闇の魔術大好き少女が認められるまで   作:闇の魔術連盟名誉会員

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第11話: 携帯幽霊

フレッドとジョージへ送ったインスタントゴーストは、思っていた以上に好評だった。

 

クリスマス明けに届いた手紙には、二人の感想が羊皮紙いっぱいに書き連ねられていた。

 

投げつけて割ると、中から半透明のゴーストが飛び出す。しばらくは自分がまだ生きているつもりで、狂乱しながら走り回り、壁へ突っ込んだところで、ようやく自分がゴーストになっていることに気づく。

 

仕組みそのものは単純だったけれど、ゴースト本人が最後まで状況を理解していないところが、特に受けたらしい。

 

中には、何かを必死に訴えかけるように動き回るものや、気が狂ったように叫び続けるものもいたのだとか。

 

一方で、問題点も残った。

 

味付けのおかげで多少の個体差は出たようだけれど、ベースとなる人格の種類がまだ足りない。次からは、複数の魂の端切れを混ぜ合わせたり、当たりには二つ分を詰めたりして、もっと個体差をつけてみよう。

 

それでも、フレッドたちの友人だというリー・ジョーダンからは、「これは革命だ」とお褒めの言葉を賜った。

 

手紙には、ロンがインスタントゴーストを実際に使ったという話も書かれていた。

 

相手はマルフォイだとある。たぶん、ルシウスおじさんの息子のドラコだろう。

 

場所は、夜の禁じられた森。

どうして一年生が夜の禁じられた森にいて、そこでインスタントゴーストを使うような状況になったのかは分からない。

 

ホグワーツでは、夜になると生徒を森へ連れていく授業でもあるのだろうか。それとも、ロンたちが勝手に入り込んだのかもしれない。

 

フレッドの手紙によれば、暗闇の中で突然現れたゴーストを見たドラコは、森じゅうに響くような声を上げて逃げ出したらしい。

 

ロンは笑いすぎて木の根に躓き、ハリーに引きずってもらった、とも書かれていた。

 

商品が想定どおりに機能したようで何よりだ。

 

ただ、そのあと本物の化け物が森に現れたらしい。まあ、禁じられた森なのだから、そういうものはたくさんいるのだろう。

 

 

 

年が明けてしばらくしたころ、ブリテン島マグル魂回収ツアーに出ていた私は、最後にホグズミードへ寄ることにした。

 

ホグワーツへ入学すれば、今までのように自由に各地を回るのは難しくなる。

 

長期休暇まで城から出られないかもしれないし、許可を得て外出しても教師へ行き先を確認される可能性もある。夜中に抜け出せたとしても、学校の周辺ばかりで人が死ねば、さすがに不自然だ。

 

だから今のうちに、できるだけ多くため込んでおくつもりだった。店はしばらくお母様に任せ、私はブリテン島の各地を転々としていた。

 

大きな病院のある工業都市。介護施設の多い海沿いの町。夜になると酔っ払いが一人で歩き回る歓楽街。人気のない道路や、冬でも飛び降りる者の絶えない高い橋。

 

魂を集めやすい場所はいくらでもある。

 

ただし、店の注文に使う魂を、いつも同じ地域から集め続けるわけにはいかなかった。特定の町で人が続けて消えれば、マグルの警察も不審に思う。

 

死体を残さなければ失踪事件になるし、死因を心臓発作や薬物中毒に見せかけても、狭い地域に偏れば統計には残る。病院で不自然な急死が続けば、医者が気づくかもしれない。マグルは魔法を知らないけれど、数字を並べて異常を見つけることには意外と長けている。

 

そのため、一つの町では数個だけ。次は鉄道で離れた別の町へ移り、反対側の地域へ飛ぶ。

 

年齢や死因にも偏りが出ないようにする。老人ばかりでは不自然なので、ときどき若いものも混ぜる。病院だけでなく、道路や川、空き家も使う。牛乳配達員は肥溜めに突き落とし、安アパートの住民は刃物で刺してから火を放った。

 

そうやって、旅をしながら大量の魂を回収し、予定していた数をほぼ確保できた。

 

