今回は宮廷におわす、帝と玉葉妃にお目通り願います。
湯水のごとく財宝はあるが、自分は武将であるという誇りから一つの決断をします。
それでは!
パカン。
「次」
パカン
と下男の仕事である薪割を済ませる呂布。
「だ、旦那ぁもう薪置き場がいっぱいでさ~!!」
それはもう段違いのスピードで。
そりゃそうである。下男が二人係でも石突の部分を引きずってしまうほどの重さの、方天画戟を片手で軽々と振り回す男である。薪割りなど片手間だ。
「旦那ぁ~!助けてくれぇ!湯殿の火が付かねぇんだー!!!」
「わかった。すぐ行く。片づけておいてもらえるか?」
「もちろんでさ」
パタパタと湯殿の下のボイラー室のようなところにつく。
「うむ・・・これは・・・」
なにか、とろりとしたものが炭の上に掛けられている。
「チッ・・・何処の馬鹿だ!炭の上に香油を塗った馬鹿者が!」
バリバリと腹の底から響き渡る怒声に一人の下男がヒッ!とたじろぐ。
「お前か。大方、着火剤とでも言われて購入したのだろうが・・・これはただの香油だ!それで炭がしけって火がつかんのだ!」
なにぃ!?とやりて婆が駆け上がってくる。
「あたしゃ着火剤があればすぐに火が付くから薪の数が減らせるって話だったから銀を出したんだよ!こんな小手先の手口にやられて緑青館がカモにされたらどうするんだい!?」
「ヒィ~!すみませんでしたぁ~~!」
バチンバチン!と箒で下男を叩きながら去っていくお婆。
「こっちはお前に任せた、と言わんばかりだな」
「呂布の旦那、どうするんで・・・?」
(粗熱は取れている。火をつけるのに苦労するかもしれんが仕方ない)
「男どもを集めるものと、靴を濡らした布で巻いて中に入る男衆に分かれろ!面布も忘れるな!全員で中に入ってしけった炭を引くぞ!」
オオオオー!!!とその場にいた男衆が一斉に動き出す。呂布は、自ら手本となるように靴に水につけた布を巻き面布を巻いて自ら炭の中に飛び込んだ。
その場に残った男衆も見様見真似で同じように隅の中へ入っていく。
しばらくすると男衆を集めに行っていた者たちも戻ってきて見様見真似で炭を片付けていく。
「あちっ!旦那ぁ!まだ火種がくすぶってるとこまで来やしたぜ!」
「木板を使って端に寄せろ!間違っても濡らすなよ!」
はい!と一糸乱れぬ動きはまさに軍。武将呂布、ここにありという感じだった。
それを遠目で見ていた梅梅は、
「奉先様・・・」
純粋に見惚れていた。
そんなことはさておき、粗方炭を排除したところで追加の薪を入れて、
「貂せ・・・梅梅!」
「はい!奉先様」
「化粧に使う綿をできるだけかき集めてくれないか?」
「いいけど何に使うの?」
梅梅は首をかしげて、
「着火剤を作る」
「え、」
えええええ!?と誰もが驚愕する。
「妓女たちの湯あみまで時間がないぞ!!急げ!」
「「「はい!!」」」
パタパタ!と各々の仕事に走る。
「おい、お前は・・・甚太『じんた』だったな」
「へぇ。旦那あっしはあのバカとは一味違いますぜ」
「頼もしいな。お婆のところに行って妓女の化粧綿を大量に使うから補充してほしいと俺が言っていたと伝えてくれ」
「わ、わかりやした」
タタタと走っていく様を見て次は、
「ワセリンを持っている奴はいるか!」
「は、はい!」
事態を見ていた禿の一人が手を挙げた。
呂布は怖がらせないようゆっくりと歩み寄り、膝を折り、視線を合わせできるだけ優しい声で、
「どのくらい持っているのかな?良ければ譲ってほしい」
「わ、私が持っているのはこれしか・・・」
手荒れするのだろう缶の中には少ししか残っていなかった。
「これはどこで買っているんだい?」
「裏の猫猫のお父さんのところで調薬してもらってます・・・」
「調薬か・・・まぁもとよりダメ押しだ。これをあげるから在庫ありったけと君の分も缶いっぱいに調薬してもらいなさい」
銀がたんまりと入った袋とその言葉を残して呂布は立ち上がる。
「康太『こうた』!良平『りょうへい』!」
「「へい!」」
