ちょっと少しだけグロいかも
夕方の治安局内
「それでは皆さん、お疲れ様です。」
1人の女性――朱鳶が治安局を出ると、そこで恋人である男性を見つけパッと笑顔になり、駆け寄る。
「レイヴント!迎えに来てくれたの?」
「あぁ、たまたま近くまで来たからたまには一緒に帰ろうと思ってな。」
その両手には、今にも破れそうなほど膨らんだ買い物袋が二つ。野菜や肉、牛乳に調味料までぎっしり詰め込まれている。
朱鳶は思わずくすりと笑った。
「今日はいつもより結構買ったのね」
「冷蔵庫の中が寂しくなってたからな。ついでのまとめ買いだ」
そう言って軽く袋を持ち上げるレイヴントに、朱鳶は目を離さず自然と隣へ並び、夕暮れに染まる街を二人は肩を並べて歩き始めた。
「今日は何が食べたい?」
何気ない問いかけに、朱鳶は少し考えるように視線を上へ向け、それから柔らかな笑みを浮かべる。
「そうね……あなたが作る料理なら、何でもいいわよ」
その答えに、レイヴントは苦笑しながら肩をすくめた。
「それ、作る側からしたら一番困るんだが……まぁいいか、最近は寒いし、シチューでも作るとするか」
「本当? 楽しみ、あなたのシチュー大好きなの」
照れ隠しのように咳払いをするレイヴントを見て、朱鳶は思わず笑みを深める。
そんな他愛ない会話を交わしながら、二人は夕焼け色に染まる街並みをゆっくりと歩いていく。
家へ帰ると、レイヴントは買ってきた食材を手際よく取り出し、すぐに夕食の支度へ取りかかる。
包丁がまな板を軽快に叩く音。
フライパンから立ち上る香ばしい匂い。
鍋の中でスープが静かに湯気を立てる。
無駄のない動きで次々と料理を仕上げていく姿は、まるで長年料理人をしてきたかのようだった。
一方の朱鳶は、ダイニングの椅子に腰掛けたまま、その一連の様子をじっと眺めている。
包丁を扱う指先。火加減を調整する横顔。料理を盛り付ける丁寧な仕草。
そのどれもが自然で、思わず見入ってしまうほどだった。
しばらくして、レイヴントはふと視線だけを朱鳶へ向ける。
「……最近、ずっとこっちを見ているが……どうしたんだ」
「えっ、あ……いや、その…な、なんでもないから! 大丈夫よ!あ、わ、私!お風呂洗ってくるわね。」
ここ最近、朱鳶の様子がおかしい。
気がつけば視線を感じ、振り向けば必ずそわそわした様子の彼女と目が合う。しかし理由を尋ねても、返ってくるのは決まって曖昧な返事と慌ただしい誤魔化しだけだった。
ここ最近も、家事も積極的だし飲み会で遅くなることもない…朱鳶はあまり夜勤をすることはないが、最近は特に必ずと言っていいほど定時で上がって帰ってくることも。
何か言いたいことでもあるのか――そう考えてみても答えは出ない。
レイヴントは小さく息をつくと、「考えても仕方ないか」と思考を切り替え、頭の中の疑問を一度きれいに蒸発させる。そして再び鍋へ向き直り、夕食作りに集中した。
しばらくして。
「お風呂終わったよぉ〜……わぁ、いい匂い。」
「ちょうど出来たところだ。味見するか?」
「うん、させてさせて――んッ!?」
レイヴントは何気ない仕草で彼女の肩を引き寄せ、そのまま優しく唇を重ねる。
驚きに目を見開く朱鳶…そして彼は、口移しで一口だけ料理を味わわせた。
あまりにも予想外の出来事に、朱鳶の思考は真っ白になる。
すぐ彼女は我に返ったように勢いよくレイヴントから離れ、両手で口元を押さえた。
頬はみるみる朱に染まり、耳まで真っ赤になっている。
「な、ななな……急に何するの!?」
声は上ずり、視線はあちこちへ泳ぐ。
一方のレイヴントはきょとんとした様子で首を傾げた。
「味見をさせてほしいと言っただろう」
「そういう意味じゃないでしょ!?」
朱鳶は恥ずかしさのあまり涙目になりながら抗議する。
「……本当に何も無いのか?」
「え?」
「ここ最近、ずっと俺のこと見てるよな?なにか心配事でもあるのか?」
