闇の魔術大好き少女が認められるまで   作:闇の魔術連盟名誉会員

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第13話: ホグワーツ特急

 

「あなたをホグワーツへ送ることになるなんて……本当にごめんなさい。辛くなったら、いつでも帰ってきていいのよ」

 

お母様は、私の両肩に手を置いたまま、何度目か分からない謝罪を口にした。お母様はたまにこのように精神が不安定になるけれど、いつも以上に酷い。

 

昨日からずっとこの調子だ。

 

入学許可証が届いたときには、魔法界最高峰の教育機関に入れるのだから喜ぶべきだ、と自分に言い聞かせていたらしい。けれど出発の日が近づくにつれ、娘を敵地へ送り込むような顔になっていった。

 

「大丈夫。楽しんでくるよ」

 

私は笑ってみせた。

 

「闇の魔術が誤解されないようになったら、私もうれしいし。ホグワーツの偏った教育を、内側から少しずつ改善してくる」

 

お母様は納得していない様子だったが、それでも最後には私を強く抱き締めた。

 

私としても、何の備えもなくホグワーツへ向かうつもりはない。

 

この日のために、私は自分の研究を一時中断し、お母様と考え得る限りの対策を施してきた。防御用の呪具、緊急脱出用のポートキー、各種解毒薬、予備の杖、魂を利用した簡易暖房器具。それから、教師や生徒に不当に拘束された際のための証拠保全用記憶瓶も用意してある。

 

これだけあれば、多少危険な学校でも一年くらいは生き延びられるだろう。

いよいよ、ホグワーツへ向かう日だ。

 

キングズ・クロス駅へ出発する直前、お母様は革袋を私の手に押しつけた。

持ち上げると、ずしりと重い。中では大量の硬貨が、じゃらじゃらと音を立てていた。

 

「こんなに?」

 

袋の口を開いてみると、金色の硬貨が隙間なく詰め込まれている。子供一人の小遣いとしては、明らかに多すぎる量だった。別に私も好き勝手にお金を動かしているので、必要なわけではない。

 

それでも、お母様は心配性だなぁと言って受け取った。

代わりに、完成した蛇語翻訳機の一号機を渡す。セルペンスとヒュドルス……うちのペットたちの世話を頼むためだ。

言い聞かせているので暴れることはないと思うけど、言葉が分からないと餌のことで文句が出そうだ。

 

 

そうして駅へ到着し、九と四分の三番線へ向かう途中だった。

 

柱と柱の間を通り抜けようとしたところで、警戒のために掛けていたモノクルの視界の端に妙なものが映った。

 

魂の質からして、ハウスエルフだ。目くらまし術の掛け方が人間と違うのか、モノクルに映っている。

 

レベリオで正体を暴くと果たして正解だった。それも、ハリーの家にいたのをネックレスを通して見たあのハウスエルフだった。

 

ハウスエルフはなにやら周囲をしきりに見回しながら、様子を窺っていた。そして、私に見られていると気づいた瞬間、ハウスエルフは逃げようとする。

 

怪しい…………一瞬の判断だった。

 

「インペディメンタ、ディフィンド、ペトリフィカス・トタルス」

 

杖先から閃光が迸って、ハウスエルフの小さな体に命中した。小さな体が硬直し、指が切り飛ばされ、体が石になってその場に倒れる。妨害・切断・石化が綺麗にはまった。指を落としておけば、ハウスエルフはまともに魔法を使えなくなる。あれは、魔法使いの杖のような役割も持っているらしい。

 

私は人目につかない物置へ運び込み、壁に固定した。念のため透明化呪文と防音呪文もかけ

「さて」

 

私は杖先を、ハウスエルフへ向けた。

 

「あなたは誰? ここで何をしていたの?」

 

「ドビーは……ドビーは、ハリー・ポッター様をお守りしなければなりません。あの方には危険が迫って……」

 

それだけを何度も繰り返し、話が少しも進まない。

 

「主人は誰? あなたに何をさせようとしたの?」

 

「ドビーは、誰にも命じられておりません! ドビーは悪い子、ドビーは悪い子です! ドビーはお仕置きを受けなければなりません!」

 

ドビーは激しく首を振ると、近くの柱へ頭を打ちつけようとした。再度、拘束を強めて落ち着かせる。

 

聞き出せた話は、ひどく要領を得なかった。

 

このドビーというハウスエルフは、ハリーに仕えているわけではない。別に主人がいるけれど、その名前は口にできないらしい。しかも主人から命じられたのではなく、むしろ主人の意向に背いて、独断でハリーを守ろうとしている。

 

