「フィオナさん。その……私にも料理を教えてもらえないっスか?」
買い出しの帰り。肉の調達を依頼しようとギルドに立ち寄ったところで、ライナに声をかけられた。
「料理? いいけど、どうしたの?」
「いや、その……私、焼くぐらいしかできなくて……。ちゃんと覚えたいんス」
「ふうん?」
何やら歯切れが悪い。いつもの快活な雰囲気はどこへやら、少し気まずそうにしている。何か理由があるのかと思ったが、料理を覚えたいというなら応えるべきだろう。
「そっか。いいよ。簡単なものから覚えていこうか」
「本当っスか!?」
ぱっと表情を明るくしたライナに、フィオナは小さく笑った。
「ただ、今日はこれから仕事があるからね。明日の昼なら時間取れるけど、それでいいかな?」
「はいっス! いつでも大丈夫っス!」
「じゃあ、広場の野外炊事場を借りようか。あそこなら気兼ねなく練習できるし」
「了解っス! よろしくお願いしまっス!」
勢いよく頭を下げられ、思わず苦笑してしまう。
「そんなに畏まらなくてもいいよ。私も誰かに料理を教えるのは好きだから」
「ありがとうございまっス!」
約束を交わすと、ライナはもう一度頭を下げ、嬉しそうに帰っていった。
首を傾げて依頼票を書いて受付に持っていくと、ミレーヌが微笑みながら声をかけてきた。
「ライナさん、随分と嬉しそうでしたね。何かあったんですか?」
「料理を教えてほしいって頼まれましてね。明日、一緒に作ることになったんですよ」
「あら、そうでしたか。ふふっ、それは楽しみですね」
「……何か知っていますか?」
「ふふ、いいえ? それより、今日はお肉の調達依頼でしたよね?」
にこやかに話を逸らされ、フィオナは手続きをしながら少し考えた。そこでようやく思い出した。
……そういえば、春の精霊祭ではモングレルさんとライナさんはデートしていたんだっけ?
ああ、そうか。そういうこと?
「……ふふっ」
「あら、どうかしましたか?」
「いえ、何でもありません。明日が楽しみになりました」
今度はフィオナが微笑み返すと、ミレーヌも楽しそうに笑った。
* * *
翌日の昼。
野外炊事場にやってきたライナは、袖をまくって前掛けを巻いていた。腰には使い込まれたナイフまで差している。
「おっス、よろしくお願いしまっス。フィオナさん」
「こんにちは。準備万端だね」
「せっかく教わるんスからね。ナイフも研いできたっス」
「おお、さすが」
見せてきたのは狩猟に使うナイフだ。頑丈な造りで使い込まれている。
野外炊事場には竈と作業台があり、井戸も近い。屋台で出すスープを調理したり、市民やギルドマンが料理を作るのに使用したりする場所だ。その作業台を一つ借り、店から持って来た調理道具に市場で買ってきた食材、調味料を並べてある。せっかくなのでライナに持ち帰って“アルテミス”に食べてもらうつもりだ。
「今日は初めてだし、肉団子から作ってみようか」
「あ、挽き肉を使った料理っスね」
「そうそう、ウチの店でも基本のひとつだね。串焼きやハンバーグ、スープにもできるし、肉を刻んで味付けして火を通すだけ。手間はかかるけど、最初に覚えるには良いと思う」
「はえー、大変そうっス」
「ちなみにモングレルさんも好きな料理だよ」
「えっ、マジっすか!?」
ライナが勢いよく顔を上げた。ぱっと表情が明るくなり、目を輝かせて身を乗り出してくる。
「うん。特に焼いて醤油ダレをたっぷりかけたのが好きだね」
「ええ……モングレル先輩、塩が一番とか言ってたのに……」
「タレ以外は認めない派だよあの人」
「──あ、そう言えばこの前一緒に野営した時、ショーユめちゃ使ってたっス。串焼きにもそのままかけて焼いてたっス」
「完全に中毒になっているなぁ……」
道理でしょっちゅう醤油を買いに来ると思った。決して安くはないのだが、もう欠かせないものなのだろう。
「んー、それなら醤油ダレの肉団子も作ろうか」
「いいんスか?」