トランクの中には、百を優に超す浮魂器が隙間なく並んでいる。これだけあれば、少なくとも入学後しばらくは困らないだろう。

 

もっとも、商品が本格的に売れ始めたり、お母様のスクイブ用の杖が完成したりすれば、すぐに足りなくなるかもしれない。

 

そのときは夏休みに、もっと大規模な回収旅行を計画すればいい。

 

そうして各地を巡った旅の終着点として、ホグズミードはちょうどよかった。

 

そこなら魔法使いの姿で歩いていても目立たないし、フレッドたちとも会える。

それに、少し足を延ばせばホグワーツが見える。

 

私は村外れの道に立ち、遠くの丘を見上げた。

 

冬の空の下、黒い湖の向こうに巨大な城がそびえている。尖塔。高い窓。幾重にも重なった屋根。あれほど大きな建物なのに、周囲の山や森へ溶け込むように建っていた。

 

ホグワーツ魔法魔術学校。

 

来年には、私もあの中へ入ることになる。

楽しみではあった。図書館には、店では手に入らない古い魔法書が大量にあるという。地下には使われていない教室や、忘れられた通路も多いらしい。

 

なにより、将来の魔法界を支えるのはそこの生徒たちだ。そんな彼らが闇の魔術に自然に触れていくようにするのが、私のやるべきところだ。

 

けれど、ホグワーツには一つ、大きな問題があった。

 

アルバス・ダンブルドア。

 

私は城を眺めながら、以前から集めていた資料を思い返した。

 

ダンブルドアは強い。一対一で戦って勝てる魔法使いはいないだろう。

そして、ただ呪文が得意という意味ではない。魔法界で尊敬され、教師たちから信頼され、生徒たちにも慕われている。

 

彼が正しいと言えば、多くの人がそれを正しいと思う。彼が危険だと言えば、それまで何も知らなかった人まで危険だと信じる。本人が命令しなくても、周囲が勝手に考えを合わせていく。

 

そういう意味では、ホグワーツ城そのものが、ダンブルドアの巨大な洗脳装置といってもよかった。

 

新入生は十一歳で城へ入り、七年間そこで暮らす。

 

授業を受ける。教師の評価を気にする。寮の仲間へ合わせる。褒められる考え方と、嫌われる考え方を覚える。

 

その中心に、ダンブルドアがいる。

 

七年間もそんな環境で過ごせば、彼の価値観を疑わなくなるのも当然だった。

闇の魔術は危険。魂を扱うのは邪悪。許されざる呪文を使う者は悪人。

 

そうした考えを、疑う余地のない常識として刷り込まれる。もちろん、何も考えず人を傷つけるのはよくない。けれど、使い方が悪いことと、技術そのものが悪いことは別だ。

 

火は家を焼くけれど、料理にも暖房にも使える。毒は人を殺せるけれど、量を調整すれば薬にもなる。魂だって同じだ。正しく加工すれば、病気を治し、便利な道具を動かせる。

 

それなのに、ダンブルドアたちは最初からすべてを否定する。

 

話し合いの余地さえ与えない。ちょっとマグルを使っただけで、倫理から外れた外道かのように囃し立てる。

 

だからこそ、私があの中へ入ることには意味があった。

 

外からホグワーツを批判しても、生徒たちは耳を貸さない。闇の魔術師が何か言っている、と笑われるだけだ。けれど、同じ制服を着て、同じ授業を受け、同じ寮で生活する生徒が、便利な魔法道具を見せれば話は違う。

 

あとからそれが闇の魔術だと知っても、今更手放せなくなる。

 

まずは身近なものからでいい。

 

壊れない鞄。失くし物を探す箱。遠くの友人と話せる通信具。悪戯に使えるインスタントゴースト。

 

そうした道具を通して、闇の魔術が役に立つことを知ってもらう。

危険だと決めつける前に、実際に触れてもらう。

 

使ってもらう。便利だと思ってもらう。一人が理解すれば、その友人にも広がる。寮の中で広がれば、別の寮にも届く。生徒が家へ持ち帰れば、親にも伝わる。

 

