翌日の昼過ぎ。
矢のケースを肩に掛けた柴崎が店へ入ってきた。
俺は入口のガラス戸に『一時閉店』の札を掛け、鍵を閉める。
預かり品の棚から黒い長弓のケースを下ろし、柴崎と店の奥へ進んだ。
作業場の先にある扉を開ける。
扉の向こうには試射場があり、奥に標的が立っていた。
脇の台へ弓のケースを載せ、留め具を外す。
柴崎が黒い長弓を取り出し、弦を張った。
矢のケースから一本抜き、弦へつがえる。
「最初は魔力なし。次に弱め。最後に実戦で使う量だ」
「ああ」
俺は射撃位置の脇へ下がった。
柴崎が標的へ向き、弦を引く。
短く狙い、放った。
弦が鳴り、矢が標的へ刺さる。
続けて二本。
三本の矢は、互いの近くへまとまった。
魔力なしでは、修理前から大きく散っていない。
ここは基準の確認だ。
柴崎が矢を回収し、射撃位置へ戻る。
「次。弱めで」
柴崎が弓へ魔力を通す。
淡い光が握りから上下へ走った。
弦を引き、矢を放つ。
一射目が標的へ刺さる。
二射目と三射目も、その近くへまとまった。
弱い魔力では、修理前と同じく異常は出ない。
問題は次だ。
柴崎が三本の矢を回収する。
「実戦で使う量だ」
柴崎が矢をつがえた。
弓へ通る光が強くなる。
柴崎が弦を引く。
上下が深くしなり、指が離れた。
鋭い音とともに矢が飛び、標的へ深く突き刺さった。
続けて二射。
三本とも最初の矢の近くへ収まった。
修理前のように方向がばらつくことも、一本だけ飛距離を落とすこともない。
柴崎は標的を見たまま、しばらく動かなかった。
「……散らない」
「もう一度だ」
「ああ」
矢を回収し、同じ量まで魔力を上げてもう三本射る。
結果は変わらない。
二度目の三本も、一つの範囲へまとまった。
柴崎が弓を下ろす。
「十分だ。貸せ」
差し出された弓を受け取る。
弦を外し、先端から握り、反対側の先端まで表面を指でなぞった。
浮きも段差もない。
握りを支え、上下を片方ずつ軽くしならせる。
試射前と感触は変わらなかった。
弱く魔力を通す。
導路に途切れも漏れもない。
「異常なし。終わりだ」
柴崎の肩がわずかに下がった。
弓をケースへ戻し、留め具を閉じる。
柴崎が矢を回収する間に、記録用紙へ試射結果を書き足した。
黒いケースをカウンターへ運び、記録用紙をその横へ置く。
柴崎も矢のケースを肩に掛け、あとに続いた。
入口の札を外し、鍵を開ける。
カウンターの内側へ戻り、記録用紙を柴崎へ示した。
「店の曲げ試験と魔力試験は異常なし。今の試射でも散らなかった。試射後の弓にも異常は出てねぇ」
柴崎が紙へ目を落とす。
「これで直ったと考えていいのか?」
「今試した範囲では異常なしだ。また石を支えりゃ、その先は知らん」
「必要なら、また同じことをする」
「だろうな。壊れたら、また持ってこい」
「……ああ」
会計を済ませ、領収書を渡す。
柴崎はケースを持ち上げる前に、もう一度俺を見る。
「助かった」
「金はもらってる」
「それでもだ」
それ以上は返さず、カウンターの上を片づける。
柴崎は黒いケースを肩へ掛け、店を出ていった。
約束した四日で、仕事は終わりだ。