闇の魔術大好き少女が認められるまで 作:闇の魔術連盟名誉会員
ホグワーツには、四つの寮がある。
グリフィンドール、スリザリン、レイブンクロー、ハッフルパフ。
入学後、闇の魔術を広めていくことを考えれば、どの寮に入るかはとても重要だった。
まず、グリフィンドール。
勇猛果敢で、困難を恐れず正義感が強い。悪く言えば無鉄砲な者が集まる寮だ。
そして何より、ダンブルドア校長とマクゴナガル副校長を排出している。現在のホグワーツにおける思想的支配を、中心となって推し進めている寮と考えてよいだろう。
正義感が強いということは、自分たちが悪だと判断したものを徹底的に排除するということでもある。闇の魔術が敵の側へ分類されれば、四つの寮の中でも、もっとも強い弾圧を加えてくるはずだ。
次に、スリザリン。
狡猾さと野心を重んじ、目的のためなら手段を選ばない傾向が強い。その性質自体は、研究者や商人にとって悪いものではない。けれど、過去には魔法族を殺すという気の狂った行為を平然と繰り返し、闇の魔術全体の評判を大きく悪化させた者も多かった。
闇の魔術が悪いのではない。使う魔法使いが、技術の価値を理解せず、ただ魔法使いに対
して破壊や支配のために振り回したのが悪いのだ。
闇の魔術との親和性が最も高いのもスリザリンだろう。最初から拒絶される可能性は低い。
レイブンクローは、知識や知性を重んじる寮だ。
グリフィンドールとスリザリンの対立にも、積極的には関わらないらしい。闇の魔術についても、最初から善悪で判断するのではなく、効果や構造、使い方から評価してくれる可能性が高い。研究成果を発表する相手としては、一番話が通じそうだった。
最後に、ハッフルパフ。
正直なところ、よく分からない寮だ。
勤勉、誠実、公平。
それから、ほかの寮が選ばなかった者も受け入れる、広い包容力があるという。すべてを受け入れてくれるのなら、闇の魔術も受け入れてくれるかもしれない。少なくとも、話を聞く前から追い出されることはなさそうだった。
そうして考えると、私が入るべき寮は、やはりグリフィンドールだった。
闇の魔術を受け入れやすいスリザリンへ入っても、既に理解している相手を増やすだけだ。レイブンクローやハッフルパフも、時間を掛ければこちらの話を聞いてくれるだろう。
けれど、最大の障害となるのはグリフィンドールだ。
ならば最初から、その中へ入ってしまえばいい。
最も強く反対する集団の中で、闇の魔術が役に立つことを証明する。そこさえ攻略できれば、ほかの寮も後に続くだろう。
問題は、私が普通に組分け帽子をかぶれば、おそらくスリザリンへ送られることだった。
「フィナは放っておけば、間違いなくスリザリンでしょうね」
お母様にも、以前そう言われている。
目的のために方法を選び、必要なら長い時間を掛けて準備し、他人の目を欺くことにも抵抗がない。
たしかに、スリザリンが好みそうな性質ではある。そんな私がグリフィンドールへ入るためには、それなりの仕掛けが必要だった。
組分け帽子は、かぶった生徒の心を読み、その性質に合った寮を選ぶという。つまり、帽子による精神開示から本当の思考を隠し、代わりに必要な情報だけを読み取らせればいい。
グリフィンドールを望む意志。
勇気を重んじる価値観。危険を恐れず、仲間を守ろうとする性質。そうした信号を表面へ植え付け、帽子に参照させるのだ。
精神を読む魔法として最も近いものは、開心術だろう。
一般的な開心術は、相手の目を通して精神へ入り込む。
だから、相手が目を閉じていたり、視線を合わせなかったりすれば、難易度は大きく上がる。魂片を対象へ埋め込み、そこを入口として精神へ侵入する方法も考えているけれど、まだ成功していない。
では、組分け帽子はどうやって心を読むのか。
私の推測した答えはそう難しいものではないというものだ。
おそらく帽子を頭へ載せ、受け入れてかぶるという行為そのものが、精神への接続を成立させている。つまり、かぶった者は無意識のうちに、帽子の開心術を受け入れているのだ。
