【転スラ】『理解者』の末路   作:浪漫遊

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4:『理解者』

学園には、大きな図書室がある。

 

私が前いた世界とは比べ物にならないくらい大きくて、本の数もとても多い。常駐している司書さんが1人いて、あとはあまり人がいない。人がいないのにはきちんと訳がある。なぜなら、私が、他の生徒が授業をしている時間に、図書室に入り浸っているからだ。

 

ナタリーが前に言っていた様に、私たち異世界人に何かを教えられる先生は、まだ見つかっていないらしい。だから基本、教室で遊ぶか、本を読むか、寮に戻って寝るかしかない。アインは中庭で剣の練習をしていることがほとんど。ナタリーは教室で麗と一緒に遊んでいることが多い。

 

かくいう私は、こうやって1人で、図書室に入り浸っている。

 

他にも、理由はある。そう。“先生がいないなら、自分で学べばいいじゃない“という完全な持論だ。

 

実は。あのクラスの中で、“この世界の文字“がちゃんと読めるのは私だけみたいだ。言語?それはどうやらみんな“翻訳魔法“という簡単な魔法を使って、日頃会話しているみたいなので、支障はないらしい。

 

以前、“この世界の言語“をみんなでちゃんと学んでみないか、と言う案をアインが出して、それに麗が「今更無理だよ」と切り捨てた時に、この話題が出た。

 

しかしここで、ひとつ疑問が生じた。

 

私は、“翻訳魔法“を使ったことがないのに、“この世界の言語“が解るし、話せるし、読める。

 

なんで?

 

あの3人は、多分、私も翻訳魔法を使ってる、と思ってる。だって話していないから。

 

それに、話すのが怖い。私自身、なんで話せてるのか分からないし、もし私だけ、他の3人と何かが違うなら。

 

それが分かるのは、少しだけ、怖いから。

 

 

「あった。言語学の本。」

 

棚の上の方にあった、「スライムでもわかる!言語学のすゝめ」みたいなタイトルの本を手に取る。

 

適当に座ってページを開き、読んでいく。やっぱり、読める。

 

書いてあることは簡単。“この世界は共通語です“。なので、一言語覚えたらあとは大丈夫!さあ、覚えましょう!

 

著者を殴りたくなった。

 

ふう。一回深呼吸して落ち着く。

 

……そういえば、なんだけど。

 

どうして、私はこんなにも冷静なんだろう。

 

いや、前から結構冷静で、周囲から“大人っぽいね“とか結構言われたこともあるけれど。なんだか、この世界に来てから、それが格段に飛躍した。なんだか、冷静すぎる。

 

よく考えてみれば、召喚されたその日の夜に、超冷静に分析して、“ここは異世界です“って結論を出したこともおかしい。召喚された時に、周囲にいた大人たちを問い詰めることもせず、なぜか状況を受け入れて、されるがままにここまでやってきたことも、不可解だった。

 

普通の小学五年生なら。泣き喚いて、大人を問い詰めて、不安で夜眠れず。そして異世界だと分かれば、自分が“特別な存在“であることに心を躍らせるはず。帰還を願いながらも、普通だった自分が“勇者“になれる可能性を秘めるとすれば。傲慢になって、意地を張るだろう。

 

アインみたいに、剣を振って。麗みたいに派手に魔法を使うだろう。

 

……なんで、こんなにも、冷静なの?

 

問いが帰ってくることはない、無意味な自問自答。結局、全部自分で考えるしかないんだ。

 

 

その時、だった。

 

開いていた言語学の一文に、目が留まる。

 

“なお、一部例外は存在する。“

 

“例えば、みんな知っている一般常識《世界の言葉》なんかがそうだ。“

 

“《世界の言葉》は、この世界に来たばかりで、翻訳魔法を使用していない状態の異世界人でも、意味が理解できるという。“

 

“それはつまり、《世界の言葉》が使用しているのは、この世界の一般言語ではなく、生物全てに共通して理解できるようにしてある、謎の言語なんだろう。“

 

“…こう考えてはみたものの、これは著者の推測の域を出ないので、どうか真に受けないように。“

 

 

《世界の言葉》……?

 

翻訳魔法を介さずとも、異世界人でも理解できる、言語?

 

私はすぐに立ち上がって、辞書や辞典が置いてあるコーナーへ早歩きした。一冊の百科事典を取り、読む。目次を漁って__あった。

 

“《世界の言葉》“

“新たな能力を得た際に、その本人の脳内に響く声。周囲の者にも聞こえる場合がある。“

 

新たな、能力。

 

 

私の中で、パズルのピースが、ピッタリハマったような。そんな感覚がした。

 

 

召喚時。あの時は状況把握に必死で聞き流したけど、声を聞いたんだ。

 

どうして、忘れていたんだろう。《世界の言葉》は、ちゃんと言っていたのに。

 

“《確認しました。エクストラスキル『言語理解』を獲得しました。》“

 

って。

 

 

これ、だ。

 

 

理解した。思い出した。

 

 

本が手から滑り落ちかけて、慌ててキャッチする。百科事典を抱えて、そのまま、席に戻った。

 

 

落ち着いて。一つずつ、思い出していこう。

 

あの時聞こえた言葉は、これだけじゃなかったはずだ。

 

 

ジェットコースターみたいで、酔いそうとか思ったら、確か。『平衡感覚』を覚えた。

 

知能指数下がってるかな、とか考えたら、『知能』と、『思考加速』。

 

 

そして最後に、なにか、変なことが起きていた気がする。

 

 

確か。『言語理解』と、さっきの二つ。この三つを混ぜた。

 

いや、混ぜたというか、統合して。なんかスキルの名前が変化した気がする。

 

 

『理解者(ワカルモノ)』。

 

 

冷静だったのは、これのおかげで、これのせいだったんだ。

 

 

その日私は珍しく、もうそれ以上本を読まず、なにも考えず、寮の部屋に戻って、ふて寝した。

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