「お前たちは護衛としてこの子についていけ。お前らにも駄賃をやるから、間違っても裏切ってくれるなよ。その子に何かあったら・・・わかってるだろうな?」
「「へ、へい!」」
まさに鬼の形相でにらむ呂布に、プルプルと生まれたての小鹿のようになってしまった哀れな二人である。
「では、残りの男衆は俺と火付けだ!気合い入れろお前たち!!!」
「「「応!!!」」」
大き目の火種が落とされ数十人の男衆とともに一斉に火をつける。
しかし、
(やはりまだ乾きていないからか、手ごわいな)
それでもなお一生懸命、息を吹き込む。
しばらくして。
「か、買ってきましたぁ!」
「化粧綿も準備できました!奉先様!」
「よし!お前ら!火種が来たぞ!」
煤まみれの顔で呂布はまた禿の子に膝を折って目線を合わせ、
「どのくらい買えたかな?」
「このくらい・・・」
じゃらっとたくさんのワセリンの入った缶が見えた。
「でかした!よくやったな。君の分はちゃんと買えたかな?」
「う、うん。今日はこれしかないから明日調薬してくれるって・・・」
「そうか。明日忘れずに取りに行くんだよ?」
「うん!」
ワセリンの入った袋とお釣りの銀を受け取り、
「では次だ!男衆!二、三人降りてきててを貸せ!」
「「応!」」
二人ほど降りてくるやはり火吹き組からあまり人を割くことはできない。
「着火剤の作り方を教える。いいか。こういうもの知るということは、放火魔の疑いをかけられる場合がある。使い方は慎重にな」
「「コクコク」」
下男二人は慎重に頷いた。
「ではいくぞ。この化粧綿にワセリンをしっかり馴染ませて――――」
黙々と化粧綿にワセリンを塗りたくってなじませる。
「いいか。表面だけでは持続時間が短い。だが馴染ませすぎてもだめだ。綿の部分がないと火がつかない。限られた資源だ。加減を間違うなよ」
神妙にうなづく二人を見て大丈夫そうだな。と思い、
「では着火剤を投入するぞ!もう一息だ!」
いつ火が付くかと、若干旗色が悪かったところに呂布の激励で士気が戻る。
「吹き付けやめーい!」
火花がくすぶっている床に呂布は躊躇なく入り、
「「「だ、旦那ぁ!!!」」」
「奉先様!!」
ゆっくりと着火剤を置いていく。
そして呂布が下りてきたの確認し、
「吹付開始ぃ!!!」
オオオオオー!!!と一斉に吹き付ける。
するとどうだろう。あんなに火が付かなかったボイラーに、轟々と火がともった。
「やったー!!」
「俺たちはやったぞー!!」
「ふう・・・」
呂布はパンパンと煤をほろい、ほろったはいいものの、ほろったところにまた煤が付くということに困惑して、急いで替えの衣を持ってきた梅梅に苦笑をこぼすのだった。
「やるじゃないか。男衆をまとめ上げて、ゼロから追い炊きするなんてさ」
やりて婆はヒッヒッヒと笑いながら呂布のことを褒める。
「やめてくれ。武将だったころの血が騒いだだけさ」
「戦なんて、もう時代遅れさ。人も物資もみーんな失っちまう。それとも何かいお前さんはまた決起を――――「馬鹿言うな」
呂布は言う。
「あの時代はもう終わったんだ。俺が戦場に立つことなんてもう来ない」
「そうかい。それじゃ、今回の被害料はきちんと払う。もちろん迷惑料もね」
「踏み倒されるんじゃないかとひやひやしたよ」
「馬鹿だね。何年やりて婆やってると思うんだい。それに、こんなことで宮を立てる銀が足りなくなって、泣くのは梅梅じゃないか。せっかくの嫁を泣かすんじゃないよ」
「それは反省してます・・・」
さすがに火の中に直入りはまずかったかなぁと思っている。梅梅にどれだけ叱られたことか。
「じゃあ今日のところはもう上がるよ梅梅が待ってる」
「そうだね。じゃ、今日も助かったよ。早く宮、建てられるといいね」
「・・・ああ」
そんな会話をした後呂布も、愛しの妻が待つ寝屋へと戻っていく。
「もう、奉先様ったら、お婆と何話してたんですか?」
「今回の被害料と迷惑料の話さ。姫を待たせすぎたかな?」
「待たせすぎです。はあむ・・・」
「梅梅、くすぐったいよ・・・」
「うふふ・・・今日はじっくり搾り取りコースです・・・」
「はは。俺は幸せ者だなぁ」
