【転スラ】『理解者』の末路   作:浪漫遊

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6:冒険

 

「灯ー、こっちこっち!」

「まってよアイン。急ぎすぎだって。」

 

私とアインは今日、学園を出て、冒険者の職業体験のようなものをすることになった。

 

きっかけは、この前優樹さんが顔を出してくれた時。

 

アインが優樹さんに“冒険者の仕事を体験してみたい”と頼み込んで、これが実現した。なお、ナタリーと麗は別の職業体験に行ってみるらしく、私たち二人だけ。

 

そして現在地は、自由組合本部の目の前である。

 

「......ん?嬢ちゃんじゃねえか。」

 

アインと二人で大きな建物を見上げていると、背後から声が掛かる。聞いたことのあるその声に振り返ると、案の定。

 

「バルさん。お久しぶりです。」

 

私をファルムスからここまで護送してくれた、あの冒険者さん。なんでここに...と思ったが、確か彼は、こことファルムスを拠点にしていると言っていたっけ。

 

「灯、知り合い?」

「うん。学園にくる前に、ちょっとお世話になったの。」

 

耳打ちしてきたアインに、そう答える。アインはバルさんが腰に下げている剣を見て、それからバルさんの後ろにいる二人の冒険者を見て。目を輝かせた。

 

バルさんの後ろには、狩人らしき格好の人と、紫色のローブを羽織った、明らかに魔法使いっぽい人がいる。バルさんのパーティメンバーなのかな?

 

「そういや、嬢ちゃんの名前、ずっと聞いてなかったんだよな。名前、聞いても良いか?ついでに、こいつらも紹介するから。」

 

そう言って、バルさんはニカっと笑いながら、親指で背後を指差した。

 

「そうでした...っけ。」

「えっと。灯って言います。」

 

私は、バルさんの背後で狼狽える(推定)パーティメンバーの人達も視界に収めながら、名乗って、少しお辞儀をした。

 

「僕は...アインです。」

 

「おう、よろしくな。アカリに、アイン。」

 

バルさんはそう言った後、私たちの頭を優しく撫でてくれる。そして、背後の二人に視線を移して。

 

「ほら、二人とも。自己紹介くらいしろ。今日の同行者のお二人さんだぞ?」

「あ、え...?学園の生徒って聞いてはいたんですけど、この子達なんですか?」

「そりゃあそうだろ。組合本部前で突っ立ってる子なんて中々居ないだろ。」

「......。」

「ほら。さっさと自己紹介自己紹介。」

 

二人はバルさんに背を押されて、一歩私たちの前に出る。

 

数秒の沈黙ののち、魔法使いっぽい人が口を開いた。

 

「あ、あの......。えと、ラウ・モーメントっていいます。魔法使い、やってます。よろしく、お願いします。」

 

杖をきゅうと握りしめて、ラウさんは深くお辞儀をした。

 

「......リョーシャ。狩人。よろしく。」

 

リョーシャさんはそう短く言った後に、私たち二人にそっと握手を求めた。

 

「「よろしくお願いします。」」

 

私とアインは一度顔を見合わせ、そう言ってから。リョーシャさんの手を取り、ラウさんに笑いかけた。

 

_______

 

そして、やってきました薬草採取。

 

今回私たちがバルさんたちと行う依頼は、薬草の採取。下級の回復薬(ポーション)に利用できる薬草を、イングラシアの首都から少し離れた、小さな原っぱで採取するというものだ。

 

私とアインは武器として、短剣をバルさんに貸してもらった。これを使って採取し、もしかしたらあり得るかもしれない戦闘をする。

 

まあ、アインは真剣を持参してきているようだけれど。

 

「この辺はスライムくらいしか出ない。危険なモンスターが現れるとかは滅多にないが、用心に越したことはない。一応気を配っておけよ、アカリ、アイン。」

 

街の門を出て、歩くこと数分。だんだんと道が草だけになり、いよいよ外、って感じだ。

 

吹き抜ける風が心地よく、周囲にはぽつぽつと低木が生えているくらいで、遮蔽物は何もない。

 

「今日はいい風ですね......。風魔法の調子も、心なしか良いかも...。」

「ははは、薬草がたくさん見つかりそうだしな。」

 

ラウさんが空を見ながら嬉しそうに呟いて、リョーシャさんは風を浴びて目を細めている。バルさんは私たち二人を見てから、「頼りにしてるぜ」と笑った。

 

 

 

「えと、アカリちゃん。その草は、違う種類の草、かな。」

「...?葉っぱの形も模様も一緒ですよ?」

 

私たちは草むらに身を屈めて、薬草を探していた。薬草を見つけて、短剣で切って、麻袋にぽいぽい入れていく作業。単純だけど、どこか楽しい。

 

そう思っていたら、ラウさんが横からそっと声をかけてきた。

 

「えとね。ぼくらが集めてるのは、この薬草。茎の部分、アカリちゃんが持ってるのと、見比べてみて。」

 

ラウさんが持っている薬草と、私が今手にしている薬草。どこが違うのだろう______

 

あ。

 

「私のは、茎に、薄い横線が入ってる。」

「そう。よーく見ないとわからないから、ぼくらでも間違っちゃうんだ。」

 

私は今持っている薬草をそっと持ち上げ、太陽にかざす。茎に確かに、薄い横縞の線がいくつか入っている。ラウさんが持っているのは、そんなものは入っていない、真緑。

 

