「ハァアアアアッ!!」
『ウォオオーッ!!』
俺が変身したロードセブンと、るるかの悪夢から誕生したカタストロフの拳が激突する。
スーツはたった一撃の接触で亀裂が走り、火花が散った。
これが、この力の根源がるるかの……妹の悪夢。
彼女の俺に対する想いが、自身との関係の板挟みで崩れそうな心が生んだ、崩壊の力──。
「ぅ……兄、さん……?」
俺と怪人の衝突で発生した衝撃の余波で、るるかが目を覚ました。
妹の姿は、彼女をとりまく悪夢の影響か、キュアアルカナ・シャドウのものへと変化している。
「待ってろ、るるか! すぐにナイトメアを倒して、お前を助けてやるからな!」
『いいや、そいつは無理だな……』
距離をとってるるかを背後に庇う。
カタストロフは意味深な言葉を吐いた。
ただの力量差からゆえの発言……ではなさそうだ。
『お前は俺を倒せない。なぜなら俺は、そこの嬢ちゃんの「
「……なにが言いたい」
『勘づいてるんだろう? お前の妹が俺を生み出した以上、俺を消せば──妹の心も壊れるぞ』
夢主が生み出したナイトメアは、夢主の精神と連動している。
低級度のナイトメアなら、単純に撃破して終わりだ。
だが……カタストロフほどの上級怪人であれば、夢主の心との繋がりもより深い──。
「そん、な……また私のせいで……ッ」
『まあ、そう悲観すんな。代わりに俺からいい提案がある』
「るるか、耳を貸すなッ」
口をふさごうと再び殴りかかるも、俺の拳は軽々と受け止められてしまう。
やはり擬装したロードシステムでは、変身するライダーシステムより数段パワーが劣るのか……。
カタストロフは愉快そうにその案とやらを口にする。
『簡単な話しだ。お前たちはこのまま、この夢の世界で暮らせばいい。ここなら誰にも、なににも邪魔されず、二人だけで幸せになれるぜ?』
「ぇ……」
『
るるかの瞳が奴の誘惑の言葉に揺れる。
だが、いくら甘言でも結局はただの夢だ。
しかし俺は……知らずにるるかを追い詰めていた俺には、その誘惑を断ち切れなんて非情な無理強いをする権利はない。
世界が変わった。
俺たちの目の前にはキュアット探偵事務所の室内が。
そこにはあんなとみくるがいて、ジェット先輩とポチタンが、マシュタンとるるかに俺もいて、みんなが笑顔で楽しそうに、ほがらかに──そんな夢のような光景が広がっていた。
CODEも、ナイトメアも怪盗団も存在しない。
これが一番幸せな世界じゃないか、という夢が──。
『どうだ? この世界でしか、お前たちの幸せは存在しない』
カタストロフの悪魔のようなささやきに、俺の腕から力が抜けていく。
確かにそうかもしれない……妹の幸せを願うなら、このまま夢の世界で──
出し抜けに世界にひびが入り、ガラスのように砕け散る。
膝をつく俺の背後では、立ち上がったるるか──キュアアルカナ・シャドウが杖を掲げ、怪人を睨みつけていた。
どうやら彼女の攻撃が、あの毒のような甘い夢の世界を破壊したらしい。
『おやおや、お気に召さなかったか?』
「……ええ、だってそれは、ただの幻覚だもの」
アルカナ・シャドウに支えられ、俺も立ち上がる。
彼女はカタストロフを睨んだまま言葉をつづけた。
「私の夢から生まれたなら、私にも理解できる。あなたは崩壊の力を司るナイトメア。なら……世界を創り出す力は持たないはずでしょ?」
『……クハハッ、いい推理だ。さすが名探偵プリキュアの一人だな』
憎き怪人に褒められても、当然いい顔はしない。
カタストロフは仰々しく腕を広げ、なおも少女への甘言を続ける。
『なら大人しく、想いを遂げられない現実を選ぶのか? そんなお前にとって悪夢の世界を?』
「……兄さんにとっての悪夢は、今でしょう。私がこんな、穢れた想いを抱いているんじゃ」
その言葉で俺はアルカナ・シャドウの──るるかの両肩をしっかりつかんで正面から向き合う。
俺の抱く思いを伝えるために。