その経路を通して、組分け帽子は記憶や性格、欲求を読み出し、もっとも適した寮を判断しているのだろう。
逆にいえば、その接続先に私以外のものを挟めばいい。そのために用意したのが、形代の要領で作った小さな人形だった。
核には、私自身の魂を薄く削り、加工したものを使っている。
まったく無関係な魂では、帽子が接続の不自然さを見抜くかもしれない。だからまず、私と同じ波長を持つ魂を土台にする必要があった。
ただし、削り取った魂片だけでは薄すぎて、疑似的な精神を維持できない。そこで、人格や記憶を持たない純粋な魂を加え、容量と強度を補ってある。最後に香りづけとして、グリフィンドールに好まれそうな記憶を持つ魂を継ぎ足した。
危険を前にして退かなかった記憶。仲間を守るために、自分から前へ出た記憶。恐怖を感じながらも、それでも行動を選んだ記憶。
そうした断片だけを選別し、人形の疑似的な心へ縫い込んである。
完成した人形と私の心は、完全につなげるわけではない。
細く、薄い経路だけを通しておく。必要なときだけ、私の記憶や感情を人形の側へ展開し、それを人形自身のものとして表面へ浮かび上がらせるためだ。
組分け帽子が私の精神を読もうとすれば、まず人形の疑似人格へ触れる。
そこには、私とよく似た魂の波長があり、私の記憶の一部があり、さらに勇気や自己犠牲にまつわる印象の強い記憶が並べられている。
帽子はそれを私の心だと思い、その内容を吸い上げる。そして、グリフィンドールにふさわしいと判断する。
要するに、帽子に偽の答えを見せるのではない。帽子が自分で読み、自分で判断し、自分の意思でグリフィンドールを選んだと思わせるのだ。
ホグワーツ城へ着いた私たち新入生たちは、上級生たちと分かれて湖を渡る。城内に入った後はマクゴナガル先生に導かれ、大広間の手前にある小部屋で待たされていた。
石造りの壁はひんやりとしていて、どこからか古い蝋と湿った木の匂いが漂ってくる。
天井は高く、壁には細長い窓が並んでいた。その向こうには夜の闇と、城を囲む湖の鈍い光が見える。扉の向こうからは、何百人もの生徒が話す声が響いていた。
もうすぐ、あの中へ入る。
そして、組分け帽子をかぶる。
私はローブの内側へ隠した小さな人形が、きちんと動いていることを確認した。私の心と人形をつなぐ細い経路は、まだ閉じてある。帽子をかぶる直前に開けばいい。
「フィナ」
隣にいたジニーが、私の袖を小さく引いた。
「私、ちゃんとグリフィンドールに入れるかな?」
いつもの元気はなく、顔色も少し青い。
「大丈夫、大丈夫!」
「でも、もし違う寮になったら……家族で私だけ別になっちゃう」
ジニーの兄たちは、全員グリフィンドールだ。自分だけ違う寮へ入れられる可能性を、ずっと考えていた。
「ジニーは勇敢ですから、きっと入るよ」
ジニーは少し考え、それから小さく笑った。
「フィナもグリフィンドールに来てね」
「そのつもりです」
帽子の判断が正しければ、ではなく、こちらの仕掛けが正しく働けば。
そのとき、反対側から小柄な男の子が近づいてきた。薄茶色の髪を短く切り、首から大きなマグル製のカメラを下げている。
「ねえ」
男の子は私たちの前で立ち止まった。
「僕、コリン・クリービー。君たち、あのハリー・ポッターと一緒にいたんだよね?」
「うん。兄の友達なの」
ジニーが答えると、コリンの目が輝いた。
「やっぱり! 駅で少し見えたんだ。額に傷がある子だよね? 本当にハリー・ポッターなんだよね?」
「そうですよ」
私が答えると、コリンは首から下げたカメラを両手で握った。
「すごいや。僕、写真を撮りたいんだ。魔法界へ来たばかりだから、見るものが全部すごくて。動く写真もあるんだよね?」
コリンはよく喋った。
マグルのカメラと魔法界の写真の違い、持ってきたフィルムの本数、ホグワーツでは何を撮りたいか。
そうした他愛のない話をしているうちに、どうして写真が好きになったのかという話になった。
コリンはカメラの紐を指で弄りながら言った。
「お父さん、夜の配達中に車に轢かれて……そのまま。犯人は逃げちゃって分からないんだ」