夏休み中にはハリーの手紙を隠し、騒ぎを起こし、今度は九と四分の三番線へ入れないよう、入口そのものを封じた。すべて、ハリーをホグワーツへ行かせないためだという。

 

主人の命令を受けずに勝手な行動を取るというのは、奉仕種族としてかなり問題がある。もっとも、それ以上に不可解なのは、ハリーに迫っているという危険だった。

 

「答えて。ハリーに迫っている危険とは何?」

 

ドビーは口を閉ざす。

 

「ダンブルドアが関わっているの?」

 

大きな目が揺れたけれど、やはり答えない。いつまでも付き合ってはいられなかった。

 

「クルーシオ」

 

「アガガガガガッ!」

 

小さな身体が、拘束されたまま激しく跳ねる。数秒で呪文を止め、もう一度問いかけた。

 

「答えないなら、私自身がハリーを殺すと言っても?」

 

「いけません! ハリー・ポッター様を傷つけてはいけません!」

 

「では、話して」

 

軽い脅しと短時間の尋問によって、事情はすぐに判明した。

 

まず、このハウスエルフはマルフォイ家に仕えているらしい。そして屋敷で、ハリーを殺す計画を耳にしたという。

秘密の部屋を開き、その中にいる怪物をホグワーツへ放つ。怪物は生徒を襲い、いずれハリーも殺される。だからドビーは、ハリーを学校へ行かせないために動いていた。

それがドビーの主張するストーリーだ。

 

「クルーシオ!!」

 

何度かつついてもそれ以上のことは出てこない。少なくとも、本人は事実だと思っている。

 

私は少し考えた。どう考えても、ルシウスさんがそこまで危険な計画を実行するとは思えない。

 

ホグワーツには息子のドラコも通っている。あれでいて、ルシウスさんはドラコのことをかなり可愛がっている。息子まで巻き込みかねない怪物を、学校へ放つはずがなかった。

そもそも、ハリーを殺して何の利益があるのだろう。ルシウスさんは損得を考えずに動く人ではない。

 

つまり、この話のどこかがおかしい。

 

ドビーが聞き間違えたのか。

 

理解できない会話を勝手に結びつけたのか。あるいは、長年働き続けたせいで壊れ始めているのかもしれない。マグルの家電にも買い替え時があるのだから、ハウスエルフに寿命や故障があっても不思議ではない。

 

要するに、善意で暴走している、壊れかけのハウスエルフなのだろう。

 

「なるほど。善意だったというわけね」

 

ドビーは涙を流しながら、何度も頷いた。

だからといって、このまま解放するわけにはいかない。

 

またハリーを守るためと称して、何をするか分からない。

 

それに、ここで私に尋問されたことを誰かに話されても困る。後腐れのないよう、殺しておくことにした。

 

「アバダ・ケダブラ」

 

緑の閃光が走り、ドビーの身体から力が抜けた。

 

遺体は縮小呪文で小さくし、トランクの奥へしまう。

 

ハウスエルフの身体組織には、まだ研究されていない性質が多い。奉仕契約が肉体や魂へどう刻まれているのかも、詳しく調べられてはいない。

 

いずれ、役に立つだろう。

 

そこまで終えてから、私は時間を使いすぎたことに気づいた。

 

駅の時計を見上げる。

 

針は十一時を、わずかに過ぎていた。

 

九と四分の三番線は静まり返り、赤い蒸気機関車の姿はもうない。

ホグワーツ特急は、とっくに発車してしまっていた。

 

 

 

 

 

 

「まずい、まずい、まずい!」

 

駅を飛び出した私が出した結論は、箒だった。

今になって考えれば、煙突飛行網でホグズミードまで先回りするとか、学校へ事情を知らせるとか、もっと安全な方法はいくらでもあったはずだ。

 

けれど、そのときの私は、なぜか一度ダイアゴン横丁まで戻り、店の裏手に置いてあった箒、古いクリーンスイープを引っ張り出していた。

 

荷物を柄の下へ括りつけ、勢いよく地面を蹴る。

箒は狭い裏路地を飛び出し、そのままロンドンの空へ舞い上がった。

 

「もっと速く!」

 

柄を叩いて命じると、箒が不満そうに震えた。

 

普段なら箒の性能を超えるような飛ばし方はしない。無理に加速させれば、柄が軋み、飛行も不安定になる。

 

今日は仕方がなかった。

 

目くらまし術を重ね、地面に近い高さまで降りる。高空では風が強すぎるし、地上に近い方が建物や木々を目印に進みやすい。

 

煙突や屋根を掠めながら、ひたすら北へ向かう。耳元で風が唸り、帽子のつばが何度も持ち上がった。片手で帽子を押さえ、もう片方で柄を握る。

 

速度を上げるたび、下に吊るしたトランクが左右へ激しく振れた。

 