「もちろん。せっかくだし、モングレルさんの好きな味を覚えておくのもいいんじゃない?」
「……そ、そうっスね。覚えておいて損はないっスし」
ライナは何でもないことのように頷いたが、その口元が少し緩んでいた。分かりやすい、とフィオナは内心呟いた。
「じゃ、もう一玉あるからこれをやってみようか」
「うっス」
ライナは狩猟ナイフを握り、教わった通りに玉ねぎを切り始めた。しかし慣れない作業のせいか、少々手つきが覚束ない。
「ちょっといいかな? 後ろから教えるね」
「あ、はいっス」
フィオナはライナの背後に回り、背中に身体を寄せて両手を伸ばした。自然と胸がライナの背中に押し当てられ、ライナの肩がピクリと跳ねた。フィオナは気にせずナイフを握る手に自分の手を重ねた。
「えっ、ちょ……」
「ナイフの扱いは慣れてると思うけど、料理だとちょっと使い方が違うんだ。刃を立てすぎないで、こう、手前に引くようにして切る」
「は、はいっス」
「反対の手は指先を丸めて、刃の前に出さないようにね。そうそう、力を入れなくても切れるから」
重ねた手を動かし、ゆっくりとナイフを引いてみせる。
「こんな感じ。分かった?」
「わ、分かったっス」
「じゃあ、やってみようか」
フィオナが手を離して一歩下がると、ライナはぎこちなくナイフを動かし始めた。最初こそゆっくりだったものの、次第に小気味よい音が続くようになる。
なるほど、さすがは狩人。刃物の扱いには慣れているらしい。少し教えるだけで、あっという間に玉ねぎが細かくなっていった。
「上手だね」
「え、そっスか? まあ、獲物の解体は散々やってるんで」
「これなら大丈夫そうだね。次はスープの野菜を切ろうか。少し粗めでいいよ」
「うっス」
ライナは頷き、先ほどよりも滑らかな手つきで野菜を刻んでいった。
「よし。じゃあ、次はお肉だね」
「肉も切るんスか?」
「うん。今日は挽肉を作るところからだよ」
フィオナは買ってきた肉をまな板に載せ、薄く切ってから細切りにし、さらに細かく刻んでみせた。
専用の道具があれば楽なのだが、包丁やナイフでも十分に作れる。どうせなら野営でも作れる料理を覚えてもらおう。
「こんな感じ。細かくしすぎなくてもいいよ。少し粒が残ってるくらいの方が、お肉の感じが楽しめるから」
「了解っス」
ライナは黙々と肉を刻み始めた。刃にまとわりつく脂身や筋に苦戦しながらも、手際よく刻んでいく。
その横で、フィオナは堅パンを布に包み、木槌で細かく砕いていた。ふと見ると、ライナが時折こちらを窺っている。何か言いたげだが、なかなか口を開かない。
「……フィオナさん。モングレル先輩って、よく店に来てるんスよね?」
「うん。今はタダ飯タダ風呂券を持ってるからね」
「え、タダ飯? タダ風呂券??」
「そ。娼館に来て風呂と食事
「あー、やっぱりっスか……」
「残念なことにね。気になる?」
「いや、別に……」
ただ、ライナが肉を刻む音が少し強くなった。フィオナは何も言わず堅パンを叩き続けた。
しばらくすると、ナイフの音が止まった。顔を上げると、ライナがこちらを窺っている。目が合うと慌てて視線を逸らし、再び肉を刻み始めた。
「……モングレル先輩、フィオナさんの料理、すげぇ美味いって言ってたっスよ」
「へえ?」
「なんか、他じゃ食えない味だとか、そういうこと言ってて……」
「ふふっ。そうなんだ」
「……そんなに美味いなら、自分でも作れたらいいなって」
そこまで言って、ライナは口を閉じた。頬がほんのり赤くなっている。
「それで、モングレルさんに食べてもらいたくなったの?」
「いや、野営でも役に立つじゃないスか。料理くらいできた方がいいっスし……」
「うんうん。そうだね」
フィオナは笑みを堪えながら、砕いた堅パンを器に移し、次に使う塩や香辛料を用意する。
「だったら、今度モングレルさんと一緒にご飯を食べに来たら?」
「えっ、いやそれは」
