ダンジョン装備、直します   作:さくらもっちもち

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第8話 弓の中②

 

翌日の閉店後、黒い長弓を作業台へ出した。弦を外したまま二つの受けへ載せ、昨日の記録を横へ広げる。

配信を始めると、画面の端へコメントが流れ始めた。

 

《続きだ》

《昨日の紙》

《今日は直す?》

《矢印ばらばらだな》

 

紙には、先端から握りまでの区画と、接着層を外した時に素材が動いた向きが残っている。

調べた時は、変化の大きい先端から握りへ進んだ。本修理は逆だ。正常な下半分を基準に、握りのすぐ上から先端へ向かって直していく。

最初の区画の両側へ、当て布を巻いた押さえを置く。弓の形を変えない程度に固定し、紙の印と位置を合わせた。

黒い表面を液体へ変えて脇へ退ける。補強繊維へ目盛り板を添えると、昨日の位置から動いていない。

接着層だけを液体へ変えた。

補強繊維はほとんど動かない。芯材の内側だけがわずかに持ち上がり、指で押すと外側より浅いところで強く返ってくる。

内側の芯材の一部を粘りのある液体へ変え、外側へ少しずつ回す。量は増やさない。握り際の厚みを保ったまま、内側だけに集まっていた密度を逃がした。

固体へ戻し、内外を押し比べる。

内側だけが先に止まる感触は消えた。下半分と同じ硬さにしたわけではない。握りを挟んだ上下が、掛けた力に合わせて無理なく沈み始めればいい。

補強繊維を固定し、接着層と表面を閉じる。押さえを外してから、同じ場所をもう一度開いた。

接着層を外しても、繊維は動かない。芯材も整えた形を保っている。

 

《今度は動かない》

《一か所目終わり》

《毎回また開ける?》

 

最初の区画を閉じ、一つ先端側へ移る。

昨日の記録では、補強繊維の横への動きはなく、芯材の外側だけに硬さが残っていた。

表面を退け、接着層を外す。補強繊維は動かない。芯材の外側を押すと、内側よりわずかに早く返ってきた。

ただし、昨日ほど差は大きくない。

最初の区画で内側の密度を逃がした分、隣を押していた力も弱くなっている。

 

「昨日のままじゃねぇな」

 

《昨日と違う?》

《直したら隣も変わるのか》

 

紙にあるのは、壊れた状態の地図だ。一か所を直せば、その隣で押さえ込まれていた力の出方も変わる。

昨日の印は消さず、その横へ今の状態を書き足す。

外側の硬さを少し落とし、内側へなだらかにつなげた。一か所だけを柔らかくせず、握り側から続く押し返しが途中で跳ねないようにする。

固体へ戻して押し比べ、接着層と表面を閉じた。もう一度開いても、芯材の形と硬さは変わらない。

紙へ修理済みの印をつけ、次へ進む。

 

《紙の通りに直すだけじゃないんだな》

《修理したら配置が変わるパズル》

《昨日の印も残してる》

《こっちにも紙見せて》

 

次の区画では、昨日、補強繊維はほとんど動かず、芯材の内側だけが膨らんでいた。

接着層を外すと、繊維は記録どおり動かない。芯材の内側は持ち上がったが、膨らみ方は昨日より小さかった。

手前の二つを直した分だけ、ここへ掛かっていた力も減っている。

内側へ寄った芯材を液体へ変え、外側の薄い範囲へ回す。握り側から先端側へ、詰まり方が急に変わらないよう少しずつ広げた。

固体へ戻し、指で押す。片側だけが先に返る感触はない。

閉じてから開き直し、変化がないことを確認する。

三つ目の印をつけた。

 

《一個ずつ軽くなってる?》

《前を直すと次も直りやすくなるのか》

《逆に悪化することもありそう》

《順番大事なんだな》

 

さらに先端側へ進む。

紙には、補強繊維が先端側へ動く短い矢印がある。

表面を開き、固定位置を確認してから接着層を外した。

動いたのは、外寄りの数本だけだった。握り側からつながる内寄りの繊維は、その場に残っている。

昨日は区画全体に出ていた動きが、手前を直したことで分かれていた。

 

