【転スラ】『理解者』の末路   作:取れないカラザ

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7:婉曲

 

「ねえ聞いて聞いて、灯お姉ちゃんー。」

 

職業体験の翌朝。教室に入るなり、麗が突撃してきた。腹部に甚大なダメージ。なんとか堪えて続きを促す。

 

「どうしたの?」

「あのねあのね。昨日、ナタリーお姉ちゃんと一緒にお洋服作ったの!これ!」

 

麗はにっこり笑って、私から数歩離れてからくるりとその場で回る。

 

かわいいピンクの花がところどころについた、かわいいフリルのワンピース。ふわりと裾が揺れて、麗はまるで小さなお姫様みたいだった。

 

「わあ、それを作ったの?すごいね。よく似合ってる、かわいいよ。」

 

「えっへへー。二人で頑張ったのー!」

 

麗は照れながらも、嬉しそうにワンピースを見つめた。

 

「ふぁぁ、おはよー。」

「おはよう、二人とも。」

 

そうしている間に、背後から声がかかる。明らかに寝起きのアインとナタリーが教室に入ってきた。

 

「おはよー。ナタリーお姉ちゃん、アインお兄ちゃん!」

 

「あ、麗。それ着てくれたんだ。」

「もしかしてそれ、職業体験のやつ?」

 

麗はその場でぴょんぴょん跳ねながら、「そうなのー」と笑う。

 

「あのね、それでねー。来年はナタリーお姉ちゃんと、お揃いのを作るの!約束したんだー。」

 

麗のその言葉を、三人が理解した途端に、一度空気が硬くなった。麗に気づかれないほど、一瞬。

 

「そうなの。ねー?」

「ねー!」

 

ナタリーと麗は顔を見合わせて、嬉しそうに笑う。麗は無邪気に笑っていて、ナタリーもまたそれに釣られて笑っている。目の奥に、どこか寂しさを滲ませながら。

 

 

 

 

___

 

 

 

 

 

「灯お姉ちゃんー。」

 

お昼頃。運動後に木陰で寝そべって、ぼんやりと空を眺めていたら、麗が私の視界にぴょこりと顔を出した。

 

「本、読んで欲しいの。」

 

麗は寝そべる私の隣にちょこんと座って、一冊の本を私に見せた。

 

それは、麗が普段読んでいるような絵本ではなく、普通の小説。

 

「......これを?」

 

「うん。」

 

少し驚いて、何度か瞬きをしながら麗を見る。麗はいつもより少し、真剣な表情をしていた。

 

体を起こして本を受け取り、タイトルに目を通す。

 

“亡国の姫君と勇者様”

 

「...麗はどんなお話か、知ってるの?」

 

「ううん、知らない。でもね、絵が綺麗だったから。」

 

麗はパラパラとページをめくり、一枚の挿絵を指差した。

 

中世ヨーロッパの人物画を思わせるような絵で、女の人が泣いていて、男の人がそれを後ろから抱きしめている。

 

「......私も気になってきちゃった。一緒に読もっか。」

 

「うん!」

 

麗を膝に座らせて、私はページをめくる。そっと口に出して、読み始めた。

 

本の内容は、こんな感じだった。

 

【ある大国で、勇者と呼ばれる男がいた。】

 

【その勇者は大国に属しており、勇者は大国に命ぜられるままに動き、それに対して何の疑問も抱いていなかった。】

 

【そんなある日だった。】

 

【勇者は城下町で、みすぼらしい格好をしたまま、路地裏でうずくまる一人の少女を見かけた。勇者は近寄って声をかける。】

 

【そして、勇者はその少女に、恋をしてしまったのだ。】

 

【その少女こそが、この間勇者が滅ぼした小国の姫だったというのに。】

 

「......お姫様、かわいそう。」

 

【勇者は姫を口説き、自分の家に住まわせ、周囲にバレることのないように、姫を隠した。】

 

......ちょっと、麗の本の選択は、だいぶまずかったのかもしれない。内容的に。

 

【そして、勇者の無償の愛を目いっぱい浴びた姫はいつしか、親の仇でもあるはずの勇者を拒めなくなっていた。】

 

私は読み終わって、本をパタリと閉じた。もう夕暮れに差し掛かっている。木陰にいたはずなのに、いつの間にかここが日向になっていた。

 

「......。」

 

「......灯お姉ちゃん、結局、どういうことー?」

 

「あー...。」

 

麗がくいくいと袖を引っ張って、キラキラした目を向けてきた。

 

私はとても、言葉に迷った。なんて言えばいいのか。

 

ありのままを伝えるべきか。それとも、少しオブラートに包むべきか。もしくは、嘘をつくか。

 

「教えてよー。」

 

「えーっと。」

 

私が言葉を濁したその時。

 

「麗ー、灯ー。もうそろそろ寮に戻れってさー。」

 

アインの声が教室の窓から聞こえてきた。身を乗り出して、こちらに呼びかけている。

 

ナイスタイミング!!

 

「はーい。麗、行こ。この話はまた今度ね。」

 

「んー...はあい。」

 

私と麗は夕日を背に、寮へ戻って行った。

 

日が沈み切り、月が昇った頃には、麗はもうきっと、その約束なんか忘れて、ぐっすり夢の中だろうな。とも思った。

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