闇の魔術大好き少女が認められるまで 作:闇の魔術連盟名誉会員
朝起きると、まず地下へ降りて蛇たちに餌を与えた。最近は動物ばかりだと文句を言うセルペンスをなだめ、毒液を回収して棚に保管する。
朝食を食べ終えた頃、屋敷のどこかで小さなベルが鳴った。
店にフクロウ便が届いた合図だ。
もちろん、届いた手紙がそのまま屋敷へ転送されてくるわけではない。呪いや追跡魔法の掛かった荷物を送り込まれては困るからだ。
店内の受取台へ置かれた手紙は、まず自動検査を受ける。
封筒を開かずに内容だけを読み取り、自動転写羽根ペンが新しい羊皮紙へ文章を書き写す。転写された紙は店と屋敷をつなぐ小型の転送箱へ入り、原本は検査が終わるまで店内の隔離棚に保管される。
数分後、机の上の箱が音を立てた。
蓋を開けると、まだインクの乾いていない羊皮紙が一枚入っている。
差出人の名を見て、私は椅子へ座り直した。ウィーズリー家の双子からの手紙だった。
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やあ、フィナ。
僕たちは今、とても教育的で、実用的で、たぶん校則にも書かれていない新商品を開発している。
その名も、インスタント・ゴースト。
球を床や壁やフィルチの足元へ投げつけると、中からゴーストもどきが飛び出す。そいつは悲鳴を上げ、周囲を飛び回り、誰か一人を執拗に追いかけたあと、教師が駆けつける少し前に消える。
完璧だろう?
ゴーストを少しだけ操れる呪文を見つけて作り始めて、球を割るところまでは成功した。煙も出る。悲鳴も鳴る。試作品の一つはジョージの眉毛を燃やした。
ああ、誤解しないでくれ。危ないものじゃない。少なくともクィディッチよりは安全だ。この間パパの前で話さなかったのは危険だからじゃなくて、君のようにイタズラのセンスがある相手にだけ相談したかったからなんだ。
そう、そんな素晴らしいものなんだけど、残る問題は肝心のゴーストがまだ入っていないことだ。
今のところ球を割ると、煙の中から僕たちの罵声だけが聞こえる。これはこれで商品になりそうだが、ゴーストと呼ぶには少し生々しすぎる。
そこで君を思い出した。
前に、卵を割ると鶏のゴーストが飛び出してくる道具を作っていただろう。
壁をすり抜けたところで、初めて自分がゴーストになっていると理解し、たいそう驚いた顔で消滅していった、あれだ。
あれと同じようなものを作ってくれないだろうか。
もちろん、報酬は弾む。
商品が完成すれば、こちらから宣伝するまでもない。廊下で二、三個割るだけで、フィルチが顔を真っ赤にして全校生徒へ商品の特徴を説明して回ってくれるはずだ。
宣伝費は無料。購買意欲への効果は絶大。たぶん没収もされる。大量に売れるに違いない。
あと、何かを送るときは、ハリー経由にしてくれないか。最近、僕たちどころかロン宛ての荷物までもをフィルチが狙っている。本人は「危険物の検査」と呼んでいるが、僕たちは「新商品の先行体験会」と呼んでいる。
追伸
来年、君がホグワーツへ来るのが楽しみだ。いまからでも校則を読んでおくのをおすすめする。破るためには、まず正確に知る必要がある。
フレッドとジョージ もしくは ジョージとフレッド
"""
手紙に書かれていたのは、想像どおり新しい悪戯用品についての相談だった。
闇の魔術振興委員会―今のところ会員は私一人なので、正式名称の後ろにはまだ「仮」が付いている―の会員第一号としては、喜ばしい依頼だ。
私の理想は、闇の魔術が知らないうちに人々の暮らしへ溶け込むことだった。
闇の魔術だと聞けば顔をしかめる人でも、便利な道具として先に使わせてしまえば、案外あっさり受け入れる。使ったあとで原理を知ったとしても、すでに便利さを覚えてしまっていれば、以前と同じように排斥するのは難しい。
空飛ぶ車を動かすのも闇の魔術。店の防犯装置を動かすのも闇の魔術。子供たちが廊下で投げ合う悪戯用品も闇の魔術。
そうやって用途を少しずつ増やしていけば、いつか「闇の魔術だから危険」という考え方の方が古くなるはずだ。
その一つとして、インスタント・ゴーストは悪くない。
まあ、ウィーズリー家の皆さんはどうも純血の魔法使いのわりに、闇の魔術をものすごく毛嫌いしているみたいなので、今はそうと知られないようにしないといけない。マグル生まれがそういう発想になるのは分からなくないけど、代々の魔法使いでそうなるのは不思議だなぁ。
