闇の魔術大好き少女が認められるまで 作:闇の魔術連盟名誉会員
クリスマス前は、一年のうちで二番目に忙しい時期だった。
一番忙しいのは、ホグワーツの新学期が始まる直前。その次が、クリスマスだ。
子供への贈り物に魔法玩具を買う者。夫や妻へ、少し高価な日用品を選ぶ者。普段なら修理で済ませる古い道具を、この機会に新品へ買い替える者。
ミッドナイト魔法工房にも、朝から晩まで客が出入りしていた。
包装紙が足りなくなり、縮小棚もいくつか空になり、自動会計羽根ペンは三日に一度の割合で癇癪を起こした。
そんな中、珍しくロンから手紙が届いた。いつも双子の第一のターゲットになっていた彼も、今年からホグワーツに行っている。どうせ新グッズの餌食にでもなったことを嘆いているのだろうと手紙を読む。
書かれていたのは、意外なことにニコラス・フラメルという人物についてだった。
なんと、仲良くなったハリーと二人で名前を調べているらしい。レポートでもでたのだろうか?
図書館の本を探しても見つからないので、魔法道具に詳しい私なら何か知っているかもしれないと思ったようだ。そんなはずはないのだけど、確かになんの人物か分からないと調べるのも大変だろう。
私は少し考えてから、心当たりのあることを羊皮紙へまとめた。
錬金術師であること。賢者の石を作ったことで知られていること。ダンブルドアと共同研究をしていた記録があること。それから、私の本棚にあった錬金術師名鑑の該当箇所を複写し、クリスマスプレゼントと一緒に送った。
ちなみにプレゼントは、”全ての望みが叶ったと勘違いする薬”にした。効果は数分程度だけど、なかなか幸せな気持ちになるみたいで、クリスマスの幻想にぴったりだ。
三日後、ロンからまた手紙が来た。
プレゼントは届いたよ。ありがとう。でも、一緒に入ってた紙はフィルチに調べられて、途中で全部燃えちゃった。何が書いてあったんだ?
どうやら、荷物はロンへ渡る前にフィルチへ見つかったらしい。途中で開封されないよう、封印へ無理に干渉すると中身が燃える魔法を掛けていたのが悪かった。なお、ニコラス・フラメルについては解決したそうだ。
ダンブルドアが校長をしている学校なのだから、きっと彼に忖度した先生の誰かがレポート課題にしたんだろう。
校長本人が関わっていたからなのか、賢者の石は闇の魔術に分類されていない。それなのに、お母様が作った石は、愚者の石などという酷い名前を付けられたうえ、最高危険度の闇の魔術指定まで受けている。
納得がいかない。効果はほとんど同じなのだ。どちらも金属を黄金へ変えられるし、適切に加工すれば、寿命を延ばす霊薬の材料にもなる。
違いといえば、製法が少し異なることと、こちらのほうが材料として人間の魂を多めに使っていることくらいだ。
それだけで、一方は錬金術の至宝。もう一方は、製造も所持も禁じられた闇の呪物。
ずいぶん恣意的な分類だと思う。そもそも、愚者の石の製法はお母様が一から考え出したものではない。古代ペルシャか、その周辺地域に伝わっていた錬金術を再現したものらしい。現存する文献は断片ばかりで、材料名も工程も暗号化されていたため、お母様が十年以上かけて解読したのだという。
まあ、こちらのほうは魂を適切に食べさせないと暴走してしまうというのがあるけれど…………それでも、ほとんど同じようなものなのに!!
