たのしいひあそび 作:わたしは非ばなー
明日はいよいよ二次元ホース先生のサイン会だ。
これまでほぼすべてのサイン会に参加してきた俺だが、それでも毎回緊張してしまう。
緊張と高揚で気が狂いそうだ。こんなの初めて星神に見られたときと、前回の二次元ホース先生のサイン会以来のことだ。
最近アベンチュリンさん絡みで忙しかったので、そのお礼にもらった香水を全身に振りかける。
せっかくだしアベンチュリンさんの真似をしながら浴びよう。
両腕を上げて、少し快感を覚えていそうな雰囲気で顔を上に向ける。
よし、完全再現。
近々二相楽園に来るらしいパールさんに再限度を判定してもらおう。
あとはサイン色紙と、もふもふ号初版本。
えっと、あと何がいるんだっけ?
ペン? ドリーム缶? ウイスキー?
そうだ、アルコールを持って行って、二次元ホース先生を酔わせてお持ち帰りしよう。
ぐえっへへへへ。
そしてひたすら漫画を描かせるのだ!
☆
「すみませんが、アルコールの持ち込みは禁止でして……」
「あ。あ、あ」
なんでやねん。
なぜかバッグの中にウイスキーが入っていて、会場に入る前の手荷物検査で止められてしまった。
周りの人がスマホで撮影しているので「非常識な奴がいた」とかSNSで拡散されて、俺の弱小配信チャンネルが特定されて叩かれること間違いなしだ……
どうにか挽回しなければ!
「ほかに変なものは入っていないですよね?」
あきれた様子のスタッフに、俺はここがチャンスだとボケることにした。
「爆弾しか入ってへんよ」
「爆────!!?」
「ひ、火花のグッズの話だよね!?」
俺の渾身のボケに、スタッフが仰け反ったところで真横から叫び声がした。
なんと花火さんだ。
なんかえっちな格好してる。
肩は大きく露出しているし、太ももに着物の中から伸びてきた紐が結ばれている。着物の丈も非常に短い。
ミニスカ着物とか、伝統と文化に対する敬意とかやっぱどうでもいいや最高!
「彼、火花っていうインフルエンサーのファンだから、グッズの……ほら!」
と、勝手に俺のバッグを探って花火さんが引っ張り出したのは、見たことのないボタン。
花火さんがぽちっと押すと「どっかーん!」と火花の声が再生された。
なにそのグッズ!? めっちゃほしい!!
花火さんはそのボタンを俺のバッグにしまった。あとで返せと言われても意地でも返さない。
「あの、紛らわしいことはしないでください。今回だけ見逃します」
と、スタッフがガチギレしていたのでちゃんと謝る。
我ながらはしゃぎすぎていたな。
一つだけ言い訳させてもらうと、ここ最近の忙しさは尋常じゃなかったのだ。そんな中、二次元ホース先生のサイン会という慶びに欣喜雀躍感謝感激雨アライグマで、テンションがおかしかった。
昨日のバイトは良い息抜きになったが、それ以前は配信をしたりピノコニーに出張したり、ボランティア活動で紛争地に行ったり薬処方したり。
頑張ってんなぁ俺!
スタッフと騒動を起こしてしまって、改めて周りを見ると冷たい目で見られてた。こんな目で見られたのは一昨年の進路相談以来だ。ただ豊穣の使令になりたいって言っただけなのに。
「っと、危ない。お礼を言わなきゃ。ありがとう花火さん。それと久しぶり! なんだか格好が……」
あっぶねぇ。なんだか格好がえっちだねと口に出すところだった。
口には出していないはずなのに、花火さんはさっと一歩引いて。それからすっと冷えた目で俺のことをにらむ。
俺はやれやれと肩をすくめる。
「なんだか格好がえっちだね」
「なんで口に出したの!?」
「いや、バレてそうだし。なら口に出したほうが予後がいいかなって」
現に、ちょっと冗談っぽい雰囲気になった。
これについても自己弁護させてほしい。気になっていたクラスメイトが肩から胸元にかけて大きく露出して、丈の短い着物姿なのだ。ツインテールで、瞳もキラキラ輝いて見える。
くらっと来ないほうがおかしいと思う。
「と、とにかく。花火さんも二次元ホース先生のサイン会に来たんだね」
「そう……なんだけど」
「というか……花火さんって二次元ホース先生が勝手に名前を使った中にいた気がする」
「え? あぁ~……火花の名前も勝手に使われていたやつ?」
少し前に、先生は勝手に著名人の名前を使って宣伝したことがあったのだ。
十の石心から仙舟の将軍。指名手配犯からナナシビトまで。
「カンパニーからの賠償請求俺が全部払ったんだよ。勝手に」
「ごめん。意味わかんない」
カンパニーが賠償請求するというので、全額カンパニーに送り付けたのだ。
「問題は将軍の方で。まあ、全員器が大きかったから許してくれたよ」
「許してくれたって、まるで自分のことみたいに話すんだね」
「いや、俺が勝手に謝りに行ったから」
そこまで言うと、花火さんは「なんだこいつ」って目で見てきた。
自らの発言を振り返って、確かに変な人だと誤解されても仕方のない言い方になっていたことに気が付いた。
「あ、いや。別の用事で仙舟に行ったときにさ、雑談交じりに謝っただけで」
「配信でもいるんだよねぇ……保護者面する人」