「モングレルさんなら、ライナさんの頼みを無視しないでしょ。タダ飯券もあるしご馳走してくれるんじゃない?」
「そう、スかね……?」
期待と不安が入り混じったライナの顔を見て、フィオナは露悪的な笑みを浮かべた。
「ふふっ。ウチは娼館だから、ご飯を食べた後もできるよ?」
「……もう、フィオナさん!」
フィオナは堪えきれずに笑い出すと、ライナはますます顔を赤くした。
いやあ、初々しいねえ。うまくいった暁には、ぜひともお祝いしてあげたいものだ。ついでに、そういうことになったら混ぜてくれないかなぁ、なんて。無理だけど。
「ごめんごめん。まあ、誘ってみなさい。あの人チョロいから」
「……考えとくっス」
まだ少し赤い顔でそう答えるライナに、フィオナは笑みを浮かべた。ふとライナの手元を見れば、挽き肉はもうかなり細かくなっている。
「それじゃ、肉をこのボウルに入れて混ぜていく」
「うっス」
「先に塩。肉の量に対してこれぐらいね」
「手で練るんスか?」
「ううん。木べらを使う。こうやって、ボウルに押し付けて広げるように混ぜるんだ」
フィオナは木べらで肉を練り、ライナに手渡した。
「こんな感じっスか?」
「うん、上手いね。粘りが出てきたでしょう? 今回は粒感を残したいから、まとまるぐらいで十分だよ」
「おお、ホントっスね」
肉がほどよくまとまったところで、フィオナは先ほどのみじん切りにした玉ねぎとパン粉を加えた。
「輸入品のスパイスは高いからね。今回はオレガノとタイムを使おうか」
「あ、森でもよく見るっス。持って帰ると売れるんスよね」
「そうそう。肉の臭みも和らげてくれるんだ。ただ、入れすぎないようにね」
フィオナは洗った香草の葉を摘み取り、細かく刻んで肉に加えた。
「ホントにちょびっとスね」
「これ位だとほんの少し香る程度だから、食べてみて好みの加減を知るのが大事かな」
木べらでサッと混ぜ合わせたところで、肉だねを分ける。一つ目は串焼き。二つ目がミニハンバーグ。三つ目がスープだ。
「手でやった方が綺麗だけど、今日は木べらでやっちゃおうか」
肉だねを切り分けて串焼きは竹串に押し付け、ハンバーグはフライパンに並べて厚さを揃える。スープ用は小さく掬って煮立った鍋に落とした。
「結構、雑で良いんスね」
「お店で出すなら見栄えも大事だけどね。今はこれで十分。大事なのはちゃんと火を通すことと、美味しく食べられることだから」
「なるほど。もっと難しいもんだと思ってたっス」
「小難しく考えなくていいんだよ、料理はね」
フィオナは一通り実演すると、もう一つのフライパンをライナに任せた。実際にハンバーグを焼いた方が覚えるだろう。
串焼きは塩を振ってそのまま炙り焼きに。スープは鍋の場所をずらして遠火にし、じっくり煮込む。ミニハンバーグは冷たいフライパンに並べてごく少量の水を注ぎ、蓋をして弱火で蒸し焼きにする。
「水は火をつける前に入れるんスね」
「今日は蒸し焼きにするからね。肉から脂が出てくるし、水が少なくなったら裏返してもう一度水を入れて焼く」
「なるほど。鍋があれば野営でもできそうっスね」
「でしょ?」
やがて二つ並ぶフライパンの蓋の隙間から湯気が立ち上り、パチパチと脂が弾ける音と一緒に肉の香りが漂い始めた。串を回し、蓋を開けて裏返しにして水を注ぐ。
しばらくは火加減を見ながら、のんびりと待つことにした。
「……フィオナさん」
「ん?」
「料理って、結構楽しいもんスね」
「お、そう思ってくれた?」
「うっス。肉焼くぐらいしかやったことなかったんスけど、こういうのも悪くないっスね」
「ふふっ。そうでしょう? 自分で作ったものが美味しいと、もっと楽しくなるよ」
「楽しみっスね!」
フライパンの水が無くなったところで、仕上げに取りかかる。
「じゃあ、ここから味付け。串焼きは焼けたら皿に盛る。スープは塩と醤油で味を整えるだけ。ハンバーグは醤油ダレを作っていく」
「うっス」
