデートだっていうのに、仕方ない兄さんね」
そう言ってるるかは、俺の手を引いてまことみらいタワーの中に入っていく。
この建物は日本で一番高い建造物と有名で、今俺たちは最上階の展望ルームに立っている。
眼下に広がる町並みと、青く広がる空のコントラストの美しさに目を見張った。
「すごい……とっても綺麗ね」
壮大な景色をバックに柔らかなほほ笑みを浮かべる妹の姿は、俺の目には背景の美麗さよりもなお鮮やかに写った。
そうだ──るるかは本来、こんな明るい笑顔が似合う少女だったはずだ。
なのに今は……
(今? 今ってなんだ……いまが
頭痛とともに視界にノイズが走り、黒いドレスをまとう沈んだ表情のるるかのイメージが浮かんだ。
「うぅ……っ、キュア……アルカナ・シャドウ──」
頭を押さえながら、そんな単語が口からこぼれる。
プリキュア、名探偵、仮面ライダー、ゼッツ。
次々と覚えのある単語が脳裏に湧き上がってくる。
「そうか、これは──!?」
『そうだ、これは──夢の中だ』
俺の言葉に続いて発された声は、暗く重い地獄の底から響くような気味の悪さを孕んでいた。
隣に立っていたはずのるるかが、いつの間にか床に倒れ伏している。
まるで悪夢にうなされているかのように、その顔は苦悶に歪んで──。
妹の体から黒いモヤが湯気のように立ち昇り、それは魔王のような人型のシルエットをとった。
四つの赤い目と漆黒のボディを持った、悪夢の具現化──ナイトメア。
とつぜん足場に亀裂が走り、たちどころにビルの床が瓦解した。
床だけじゃない、壁も天井も、まことみらいタワーそのものがそっくりと崩壊する。
崩壊はタワーだけにとどまらない。
地面に横たわったままのるるかと俺を残して、世界のすべてが崩壊の悪夢に飲まれていく。
荒廃した大地の中で、破壊の権化──『カタストロフ』が
『クッハハハ! 心地いい
「ナイトメア……一体いつから夢を見せていたんだ」
『おいおい、勘違いするなよ。夢を見せてるのは俺じゃない』
「なんだと? じゃあ、誰がこの夢を──まさか……!?」
『そうさ。俺の夢主は、お前の妹だよ』
「るるかが……崩壊の悪夢の夢主──!?」
『可哀想になぁ。その嬢ちゃん、兄貴であるお前に「愛情」ってやつを抱いちまってる。しかしそりゃ叶わない、お前は家族だからだ。
その相反する感情の板挟みが、自分自身の心を崩壊させるほどの歪みを引き起こし──俺という「
まるで喜劇の観覧者のように、愉快そうに真相を語るカタストロフ。
俺は目の前の怪人よりも、自分に対して激しい怒りを覚えた。
「俺のせいか……俺がるるかを追い詰めてしまったのか」
『だとしたら、どうする?』
「決まってる。妹を救う──そのために、お前を倒す!」
俺は手に、CODEのエージェントに支給されている
装着式の外部端末でカプセムの力を人工的に起動させる、胸かけ式の『ドライバー』。
「──偽装」
『オンユアマーク……インヴォーク・ロードシステム』
胸に装着したロードインヴォーカーから全身に銀色のミッションスーツが広がり、覆う。
スーツの表面に、電子基板を思わせる金色のエネルギー供給ラインが広がり、俺はエージェントナンバー:セブンから一人の戦士に変わった。
「今の俺はCODEの兵士、『ロードセブン』だ──!!」
お待たせしました。
本文書きつつプロットも練り直してたので、思った以上に時間がかかってしまいました。
やっとオリ主とるるかちゃんの関係性も明かせました。
有森恭司という名前も彼女との関連から「モリアーティ」「教授」のもじりです。
まだプロットの修正が終わってないので、また次回投稿まで間が空くかもしれませんがご理解ください。