ダンジョン装備、直します   作:さくらもっちもち

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第9話 弓の中③

 

その翌日の閉店後。

昨日直した範囲が動いていないことを確かめ、残った先端側から配信を始めた。

 

《続き来た》

《今日は先端側?》

《紙がだいぶ埋まってる》

《今日で終わるかな》

 

中ほどから先端へ向かい、記録と今の動きを比べながら区画を開いていく。

握り側へずれた補強繊維は、直した側から続く曲線へ沿わせる。芯材の片側へ残った偏りは、量を変えずに密度を移して整える。

昨日と同じ手順を、今の状態に合わせて繰り返す。

一つ閉じるたびに開き直し、接着層を外しても内部が動かないことを確かめてから次へ進んだ。

紙に残っていた空白が、先端へ向かって少しずつ減っていく。

 

《ちょっと手慣れてきた感ある》

《ずっと同じことしてる》

《紙の残りあと少し》

 

同じことはしている。

ただ、同じ場所は一つもない。

束全体が動いた区画もあれば、外寄りの数本しか動かない場所もある。一昨日は動かなかった繊維が、手前を直したことで初めてずれることもあった。

直すたび、次の区画で押さえ込まれていた力が表へ出る。

そのたびに紙へ現在の状態を書き足し、動いた素材だけを整えて先へ進んだ。

 

先端から一つ手前まで来た。

表面を退け、接着層を液体へ変える。

補強繊維がまとめて握り側へ動いた。

一昨日、診断で開いた時より動く量が大きい。外寄りだけでなく、束の中ほどまで引かれている。

繊維の下では、芯材の外側が薄く伸びていた。

 

「最後まで持ってきたか」

 

《めっちゃ動いた》

《前に見た時より増えてない?》

《残りが集約してる感じ?》

《急に派手》

 

握り側へ散っていた偏りを順に消し、逃げ場を先端側へ狭めてきた。

残った力が、この区画まで押し出されている。

ここでまとめて元の位置へ戻せば、内側の繊維を押しのける。

外寄りから一本ずつ分け、握り側から続く流れへ沿わせた。空いた場所へ内側の繊維を少しずつ移し、先端へ向かって狭くなる間隔へつなげる。

芯材の薄く伸びた場所だけを集めて厚くはしない。周囲から少しずつ密度を回し、外側だけが先に沈まない程度に支えを戻した。

接着層と表面を閉じ、もう一度開く。

押さえを失っても、繊維は動かなかった。

紙へ印をつける。

残った空白は、先端の一区画だけだ。

 

《最後の一マス》

《ラスボス》

《ここも動くのか》

《紙ほぼ真っ黒だな》

 

先端の表面を退ける。

接着層を外すと、外寄りの一本だけが周囲から離れ、わずかに浮いた。芯材には目立った動きも、内外の硬さの差もない。

浮いた一本を周囲と同じ曲線へ沿わせる。

ここは弓の中でも薄い。隙間を埋めるために芯材を増やせば、先端が重くなり、戻り方が変わる。

芯材には触れず、接着層が繊維を押さえる力だけを調整した。

 

《一本だけ?》

《中は触らないんだ》

 

黒い表面を閉じ、先端まで指を滑らせる。区画の境目は残っていない。

もう一度開いても、外寄りの一本は浮かなかった。

最後の空白へ印をつけた。

 

《全部埋まった》

《紙完成》

《やっと中終わり?》

《三日かかったな》

 

弓を持ち上げる。

工場が直した下半分から握りを越え、上半分の先端まで、押す位置を変えながら確かめた。

途中で指が止まる場所はない。押し返す力は握り際から先端へ向かって少しずつ弱くなり、途切れずにつながっている。

手を緩めても、一か所だけが先に跳ね返る感触はなかった。

 

「中はこれでいい」

 

《次は試験?》

《やっと弦張る》

《見た目ずっと一緒》

《まだ終わりじゃないんだな》

 

弦を張り、弓を試験台へ運んだ。

握りを中央へ固定し、弦へ引き具を掛ける。

浅く引いた範囲では、上下のしなりも戻りも崩れなかった。

次は中間まで引く。止めた状態で曲がり方を見比べ、弦を戻した。

上半分の先端が、わずかに先行した。

 

「先が早いな」

 

《今違った?》

《普通に戻ったように見えるけど》

《全然分からん》

《まだ駄目なのか》

 

引き具と弦を外し、弓を作業台へ戻す。

先端から一つ手前の区画を開いた。補強繊維は動かず、芯材の形も崩れていない。

先端の一本を押さえるために調整した接着層が、周囲よりわずかに硬かった。その差が先端だけを早く戻している。

押さえる力を落としすぎれば、繊維がまた浮く。

先端だけを柔らかくせず、一つ手前から続く細い範囲を液体へ変えた。握り側から先端へ向かって、押さえる力が少しずつ変わるよう密度をつなぎ直す。

固体へ戻して開き直しても、外寄りの一本は浮かなかった。

 

《修理したとこまた修理してる》

《細かすぎる》

 

再び弦を張り、試験台へ載せる。

浅い位置、中間、深い位置まで順に引いた。どこから戻しても、先端だけが先行することはない。

 

《さっきとの違い分からん》

《直ったらしい》

《本人にしか見えてないやつ》

《次は魔力?》

 

続けて弱い魔力を通す。

導路の淡い光が握りから上下へ分かれ、途切れも漏れもなく先端まで走った。

魔力を段階的に上げながら弦を引く。弓の曲がりが深くなり、試験台の固定具が低く鳴っても、途中でしなりが止まる場所はない。上下で曲がり方は違っても、戻り始める時機と全体の釣り合いは崩れなかった。

記録した紙へ試験結果を書き足す。

 

「台の上はこれでいい」

 

《終わった?》

《今度こそ直った?》

《試射しようぜ試射!》

 

弓を試験台から外し、弦を緩める。表面を端から端まで指でなぞった。

開いた境目は残っていない。軽くしならせても、途中で引っかかる感触はなかった。

曲げても、魔力を通しても、店でできる試験では異常は出ない。

だが、この弓が散ったのは、柴崎が強い魔力を通して矢を射った時だ。

使う本人の引き方と魔力で確かめるまでは、終わりにはできない。

 

「残りは本人の試射だな。今日はここまで」

 

《持ち主が撃つのか》

《試射も配信する?》

《結果が気になる》

《まだ納品じゃないんだな》

 

配信を切り、記録した紙をケースへ戻した。柴崎へ試射の予定を確認する連絡を送る。

店でできる作業は終わった。

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