「まずフライパンにエールを注ぐ。こうすることで出た肉の脂や旨味がエールに溶ける」
ハンバーグを端に寄せ、フライパンにこびりついたおこげを木べらでこそぎ落とす。これもソースの旨味になる。エールを少し煮詰めてアルコールを飛ばす。
「ここに蜂蜜と醤油を加える」
入れた瞬間、じゅわっと音がして、甘辛い香りが立ち上った。
「おお……! すっげえ美味そうっス!」
「煮詰めすぎると焦げちゃうから気をつけてね。ハンバーグにタレをかけながら水分を飛ばしていく」
「うっス」
ライナが木べらでタレをすくい、ハンバーグにかけていく。徐々に煮詰まってエールの香りが落ち着き、蜂蜜と醤油の甘辛い匂いが濃くなってきた。
「ここでバターを加え、混ぜ合わせていく」
「おおー……!」
「いーい匂いでしょ? これで肉の表面に艶が出てきたところで火から下ろす」
スープはカップに、串焼きとハンバーグは皿に盛りつければ完成だ。
「わぁ、めちゃ良いっスね!」
「じゃあ、食べてみよっか」
「いただきまっス!」
ライナはフォークでハンバーグを切り分け、口へ運んだ。
「どう?」
「──すっげー美味いっス! 肉の味がしっかりしてるし、タレもめちゃくちゃ合うっスね!」
「うんうん。ちゃんとできてるね」
フィオナも一口食べてみる。肉の粒が程よく残り、玉ねぎの甘みも感じられる。蒸し焼きにしたおかげで中までしっとりしているし、エールの風味も悪くない。
初めてにしては上出来だ。
「……これ、先輩も好きそうっスね」
「うん。きっと喜ぶよ」
「へへ……」
ライナは少し照れくさそうに笑った。こういう顔を見ると、教えた甲斐があったと思える。
さて、残りはどうしようかな。スープは少なめだから良いとして、串焼きとハンバーグは少し多かったか。そんなことを考えていると、炊事場の向こうから聞き覚えのある声がした。
「お? なんかいい匂いがすると思ったら」
「よう、フィオナちゃんにライナ。何やってんだ?」
振り向くと、モングレルとバルガーが歩いてきていた。どちらも森からの帰りらしく、うっすらと汗をかいていて装備には土埃がついている。
「あ、モングレルさんにバルガーさん。お疲れさまです」
「おう。……ん? ライナもいるじゃん」
「あ、先輩。お疲れっス」
「お疲れー。何、野営の練習?」
「料理っスよ。フィオナさんに教わってたんス」
「へえ。何作ったん?」
「肉団子っス。スープと串焼き、あとハンバーグっス」
「マジで? いいなー」
モングレルが露骨に羨ましそうな顔をした。相変わらず、食べ物の話には反応が早い。
「あ、フィオナさん。二人にも食べてもらって良いっスか?」
「うん。まだ残ってるから、二人とも食べていったら?」
「食う食う」
「おっ、いいのか? ありがてぇ」
二人が揃って頷いた。フィオナとライナは皿とカップを二組用意し、残っていた料理を取り分ける。ライナが作ったハンバーグをモングレルさんに、と考えていたのだが。
「お、こっちの方がでかいな。俺はこっちにするか」
バルガーがライナの皿へ手を伸ばそうとしていた。
ちょっと待って。
「バルガーさぁん」
「あん?」
娼婦の笑みを浮かべたフィオナは、バルガーの身体にくっついた。その腕に胸があたり、バルガーはだらしなく顔をにやけさせた。
「ねえ、バルガーさん。こっちを食べてくれませんか?」
「お、おう? ……なんだよ、えらく積極的じゃねえか」
「ふふっ。ほら、あーん」
フィオナは密着したまま一口切り分けたハンバーグをフォークに刺し、バルガーの口元へ差し出す。
「おっ、いいのか? いやー、役得だなこりゃ」
バルガーは嬉しそうに口を開けた。さすがはベテランのギルドマン。こういうことにも動じないらしい。
「ん……おっ、うめえな!」
「でしょう? こっちの串焼きとスープもいかがですか?」
「おーう、ありがとなぁ。ふへへ」
皿を渡し、フィオナは内心で小さく拳を握った。そして横を見ると。
