ある日の朝。
あなたはふと映画が見たくなり、知り合いが営むビデオ屋へ足を運んだ。
店のドアを開けると、カラン、と鈴の音が店内に響く。
「こんにちは〜。」
「ンナァ〜!」(あ、〇〇だぁ! いらっしゃいませぇ!)
店番をしていたのは、いつも通りボンプの18号(とわ)だった。あなたの姿を見つけた途端、ぱっと花が咲いたような笑顔を浮かべ、嬉しそうに手を振る。
「今日も元気そうだね。」
「ンナンナ、ンナナァ!」(うん、元気全開だよ!)
「そっか。その元気な笑顔、本当によく似合ってる。」
そう言ってあなたが優しく18号の頭を撫でると、18号は気持ちよさそうに目を細める。
「ンナァー♪」
嬉しそうに頬を緩め、その場でうっとりと身を委ねる18号。お尻を勢いよく振って、骨抜きにされる。
そんな18号が可愛くてずっと撫で回していると、突然誰かに後ろから抱きつかれた。
動けないため頭だけ後ろを向くと、ビデオ屋の店長の1人であるリンがあなたを抱きしめていた。
「随分とお楽しみだったとこ悪いけどさぁ、私にもしてほしいなぁ?」
「っ!?、びっくりしたぁ…もう、急に抱きつくのは驚くからやめてって何度も言ってるじゃん」
「だってぇ、〇〇に抱きついてると安心するんだもーん♪」
「いや、抱きつかれるのはもういつものことだからいいけど、人に見られたら恥ずかしいからそれそれ離れて欲しいんだけど……」
見られたら恥ずかしいという理由もあるが、それ以上に、さっきからリンのふくよかなあれが背中に当たり続けていて、あなたは内心ドキドキが収まらなかった。
その反応に気づいたのか、リンは口元を緩めながら、
「あーとちょっと♪」
と言って、さらにぎゅっと体を密着させてくる。
(誰でもいい……助けてくれ……!)
心の中で必死に助けを求めた、その時だった。
工房の扉が開き、一人の人物が姿を現す。
「こらリン。〇〇が困っているじゃないか。 困ってる顔が可愛いのはわかるけど、そろそろ離れたらどうだい?」
「アキラぁ――!」
現れたのは、もう一人の店長であり、リンの兄でもあるアキラ。
あなたにとっては、まさに救世主とも言える存在だった。
アキラの言葉で、リンは不満そうな顔をしながら名残惜しそうに離れてくれた。
「彼も急に、そんなことされたら困るだろう。
それに――彼は僕のものだしね。」
「え?」
訳が分からずアキラの顔を見上げると、そこにはどこか満足げな――いや、明らかに独占欲が満たされているような表情が浮かんでいた。
救世主なんかじゃなかった…なんなら、リンと同種族だった。まぁ、この兄妹だし、そりゃそうか。
妙な納得をしていると、案の定というべきか、リンとアキラによるあなたの奪い合いへと発展していく。
「お兄ちゃん? 〇〇は今日、私と映画を見るんだからさ……その手、離してくれない?」
「リンの方こそ、何を言っているんだい? 〇〇は僕と一緒に映画を見るんだ。だから、離すつもりはないよ」
――そもそも、あなたは今日誰とも映画を見る約束などしていない…そんな事実など、二人の頭には最初から存在していなかった。
「お兄ちゃん、この前も〇〇と一緒に見てたじゃん! 今日は私が独り占めする番だよ!」
「それはそれ、これはこれだよ。そもそも、リンはこの前も〇〇とずっと一緒にいただろう?」
「お兄ちゃんだって一緒にいたじゃん!」
「僕は兄だからね」
「それ、理由になってない!」
「リンこそ、妹だからって譲ってもらえると思わないことだね」
「むぅぅ……!」
二人の間で火花が散る。
そして、その真ん中にいるあなたは、ただただ置いてけぼりにされ、両側から腕を引っ張られていた。
「痛い痛い痛いちぎれるちぎれる本当にちぎれるから待って待って二人とも引っ張らないでそんな引っ張ったら右左が泣き別れになるからお願いだから一回落ち着こう話し合おう僕は一人しかいないんだから同時に引っ張られたらどうしようもないから待っ―」
その後、どうにかして2人を説得し、3人で見ることになり工房の方にあるソファがちょうど3人で座れるためそこで見ることになった。
「ちなみに僕はどこに座れば――」
「「もちろん〇〇は真ん中だよ(さ)」」
「アッ…ハイ」
言われるがまま、〇〇がソファの真ん中に腰を下ろすと示し合わせたかのように、二人が〇〇の両隣へと座った。
しかも、ただ座るだけではない。
二人とも〇〇との距離を限界まで詰め、肩や腕がぴったり触れ合うほど密着してくる。
「ねぇ〇〇〜、この前新しいビデオを入荷したんだけど見ようよ〜」
「そうなんだ、じゃぁそれにしようかな」