それはともかく、問題となるゴーストもどきの作り方には、すでに心当たりがあった。
以前の鶏の実験で分かったことだけれど、魂は小さく切り分けるほど安定性を失う。人格や記憶のまとまりを保てないほど細かく刻めば、それぞれの魂片は自分が何者だったのかさえ分からなくなる。
ただし、完全に魔力を失うわけではない。
細かく刻んだ魂片を一時的に結び合わせ、外部から魔力を流し込むと、残った記憶を寄せ集めて、生前の姿に近い仮の身体を作ろうとする。
鶏の魂なら、半透明の鶏になる。羽根もある。嘴もある。鳴き声も出す。
ただし、自分を形作っている魂片同士の結びつきが弱いため、長くは保たない。
あの鶏は、卵から飛び出した直後こそ元気に走り回っていたけれど、壁をすり抜けたところで立ち止まった。
自分の身体が壁を通り抜けたことを理解したのだろう。足元を見て、羽根を見て、最後に私を見た。
そして、自分がすでに死んでいることに気づいたような顔をして、そのまま端から崩れて消滅した。
出現から消滅まで、約四十秒。双子が求めている性能には、むしろちょうどいい。
長く残りすぎるゴーストは回収が面倒だし、本物の霊のように自我を獲得されても困る。驚かせ、追いかけ、教師が到着する前後に勝手に消える。それだけなら、不安定な魂片の方が都合がよかった。
私は便箋の裏に、必要な構造を書き出していった。
まず、容器は二重構造にする。
外殻は、軽い衝撃程度では壊れず、石壁や床へ強く衝突したときだけ割れる硬さが必要だ。内側には、魂片を一時的に安定させるためのルーンを刻む。
素材は金属である必要はない。むしろ、双子が大量に売るつもりなら、安価で軽く、同じ形に成形しやすい素材の方がいい。
最近マグルとの取引で使い始めた「プラスチック」と呼ばれる素材が使えそうだった。
熱を加えると柔らかくなり、型へ流し込めば同じ形の容器をいくつでも作れる。色も自由につけられるし、落としただけでは割れない程度の丈夫さにもできる。それを生かして、指定すれば大量に同じ形状のものを作ってくれるのだ。
もちろん、マグルの工場へ魂の保存容器を作らせるとは説明しない。どうせ分からないのだから、玩具用の中空球とでも言っておけばいい。
工場には、指定した模様を内側へ刻んでもらう。マグルには、それがルーン文字なのか、ただの装飾なのか区別できない。設計図どおりに溝を成形するだけなら、魔力を持たない人間でも問題なくできる。
ただし、刻まれた時点では単なる模様だ。完成した容器をこちらで受け取り、私が魔力を流して、ルーンを起動させる必要がある。
球が割れる。固定が解ける。蓄えていた魔力が魂片へ一気に流れ込む。魂片は生前の姿を真似た仮の身体を作りながら、煙と一緒に飛び出す。
仕組みとしては、それほど複雑ではない。
あとは、肝心の魂を用意するだけだった。
けれど、これも難しくはない。大きな魂を加工した際には、どうしても使い道のない端切れが出る。記憶が濃すぎるもの、感情が偏りすぎているもの、性格の一部だけが残っているもの。
普段なら廃魂槽へ捨てるところだけれど、それらをまとめて細かく粉砕し、一回分ずつ容器へ詰めればいい。
最近、マグルの世界では、捨てるはずのものを別の用途へ使うことを「リサイクル」と呼ぶらしい。たぶん、これもそれに近い。魂の端切れを無駄にせず、子供たちが楽しめる商品へ生まれ変わらせる。
とても環境に優しいマグル愛護に溢れた商品だ。
そこまで考えたところで、インスタント・ゴーストの実現には、ほとんど目処が立っていた。
私はすぐに返事を書いた。
試作品は、遅くともクリスマスまでには完成すること。最後に、荷物は言われたとおりハリー経由で送る、と付け加える。
クリスマスまでには、ホグワーツの廊下をゴーストが走り回ることになるだろう。楽しみだ。
手紙をフクロウ便へ回すと、私はその足でウィーズリー家へ向かった。
約束していた時間より少し早いけれど、遅れるよりはいい。
もちろん、目的は空飛ぶ車へ新型動力装置を取り付けることだ。
まず漏れ鍋まで移動し、店主に頼んで暖炉を借りる。鞄を抱え直して炉の中へ入り、足元へ煙突飛行粉を撒いた。
「隠れ穴!」
緑色の炎が噴き上がり、次の瞬間には身体が狭い煙道の中を猛烈な勢いで運ばれていく。
