闇の魔術大好き少女が認められるまで 作:闇の魔術連盟名誉会員
初めて会った頃、ロナルド・ウィーズリーにとって、セレフィナ・ミッドナイトは、ダイアゴン横丁に住んでいる知り合いという以上の存在ではなかった。
双子の兄たちと一緒になって妙な悪戯道具を作り、ときには父親まで巻き込んで、母親を怒らせているやつ。
頭はいい。
それに、かなり目立つ。
魔法界では珍しい真っ白な三角帽子に、同じ色の短いケープ。薄暗い店内でも光を拾う銀色の髪を、馬の尾のように高い位置で束ねている。歩くたびに髪と帽子の先が忙しなく揺れるので、黙って立っていても妙に元気そうに見えた。
大きな紫色の瞳と、鼻先まで下ろした片眼鏡もよく覚えている。小柄な身体で店内を駆け回り、踏み台へ飛び乗っては、棚の奥から注文品を引っ張り出してくる。
ミッドナイト魔法工房の看板娘。
少なくとも、店先に立っている姿だけを見れば、そう呼ぶのが一番しっくりきた。
けれど、口を開けば見た目ほど子供らしくはない。
魔法道具のことなら、大人でも理解できないような話を平然とするし、父さんが何日も悩んでいた機械を、横から一度覗き込んだだけで直してしまうこともあった。
ただし、優秀だからといって尊敬できるかは別だ。フレッドとジョージに協力している時点で、かなり信用ならない。
ロンはずっと、そう思っていた。
ところが、ある年から、ウィーズリー家へ入ってくる金が急に増えた。
きっかけは、父さんとフィナが共同で作った暖房器具だった。マグルの世界にある「電子レンジ」という機械を参考にしたらしい。
父さんの説明によれば、箱の中で目に見えない波を飛ばし、食べ物を内側から温める、実に素晴らしい発明なのだという。
どうして食べ物を温める機械から部屋の暖房を作ろうと思ったのかは、ロンには分からなかった。
完成した暖房は、小さな箱を部屋の隅へ置くだけで、身体の芯からじんわりと温まった。
火も必要ない。煙突もいらない。部屋のどこにいても、毛布に包まれているように暖かい。
「魂から温まるようでしょう?」
試作品を持ってきたフィナは、得意そうにそう言った。
その言い方が妙に正確すぎる気もしたが、冬の隠れ穴は隙間風がひどかったので、誰も深く考えなかった。
商品はよく売れた。
暖炉を設置できない小さな家や、夜勤の多い魔法省職員、冷えに弱い老魔法使いたちが競って買ったらしい。
父さんのもとには、これまで見たこともない額の取り分が入ってきた。
その冬、ロンは初めて新品の手袋を買ってもらった。
誰かのお下がりではない。
自分の手の大きさに合った、自分だけの手袋だった。
ジニーには新しい冬用の外套が買われ、母さんは店で値札を何度も確かめなくなった。夕食の肉が少し厚くなり、クリスマスには一人ずつ違う菓子が用意された。
父さんは何度も、
「フィナの力がなければ、商品にはならなかった」
と言った。
母さんも、最初は父さんがまたマグル製品を持ち込んだと怒っていたが、暖房の売上を見てからは、
「あの子は本当にしっかりしているわ」
と口にするようになった。
貧しかった頃をよく知っているビルやチャーリー、パーシーまで、フィナを褒めた。
フレッドとジョージなどは、自分たちが発明したわけでもないのに、
「僕たちは最初から才能を見抜いていた」
「将来への投資というやつだ」
と威張っていた。
暖房は一年ほどで販売禁止になった。
長時間使用した者が、眠っている間に奇妙な夢を見るようになったとか、暖房を切るとひどく寂しく感じるとか、箱の中から夜中に声が聞こえたとか、いろいろな苦情が出たらしい。それに暖炉を残すべきで、ほとんどマグル製品そのままの暖房を使うなんてという意見も多かったそうだ。
父さんは、「元がマグル製品だからって不当な扱いだ」と怒り、フィナは、「身体の表面だけ温めるようにすればよかったかな」と反省していた。
それでも、販売されていた間に得たお金は残ったし、他の商品からの収入も入ってきた。
ウィーズリー家が突然裕福な家になったわけではない。
けれど、教科書を買うたびに誰かのお下がりを探す必要は減ったし、ローブの継ぎ当ても少なくなった。
それだからか、それともフィナの性格からか、家族はフィナが遊びに来るたびに大歓迎した。
母さんは食卓へ料理を並べ、父さんは新しく拾ってきたマグル製品を見せ、フレッドとジョージは次の商品について相談した。パーシーですら、不思議なくらいフィナを可愛がっていた。
ロンだけは、少し離れたところからそれを見ていた。
別に嫌いなわけではない。
ただ、家族全員がフィナを褒めるので、ロンまで同じように褒めるのは何となく悔しかった。
それでも、フィナが話の分かるやつなのは認めていた。
フレッドとジョージは、新しい悪戯道具を作るたびにロンを実験台にした。
朝起きると髪が緑色になっていたり、靴を履いた途端に足が勝手に踊り出したり、寝言が翌朝まで頭上へ文字になって浮かんでいたりする。母さんへ訴えても、あの二人は証拠を片づけるのだけは早かった。
そんなロンに、フィナはときどき対抗用の道具をこっそり送ってくれた。
誕生日には、自律式のクィディッチ模型を贈ってくれたこともある。