やがてロンドンの市街地が途切れ、家並みの代わりに畑と森が広がり始めた。その先に、白い煙が見えた。黒い機関車。深紅の客車。それが石造りの高架橋を渡り、森を縫うように北へ進んでいる。

 

ホグワーツ特急だ。

 

「見つけた!」

 

追いつくことだけを考えて進む。けれど、列車の後方へ近づいたところで、私は少し速度を落とした。

 

ここからは速さより、操作性と均衡が重要になる。

 

走る列車の窓へ飛び込むには、進行方向と速度を正確に合わせなければならない。少しでも角度を誤れば、客車へ激突するか、線路脇へ弾き飛ばされる。

 

私は箒の下へ吊るしていた荷物を片手で持ち上げた。揺れが収まったのを確認し、柄の上へ片膝をつく。

 

さらに身体を起こし、ゆっくりと立ち上がった。足裏に伝わる箒の震えが強くなる。

 

「ええいっ!!」

 

慣れていない箒では正直やりたくないけれど、ここを逃すわけには行かない。

 

腕を広げて均衡を取り、身体を前へ倒す。箒が再び加速し、ホグワーツ特急と並走し始めた。

 

ところが、線路はまっすぐではなかった。列車は森の中を縫うように走り、何度も緩く曲がっていく。線路の周囲には枝が張り出し、ところどころでは木々の間が、わずかほどしか空いていない。

 

列車は決められた道を通ればいい。

 

こちらはその横で、枝や幹を避けながら速度を合わせなければならなかった。

右。左。少し上。急降下。

箒の柄を足首と腰の動きだけで操り、次々と迫る枝をかわしていく。

 

そのうち、こちらに気づいた生徒が現れた。一人の少年が窓へ顔を寄せ、驚いたように口を開ける。その隣から別の生徒も覗き込み、私を指差した。やがて窓が開き、何人かが手を振り始める。

 

私は片手を上げて応えた。その瞬間、目の前に太い枝が突き出した。

 

「わっ!」

 

反射的に跳び上がる。私の身体だけが枝の上を越え、体重を失った箒は反動で大きく下へ沈んだ。

 

枝を挟んで、私は上。箒は下。

 

ほんの一瞬、両足が完全に柄から離れ、すぐにキャッチする。

 

窓から見ていた生徒たちが、一斉に歓声を上げた。

 

見せ物ではない。

 

けれど、手を振ったのはこちらなので文句も言いにくかった。さらに客車の横を進むと、見覚えのある赤毛が窓から身を乗り出していた。

 

ロンとジニーだ。

 

二人とも、こちらへ大きく手を振っている。

 

「フィナ!」

 

窓越しなので声はほとんど聞こえない。それでも口の動きで名前を呼んでいるのは分かった。

 

私は窓を指差し、入るという身振りをする。ロンが意味を理解し、慌てて窓をさらに大きく開いた。

 

あとは距離を詰めるだけだ。

私はトランクの持ち手を握り直し、客車へ少しずつ近づいた。

 

近づくほど、列車の車体が作る風に箒を取られる。

窓から吹き出す空気。車輪と線路が立てる振動。機関車から流れてくる煤煙。箒が細かく震え、客車との間隔が一定にならない。

 

近づきすぎれば壁へぶつかる。離れれば飛び移れない。

 

「もう少し……」

 

窓枠まで、あと腕一本分。私はまずトランクを持ち上げた。

 

「ロン、受け取って!」

 

「無理だって!」

 

そう言いながらも、ロンは窓から両腕を伸ばした。私は列車の揺れに合わせ、トランクを窓へ押し込む。

 

一度、角が窓枠へぶつかった。二度目で半分が入る。ロンとハリーが内側から引っ張り、ようやく客室の中へ転がり込んだ。

 

荷物がなくなると、箒は急に軽くなった。そのせいで高度が上がり、私の肩が窓より上へ飛び出す。

 

慌てて柄を押し下げ、もう一度位置を合わせる。

 

「今行きます!」

 

箒を窓のすぐ横まで寄せる。

片手で窓枠を掴む。もう片方の手を離した途端、箒が風に流されて後ろへ滑り始めた。私は窓枠へぶら下がり、足だけを箒の上に残した。

 

「引っ張れ!」

 

ロンが私の腕を掴む。

 

ジニーもローブの肩を掴んだ。私は箒を蹴り、身体を窓へ投げ込んだ。客室の床へ転がり込み、そのまま座席に背中をぶつける。

 

「あっ、箒!」

 

慌てて杖を振り、呼び寄せる。持ち主を失って後方へ流されかけていた箒が急旋回し、開いた窓から客室へ飛び込んできた。私たちの頭上を通り過ぎ、天井へ激突してから床へ落ちる。