そうして忙しかった一幕が下りる。
「旦那ぁ手紙だよ」
「ありがとう。何々・・・呂奉先殿。貴殿を一目見たいと帝がおっしゃるので、お手数ですが中宮まで来られたし。壬氏」
「ああ・・・やっぱり穏便には行かなかったか」
今日も青い空を見上げる呂布。
ごそごそと鎧まで着込んで出かけようとする呂布に、寝起きの梅梅が、どうしたの~と眼をこすりながら聞いてくる。
「帝がお呼びのようだからちょっと中宮まで行ってくるよ」
「え・・・お気をつけて、奉先様・・・」
「ああ。まぁ何かあったら自力で突破するさ。何せ俺は――――」
「真の三国無双ですからね」
お互いにクスっと笑って、
「では行ってくる!」
「無事な帰還をお祈り申し上げます。奉先様」
心配げに見えなくなるまで手を振る梅梅に最後に手を振りながら、呂布は前を向く。
(これが茘国かぁ・・・)
よくよく考えてみれば緑青館の外に出るのは初めてだ。早朝ということもあり新鮮な空気を吸える。
しばらくトコトコと歩くと。
「お、門だ。と・・・あそこにいるのは壬氏様と高順様か」
高々一人の武将に高官が二人とは何をさせられるやら。
はぁ、とため息をついて近づいてゆく。
「呂布殿!宮廷までお越しいただきありがとうございます」
「いえ、こんな一介の武将一人に対して心優しいお気遣い、ありがとうございます」
「今日は武器もお持ちなのですね」
高順が聞くと、
「俺なりの正装をしてきたつもりです。預けよ、と申されるならばそう致しますが」
持っていた方天画戟を差し出すようにする呂布。
「ではこのものらに――――」
門の前にいた兵が名乗り出るが・・・
「・・・。」
呂布は彼らをじっくり眺めた後。
「ダメですね。この者らでは預けた後ケガをします」
「なに?」
「それは聞けぬと申しますか」
「いえそうではなく・・・ええいまどるっこしい。百聞は一見に如かず。置きますから持ってみてください」
カン・・・と静かに置かれた方天画戟。それを兵が持ち上げようとするが・・・
「ほっ・・・え?」
方天画戟はびくともしない。
「ふぎ、ふぎぎぎ!!!」」
やっぱり持ち上がらない。
「これは・・・?」
「この方天画戟は俺用に調整された特注品なのですよ。非常に重いのです」
「どれ私も持ってみよう。ふんっ!!!・・・だめだ。これは腱や体を痛めかねない」
壬氏も挑戦したが結果は惨敗。結局、一度兵舎によって安置することになった。
トコトコ・・・
「ここまで広い宮は初めてですね」
「後宮が主な土地を占めています。訳あってこんなに広大になってしまって・・・」
(確か、子昌とかいう宰相が悪だくみで広げたんだっけ。今も脱税してるのかなぁ)
いすれ敵となりそうな男を思い描いて。呂布は兵舎へやってきた。
「みな、朝から済まない。呂布殿。濡れないようにあの辺に」
「わかりました」
またもカン・・・と静かに置く呂布。
「この方天画戟は非常に重い。また、帝の客人の大事な装備である。ケガをしないよう触らぬように」
「「「はっ」」」
「ではいきましょうか」
「はい」
そうしてようやっと呂布はこの国の帝と対面した。
「朕がこの茘国の皇帝である。頭を挙げよ。
「はい」
(このおっさんが帝か。超絶倫らしいがはてさて)
何せ二人の上級妃のもとへ毎日のように通い、子作りに励んでいるというのだからよほどの絶倫おやじである。
「話は聞いている。この鈴麗姫にも食べられる甘味を用意したそうだな。礼を言う」
隣にいた玉葉妃からも、ありがとう、と礼を述べられる。
「もったいなきお言葉です」
「さて呂奉先殿よ。貴殿はかつて武芸百般の猛将だったらしいな。
「恥ずかしながら。“飛将軍”などと言われておりました」
「その武芸。見せてもらうことはできぬか?」
(あーあー、やっぱりそうなっちゃうのか)
考えうる限り最悪のシナリオである。
(だがここで力を示しておくのも悪くはない。のってやろう)
「では千人の兵を集めていただけますか?」
「せ、千人!?」
「なぜ私が猛将とうたわれたか御覧に入れましょう」
(なりきって進ぜようじゃないの。真の三国無双に!!!)
