「...なあ、灯。今日の放課後さ。」
「ん?」
私が学園に来てから一週間ほど経った日の、午後。教室で本を読んでいると、アインが話しかけてきた。
「ちょっとさ。街にでも、行かない?」
「......街に?」
私は本から目を離し、アインを見て瞬きをした。
同じく教室にいた麗とナタリーも、ほぼ同じ反応をしている。
「え、アインお兄ちゃん、街に行くの?れいも行きたい!」
「ねえ、アイン。わたしと麗も一緒でいい?」
麗を抱っこしたナタリーが、そう優しく微笑む。
「...うん、いいよ。四人で、一緒に行こう。」
___
そして放課後。
イングラシアの街は、とても広かった。
ショウウィンドウに並んだ、おしゃれな服。日本では見ることもなかった、武器や防具のお店。魔法の効果が付与された、アクセサリーのお店。果ては少し怪しげな露店まで。
「広い......。」
「せっかくだし、灯。お洋服でも買わない?」
私が街並みに驚愕していると、麗を抱えたナタリーが声をかけてきた。
洋服?
「そうそう。ショッピング。」
「おかいもの!!灯お姉ちゃんも行こう!」
麗がぴょい、とナタリーの腕から降りて、私をぐいぐい引っ張った。
そして、服屋。
競歩みたいなスピードでナタリーと麗は服屋に入っていき、私を着せ替え人形みたいにして服を選んでいた。
奥の方にいるアインが、私に憐れみの目を向けてくる。
なぜだか逃走は許されない。二人の雰囲気がそう物語っていたから。
「......どう?」
「わ、あ!」
「灯...かわいい!」
結局決まった、一着の白いワンピース。シンプルだけど、裾にレースがついたりしていて、結構かわいい。
「ほら、アインも感想言って!」
「えっ、あ......す、すごく似合ってるよ、灯。」
ナタリーに背を押されて、店の隅っこでコチラを見て固まっていたアインが、おどけながら口を開いた。
「ありがとう、アイン。」
わたしはそう言ってから、その場で一度くるりと回転する。ふわりとワンピースの裾が上がって、なんだか楽しい。ちょっと、気に入ったかもしれない。
このワンピースは購入することにした。ちなみにお金は、寮の部屋に入った時に、卓上に置かれていた、おそらくお小遣い?みたいなのを使用した。あとでナタリーに聞いたところ、月に銀貨3枚くれるらしい。なるほど、この学園の子達はお小遣い制みたいだ。
「次、どこ行く?」
街道を4人で歩きながら、街並みを眺めて。お店のショウウィンドウを覗いてみたり、道の端っこではしゃいで、転んだりして。バカやりながら、街を歩いた。
道中、ふと。大きな建物の前を通りかかった。とても大きな建物で、大人が何人も行き来している。剣を腰に下げた人がいたり、ローブを被った人がいたり。もしかしたら、イングラシアに来るときにお世話になったバルさんのように、冒険者の人なのかもしれない。
思わず少し足を止めてしまったけれど、それは、私の隣を歩いていたアインも同じだった。
「……自由、組合。」
アインはそう小さく呟いて、看板を見上げている。ナタリーと麗がきゃっきゃと笑いながら先へ進む中。私とアインは道のど真ん中で足を止めてしまっていた。
「おい、こんなところで立ち止まるなよ。」
「あ、すみません。」
どん、と歩いていた人に軽くぶつかられた。少し焦りながら2人で前を向く。小走りで、先をゆくナタリーたちを追いかける。
「なあ、灯。」
追いついたところで、アインが小声で話しかけてきた。
「灯もさ、冒険者。興味あるの?」
恐る恐る、といった様子でアインはそう聞いてくる。そのまままっすぐ前を向いていたけれど、視線が少しこちら側へ寄っていた。
「…ある、かな。多分。」
明確に”冒険者になりたい”とかいう目標があるわけじゃない。でも、ないと言えば嘘になる。だから、こんなに曖昧な返事しかできない。
「はは。多分ってなに。」
私の返答を聞いたアインは、こちらを向いてから、笑った。