 

一瞬、誰も口を開かなかった。

 

私は床に座り込んだまま、乱れた帽子を両手で直した。

 

「間に合った!」

 

 

「間に合ったじゃないぜ!」

 

ロンが顔を真っ赤にして叫んだ。

 

「君、自分が何をしたか分かってる? 走ってるホグワーツ特急に箒から飛び移ったんだぞ!」

 

「分かっていますよ。だから間に合ったんです」

 

「そういう意味じゃない!」

 

その隣で、ハリーは開いた窓から後方を眺めていた。

 

「すごかったよ。木の枝を飛び越えたところなんて、クィディッチの試合みたいだった」

 

それにこたえてハーマイオニーが厳しい顔で言った。

 

「走行中のホグワーツ特急へ、途中から乗り込んだ生徒なんて前例がないわ。そもそも、学校へ行くために箒で列車を追いかけるなんて――」

 

ジニーが嬉しそうに私の隣へ座る場所を空けてくれた。

 

「フィナ、こっちに座って。窓の外を飛んでいるのを見つけたとき、びっくりしたんだから」

 

私は床に落ちた箒とトランクを拾い、ジニーの隣へ腰を下ろした。

すると、客室の外から騒がしい足音が近づいてきた。

 

先ほど窓から見ていた生徒たちが、私の飛行について話しているらしい。廊下の向こうから、なにやら話しているのが聞こえてくる。

 

やがて客室の扉が勢いよく開いた。

 

現れたのは、フレッドとジョージだった。その後ろには、体格のよい上級生の男子が立っている。

 

「見事だったぞ、フィナ!」

「入学前から伝説を作るとは、さすが我らの共同開発者だ!」

 

双子は揃って拍手した。

 

「窓から入る直前の動きなんて最高だった」

「特に、箒だけ枝の下を通して、自分は上を越えたところだな」

 

「あれはわざとじゃありません」

 

「わざとかどうかなんて関係ない」

「見た目が派手なら、それでいいんだ」

 

二人の後ろにいた少年は、私ではなく床へ置いた箒を見つめていた。

 

「君が今飛んでいた子か?」

 

「はい。セレフィナ・ミッドナイトです」

 

「オリバー・ウッド。グリフィンドールのクィディッチ・チームでキャプテンをしている」

 

ウッドはそう名乗ると、身を乗り出した。

 

「森に入ってから、列車と並走していただろう。木を避けるときの切り返しを見た。あれはウォロンゴン・シミーに近かった」

 

「ウォロンゴン……?」

 

「相手を惑わせるために、左右へ細かく進路を変える飛行技術だ。君は木を避けるために使っていたけど、チェイサーをかわすのにも使える」

 

そう言われても、私はただ枝へぶつからないよう、ジグザグに飛んでいただけだった。

ウッドはそんなことを気にせず、ますます真剣な顔になる。

 

「すごい飛びっぷりだったよ。それで、新入生なんだって?」

 

「そうです」

 

「ぜひグリフィンドールへ来てくれ。補欠どころか、練習次第ではレギュラーも狙えるぞ」

 

「まだ組分けも終わっていませんけど」

 

 

ロンとハリーが揃って頷いた。

一方、ハーマイオニーは腕を組んでいる。

 

「クィディッチの勧誘より先に、危険な飛行をしたことを先生へ報告するべきじゃないかしら」

 

「報告?」

 

ウッドの顔が曇った。

 

「そうよ。目くらまし術を使ってロンドン上空を飛び、走行中の列車へ飛び移ったのよ。少なくとも三つは校則に――」

 

「まだ入学式前だから、校則違反じゃない」

 

フレッドが即座に言った。

 

「まだ正式な生徒ではないからな」

 

ジョージも続ける。

 

「つまり完全に合法だ」

 

「魔法省の法律には違反しているかもしれないわ!」

 

「それは学校の管轄外だ」

 

「そういう問題じゃないでしょう!」

 

ハーマイオニーと双子が言い合いを始める。

その横で、ウッドはまだ私を見ていた。

 

「とにかく、組分けが終わったら声を掛けてくれ。グリフィンドールだったら、すぐに飛行を見せてもらいたい」

 

「考えておきます」

 

「絶対だぞ」

 

ウッドは念を押し、双子を連れて客室を出ていった。

扉が閉まると、ロンが呆れたように息を吐いた。

 

「まだ学校にも着いてないのに、もうクィディッチ・チームから勧誘されるなんて」

 

「フィナなら普通よ」

ジニーは、なぜか自分のことのように得意そうだった。

 

楽しい学校生活になりそうだった。

 

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