「悪夢なんかじゃない! そんな風に思いたくない! お前が俺を想ってくれる思いは、決して、絶対に否定されるべきものじゃない。そうに決まってるだろう!!」
「兄さん……」
「確かに簡単な話じゃないさ。俺もすぐにどう応えるべきか、まだわからないけど……お前が俺を愛してくれるのは、すごく嬉しいよ。その気持ちはウソじゃない」
妹の瞳から、ひとしずくの涙が頬を伝った。
唇には薄っすらとした微笑が浮かび、俺の言葉を聞いて安堵したような雰囲気が感じられる。
「ずっと、気持ちを知られるのが怖かった……。受け入れてもらえなくても仕方ないと思ってた。けど……少なくとも、否定してくれなかったのはよかったわ」
「るるか……すまな──」
「謝らないで。これから先、どうなるかわからないけど……未来に夢を持たせておくことにするから」
アルカナ・シャドウは黒いケープの胸元から、そっと球体状のアイテムをとり出した。
「これは、カプセム……?」
「私が兄さんから奪った、ゼッツの力の一部。これが無ければ、兄さんはナイトメアや怪盗団ファントムとの戦いに巻き込まれずに済むと思っていたの。だから……」
「けど、これは──今はまだ起きていない、これから先の未来で起きることのはずじゃ……?」
「この夢はカタストロフの影響で、未来において過去と入り混じっている。だから、これはすでにあったこと」
「はは……っ、なんだか混乱してくるな。でも、これがあれば」
「うん。私たち二人で──」
俺とアルカナ・シャドウは、そろってカタストロフの方を向きなおった。
擬装を解除し、彼女から受け取ったカプセムを胸に押し当てる。
カプセムは俺の体を強力なエネルギーで包み、その七色の光は俺と手をつなぐるるかの体をも覆っていく。
『なんだぁ……このパワーは!?』
怪人の目の前で、俺とアルカナ・シャドウの二人の姿が一変した。
俺は再び、仮面ライダーゼッツとしての変身を完了する。
しかしその身は、これまでの肉体を強化したそれではない。
今の俺は全身が金属製の骨格を思わせるフレームに抱かれる、ゼッツ オルデルムへと進化──否、回帰した。
そしてるるかの姿もまた、黒と金に彩られていたシャドウのドレスが、青空を思わせる蒼と白にカラーチェンジしている。
「今の私は、神秘と秘密を解き明かす──キュアアルカナ・ナイト」
プリキュアの力にカプセムの力が混ざりあった、キュアアルカナの新たな姿だ。
二人そろって、ナイトメアと対峙する。
自分のウソにのってこないと悟ったカタストロフも、崩壊の力をその身から溢れ出すほどに
「いくぞ、るるか。すぐにケリをつけないと……」
「わかってる。私の夢が、壊される」
そうなる前に──
『この悪夢の世界も、外の現実の世界も、いっしょに打ち壊してやるよぉッ!!』
怪人の四つの目が怪しく輝くと、そこから赤黒いイナヅマが走った。
アルカナ・ナイトは手にするロッドを敵に差し向け、ひと言。
「アルカナ スターボウ……!!」
蒼白の流星が目にもとまらぬ速さで飛び、雷撃を弾きながらナイトメアの体に直撃する。
うめき声を漏らしながらカタストロフは彼女の攻撃を受け止めるも、その威力は抑えきれずに後退していく。
「兄さん、今ッ」
「ああ……オルデルム・エンダー!!」
銀色のエネルギー体を収束した飛び蹴りは、アルカナの放った流星の威力をも吸収し何倍にも増幅され、カタストロフの体内にねじ込まれる。
過剰なまでの夢の力を注入されたことで、ナイトメアの体は耐えきれず、自らの名前を体現するように崩壊していった。
『ば、バカな……俺が、こんな簡単に……!?』
「残念だったな。元の夢じゃ、俺一人だったから苦戦しただろうけど」
「今は
一度体験したであろう未来の夢では、ロードの力を使いカタストロフの力はカプセムに封印するのでやっとだった。
そのカプセムがウソノワールに奪われ、奴の体を構成する鎧のボディとなったのだ。