「うわーうわーうわー……」
「なにやってんだおまえ?」
ライナは口を半開きのまま顔を真っ赤に染め、モングレルは呆れた顔でこちらを見つめていた。
「接客、かな?」
「ここ野外だぞ……」
「まあいいじゃん。バルガーさん、あーん」
「あーん」
なんか引き続き楽しんでいる二人を見て、ライナはポツリと零した。
「凄いっス。フィオナさん……」
「いや、感心するとこじゃねえだろ」
モングレルは呆れたようにため息をつくと、目の前の皿に視線を落とした。串焼きにハンバーグ、それにカップに注がれたスープ。どれも食欲をそそる香りを漂わせている。モングレルが小さく腹を鳴らし、気まずそうに笑っていた。
「まあ、いいや。せっかくだし、いただきますか」
「あっ、先輩!」
「ん?」
「そ、それ、私が作ったんス」
「へえ、そうなん?」
「うっス。フィオナさんに教えてもらいながらっスけど」
「そっか。じゃあ、いただきまーす」
モングレルはハンバーグを一口大に切り分け、口に運んだ。ライナがフォークを握りしめたまま、じっとその顔を見つめている。
「ん……おっ」モングレルは眦を下げた。「うまっ。めっちゃうまい」
「ほ、本当っスか!?」
「うん。肉も柔らかいし、醤油タレがいいなぁ」
「そうっス! エールと蜂蜜も入ってるんスよ」
「へえ。あー、これ好きだわ」
もう一口。今度は少し大きめに切り分けて、モングレルは頬張った。
「これ、ライナが作ったんだろ? すげえじゃん」
「えっ、あ、いや、その……」
「こういうのが食べれたら最高だな」
「……っ!」
ライナは何か言おうとして口を開き、結局何も言えずに俯いた。しかし、その口元だけはどうしても緩んでいた。
「──ああ、そういうこと?」バルガーがフィオナに顔を寄せ、小声で尋ねた。小さく笑っている。
「そうなんです。ごめんなさい、いきなり」
「いやいや、役得だったさ。しかし、ライナがねぇ……。いやー、今日はいい日だなぁ」
バルガーは楽しそうに笑い、残っていた串焼きにかぶりついた。
「おっ、こっちもうめえな」
「ありがとうございます」
フィオナが微笑んでいると、向こうからモングレルの声が聞こえてきた。
「いやー、マジでうまかった。ごちそうさん」
「う、うっス! あっ、あの、先輩!」
「ん?」
ライナは一瞬言葉に詰まった。ちらりとフィオナを見る。フィオナが何か言うより早く、ライナはモングレルに向き直った。
「その、ま、また作るんで! 良かったら、食べてほしいっス!」
「マジで? そりゃありがたいな」
「うっス!」
「じゃあ、楽しみにしてるわ」
モングレルはいつもの調子で笑った。一方のライナは、嬉しさを隠しきれない様子で何度も頷きながら両手で頬を押さえていた。
「……青春ですねぇ」
「まったくだ」
フィオナの呟きに、バルガーがしみじみと同意した。
その後、残ったハンバーグは炙った薄切りパンに挟み、串焼きと一緒にバスケットに詰めて“アルテミス”への差し入れにした。勿論、モングレルとバルガーにも。
片づけを終えたライナはモングレルと並んで料理を運んでいった。何やら楽しそうに話している。バルガーはもう少し休んでいくらしく、炊事場に残っている。
その背中を見送りながら、フィオナは小さく笑った。
「ところでフィオナちゃん」
「はい?」
「俺にもまた食わせてくれよ。もちろん、さっきみたいに」
「ふふっ。それはお店に来てからのお楽しみですよ」フィオナは娼婦の笑みを浮かべ、指で丸を作ってみせた。「もちろん、
「かーっ、商売上手だねぇ!」
バルガーが豪快に笑い、つられてフィオナも笑った。
……うまくいくなら、今度は何を教えようか。
遠くで、ライナの弾んだ声が聞こえた。
いつも読んでいただき、ありがとうございます。
感想、評価、ここすき、誤字脱字などがありましたらお願いします。
楽しんでいただければ幸いです。
恋ってなんだっけ? 魚の名前だっけか。