ラウさんは少し微笑んだ後に、私の隣に恐る恐るしゃがんで、一緒に薬草探しを始めた。

 

そのあとは、豊作だった。全員で手分けしつつ、雑草の中から選りすぐって、私の腕くらいの麻袋に、いっぱい入るくらいは見つかった。

 

「おし。これで依頼は達成。達成どころか、追加報酬も貰えそうな量だな。」

 

バルさんが麻袋の口を縛って閉じて、担いだその時だった。

 

「......いる。」

 

リョーシャさんが口を開き、背から素早く弓を取り、矢を番えた。

 

空気が張り詰めて、一気に雰囲気は臨戦体制へと移り変わる。

 

私の隣にいたラウさんが、杖に額をちいさくくっつけて、何やら呟く。オレンジ色の魔法陣がふわりと展開し、私たち全員をやさしく包んだ。

 

「防御バフか、さんきゅ。」

「......前方、三。後方、一。左右にニずつ。全部、スライム程度。」

 

「おし、じゃあ戦闘開始といくか。リョーシャ、支援任せた。」

 

そしてバルさんは剣を抜いてから、アインに目配せをして。

 

「アイン。一緒に戦ってみるか?」

 

アインが息を飲んだのが、私から見てもわかった。

 

「......いいの?」

「ああ。そのための、職業体験だろ?大丈夫。怪我はさせねえから。」

 

「......うん!」

 

アインは力強く頷いてから、剣を抜いた。鈍い銀色が太陽を反射して、眩しく映る。

 

アインとバルさんは、息を合わせるようにして踏み込んだ。

 

 

_____

 

アインに歩調を合わせるようにしながら、バルさんが踏み込む。アインは少し大ぶりになりながら、剣を振り翳した。

 

スライムはそこまで知能がないのか、大ぶりになったアインの隙をついてくるようなことはしてこない。

 

バルさんがアインの死角をカバーするように動いている。そしてリョーシャさんは、いつでも矢を放てるようにじっと戦闘を見ていた。

 

私は腰に下げた短剣を小さく握ってから、目の前の戦況を見ていた。

 

圧倒的な優勢。そして、『思考加速』で引き伸ばされた、遅い戦闘。私があの攻撃を避けられるかと聞かれれば、微妙だけれど。

 

思考が早いだけで、肉体の反応速度が上がっているわけではないのだ。

 

そして、戦闘は案外あっけなく終了した。スライム数体相手だから、当たり前といえばそうなのだが。

 

「ふ...ぅぅ...魔物はやっぱり、心臓に悪いぃ。」

 

最後のスライムに、アインがトドメを刺した瞬間。ラウさんはへなへなと地面にへたり込んだ。

 

「お疲れさん、アイン。剣筋良かったぞ。」

 

「...!はい、ありがとう、ございます!」

 

アインは剣を鞘にしまいながら、頬をゆるませて、嬉しそうに笑った。

 

______

 

 

「......なあ、灯。今日さ、すごく楽しかった。」

 

学園までの帰路。夕暮れ時で影が伸び、街では店じまいが始まっていた。

 

アインは私にだけ聞こえるくらいの小さな声で、ぽつぽつと話し始めた。

 

「バルさん、あの人は相当な手練れだった。別れる直前まで、剣筋のアドバイスくれたんだ。他の大人と違って威張らないし、怒らないし。」

 

「......やりたいこと、やらせてくれたし。」

 

アインは服の裾を掴みながら、そう溢す。私たちの歩幅は、少し短くなっていた。

 

「灯はさ。気づいてるんだろ?僕とナタリーが、麗にずっと隠し事してること。」

 

私の喉が、少しだけ鳴る。すぐに言葉を返せず、何か言おうと思ったら、アインは話を続けた。

 

「ナタリーがこの間、言ってたんだよ。“バレちゃった”って。」

 

「別に、僕らは怒ってるわけじゃないし、責めてるわけでもない。」

 

「知っちゃったから、変わることもあるけどさ。」

 

「変わんないこともあるじゃん。今日みたいに。」

 

アインは私より数歩前に出てから、立ち止まる。そして振り返って、私と目を合わせた。

 

「嬉しかったんだ。冒険者体験できたのもさ。灯が、ナタリーたちのとこじゃなくて、僕のとこに着いてきてくれたこととか。」

 

「知っても、灯はなにも、変わんなかった。」

 

「......あの人と一緒だ。灯は、優しいよ。」

 

あの人って誰、と問い返す前に、アインがぎこちない笑みを作る。

 

「麗がくる前にさ、一番長生きした人が居たんだ。」

 

「親父ギャグが好きで、いつもスベってたけど、でも。すっごい強くて、優しい人だった。」

 

「灯とおなじ、日本の人でさ。サムライとか、ニンジャとか好きだったんだ。僕らは、ショウって呼んでた。名前、書いてくれたんだけど。僕ら、漢字読めなくて。」

 

「......灯もさ、漢字、あるの?」

 

唐突な話題の飛躍に驚きながら、でも、頷いた。道に落ちていた小石を拾って。街道から少し逸れた、土のある地面にしゃがみ込んで。ガリガリと書いた。

 

「...それが、灯。」

 

「うん。火を、ともす。明るくする、って意味。」

 

アインはしばらく、その文字をじっと見つめて。

 

「なんか、いいな。」

 

「あんまり上手く、言葉にできないけどさ。」

 

「知れて、良かった。」

 

私を見ながら、微笑んだ。

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