〇〇が何気なく答えると、アキラがピクリと反応した。
「り、リン……まさかだけれど、あれじゃないだろうね?」
「え〜? どれのこと?」
リンは意味ありげな笑みを浮かべながら、わざとらしく首を傾げる。
「とぼけないでくれ! この前入ったって言っていた、あれだよ!」
「ふふっ。さあ、どうでしょう?」
「リン……!」
2人のやりとりに不安になりながら再生すると、
画面に映し出されたタイトルを見た瞬間〇〇は固まった。テレビに表示されていたタイトルは―『ポッター・ヒル』のリメイク版。
よりによってこのビデオ屋あるホラーの中で1番グロくて怖いビデオだった。
「ごめんそういえば用事思い出しちゃった。」
「奇遇だね〇〇、僕も用事があったんだ。」
「ダメだよ?」
次の瞬間、あなたの身体を逃がさないように、リンがぎゅっと抱きしめた。
「ちょ、リン……!」
「リメイク版だし修正されてるとこもあると思うから大丈夫!だから最後まで一緒に見ようね?」
逃げられないと悟り、あなたはアキラのほうへ腕を伸ばす。
「アキラごめん!」
「えっ、僕も!?」
今度は〇〇が逃げようとしていたアキラにぎゅっと抱きつき、逃げ道を塞ぐ。
「それじゃ再生再生♪」
…
……
………
…………
「はっ!」
いつの間にか意識を失っていたらしい。
ゆっくりと瞼を開くと、ぼんやりとした視界の中に、リンとアキラの姿が映るが、なぜかひどく汗をかいていた。
それに腕がところどころ赤くなっており、あなたは虫に刺されたのかと思いながら体を起こす。
「〇〇、体調は大丈夫かい?」
「え…うん……大丈夫だよアキラ、てかいつの間に終わってたの?」
「え、あ……うん、そうだよ」
リンは一瞬だけ言葉に詰まると、ぎこちなく笑うが明らかになにか隠している表情だった。
「〇〇ってば、目を開けたまま気絶してたんだよ? びっくりしちゃった」
「……?」
〇〇は二人を交互に見つめる。
そして、ようやく二人の異変に気がついた。
「……二人とも、なんでそんなに汗かいてるの?」
「えっ」
「それに……なんか暑くない?」
〇〇がそう呟いた瞬間、リンとアキラの表情がわずかに強張り、まるで何かを隠しているように2人は顔を見合わせる。
「まぁいいや、それじゃあ僕帰るね。」
「そ…そっか、気をつけてね!」
「あ、あぁ、またなにか借りたくなったら是非僕たちを頼ってくれ。」
二人は笑顔を作って、〇〇を見送ろうとする。
けれど――。
〇〇は、ふと違和感を覚えた。
いつもなら、帰る時には涙目になって抱きついてくるはずなのに。
今日は、そんな素振りがまるでない。疑問に思ったが何も言わずビデオ屋を後にした。
「…ふぅ、あの感じだと今回もバレることはなさそうだけど、ちょっと危なかったね。お兄ちゃん。」
「あぁ……でも彼が悪いんだ。僕たちがどれほどアプローチしてもいつまで経っても気付いてくれないんだから…」
リンは呆れたように頬を膨らませる。
「お兄ちゃん、〇〇の体をあんなにまさぐるから、起こしちゃわないかヒヤヒヤしちゃったよ」
「仕方ないだろう? あまりにも無防備なんだから」
アキラは悪びれる様子もなく、むしろ当然といった顔で答えた。その言葉に、リンはじとりと兄を睨む。
「…リン、君だって、人のこと言えないじゃないか」
「わ、私はちゃんと気をつけてたよ!」
「けれどリンだってバレない程度に、見えないところにキスマ付けてたじゃないか」
「う…っ!だってあんな可愛い反応されたらついついやりたくなっちゃうでしょ!?」
勢いよく言い返したリンだったが、自分で口にした言葉の意味を理解した途端、さらに顔を赤くした。
そんな妹を見て、アキラはどこか得意げに口元を緩める。
「……つまり、君も僕と同類ってことだね」
「そ、それとこれとは話が別!」
「いや、同じだろう」
「違うもん!」
即座に否定するリン。
しかし、アキラはまったく取り合わず、どこか楽しそうに「はいはい」と頷いた。
「……その顔やめてよ、お兄ちゃん!」
兄妹の言い合いは、その後もしばらく続いた。
――結局のところ、どちらも人のことを言える立場ではなかった。
あなた
リンとアキラとは旧都陥落起こった少し後に出会い、そこからずっと友人としてやってきた。
2人が『パエトーン』なのももちろん知っている。
寝たらどんなことをされてもなかなか起きない(その特徴を利用されている。)
アキラとリン
旧都陥落の後に出会ってからあなたを1番の心の拠り所にしてきたからか、2人とも重い感情を抱いている。
よく無理やり3人で映画を見る状況にさせ、今回のように気絶などをしたときに色々好き勝手している。