「うん、切り替え切り替え」
クリスマス当日には、私のところにもいくつか贈り物が届いた。
モリーおばさんからは、手編みのセーター。白地に紫色の糸で、私のイニシャルが編み込まれていた。少し袖が長かったけれど、とても暖かい。
午後になると、ハグリッドからも手紙が届いた。
包みの中には、申し訳程度の礼として、危険そうなトカゲの尻尾が数本と、ヒッポグリフの羽毛が入っていた。どちらもそれなりに珍しい素材ではあるけれど、添えられた手紙には、それ以上に気になることが書かれていた。
至急、作ってほしいものがあるらしい。
内容は、檻の発注だった。
大きさは、とりあえず牛が一頭入る程度。
内側から強く体当たりされても壊れず、鋭い牙で噛まれても変形せず、さらに中の魔法生物が火を吐いても耐えられるもの。そして手紙の最後には、少し大きな字でこう書き足されていた。
「疑うわけじゃねえが、ドラゴンの火でも、本当に大丈夫か?」
私は手紙を最初から読み返した。
ドラゴン。
しかも、火を吐くことを前提にしている。絶対に、ろくでもないことを考えている。
そう思いながらも、私は注文票と羽ペンを取り出した。
ハグリッドなら、代金の代わりに脱皮した鱗や折れた爪を分けてくれるかもしれない。運がよければ、ドラゴンの素材も手に入る。できれば琴線が欲しいなぁ。
クリスマスが終われば、店の仕事にも少し余裕ができるはずだ。
「……まあ、作るだけなら問題ないよね」
私は檻の寸法を書き込み、必要な魂の使用予定を確認した。
魂というものは、実に素晴らしい資源だ。
あるときは、宿した物体をあらゆる破壊から守る。
あるときは、一つの魂を二つに砕き、そのつながりを利用して遠く離れた場所との通信を可能にする。
またあるときは、魔法道具を動かすための動力源になる。ほかにも、記憶の保存、侵入者の識別、自動人形の制御など、用途を挙げればきりがない。
しかも、この島には数千万もの魂が無尽蔵に生えている。
収穫するのも、それほど難しくはない。病院や介護施設を回れば、肉体から自然に離れかけた魂が見つかる。少し数が必要なら、適当なマグルを自分で処理すればいい。
ただし、そうして集めた魂には問題があった。一つ一つ性質が違いすぎるのだ。
記憶や感情が複雑に絡まり、傷ついていたり、死後しばらく放置されて鮮度が落ちていたりする。加工すれば普通の呪物には使えるけれど、元気魂ドリンクのように、傷ついた魂そのものを回復させる品の材料には向かない。
必要なのは、汚れも傷も少なく、性質のそろった新鮮な魂だった。
その解決策は、大昔から知られている。狩りで安定した獲物が得られないなら、牧畜を始めればいい。野生の魂を探して歩くのではなく、最初から望ましい条件で育て、生産すればいいのだ。そういうわけで、屋敷の地下にある広大な一室は、魂を生産するための施設になっていた。
人間は、生まれたときに新品の魂を持っている。
ならば、母体を用意し、成長や時間の流れを魔法で早めながら出産を繰り返させれば、品質のそろった新鮮な魂を安定して得られる。
鶏から卵を採るようなものだと考えれば分かりやすい。
もっとも、卵ほど頻繁に収穫できるわけではない。お母様が考え得る限りの術式を施し、施設の一室の時間の流れまで歪めているけれど、それでも一つの母体から三か月に一つが限界だった。
そろそろ、いくつかの母体の収穫時期が来る。
採れたての魂から、お母様に元気魂ドリンクを作ってもらう予定だ。
蛇語翻訳機を完成させるには、私自身の魂を少し削り取らなければならない。その程度なら大した影響はないと思うのだけれど、お母様からは、回復には万全を期すように言われている。
お母様は、少し心配性なのだ。
「ああああああああ!」
「やめて、この悪魔!」
地下施設の奥から、引き裂かれるような悲鳴が響いた。隣の寝台へ拘束されたもう一体が、涙を浮かべながらこちらを睨みつけている。