「だ、だからそれは気のせい――「俺は」…?」
「俺は、朱鳶の恋人だから、何か悩んでることがあるなら積極的に力になりたい。……けど俺、中途半端な機械だからさ。人の感情を読むのは得意じゃない。」
自嘲気味に笑いながらも、その瞳には揺るぎない想いが宿っている。
「だから教えてくれ。君の口から、ちゃんと聞きたい。直してほしいところがあるならしっかり直すから…頼む。」
部屋は静まり返る。
朱鳶は何も答えなかった。
代わりに、ゆっくりと一歩近づき――そのままレイヴントの胸へ飛び込むように抱きついた。
「朱鳶……?」
腕の中の彼女は何も言わない。
けれど、肩は小さく震え、胸元からは押し殺すような啜り泣きが聞こえてきた。
レイヴントには、その涙の理由までは分からない。
それでも今、彼女が言葉ではなく自分を求めてくれたことだけは理解できた。
彼は何も聞かず、何も急かさず、そっと朱鳶の背中へ腕を回し、壊れ物を扱うようにけど決して離さないように優しく抱きしめる。
「なにがあったんだ…?」
「実は…少し前に――」
――――――――――――
ある日のこと。
朱鳶は、とある自殺事件の現場で、亡くなった男性の恋人から事情を聞いていた。
朱鳶は手帳を開き、できるだけ穏やかな口調で問いかけた。
「今回亡くなられた〇〇様について、お亡くなりになる前に、何か普段と違う様子はありませんでしたか?」
恋人は俯いたまま、小さく首を振る。
「……あまり、変わりはなかったです。強いて言うなら……すごく、優しくなったんです」
「優しく……ですか?」
「はい。以前から優しい人ではあったんですけど……亡くなる少し前からは、もっと穏やかで……私のことをすごく気遣ってくれて……。『ありがとう』とか『無理するなよ』とか、そんな言葉を何度もかけてくれて……」
恋人は涙をこらえながら、かすかに笑った。
「まるで……最後のお別れをするみたいに」
その言葉に、朱鳶の胸が小さくざわつく。
――優しくなった。
その一言が、頭から離れない。
自然と、一人の人物が脳裏に浮かぶ。
(……レイヴント)
付き合い始める前の彼は、決して冷たいわけではなかった。
ただ、感情表現は不器用で、必要以上に言葉を飾ることもなく、どこか無機質な印象すらあった。
しかし、恋人になってからのレイヴントは違う。
「寒くないか」
「疲れていないか」
「今日はよく頑張ったな」
そんな何気ない気遣いを、当たり前のように口にするようになった。
表情も柔らかくなり、以前より穏やかに笑う姿を見ることも増えた。
それは朱鳶にとって、彼が心を開いてくれた証であり、何より嬉しい変化だった。
だが――。
目の前の女性が語った「死を前にして急に優しくなった恋人」の姿と、どこか重なって見えてしまう。
(……考えすぎ、よね)
朱鳶は小さく首を振り、その考えを振り払おうとする。
レイヴントが変わった理由は、自分との日々を大切に思ってくれているから。
そう信じている。
けどその日の夜。
レイヴントといつものおやすみのキスをして疲れた身体をベッドへ沈めた。
瞼を閉じても、昼間に聞いた恋人の証言が頭から離れない。
――「ものすごく優しくなったんです」
――「まるで最後のお別れをするみたいに」
(……考えすぎよ)
そう自分に言い聞かせながら、いつしか眠りへと落ちていった。
夢だった。
薄暗い、どことも知れない空間。
冷たい風だけが吹き抜ける静寂の中、一人の男が立っていた。
「……レイヴント?」
呼びかけても返事はない。
ゆっくりと振り向いた彼は、いつものように不器用な笑みを浮かべていた。
「朱鳶、ありがとう」
「……え?」
「君と過ごせた時間は、本当に幸せだった。けど、もう耐えられないんだ…」
嫌な予感が、全身を駆け巡る。
「な、何を言ってるの……?」
朱鳶は駆け寄ろうとする。
しかし足が動かない。
