闇の魔術大好き少女が認められるまで   作:闇の魔術連盟名誉会員

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第16話: たのしいホグワーツ

大広間を出ると、上級生の監督生――とりわけ張り切っているパーシーに先導されて、私たちはグリフィンドール塔へ向かった。

 

「一年生は列を乱さないように! 勝手に脇道へ入らないこと! 肖像画に話しかけられても、いちいち立ち止まらない!」

 

よく通る声が、石造りの廊下に響く。

 

その後ろを歩きながら、私は周囲を見回した。ネックレスを通しても、移動時間なんかは見ないことが多いので、意外と新鮮だった。

 

ホグワーツの廊下は、思っていた以上に落ち着かない。

 

天井は高く、石造りの壁には松明が一定間隔で灯されている。けれど、炎はほとんど煙を出さず、風もないのに時折ふっと揺れた。

 

壁一面に掛けられた肖像画はもっと騒がしい。絵の中の魔法使いたちは、こちらを眺めたり、隣の額縁へ移動したり、酒を飲みながら一年生の品評をしていた。

 

「そこの白髪の子、さっき組み分け帽子をずいぶん困らせていた子じゃないか?」

 

聞こえています。

 

 

階段も信用できなかった。途中までは普通の大階段だったのに、全員が乗り終えたところで、低い軋み音とともに階段そのものが横へ動き始めた。

 

「うわっ」

 

誰かが声を上げる。

 

私は手すりから下を覗き込んだ。何階分あるのか分からない吹き抜けの中を、何本もの階段がゆっくりと場所を変えている。

 

面白い。ただ、急いでいるときには絶対に腹が立つと思う。

 

「この階段、勝手に動くの?」

 

私が尋ねると、前を歩いていたパーシーが振り返った。

 

「いくつかはな。曜日で行き先が変わるものもあるし、途中に消える段もある。慣れるまでは気をつけろよ」

 

「設計した人、性格悪いと思う」

 

そうコリンが呟くと、ジニーが小さくフレッドとジョージを指さした。確かに、彼らならやりかねない。

 

ハーマイオニーだけは真面目な顔で、

「きっと侵入者への防御も兼ねているのよ」

などと言っている。

 

いや、たぶん単に面白がって作った人もいると思う。

 

私も今度魔法を掛けてみようかな。マグルの駅にあるエスカレーターとかいうのになったら面白そうだ。

 

 

さらにいくつか階段を上がり、細い廊下へ入る。窓の外はもう真っ暗だった。

 

遠くに禁じられた森の黒い影が広がり、その向こうには山並みが月明かりに浮かんでいる。昼間なら綺麗なのだろう。夜は少し不気味だ。

 

廊下の突き当たりで、監督生が足を止めた。

 

そこには扉がなかった。

 

代わりに、豪華なドレスを着た太った女性の肖像画が掛かっている。

 

絵の中の女性はこちらを見ると、少し顎を上げた。

 

「合言葉は?」

 

「カプト・ドラコニス」

 

パーシーが答える。

 

すると肖像画が、「よろしい」と言って、額縁ごと横へ開いた。

 

その奥に丸い穴が現れる。

 

「ここから?」

 

「ここから」

 

ハリーが先に潜っていった。

 

私もそのあとへ続く。穴を抜けた瞬間、暖かな空気が顔に当たった。

 

グリフィンドールの談話室は、廊下とはまるで雰囲気が違っていた。丸い大部屋の中央では、大きな暖炉が赤々と燃えている。床には厚い絨毯が敷かれ、その上に深紅色の肘掛け椅子や長椅子が、暖炉を囲むように置かれていた。

 

壁には赤と金の旗や古びたタペストリーが掛けられ、ところどころにクィディッチの写真や、歴代生徒らしい集合写真まで飾られている。

 

窓は細長く、分厚いカーテンが下ろされていた。石造りの城の中なのに、ここだけはずいぶん暖かい。木の匂いと、暖炉の煙と、誰かが食べている菓子の甘い匂いが混ざっている。