いくつもの暖炉が視界の端を流れ、煤と火の粉が顔へぶつかった。
やがて足元が抜ける。
私は勢いよく、ウィーズリー家の暖炉からリビングへ転がり出た。
隠れ穴へ来るのは久しぶりだった。
継ぎ足された部屋は相変わらず好き勝手な方向へ飛び出し、煙突も風に吹かれた木の枝のように曲がっている。
外から見れば、いつ倒れてもおかしくない。けれど、少なくとも暖炉網は正常につながっていたらしい。手足も鞄も、きちんと同じ場所へ出てきた。
それだけで十分だった。ローブに付いた煤を払いながら立ち上がると、台所の方から足音が近づいてくる。
「まあ、フィナ!」
モリーおばさんが、エプロンで手を拭きながら姿を見せた。
「いらっしゃい。アーサーから聞いているわ。そんなところに立っていないで、早く入りなさい」
「こんにちは、モリーおば――」
挨拶を返し終える前に肩を抱かれ、そのまま暖炉の前からリビングへ押し込まれた。
家の中には、焼いた肉と香草、それから焼きたてのパンの匂いが満ちている。
棚の上では皿が勝手に重なり、流しでは柄付きブラシが鍋の底をせわしなく擦っていた。編みかけの毛糸が椅子の背に絡まり、壁の時計では何本もの針が、それぞれ違う家族の居場所を指している。
以前来たときと、ほとんど変わっていない。騒がしくて、狭くて、妙に落ち着く家だった。
「お昼は食べたの?」
モリーおばさんが尋ねる。
「まだですけど、先にアーサーおじさんの車を――」
「先に食事よ」
即答だった。モリーおばさんは私の鞄を椅子の脇へ置くと、すでに用意されていた皿を食卓へ運び始めた。
厚切りのロースト肉。山盛りのジャガイモ。人参と豆の煮込み。大きなパン。
一人分には見えない。
「そんなに食べられませんよ」
「育ち盛りでしょう」
「遅めの朝ごはんを食べたばかりです」
「朝ごはんと昼ごはんは別よ」
反論として成立しているのかは分からない。
けれど、魂をエンジンへ組み込む作業より、モリーおばさんの食事を断る方が難しい。というより、断るという選択肢そのものが最初から用意されていなかった。
私は諦めて椅子へ座る。モリーおばさんは満足そうに頷くと、今度はパン籠を私の手元へ押しやった。
「さあ、冷めないうちに食べて」
フォークを手に取ると、階段から足音が聞こえた。
「フィナ?」
階段の方から声がして、姿を見せたのはジニーだった。
以前に会ったときより、少しだけ背が伸びている。赤い髪を肩の後ろへ払いながら、私の向かいの椅子へ腰を下ろした。
上の兄たちはみんなホグワーツへ行っているので、今〈隠れ穴〉に残っている子供は、私と同い年のジニーだけだった。
「ジニー! 久しぶり!」
「久しぶり。お店の方はどう?」
「相変わらず。夏は学生が多くて忙しかったけど、九月に入ってからはお爺さんばっかりで長話が多くて疲れる……」
「フィナは話しやすいからね」
ジニーはそう言いながら笑った。
しばらく、店のことや家のことを話した。
アーサーおじさんが新しい魔法装置の手紙を受け取ってから、毎日のように車のボンネットを開けて待っていたこと。
一つ上のロンがホグワーツへ行く日は、朝から家中を走り回り、荷物を何度も詰め直していたこと。
ジニーも早くホグワーツへ行きたくて、兄たちが使っていた教科書を勝手に読んでいること。
それから、フレッドとジョージが夏の終わりに台所で試作品を爆発させ、モリーおばさんに半日かけて叱られたこと。
「何を作ってたの?」
「食べようとすると悲鳴を上げながら飛び回るビスケット」
そんな話をしているうちに、話題は自然とホグワーツへ移り、そこからハリーのことへ移った。ジニーは最初、何でもないことのように水を飲んでいた。
「そういえば、キングス・クロス駅であのハリー・ポッターに会ったんだ」
声は平静だったけれど、耳が少し赤くなっていた。様子を尋ねると、待ってましたとばかりに口を開く。
「九と四分の三番線への入り方が分からなくて、うちの家族に聞いてきたの。最初は誰だか分からなかったんだけど、フレッドとジョージが気づいて」
ジニーの答えは、少しだけ早口だった。
それからしばらく、私は彼女から、ハリー・ポッターと出会ったときの話を聞かされた。
本人は何でもないことのように話していたけれど、耳の赤みは最後まで消えなかった。
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