と、花火さんは=火花を隠すつもりがないのか、辟易とした様子で大げさに肩をすくめた。
「保護者面してコラボ相手に勝手に挨拶したり、悪戯していい空気でコラボ相手もワザと怒っているのがわからずに謝罪コメ送ったり。楽しんでもらえてるのなら我慢するけど、迷惑行為だからね?」
「俺にも事情があって」
「もうやらないように」
「は、はい……」
心の中で「実績解除。同級生(元)の女の子に叱られる」とか呟いていると睨まれた。
最近の俺は心が読まれすぎている気がする。
「でも、待って。俺にも一応、言い訳があるんだ」
「聞くだけ聞いてあげる。それで? 変な母性でも働いた?」
花火さん、キャラ変した? というか、学校で話していた花火さんと、火花と、俺の知らない花火さんが混じっているみたいな感じだ。
そんなことを考えながらも、俺が二次元ホース先生の保護者面をする言い訳を話す。
「カンパニーからの賠償金を払ってあげたのは勝手にしたことだけれど……そのあと弁護士費用を立て替えて、話し合いや各所への根回しに謝罪、それら全部俺がやったうえで、将軍や星核ハンターにまで文書で謝罪を書いて……二次元ホース先生は「ごめんね☆」だけで終わらせようとしたから俺が書いて……そのうえで改めて将軍に一言謝っただけだから」
「……それは保護者面していいかも」
☆
「に、にじ、にじじ、二次元ホース
「キミさぁ。もう何度も会っているのに、なんで毎回そんなに緊張するの?」
二次元ホース先生に呆れられた。俺って一応この人に土下座させて靴舐めろと言っても許されるくらいの貢献をしているので、バランスをとっているつもりだったのだが。
ほら、先生が俺に委縮しちゃったら悲しいし。
二次元ホース先生は、俺に対して全く畏まらないので、俺も大げさに尊敬して見せなくていいのかもしれない。
「すん」
「うわぁ! 急に落ち着かないで!」
「とりあえず、この本にサインを……あれ、もふもふ号と同人誌間違えた!?」
「あ、本当に緊張してたんだ」
二次元ホース先生のサイン入りもふもふ号初版本はそろそろ百冊超えるし、別にもふもふ号じゃなくてもいいか。
「まあいいや、同人誌でも」
「せめてこっちの色紙にしなよ」
と、言いながらさりげなく俺の火花グッズを抜き取ろうとした花火さんを止める。
「これは俺のだ」
「えぇ……」
花火さんがよくわからない。
口調も微妙にふわふわしているし、行動も支離滅裂……とまでは言わないが謎だ。
まるで、気になる女の子がイベントに行くというからノリでついてきたけれど結局どう行動したらいいのかわからずに困り果てている男子高校生みたい。
その理屈だと花火さんが俺のことが好きになってしまう。
そんなわけはない……でも、ほかの理由も思いつかない。
いや、きっと転校した先でグレたんだ。煽情的な格好をしているのもそれで説明がつく。ギャルはこういう格好をしているって二次元ホース先生の同人誌で学んだ。
口調も態度も不良っぽくなった中、グレる前のクラスメイトである俺と会って、態度に悩んでいるんだな。
「な、なぁに? 急にそんなじっと見て……まるで……ねぇ、なんで可哀そうな人を見る目で花火のこと見てるの?」
可哀そうに。
「それより二次元ホース先生、今週のもふもふ号読んでて思ったんですけど」
「うん?」
「俺が星穹列車に乗ったら出演できるんですかね?」
「まあ、そうなったら出るかなぁ?」
「じゃあ、早速乗り込むか」
ついでに俺の配信もナナシビトの配信にフォルムチェンジして、大バズ間違いなしだ。
「今はオンパロスだから、難しい気がするね」
「おんぱろす? まあ、行きづらいところか」
どうせそのうち二相楽園にも来るだろうし、その時にこっそり乗り込もう。そのままなし崩し的にナナシビトになれば完璧だ。
俺はなし崩し的に物事を解決するのが得意だからな。
「そういえば、仮面の愚者に招待されているんじゃなかった?」
「は?」
「あれ? 違った?」
「いや、確かに招待されてますけど。何で知ってん?」
俺の質問に、二次元ホース先生は「あ」みたいな顔をして、それから顔をそらした。
「それはー……そのぉ……ほら、あたしは漫画家だから!」
「なるほど。漫画家ならわかるか」
「えぇ……?」
後ろで花火さんが納得がいかない様子で首をかしげていたけれど、漫画家ならわかる。
きっと『天国への扉』とかで知ったんだろう。
まあ、マジな話をすれば配信を見てくれたのかも。
「いや、俺は愉悦とか全く似合わないので」
「?」
「?」
なぜか二次元ホース先生と花火さんが二人そろって首をかしげていた。
(^_-)-☆
夜、寝る前になると不安に襲われる。あいまいに体の境界が解けていくような気がする。
だから、たった1でも増えた再生数を見て、再び心を愉悦に落とす。努力しろ。
虚無に触れて、それでも笑った神のように。
「よし、
ここまで一部。
結末はあいまいに決まってます。原作の展開次第でもあるし、どこまで本編に絡ませるかも未定。
がっつり絡むか、外周ぴょこぴょこさせるか。
来年くらいには書きます。