 

「ようこそ、グリフィンドールへ。歓迎するぜ」

 

「まあ、我が不肖の弟子としては当然の結果だな。これからも頼むぜ」

 

左右から伸びてきた手が、ぽんぽんと私の肩を叩いた。

 

フレッドとジョージだ。

 

「弟子になった覚えはないんですけど」

 

「なんだと?」

 

「先生に向かってその態度」

 

「いつから先生になったんですか」

 

「そんなことを言うと――」

 

フレッドが意味ありげに顔を近づける。

 

「ホグワーツで生きていくための、役に立つ情報を教えてやらないぞ」

 

「それは例えば?」

 

「フィルチに見つからずに厨房まで行く道とか」

 

「それは知りたいです」

 

「ほら弟子だ」

 

しまった。

ジョージが勝ち誇ったように腕を組む。

 

「素直なのは弟子の美徳だぞ」

 

「そこだけ切り取らないでください」

 

双子が楽しそうに笑っていると、その向こうからハーマイオニーがこちらへ近づいてきた。

 

教科書の買い出しの時に挨拶だけしたけれど、寮が一緒になれば話す機会も増えそうだった。

 

教科書の買い出しのときに挨拶だけはしたけれど、同じ寮になったのなら、これから話す機会も増えそうだった。

 

「ねえ、えっと……セレフィナ」

 

「フィナでいいですよ」

 

「じゃあ、フィナ」

 

ハーマイオニーは少しだけ嬉しそうに笑った。

 

「私、あなたの話をずっと聞いていたの。だから、一緒の寮になれて嬉しいわ」

「私の話?」

 

「ええ。入学前からいろいろ魔法を勉強しているって。それに――」

 

そう言いながら、彼女の視線が私の荷物へ向いた。

 

「あなたも、本が好きなの?」

 

私のトランクとは別に持ち込んだ鞄には、こっちで読むための本が何冊も詰め込んである。魔法史、錬金術、魔法生物、古代文字。それに、表紙だけ見れば普通の魔法理論書にしか見えないものが何冊か。

 

……大丈夫。

 

見られて困る本は、全部別の場所にしまってきたはずだ。

私は大きく首肯した。

 

「はい。ホグワーツの図書館には、うちにもない本がいっぱいあるって聞いたから、楽しみにしてました」

 

ハーマイオニーの顔がぱっと明るくなった。

 

「そうなの! 毎日読んでも読み切れないくらい本が詰まっているのよ。魔法史も変身術も、それに魔法生物についての本も――今度、私が案内してあげるわ」

 

「ほんと?」

 

「もちろんよ」

 

思わず身を乗り出す。まあ、私の読みたい本は多分禁書だが、この調子だと理由を上手くつければ協力してくれそうだ。

 

その様子を少し離れた長椅子から眺めていたロンが、ハリーの肩をつついた。

 

「おいおい。フィナのやつ、ハーマイオニーの図書館ツアーに行くつもりだぜ」

 

ロンはわざと声を潜める。

 

「三年は出てこられないぞ」

 

ハリーが苦笑した。

 

「でも、フィナなら普通に最後まで付き合いそうだよ」

 

「だから問題なんだよ。上級生によるいじめに当たらないといいけどな」

 

「聞こえてるわよ!」

 

ハーマイオニーが振り返った。

 

「言っておきますけど、あなたたちみたいに本をろくに読まない人と違って、本を通じて広い知識に触れる方法を知っている人は、持っている本を見ればだいたい分かるの」

 

「本のリストだけでそこまで分かるのかよ」

 

「分かるわ」

 

きっぱりと言い切った。

 

「フィナの本には、魔法史だけじゃなくて、錬金術、古代文字、魔法理論まであるもの。ちゃんと分野を跨いで読んでいる証拠よ。それに、ほとんど入門書じゃなくて何歩も入ったような本。」