「そっちは残るのか」

 

外寄りの数本だけを分け、握り側から続く曲線へ沿わせる。動かなかった内寄りまで一緒に動かせば、消えた引きを作り直すことになる。

芯材の内側には小さな沈みが残っていた。周囲の密度を少しずつ移し、片側だけが深く沈まない形へ整える。

接着層を流し込み、繊維を押さえたまま固める。黒い表面を閉じ、もう一度開いた。

今度は外寄りの繊維も動かなかった。

 

《昨日より動く本数が減ってる?》

《直した側は止まってるのか》

《残ったところだけ直してる》

《パズルっぽさ増してきた》

 

その先も、記録と今の状態を比べながら進める。

昨日は外側が硬かった場所でも、今日は形だけが残り、硬さの差は消えている。束全体が動いた場所では、外寄りだけがずれた。手前を直したことで消えた偏りと、その区画自体に残っていた偏りが分かれていく。

紙の矢印をそのまま答えにはしない。今動いた素材だけを見て、直した側から続く形へつなげる。

一つ閉じるたびに同じ区画を開き直す。接着層を外しても補強繊維と芯材が動かないことを確かめ、それから次へ進んだ。

紙の上では、握り側から中ほどへ向かって印が増えていく。

 

《紙がどんどん書き足されてる》

《消えたずれと残ったずれを見てる?》

《最初から全部開けたら分からなくなるやつ》

《昨日ずっと調べてた意味が分かってきた》

 

上半分の中ほどへ近づいた。

紙には、向かい合う二本の矢印がある。先端側の区画では繊維が握り側へ、握り側の区画では先端側へ動き、その境目へ力が集まっていた。

まず、握り側の矢印がある区画を開く。

昨日は補強繊維が先端側へ動いた。今は、外寄りの一本だけがわずかにずれる。握り側の端は、直してきた区画につながって動かなかった。

残った一本を曲線へ沿わせ、芯材の内側に残った膨らみを外側へ逃がす。閉じて開き直しても、位置は変わらない。

これで、工場が直した下半分から中ほどの手前まで、基準がつながった。

次に、境目の先端側を開く。

接着層を外すと、補強繊維が握り側へ寄った。

昨日は、その隣から先端側へ押し返す力とぶつかっていた。今は握り側の区画が動かない。先端側から残っている力だけが、こちらへ向かっている。

芯材も両側から寄らず、先端側から押された分だけ内側へ詰まった。

 

「やっと一方向になったな」

 

《昨日と違う、気がする?》

《握り側の矢印が消えたのか》

《順番に直した意味これか》

 

両側から押し合っていた時より、ずっと扱いやすい。

動かない握り側の繊維を基準にし、握りへ寄った繊維だけを分ける。重なりをほどき、まだ直していない先端側へ自然に続く曲線へ並べ直した。

内側へ寄った芯材を液体へ変え、外側の薄い範囲へ回す。握り側から先端側へ、硬さが急に変わらないよう詰まり方をつなげる。

固体へ戻して押す。内側だけが強く返る感触はない。

補強繊維を押さえ、接着層と表面を閉じる。押さえを外し、もう一度開いた。

補強繊維は浮かなかった。芯材も寄らず、整えた形を保っている。

 

《動かなくなった》

《折り返し?》

《昨日のぶつかってた場所がほどけた》

《まだ先端側が残ってるのか》

 

区画を閉じ、弓を受けから持ち上げる。

工場が直した下半分から握りを越え、今直した中ほどまで、押す位置を少しずつ変えた。押し返す力が途中で急に変わる場所はない。握り際から中ほどまで、しなりが途切れずにつながっている。

その先へ指を移すと、まだ手を入れていない範囲でわずかに止まった。

直した側と残した側の境目は分かる。それでも、昨日まで中ほどにあった引っかかりは消えていた。

弓を作業台へ戻す。

 

「今日はここまで」

 

《中ほどまでか》

《次は先端側?》

《直すたびに変わるの頭おかしなるで》

 

配信を切り、紙へ今日直した範囲を書き足した。弓をケースへ収める。

握り側から中ほどまではつながった。

残る偏りは、先端側だけだ。

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