石造りの廊下を伝った声が、何度も反響した。けれど、この階層には厚い遮音結界が張られているので、屋敷の上まで届く心配はない。
私は気にせず、手元の記録板へ目を落とした。
このあいだ回収してきた二体の母体。
店の仕事で手が空かなかったため、どちらもまだ十分に心を壊せていない。施設へ放り込んでからは、世話をハウスエルフへ任せきりにしていた。私がしっかり命令するのを忘れていたので、しつけをしていなかったみたいだ。
そのせいか、二体ともまだ逃げようとしたり、拘束具へ噛みついたりするらしい。
困ったものだ。
暴れて体力を落とされれば、使える状態になるまで余計な時間がかかる。自分で身体を傷つけられても、品質管理に差し支える。
そこで今日は、練習も兼ねて、身体のさまざまな箇所へ磔の呪文を細かく掛け分けることにした。
腕。脚。指先。背中。呪文を一度に全身へ流すのではなく、狙った場所だけへ弱く、長く作用させる。数十分も続けるころには、最初のような大声は聞こえなくなっていた。
呼吸に混じって、かすかな呻き声が漏れるだけだ。
「今日はこのくらいでいいかな」
私は杖を下ろし、二体の手首へ細い腕輪を取り付けた。内部には、弱めた磔の呪文が封じてある。大きな声を出す、拘束具を外そうとする、食事を拒む。そうした行動を取るたびに作動する仕組みだ。
ここまでやっておけば、あとの躾は腕輪とハウスエルフに任せればよい。しっかり命令すれば、さぼることはない。来週には記憶の消去と服従の呪文を掛けられるところまで行けるだろう。
私は記録板の二体に印を付け、次の区画へ向かった。
今度は、収穫時期を迎えた母体を処置室へ移す番だった。
処置台の上で、膨らんだ腹が大きく上下している。拘束具を確認し、魂を見るためのレンズを下ろす。腹の中には、まだ外界へ触れたことのない小さな魂がいくつも浮かんでいた。記憶も、執着も、恐怖さえもほとんど付着していない。
私は杖先を向けた。
「アバダ・ケダブラ」
緑の閃光が腹部へ吸い込まれる。
一つ。続けて、もう一つ。双子にしてあるので、二回必要だ。
肉体から離れた魂は、逃げる方向さえ知らないまま、白い光の粒となって浮かび上がった。私はそれを順番に浮魂器へ収め、蓋へ封印を施していく。
どの魂も、驚くほど澄んでいた。
母親の腹から出たこともなく、光も音も、人の顔も知らない。外から刺激を受けていないため、余計な記憶や感情がほとんど混ざっていない。これ以上ないほど純粋な魂だった。
回収を終えると、母体の内部に残ったものを簡単な洗浄呪文で取り除いた。傷んだ箇所を修復し、栄養液を補充する。
「次は空胎室ですね」
ハウスエルフへ指示を出すと、処置台ごと母体が運び出されていった。少し休ませれば、また使えるようになる。そのために、しばらく期間を開ける必要があった。
そうして、数度にわたる収穫を終えた私は回収した浮魂器を籠へ並べ、そのまま地下工房へ向かった。
「お母様、回収してきました」
調合台の前に立っていたお母様が、鍋をかき混ぜながら振り返る。
「ちょうどよかったわ。では、ここから流し込んでちょうだい」
大鍋の縁には、銀製の漏斗が取り付けられていた。
私は浮魂器を一つずつ接続する。
栓を開くたび、白い光が細い流れとなって管を通り、鍋の中へ吸い込まれていった。
その鍋の中には、次々と材料が入っていき、そのたびに煙が立って色が変わる。
砕いた月長石。乾燥させたユニコーンの血清。魂の形を安定させるという銀の葉。それから、最後に加えるのは命の水だった。
お母様が透明な瓶を傾ける。
ほんの数滴が落ちた瞬間、鍋の表面が大きく盛り上がった。白かった液体が一度黒く濁り、次いで真珠のような光沢を帯び始める。
「火を三段階下げて」
私は杖を振り、鍋の下で燃える炎を細くした。
「次に、反時計回りに七回」
お母様が銀の匙を動かす。
一回。二回。三回。
