ダンジョン装備、直します   作:さくらもっちもち

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第3話 外れた腕甲

 

腕甲から垂れた留め具を引くと、内側で何かが浮いた。

外から見える装甲に、大きな傷はない。前腕を覆う金属板も、縁に擦れた跡がある程度だ。

壊れているのは、腕へ固定する方だった。

作業台のカメラに手元が収まっていることを確かめる。装備番号には覆いをつけてある。

配信タイトルは『外れた腕甲』。

流れ始めたコメントを横目に、留め具の根元を押さえた。

取りつけ位置がわずかに沈む。

留め具そのものが切れたわけじゃない。土台が中で動いている。

固定ねじを外し、取り外した順に小皿へ入れる。腕甲を裏返して内張りの端をめくると、その下から薄い金属板が出てきた。

中央から割れている。

割れたまま留め具を締め直して使っていたらしい。引っ張られるたびに亀裂が広がり、ねじ穴まで楕円に歪んでいた。

これでは新しい留め具をつけても、土台ごと抜ける。

 

「壊れたまま使うから、余計なとこまで逝くんだよ」

 

《いつもの》

《言い方》

《でも正論》

《今日は流れ速くね?》

《今朝の攻略配信から来た》

《何の話?》

《剣のやつ》

《別配信の話はあとにしろ》

 

画面から目を離す。

割れた金属板を腕甲から抜き、検査台へ運んだ。足元のスイッチを踏み、映像を切り替える。

表面の汚れを落とすと、中央の割れ目からねじ穴へ向かって、細い亀裂が何本も伸びていた。

留め具を引いた時、この板が力を受ける。

まったく動かないほど硬くすれば、衝撃がねじ穴へ集まる。柔らかければ、留め具と一緒に板が持ち上がり、腕甲がずれる。

割れ目だけを塞いでも駄目だ。

歪んだねじ穴と、その周りまで戻す必要がある。

金属板へ指を添え、魔力を流した。

亀裂の周囲が音も熱もなく崩れ、銀色の液体へ変わる。

傷んで伸びた金属を分ける。失った分は、元の板と性質の近い補修材を足した。

液体を中央へ戻し、歪んだねじ穴を丸く整える。

留め具を支える部分は、元よりわずかに厚くする。ただし、ねじ穴の周囲には力を逃がす分の粘りを残した。

端から少しずつ固体へ戻していく。

形が崩れないところまで固め、裏返す。

厚みの偏りはない。

中央を親指で押すと、ほんの少し沈んだ。指を離せば元の位置へ戻る。

これならもつ。

金属板を作業台へ運び、映像を戻した。

腕甲の内側へ入れ、ねじ穴を合わせる。留め具を載せ、外したねじを順番に戻した。

内張りはまだ閉じない。

留め具を引き、緩め、もう一度引く。

金属板は浮かず、ねじも動かなかった。

 

《朝の剣って昨日の修理配信のやつ?》

《持ち主もおそらくって言ってた》

《確定してないのかよ》

《でも折れた剣を一晩で直したのは確定》

《店主あの攻略配信見た?》

《見てるわけないだろ》

《感想聞きたい》

 

留め具をもう一度締め、指を離す。

引っかかりはない。

俺は内張りを戻しながら、画面へ目を向けた。

 

「何の話だよ」

 

待っていたようにコメントが流れた。

 

《反応した》

《今朝の攻略配信》

《昨日折れた剣が出てた》

《昨夜の片手剣修理と時間が合う》

《持ち主もおそらくって》

《鉄殻蜥蜴の角を受けても無傷》

《お前が直したやつかも》

《知らんのか》

 

知らん。

預かった装備の持ち主が、返したあとでどこへ行くかまで追っていない。

昨日の剣かもしれないし、違う剣かもしれない。

どちらにせよ、作業中の腕甲には関係がなかった。

内張りの端を元の位置へ合わせ、浮かないよう固定する。

留め具を開いたまま、腕甲を試験台へ運んだ。

太さを合わせた試験棒へ通し、留め具を締める。

棒を持ち上げて振る。

腕甲は回らない。

上下にもずれなかった。

今度は装甲面を試験台へ打ち当てる。

鈍い音と一緒に、手へ衝撃が返ってきた。

留め具は外れていない。

腕甲を試験棒から外し、内張りをめくる。

ねじに緩みはなく、金属板にも新しい線は出ていなかった。

作業台へ戻し、装甲と内側を拭く。

 

「終わり」

 

《剣の感想は?》

《聞いてない》

《昨日の剣だとしたら実戦で無事だったぞ》

《角受けても傷なし》

《もう少し喜べ》

《まだお前の修理って確定してないけど》

《たぶんそう》

《おそらくな》

 

配信を止めようとして、指を止めた。

コメントへ答える必要はない。

ただ、同じ話がいつまでも流れている。

 

「直したもんが使えて、何を喜ぶんだよ」

 

コメントの流れが一瞬止まった。

すぐに、さっきまでより速く動き始める。

 

《それはそう》

《使えるのが前提》

《修理屋として強すぎる》

《切り抜きポイント》

《今のもう一回》

《言うわけないだろ》

 

配信を停止する。

静かになった画面から腕甲を外し、預かり品用の棚へ移した。

外した道具を元の場所へ戻す。小皿に残っているねじがないことを確かめ、検査台と作業台を順に拭いた。

使った布をまとめたところで、端末が震える。

配信を終えた直後は、コメントや反応の通知がしばらく続く。

画面の上には、今の配信だけでなく、昨夜の配信にも新しい反応がついていることが表示されていた。

開いて確かめるほどの興味はない。

端末を伏せ、布を持って洗い場へ向かう。

背後で、端末がもう一度震えた。

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