ダンブルドアが七年間掛けて価値観を作るのなら、こちらも七年間掛けて、別の考え方を広めればいい。

 

正面からダンブルドアを倒す必要はない。

 

あれが何を言っても、生徒たちが自分の頭で考えるようになればいいのだ。もっとも、実際に城へ入る前に、もう少し対策を考えておく必要はある。

 

ダンブルドアがどこまで人の魂を見抜けるのか。変身や形代が通用するのか。校内の監視魔法は、どの程度のものなのか。持ち込んだ呪物を察知される可能性はあるか。組分け帽子が、頭の中をどこまで読むのか。

 

特に最後のものは厄介だった。

 

噂が本当なら、帽子はかぶった人間の考えを読み取り、その性質に合った寮を選ぶらしい。私の考えをそのまま読まれたら、少し面倒なことになるかもしれない。闇の魔術を広めたいと思っていること自体は、悪いことでもない。

 

けれど、地下施設や工場のことまで勝手に覗かれるのは困る。

 

帽子の中へ入る前に、偽の記憶を表面へ浮かべておくべきだろうか。あるいは、思考を何層かに分けて、一番外側だけを読ませる方法もある。魂の薄皮を一枚だけ切り離して、そこへ無害な人格を作っておくのもよさそうだ。

考えることは多い。

 

 

私は丘の上に立つ城を見つめた。

 

窓の一つ一つに灯りがともっている。あの中では今も、大勢の生徒がダンブルドアの価値観を教え込まれている。

 

けれど、それも今のうちだ。来年には、私もそこへ入る。そして、少しずつ変えていく。闇の魔術は怖いものではない。正しく使えば便利で、素晴らしく、魔法族を幸せにすることさえできる。

 

そのことを、城の中から証明してみせる。

 

 

 

 

「おーい、フィナ!」

 

遠くから、聞き覚えのある声が飛んできた。いつの間にか、待ち合わせの時間になっていたようだった。

 

振り返ると、フレッドとジョージが村の方から手を振りながら走ってきた。

 

「どこかの抜け穴から出てくるかと思っていました」

 

私が言うと、フレッドは胸を張った。

 

「今日は正規の外出許可を取ってきたんだ」

 

「なにせ俺たちは優等生だからな」

 

ジョージも真顔で続ける。二人が本当に優等生なら、ホグワーツの評価基準は少し見直した方がよいかもしれない。それよりも、二人の視線は挨拶を交わした瞬間から、私の持っている鞄へ釘づけになっていた。

 

「持ってきた?」

 

「もちろん」

 

私は鞄の蓋を軽く叩いた。

中には改良型のインスタントゴーストが入っている。今回は魂片の組み合わせを変え、前よりも個体差が出るようにしておいた。そして、当たりは三体が出てくる仕様にしてある。

 

「前のものより、ずっと面白くなっていますよ」

 

「そうこなくちゃ」

 

「どんなのが入ってる?」

 

「開けてからのお楽しみです」

 

二人がその場で鞄を開けようとした、そのときだった。

「フレッドにジョージ、それに……?」

 

背後から声が掛かる。

 

振り返ると、黄色と黒のマフラーを巻いたホグワーツ生の一団が、こちらへ歩いてくるところだった。

 

ハッフルパフの生徒たちらしい。その先頭にいた背の高い少年が、フレッドとジョージを見てから、私へ視線を移した。黒い髪に灰色の目、逞しい体がスポーツマンを思わせる。

 

「君は確か……ミッドナイト魔法工房の子だよね。それに、イタズラグッズを作っているという……」

 

少年は穏やかに笑い、手を差し出した。

 

「セドリック・ディゴリー」

 

「セレフィナ・ミッドナイトです。フィナで構いません」

 

握手を交わす。

 

ディゴリーという姓には聞き覚えがあった。魔法省に勤めていて、ウィーズリー家とも付き合いがあるはずだ。 アーサーおじさんから名前を聞いたことがある。

 

セドリックは私と双子、それから鞄を順番に見た。

 