まるで地面に縫い付けられたように、一歩も踏み出せなかった。
「待って……待ってよ!」
彼は静かに自分の胸へ手を当てる。
装甲が音もなく開き、その奥から淡い紅色の光が漏れ出した。
そこには、彼の命そのものともいえるコアが脈動している。
「やめて……」
朱鳶の声は震えていた。
「お願い……やめて……!」
レイヴントは何も言わず、迷いなく胸の奥へ手を差し入れる。
「いや……!」
金属が軋む嫌な音が響いた。
そして彼は、自らのコアを無理やり引き抜いた。
眩い光が弾ける。コアに走る亀裂。
鼓動のような脈動は急速に弱まり、やがて完全に止まった。
レイヴントの身体から力が抜ける。
「……これで、もう大丈夫だ」
穏やかな笑みを浮かべたまま、彼はゆっくりと前へ倒れていく。
「待って!!、レイヴント―――!!!」
朱鳶は必死に手を伸ばした。
お願いだから届いて。
指先があと少しで触れる――その瞬間。
彼の身体はボロボロとなって崩れ、静かに消えてしまった。
「嫌……
いやぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「はっ……!」
朱鳶は勢いよく飛び起きた。
全身は冷や汗でびっしょり濡れ、呼吸は乱れている。
胸が苦しく、そんなこと気にする間もなく隣て寝ていたレイヴントを触って確認する。ちゃんといることに安堵するがあまりにも現実味のある光景だった。
あの笑顔も、あの声も、コアを引き抜く瞬間の金属音も。
すべてが鮮明に焼き付いて離れない。
「……レイヴント」
彼の名を呼ぶ声は、かすかに震えていた。
夢だと分かっている。
それでも、今すぐ彼の無事を確かめずにはいられなかった。
―――――――――――――――
「て、ことがあって…」
夢のことをすべて聞き終えたレイヴントは、何も言わず朱鳶をそっと抱き寄せた。大きく温かな腕に包まれた瞬間、張り詰めていた心が少しだけほどけていく。
レイヴントは彼女の背を優しく撫でながら、静かに口を開いた。
「……すまない。君に、そんなにつらい思いをさせてしまった」
どこか申し訳なさそうな声だった。
だが朱鳶は小さく首を横に振る。
「違うの……レイヴントは何も悪くない。ただ……」
言葉が詰まる。
もう二度と、あんな夢は見たくない。
そして、夢で見たような別れだけは、絶対に現実になってほしくなかった。
朱鳶は彼の服をぎゅっと握りしめ、その胸へ顔を埋める。
「……あなたがいなくなるなんて、考えたくもない……」
か細い声は震え、今にも涙が零れ落ちそうだった。
レイヴントは抱き締める腕にほんの少しだけ力を込める。
「俺は……絶対に君を一人にはさせない。何があろうとも、絶対に悲しませない。」
静かでありながら、揺るぎない決意を宿した声。
朱鳶はゆっくりと顔を上げる。
潤んだ瞳で彼を見つめ、小さく唇を震わせた。
「……ほんとに?本当に……信じていいの……?」
その問いは、不安から生まれたものではなかった。
大切だからこそ失うことが怖い――そんな切実な願いが込められた、かすかな声だった。
レイヴントは朱鳶の涙を親指でそっと拭い、優しく微笑む。
「信じてくれ。
俺は約束を軽々しく口にする人間じゃない。だからこそ誓う。君の隣で生き、君を守り続ける。たとえどんな困難が待ち受けていようと、俺は決して君の手を離さない。」
「わかった…私も、あなたを信じる…」
もう一度愛を確かめるようにお互いを抱きしめる。
「さ…シチュー、食べよう。」
「えぇ、そうね」
2人分お皿に盛り付け、テーブルに置き座る。
「それじゃ、食べようか」
お互いに手を合わせ…
「「頂きます。」」
これを見て、ここならこういう喋り方とかなんじゃない?っていう違和感があったら感想で教えてくれると嬉しいです。
あとこれを読んで、もしリクエストとか言ってくださる方がいれば頑張って作ります。
どういう系にするかで文字数かなり変わるかも