だが、夢を書き換えることのできるオルデルムの能力とるるかの参戦によって、そうなるはずだった
崩れ落ち、夢の世界のチリと化し消えていったカタストロフ。
これで現実で起きた市街への破壊被害と、ウソノワールの力も消失したはず……。
ホッと一息つく間にも、次の変化が訪れた。
「地震……? 夢の世界が揺れてる……」
「──いや、これはただの地震の夢じゃない」
るるかの夢の世界に起きた変化。
世界が遠くの方から、次第に白く、なにもない空間に飲まれていく。
「クソッ、どうやらカタストロフの最後の抵抗みたいだ」
「どういうこと?」
「奴は崩壊の力で、再構成された夢と現実の時間軸をまた破壊するつもりだ」
「……つまり?」
いやな予感を感じたのか、妹の頬に冷や汗が浮かぶ。
言いづらいことだが、隠しても事態が悪化するだけなので俺も正直に伝える。
「このままじゃ、全部が台無しってことだ」
「──私も、兄さんのことを忘れてしまうの……?」
世界そのものの崩壊を目の当たりにして尚、るるかは俺とのことを一番に心配していた。
俺の存在が忘れられるだけならまだいいだろう。
だが現実に波及した崩壊の影響は、文字通りすべてを壊し無に帰すもの。
あんなもみくるも、ジェット先輩も誰であろうとその被害から逃れる術はない。
俺は妹の肩に手を置き、諭すようにゆっくりと言葉を紡ぐ。
「俺がなんとかする」
「……また、危ないことするつもり?」
「大丈夫だよ。お前の夢の奥──深層心理に潜って、崩壊の力を制御するだけだ」
「夢の奥って、ちゃんともどってこれるの?」
不安をぬぐうように、るるかの体を抱擁する。
心配ない、この温もりを覚えている限り。
そして──
「お前が……誰かが俺を覚えていてくれる限り、俺は必ず帰ってくる」
世界を飲み込む白の色は、ついに俺たち二人を包み込んでいく。
「兄さ──」
大丈夫だ。
お前が自分の夢を未来に預けたように、俺もお前と再会するという夢を、未来に持たせておくから。
すべてが白に飲まれるより先に、るるかの深層心理の奥深くへと意識が沈み込む。
浮遊感を受けて意識が落下していく直前──頬になにか、柔らかいものが触れる感触が残った……。
◇ ◆ ◇ ◆
まことみらいの街並みを、一組の親娘が歩いている。
オレンジ色の髪が特徴の女の子に手を引かれ、母親は一軒の洋菓子店に入った。
店内のカレンダーが目につく。
この日──2027年1月24日は、少女が楽しみにしていた誕生日。
母は娘にせがまれて、パティスリーで少女の誕生を祝うためのケーキを購入した。
家に帰ってパーティーの準備を……というところで、ふと少女が足を止める。
「どうしたの?」
「あの人たち……」
店内の一角。目立たない隅の方に、一組の男女が座っていた。
冬だというのに、二人は一つのアイスを仲良さげに食している。
「知ってる人?」
「ううん、だけど──」
はなまる幸せそう。
少女がほほ笑みを向けた二人は、兄妹のようにも夫婦のようにも見えた。
突然終わらせてしまいごめんなさい。
当初はあと5話くらい残ってたんですが、ゼッツ本編が今月で終わりとなると終了後もこの作品を続けるモチベが維持できるか怪しかったので、短縮させてもらいました。
一応元のプロットではカタストロム撃破ののち、現実世界でエクレールoutゼッツinの状態でvsウソノワール様怪獣態からの、ウソっちの夢に入ってナイトメアと戦い倒す→すべて解決と思いきやアルカナシャドウは怪盗団続行を宣言して…みたいな感じで、どちらにしてもたんプリが放送中なため打ち切りみたいな最終回にはなる予定でした。
この作品の主軸はオリ主とるるかちゃんとの関係にあるので、そこのわだかまりが解消されたらあとは蛇足と思い全部省いてしまいました…。
期待に沿えない最後だったかもしれませんが、そこは反省点です。
なんにしても読んで応援してくださった方々には、最後まで本当にありがとうございました。