「それで、どうして入学前の子がホグズミードにいるんだい?」

 

「来年まで待ちきれなくて、少し見学に来ました」

 

「見学?」

 

「はい」

 

私はにこやかに答えた。

 

嘘ではない。ホグワーツ城も見たし、村の様子も見ている。その前にブリテン島を回って魂を集めていたことは、説明する必要がないだけだ。

 

セドリックは納得しかけたようだったけれど、フレッドが私の鞄へ手を伸ばしたのを見て、すぐに眉を寄せた。

 

「それにしては、怪しい取引をしているようにしか見えないけど」

 

「失礼な」

 

フレッドが言った。

 

「俺たちはただ、将来有望な職人から試作品を受け取っているだけだ」

 

「入学前から妙な道へ引きずり込むのはやめた方がいいと思うよ」

 

「逆だ」

 

ジョージが私の肩へ手を置く。

 

「俺たちがフィナに引きずり込まれている」

 

「それなら、なおさら心配だな」

 

セドリックは冗談めかして言ったけれど、視線はまだ鞄へ向いていた。

 

「あー、危険なものじゃないよね?」

 

「はい。ハグリッドの飼っている生き物よりは安全です」

 

 

「もっと悪くなった気がする」

後ろにいたハッフルパフの生徒たちが笑った。フレッドとジョージも笑っていたので、たぶん問題はない。

セドリックは最後に、双子へ釘を刺すように言った。

 

「本当に、入学前から変なことを教えるなよ」

 

「俺たちを何だと思ってる?」

 

「君たちが何をしてきたかは、だいたい知ってるよ」

 

反論できなかったらしく、双子は揃って目を逸らした。

ハッフルパフの一行が去ったあと、私たちは人通りの少ない道へ入り、村外れにある古い屋敷へ向かった。

 

外から見れば、長いあいだ使われていない別荘にしか見えない。そこで私の取り分を金貨と銀貨で受け取り、改良型のインスタントゴーストを引き渡す。

 

そして二人からは、ホグワーツの生徒名簿を書き写した羊皮紙や、寮ごとの噂、悪戯に反応しやすそうな生徒の一覧を受け取った。

 

「これは?」

 

「市場調査だ」

 

「誰に何が効くか分からないと、良い商品は作れないだろ?」

 

なるほど。道理だった。

 

取引を終えると、私たちは何事もなかったように屋敷を出て、ゾンコのいたずら専門店へ向かった。

 

店内には、噛みつくティーカップや、勝手に破裂する石鹸、触ると耳から煙が出る玩具などが所狭しと並んでいる。

 

ゾンコの店主のおじさんには、以前から何度か素材や部品を卸してもらったり、逆にうちの商品を卸したりした中だ。

 

「こんにちは」

 

「おや、ミッドナイトの嬢ちゃんじゃないか」

 

カウンターの向こうにいたゾンコのおじさんは、私を見るなり嬉しそうに笑った。

 

「例のゴースト玉、評判らしいな」

 

「まだ試作品です」

 

「完成したら、ゴーストをうちにも回してくれ。双子だけに持たせるには惜しい。いろいろ組みあわせられそうだ」

 

フレッドとジョージが同時に不満そうな顔をした。

 

「俺たちには先行販売の権利がある」

 

「そんな契約はしていません」

 

「今からしよう」

 

「条件次第ですね」

 

ゾンコのおじさんと少しだけ今後の販売について話し、私は店の奥にある暖炉を借りることにした。

 

そろそろ屋敷へ戻らなければならない。魂を詰めたトランクを長く持ち歩くのも、あまりよくない。暖炉へフルーパウダーを投げ込むと、緑色の炎が勢いよく立ち上った。

 

「また次を送ってくれよ!」

 

「今度はもっと叫ぶやつで!」

 

双子が口々に言う。

 

「品質が安定したら送ります」

 

私は鞄を抱え直し、炎の中へ足を踏み入れた。

 

「ダイアゴン横丁!」

 

次の瞬間、ホグズミードの景色は緑の炎に呑まれ、ぐるぐると回る暖炉の列へ変わった。

 

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