ギン!と呂布の目に火が付いたのだった。
――――Interlude――――
「お、おじちゃーん・・・?」
「いないのー?」
「まふぃん作ってよう」
働いて得たわずかな銀をみんなで出し合って、禿たちは呂布の作るマフィンの材料を集めてきていた。
「もう、あなたたち。また奉先様の作る甘味に吸い寄せられたのね」
「梅梅お姉ちゃんだー!」
「わーにげろー!」
わー!とちる禿たちに、
「ゴホン。いいのかなぁ、ここに極上のまふぃんがあるんだけどぉー。逃げちゃったら私が全部食べちゃおうかしらー?」
ピタ。逃げていた禿が足を止めた。
「これが集めてきた材料です」
「梅梅お姉ちゃんー!」
「まふぃん!まふぃん!」
まふぃんコールに梅梅は脱力して、
「仕方ないわねぇ。食べたらお稽古、頑張るのよ?」
「「「はーい!!!」」」
と、どこか現金だなぁ。誰に似たのかなぁと、思いながら禿たちに一つづつ手渡していく。
「これ人参入ってないねぇ?」
「でも甘くておいしぃー」
もぐもぐと幸せそうに食べる禿達。
「あんまり味覚えちゃだめよー。私と奉先様が離宮に行ったらどうするつもりなの?」
「毎日届けて・・・あいたっ!」
「おバカなこと言ってないで作り方を覚えなさい」
「梅梅お姉ちゃんは作れるのぉ?」
「も、もちろんよ!毎日奉先様のそばで見てますからね!」
(ほ、本当はちょっぴり自信ないけど・・・)
というのが本音だが。
(奉先様、大丈夫かしら・・・)
とんでもない事態に巻き込まれている事を知らない梅梅であった。
――――Interlude out――――
「集まったか」
「はっ!武官総勢千名あつまりました」
「万が一のために医官の手配を」
「はっ!」
そう言って走っていく。
「本当に大丈夫なんですかね」
「なんだ。気になるのか?お前も参加していいぞ高順」
クックックと笑う壬氏に、遠慮しておきます。と断る高順。
「瑞よ。どのくらい行けると思う?」
「呂布殿の剛腕からすると、百か二百は行けると思いますが・・・それ以上は未知数ですね」
「ふむ。剛腕か。確か奉先は武器を持ってきていたのだったな。それはどうしたのだ?」
壬氏は難しい顔で、
「預かろうとしたのですが、あまりの重量に誰も持ち上げることがかなわず、呂布殿自身の手で兵舎に置いてもらいました。
「ふむ。それほどの剛腕か」
帝が頷くと。
「でははじめい!!!」
ドシャアン!!!とドラが鳴る。
―――――この後、天下無双の武が牙をむくことになる。
はい、ここまで。本当はいいところまで行きたかったんですが、長くなりそうだったので、次回はぜひとも大暴れと行きたいところです。
では!