ダンジョン装備、直します   作:さくらもっちもち

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第7話 弓の中①

 

弓を預かった日の閉店後。

先に入っていた仕事を片づけ、黒い長弓を作業台へ出して配信を始めた。

配信タイトルは『弓の中』。

画面の端へコメントが流れ始める。

 

《弓だ》

《傷なくない?》

《弓って中に何が入ってるんだ》

《今日は分解?》

 

弦を外した弓を、布を巻いた二つの受けへ載せる。

上半分に沿わせて細長い紙を置き、先端から握りまでを短く区切った。

受付時に開いたのは数か所だけだ。原因は見えたが、どこから直すかを決めるには、残った偏りがどう並んでいるかまで拾う必要がある。

先端に近い場所へ指を当てる。

黒い表面が音も熱もなく液体へ変わり、細い帯になって弓の脇へ退いた。

露出した補強繊維へ細い目盛り板を添え、固定された位置を紙へ写す。

その下の接着層だけを液体へ変えた。

押さえを失った補強繊維が、ゆっくりと握り側へ動く。

芯材も形を大きく崩しはしないが、外側がわずかに膨らんだ。

紙の最初の区画へ矢印と短い線を引く。

 

《動いた?》

《今ちょっとずれた》

《中で引っ張られてたのか》

《液体になったのは何?》

 

繊維を写しておいた位置へ戻し、芯材の形を合わせる。

接着層を元へ流し込み、位置が変わらないことを確かめて固めた。最後に黒い表面を閉じる。

隣の区画を開く。

固定された位置を紙へ写し、接着層を外す。

今度は補強繊維が先端側へ寄った。

芯材はほとんど動かない。内側の詰まりがわずかに強く、押さえを失っても形に出るほどではなかった。

紙へ向きと詰まり方を記し、すべて元へ戻して閉じる。

 

《場所で違うのか》

《一か所ずつ調べてる?》

《一気に開いた方が早くない?》

 

一度に開けば早い。

その代わり、押さえを失った素材がまとめて動く。どの場所に、どれだけの偏りが残っていたのか分からなくなる。

次の区画を開く。

補強繊維は横へ動かなかった。

芯材の外側だけが少し持ち上がり、指を離すと元の形からわずかに浮いた位置で止まる。

紙へ印をつけ、固定されていた形へ戻す。接着層と表面を閉じ、指で押して段差がないことを確かめた。

その隣では、外寄りの繊維だけが握り側へずれた。内寄りはほとんど動かない。

一本の束として同じ方向へ引かれているわけではない。

二本の矢印を少しずらして書き込み、元へ戻して閉じる。

さらに下を開く。

今度は繊維が先端側へ寄り、芯材の内側がわずかに膨らんだ。

その次では、横への動きは小さかったが、芯材の詰まりが外側へ偏っている。

一か所開くたび、開く前の位置を写し、接着層を外し、動いた方向を記録する。

記録が終われば、必ず元の位置へ戻して閉じた。

紙の空いていた区画へ、向きの違う矢印と短い線が増えていく。

 

《矢印ばらばらだな》

《何の記録だろ》

《開いて閉じてばっかり》

《まだ修理してない?》

 

上半分の中ほどを開く。

補強繊維はほとんど横へ動かなかった。

その下で、芯材の左右がわずかに寄り合う。

紙を見る。

先端側で握りへ向いていた印と、その下で先端へ向いていた印が、この区画を挟んで向かい合っている。

 

「ここでぶつかってるな」

 

《力が集まってる?》

《ここが悪いのか》

《今までのは調べてただけ?》

《やっと直す?》

 

手は入れない。

開いた区画を固定されていた状態へ戻し、接着層と表面を閉じる。

ここだけを直せば、両側に残った偏りが集まってくる。

残りを調べる方が先だ。

一つ下を開く。

繊維はわずかに先端側へ動いた。芯材は内側が沈み、外側が押し返す。

位置を戻して閉じる。

次の区画では、外寄りの繊維が握り側へ、内寄りが先端側へ動いた。動く量はどちらも小さいが、互いに引き合ったまま固定されている。

二つの向きを記し、元へ戻す。

さらに握りへ近づく。

繊維の動きは次第に小さくなった。

代わりに、芯材の内側と外側で詰まり方の差がはっきりしてくる。

内側が膨らむ場所を閉じる。

その下を開けば、今度は外側が持ち上がった。

また記録し、元へ戻して閉じた。

握りのすぐ上では、補強繊維はほとんど動かなかった。

芯材も形を変えない。

指で押し比べて、内側にだけわずかな硬さが残っていることを紙へ書き足す。

最後の接着層を戻し、表面を閉じた。

先端から握りまで指を滑らせる。

開いた跡は残っていない。

弓を受けから持ち上げ、上下を軽くしならせた。

手へ返る感触も、作業を始める前と変わらない。

今日は何も直していない。

上半分に残った力を、一か所ずつ外へ出して、元へ戻しただけだ。

弓を作業台へ置き、横に並べた紙を見る。

先端から握りまで、空いている区画はなくなっていた。

矢印の向きが変わる場所。芯材の詰まりが入れ替わる場所。複数の力がぶつかっている場所。

どこから手を入れれば、別の場所へ偏りを押しつけずに済むか。

必要なものは全部そろった。

 

「今日はここまで」

 

《終わり?》

《結局ずっと調べてた》

《一日かけて診断か》

《続きが気になる》

《次は直すのか》

 

配信を切り、記録した紙と弓をケースへ収めた。

本修理を始める順番は決まった。

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