声が少しだけ小さくなる。 コリンは首から下げたカメラを握りしめた。
「もし僕がその……魔法でその時の写真を撮れたら、犯人を見つけられるかもしれないって思って」
コリンは俯いたあと、少し顔を上げた。
「僕はもう十歳だったのに、何もできなかったんだ。ハリー・ポッターは、赤ちゃんだったのに、その……敵を倒したんだろ? すごいや」
ずいぶん飛躍した考え方ではあった。
けれど、父親を失ったときに何もできなかった自分と、赤ん坊でありながら強大な敵を退けたハリーを、コリンは比べずにはいられないのだろう。
「ごめん。いきなりこんな話をして」
コリンは無理に笑った。
「僕、緊張すると、何でも喋っちゃうんだ」
「大丈夫だよ」
私は優しく笑いかけた。私たちはその後、どの寮に入りたいかや、コリンが魔法界で初めて見たものについて話した。
コリンはグリフィンドールに入りたいらしい。理由は、ハリー・ポッターがいるからだった。
しばらくすると、正面の扉が開いた。先ほどまでざわめいていた新入生たちが、一斉に黙る。
マクゴナガル先生が、厳しい顔で私たちを見渡した。
「整列しなさい。これから大広間へ入ります」
二列に並び、扉をくぐる。
その先には、想像していたよりもずっと広い空間が広がっていた。
大広間には、四本の長いテーブルが縦に並び、何百人もの生徒がこちらを見ている。
無数の蝋燭が宙に浮かび、炎を揺らしていた。高い天井には夜空が映し出され、雲の切れ間から星が瞬いている。本物の空のように見えるけれど、あれは魔法で作られた天井だろう。
正面の教員席には、さまざまな格好をした先生たちが並んでいた。
その中央に、長い銀色の髭をたくわえた老人が座っている。
アルバス・ダンブルドア。
ダンブルドアは穏やかに微笑みながら、新入生たちを眺めている。
けれど、目だけは笑っていないように見えた。あるいは、私がそう思っているだけかもしれない。
大広間の中央には、三本脚の椅子が置かれていた。
その上に載っているのは、古びて先の尖った帽子。
組分け帽子だ。
帽子は突然裂け目のような口を開き、歌い始めた。四つの寮の歴史と、それぞれが求める性質についての歌だった。どうやら、チュートリアルもやってくれるようだ。
生徒たちは楽しそうに聞いていたけれど、私はモノクルを掛けて帽子の魔法を観察する。
古い。けれど、非常に複雑だ。帽子そのものに人格が宿り、千年近く維持されている。単純な付喪神でも、記憶を込めただけの魔法道具でもない。
創設者たちの人格や判断基準の一部を、魂に近い形で封じてあるのかもしれない。
できれば持ち帰って分解してみたい。
歌が終わると、大広間に拍手が響いた。
マクゴナガル先生が羊皮紙を広げ、名前を読み上げ始める。呼ばれた生徒が前へ進み、椅子へ座り、帽子をかぶる。
しばらくすると、帽子が寮の名前を叫んだ。
「ハッフルパフ!」
「レイブンクロー!」
「スリザリン!」
そのたびに、該当するテーブルから歓声が上がる。
コリン・クリービーの名前が呼ばれた。彼は緊張した足取りで前へ出る。
帽子は頭へ載せられてから、ほとんど間を置かずに叫んだ。
「グリフィンドール!」
グリフィンドールのテーブルから大きな拍手が起こる。
コリンは顔を輝かせ、ハリーのいる方へ駆けていった。少しずつ、私の番が近づいてくる。
私はローブの内側へ指を入れ、人形に触れた。冷たい人形の表面が、脈打つように微かに震えている。それを髪の毛の中に入れる。これで人形が帽子を被ったとも取れる状況がで
きるはずだ。
心と人形をつなぐ経路を開く。私の記憶の一部が、細い糸を伝って人形へ流れ込んだ。
危険へ飛び込んだ記憶。誰かを助けた記憶。敵の中へ一人で潜り込もうとする決意。それらの表面へ、別の魂から取り出した勇気と自己犠牲の記憶を重ねる。疑似人格がゆっくりと目を覚ました。
準備はできた。
マクゴナガル先生が、羊皮紙へ目を落とす。
「セレフィナ・ミッドナイト」
大広間が、わずかにざわめいた。
私は一歩、前へ出た。
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