小さな競技場の上を十四人の選手が勝手に飛び回り、ボールを追い、点を取り合う。応援するチームを指定すれば、そのチームの選手だけが少し強くなる仕掛けまで付いていた。
だから、ホグワーツへ入学してハーマイオニー・グレンジャーと出会ったとき、ロンはどこかフィナを思い出した。
そして、比べてしまった。
何でも知っているように思えるほどの知識量。しっかりしていて、大人相手でも堂々と意見する胆力。そして、自分の方がよく分かっていると、少しも疑っていないところ。
けれど、似ているのはそこまでだった。
少なくともフィナは、ロンが失敗しても人前で得意げに訂正したりはしない。双子にやられたときには、仕返しの道具まで作ってくれた。
だから、つい口にしてしまった。
「悪夢みたいなやつだよ。だから友達がいないんだ。」
ハリーと一緒に歩きながら、ロンは吐き捨てるように言った。
「一日中、人の後ろをついて回って、頼んでもいないのに間違いを指摘してさ。自分だけは何でも知ってるみたいな顔をしてるけど、あいつができるのは教科書に書いてあることを暗記して、そのまま喋るだけじゃないか」
ロンの苛立ちは止まらない。
「それに比べたら、フィナの方がずっと話が分かる。本当に何でもできるし、教科書を読んで覚えただけのやつとは違うんだ。大人だって直せない魔法道具を作れるんだから」
「フィナって、ダイアゴン横丁のあの子だよね」
ハリーは胸元の小さなネックレスを無意識に触った。
「ああ。来年入学してくる。あいつなら、できることをいちいち見せびらかしたりしない。失敗した相手を見つけて、待ってましたみたいに訂正もしない。ハーマイオニーみたいに、できないやつを見下すために勉強してるわけじゃないんだ 」
実際には、フィナが人を見下していないかどうかは怪しかった。ただ、ロンの失敗を大声で指摘したことはなかった。それだけで、今のロンには十分だった。
言い切ったところで、ハリーの表情が固まった。視線が、ロンの肩越しへ向いている。
ロンも振り返った。
少し離れた場所に、ハーマイオニーが立っていた。いつから聞いていたのかは分からない。腕には何冊もの本を抱えている。ついさっきまで何か言い返そうとしていたらしく、口がわずかに開いていた。
トロールとの戦いをきっかけにハーマイオニーと仲良くなったあと、ロンはあのときのことを謝った。ハーマイオニーはしばらく黙っていたが、最後には許してくれた。
ただし、フィナのことまで忘れたわけではなかったらしい。
それからというもの、ハーマイオニーは以前にも増して勉強するようになった。授業で使う教科書だけでは足りず、図書館から古代ルーン文字や魔法道具製作、魔力伝導素材についての本まで借りてくる。
まだ一年生には必要のない分野ばかりだった。
「別に対抗しているわけじゃないわ」
誰も何も言っていないのに、ハーマイオニーはそう主張した。けれど、フレッドとジョージからフィナの新しい発明について聞くたび、翌日には関連する本を抱えていた。
どう見ても対抗している。
ロンとしても、フィナが入学してくれば、ハーマイオニーと気が合うかもしれないと思っていた。二人とも頭がよく、魔法について話し始めれば、きっと止まらなくなる。少なくとも、ロンが相手をするよりは、お互いに満足するだろう。
そう考えれば、来年が少し楽しみにすら思えた。
けれど同時に、ロンの胸には、どうしても拭いきれない違和感が残っていた。思い返してみれば、フィナと会うたび、決まって妙な感覚に襲われていたのだ。
暖炉の火が燃えている部屋でも、身体の芯へ冷たいものを押し込まれたように寒くなる。首筋の毛が立ち、早くその場を離れた方がいいと、理由もなく思う。
記憶の中のフィナはいつもと変わらず笑っていた。怪しいところなど、何もない。
それでも、ときどき彼女の紫色の目がこちらを向くと、自分ではなく、その奥にある何かを見られているような気がした。
そんなとき、ロンはあの夜のことを思い出す。
一度だけ、フィナが隠れ穴へ泊まりに来た夜、廊下に黒い本を落としたことがあった。
拾い上げた拍子に本が開き、見慣れない図が目に入った。人の身体から白い糸のようなものを引き出し、瓶や歯車へつないでいる。余白には、フィナの字でこう書き込まれていた。
自我を削りすぎると出力が落ちる。
意識は少し残した方が長持ちする。
意味はよく分からなかった。けれど、理解してはいけないことが書かれているような気がした。
ロンは慌てて本を閉じた。その直後、階段の上から足音が聞こえてきた。とっさに本を元の場所へ戻し、物陰へ隠れる。
降りてきたフィナは何も気づかず、本を拾い上げると、そのまま客間へ戻っていった。
翌朝も、彼女はいつもどおり笑っていた。
母さんの朝食を食べ、父さんとマグルの機械について話し、双子の悪戯道具に楽しそうに意見を出していた。
ロンは本のことを誰にも話さなかった。
ただ、それ以来、フィナの鞄を見るたびに、あの二行を思い出すようになった。どうしてあれほど寒くなるのか、ロンには分からない。
フィナは話の分かるやつだ。
家族を助けてくれたこともある。自分に親切にしてくれたことだって、一度や二度ではない。
だから、あの本も難しい魔法道具の専門書だったのだろう。自分が勝手に怖がっているだけだ。ロンはずっと、そう思うことにしていた。