 

私は深く頷いた。

 

「私もそう思います。本って、一つの分野だけ読んでいても分からないことがありますからね」

 

「そうよね!」

 

ハーマイオニーがさらに嬉しそうになる。

 

「やっと、本についてちゃんと話せそうな相手が入ってきたと思ったの」

 

「私も嬉しいです。おすすめがあったら教えてください」

 

「ええ。フィナのおすすめも教えて」

 

「もちろん」

 

何冊か頭に浮かんだ。

 

ただし、そのうち半分くらいは学校へ持ち込んだら怒られそうなので、最初は無難なものからにしたほうがいいだろう。そのうち、こっそりハーマイオニーが読んでいる本に闇の魔術を紛れ込ませておいたらどうかな。

 

少し離れたところで、ロンがハリーの袖を引っ張った。

 

「なあ、ハリー」

 

「なんだよ」

 

ロンは私たちを見ながら、ひどく真剣な顔をしている。

 

「あの二人がくっついたら、とんでもない方向に暴走するぜ」

 

ハリーもこちらを見る。

 

ハーマイオニーは既に「図書館で最初に確認する棚」の話を始めていた。私はその横で、禁書区にはどういう本が置かれているのだろう、と考えていた。

 

ハリーはしばらく黙ったあと、

「……僕もそんな気がする」

と頷いた。

 

失礼だなあ。まだ何もしていないのに。

 

ジニーと談笑していると、今度はウッド先輩がこちらへ近づいてきた。

 

グリフィンドールのクィディッチチームのキャプテンで、ホグワーツ特急でもずいぶん熱心に私を勧誘していた人だ。

 

「よくグリフィンドールを選んでくれた!」

 

いきなり両肩を掴まれそうな勢いで歓迎される。

 

「これで今年もスリザリンを叩きのめしてやれるぞ」

 

「まだ入るとは言ってませんよ」

 

「細かいことはいい」

 

よくないと思う。

 

すると、ウッド先輩の後ろから、背の高い女子生徒が顔を出した。

 

「あなたが列車の横を飛んでた子?」

 

「はい」

 

「すごかったよ。まさか新入生だったなんて思わなかった」

 

アンジェリーナ・ジョンソンと名乗った彼女も、グリフィンドールのクィディッチ選手らしい。

 

「左右に木を躱していくところなんて、こっちがひやひやしたけど」

 

アンジェリーナ先輩が笑う。

 

クィディッチチーム。

ホグワーツでも花形だ。ただでさえ授業や図書館、それに自分の研究もしたいのに、これ以上予定を増やして大丈夫なのかという気もする。

 

でも箒で飛ぶのは好きだし、誰かに追われたり、呪文を避けたりするためではなく、ただ競技として思い切り飛ぶというのも楽しそうだった。いつか、闇の魔術が誤解されなくなったら、ずっとそうなるのかもな。

 

「まあ、それでだ」

 

ウッド先輩が話を戻した。

 

「マクゴナガル先生にも話してある」

 

早い。

 

「明日なら競技場が空いているそうだ。授業が終わったら、一度そこで飛んでみてくれ」

 

「明日ですか?」

 

「ああ。一年生の最初の数日は、授業といっても説明やガイダンスが多い。少しくらい遅くなっても問題ない」

 

アンジェリーナ先輩も頷く。

 

「こういうことだけは異様に話が早いから」

 

「こういうことだけとはなんだ」

 

「クィディッチ以外の話で、その行動力を見たことないもの」

 

「今年も優勝しなきゃならないんだぞ」

 

二人のやり取りを眺めながら、私は小さく息を吐いた。入学初日から、図書館へ行く約束をして、上級生に捕まり、今度はクィディッチの試験まで入った。

 

ホグワーツは、思っていた以上に忙しいところらしい。それにしても…………マクゴナガル先生ってちょっと不思議な人なのかもしれない。そう、私は思ったのだった。

 

 

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