回すたびに、鍋の中から赤子の泣き声にも似たかすかな音が立ち上った。
七回目で音が止む。
今度は液体が勝手に渦を巻き始めた。鍋の中央へ魂が集まり、絡まり、命の水と混ざり合っていく。
ここで少しでも手順を誤れば、魂同士が癒着して使い物にならなくなる。ひどい場合には、鍋そのものに意識が宿ることもある。前にやらかした時は大変だった。
お母様は表面の色と渦の速度を見ながら、次々と薬草や粉末を加えていった。
「フィナ、定着呪文を」
「はい」
私は鍋へ杖を向け、魂が液体から逃げ出さないよう、薄い膜を何重にも重ねていく。液体の輝きが徐々に落ち着き、乳白色へ変わった。
「完成ね」
お母様が火を消す。
鍋の中には、淡く光る液体が静かに満ちていた。
まだ温かいうちに、保存用の小瓶へ移さなければならない。
私たちは二人で液体を汲み上げ、細長い硝子瓶へ注いでいった。満たされた瓶には銀の栓をし、さらに蝋と封印呪文で閉じる。最後の一本を棚へ並べると、お母様は満足そうに頷いた。
「これだけあれば、魂を削ったあとも十分に回復できるでしょう」
私は瓶の中で揺れる乳白色の液体を眺めた。
採れたての魂から作った、できたての元気魂ドリンク。
混じり気もなく、品質も申し分ない。
「蛇語翻訳機も、安心して完成させられますね」
「ええ。でも、一度に削りすぎては駄目よ」
「分かっています」
お母様は本当に心配性だった。
そんなお母様は最近、マグルの魂を大量に使ったスクイブ用の杖を開発しようとしている。
普通の杖よりも一回り大きな筒状の器具に、あらかじめ複数の魔法を仕込み、持ち主が選んだものを疑似的に撃ち出せるようにするものだ。
スクイブ自身には、呪文を発動させるだけの魔力がない。ただ、呪文を始動させる程度の魔力ならある。だから、それを強烈に補助してあげれば、理論上は多少の呪文を使えるはずだ。そうお母様は考えているようだ。
あらかじめ呪文の形を覚えさせて、魔力まで装填しておけば、使用者は器具を相手へ向け、撃ちたい魔法を選ぶだけでいい。仕込んでいた分が切れたら、小さなカプセルを交換することで使い続けることができるようにする。
火を灯す。扉を開ける。物を浮かせる。相手を痺れさせる。マグルを拷問する。
仕込んだ魔法の範囲内なら、本物の魔法使いとほとんど同じことができる。
魔法使いの家に生まれながら、魔法を使えないというだけで肩身の狭い思いをしてきた人たちにとって、きっと素晴らしい道具になるだろう。
多少の魂を消費するくらいで、その不公平を解消できるのなら、十分に価値のある発明だと私は思う。
「フィナ、これが完成すれば、そのうちスクイブたちにも錬霊術の素晴らしさを分かってもらえるわ」
お母様は試作中の杖を撫でながら、楽しそうに言った。
「これまで魔法界から半人前のように扱われてきた人たちに、私たちが魔法を与えるの。きっと、誰よりも熱心な支持者になってくれるでしょう」
「私の攻撃魔法を仕込めば、戦力にすることもできますね」
私は細かな魔法よりも、相手を吹き飛ばしたり、焼いたり、拷問したりする魔法の方が得意だった。私の魔法をそのまま杖へ記憶させれば、使うのがスクイブでも、並の魔法使い以上の攻撃ができるはずだ。
「ええ。魔法省は、スクイブをほとんど警戒していないもの。杖を持って歩いていても、未練があるが故の飾りだと思うでしょうね」
お母様は満足そうに微笑んだ。
「それに、一度この杖なしでは暮らせなくなれば、交換も定期的に必要になるわ」
なるほど。
道具を一度売るだけではなく、使い続けるための材料も買ってもらえる。スクイブを救済し、錬霊術の理解者を増やし、必要なら戦力にもできる。そのうえ、店には継続的な利益まで入る。
「とてもよい発明ですね」
「でしょう?」
やはり、お母様は商売が上手だった。
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