ダンジョン装備、直します   作:さくらもっちもち

9 / 9
第9話 弓の中③

 

さらに翌日の閉店後。

黒い長弓のケースを開き、記録用紙の未処置部分を指でなぞってから配信を始めた。

 

《続き来た》

《今日は紙の残りか》

《もうほとんど印ついてるな》

《今日は何するんだ》

 

弦を外したまま弓を持ち上げる。

先端側を軽くしならせると、前日に整えた範囲は途中で引っかからずに戻った。

次に握りを支え、上半分と下半分を片方ずつ押す。

工場が直した下半分は、掛けた力に合わせて沈み、手を緩めればそのまま戻る。

上半分は、握りへ近づく手前でわずかに粘った。

さらに押せば沈むが、手を緩めると下半分より早く押し返してくる。

残っているのはここだ。

記録用紙の空いた範囲へ短い線を加える。

 

《弦は張らないのか》

《昨日と同じ確認?》

《上と下で比べてる?》

《根元で違うのかな》

 

弓を作業台へ置き、握りのすぐ上へ指を当てる。

黒い表面と接着層を退けた。

補強繊維はほとんど動かない。

先端側に残っていたような、互いに引き合うずれはなかった。

芯材の内側を指で押す。

外側より浅いところで止まり、強く押し返してくる。

形ではなく、硬さの差が残っている。

内側の硬さを少し落とし、外側を少し硬くする。

握り際の硬さは残したまま、両側が同時に沈み始めるよう整えた。

固体へ戻し、指で押し比べる。

内側が先に止まる感触は弱くなった。

接着層と表面を閉じ、弓を持ち上げる。

上半分と下半分をもう一度押した。

先ほどより近い。

それでも、上半分は手を緩めた時にわずかに早く戻った。

問題は開いた場所だけではない。

前日に直した範囲との境目へ指を移す。

表面と接着層を開く。

補強繊維も芯材も、押さえを外しただけでは動かなかった。

中ほど側から握り側へ、指で順に押していく。

修理済みの範囲では、押した分だけ滑らかに沈む。

だが境目を越えた途端、芯材が急に強く押し返してきた。

どちらの硬さも、それぞれの場所だけを見ればおかしくない。

ただ、柔らかい部分から硬い部分へ急に変わるせいで、その境目にしなりが止まり、力が集まっている。

境目をまたぐ細長い範囲を液体へ変える。

一か所の硬さを大きく変えず、柔らかさから硬さへ移る幅だけを広げた。

固体へ戻し、端から順に押す。

今度は途中で指が止まらない。

握りへ近づくにつれて、押し返す力が少しずつ強くなった。

 

「まずは一段落だな」

 

《終わりじゃないのか》

《次は試験?》

《やっと弦を張るのかな》

《まだ続くんだな》

 

接着層と表面を閉じる。

弓を持ち上げ、上下を片方ずつしならせた。

片方だけが遅れて沈むことはない。

手を緩めても、上半分だけが先に跳ね返ることはなかった。

押す位置を少しずつ変え、先端から握りまで確かめる。

前日に直した範囲から、今整えた場所まで、力の返り方は途切れずにつながっていた。

弓へ弦を張り、試験台へ運ぶ。

映像を試験台のカメラへ切り替える。

握りを中央へ固定し、弦へ引き具を掛けた。

引き具がゆっくりと弦を引く。

上半分と下半分が、それぞれの曲線を作りながらしなっていく。

引く深さが増えても、握りの近くで片方だけが遅れることはない。

途中で止める。

上下の曲線を見比べてから、弦を戻した。

上半分の戻りが、わずかに先行した。

 

「まだ上が早いな」

 

《えー、何が違うん?》

《全然わかんね》

《まだ駄目なのか》

《細かいな》

 

弦を緩め、弓を作業台へ戻す。

先ほど整えた境目を開く。

芯材の形は崩れていない。

補強繊維も動かなかった。

だが、境目はわずかに硬くしすぎていた。

指先ほどの範囲だけを液体へ変え、硬さの一部を握り側へ戻す。

境目の押し返しを弱め、上半分の戻りが下半分より先行しないよう整えた。

固体へ戻し、接着層と表面を閉じる。

再び弦を張り、試験台へ運んだ。

同じ位置まで引く。

上下がしなり、止まる。

引き具が弦を戻す。

今度は、上下の戻り始める時機にずれはなかった。

もう一度繰り返す。

結果は変わらない。

引く深さを増やす。

曲がりが大きくなっても、握り付近で片方だけが遅れることはない。

浅い位置、深い位置、その中間。

どこで止めても、戻り始める時機に差は出なかった。

 

《さっきから問題ないようにしか見えないんですが?》

《違いがわかんねーよ!》

《これで中は終わり?》

《三日かけてやっとか》

 

試験台から弓へ弱い魔力を通す。

導路を走った淡い光が、握りから上下へ分かれた。

途切れも漏れもない。

そのまま弦を引く。

魔力を通していない時より深くしなったが、片方だけが遅れることはなかった。

弦を戻す。

どちらか一方の戻りが先行することもない。

魔力を一段上げた。

弓全体の曲がりが深くなる。

握りのすぐ上にも、遅れて沈む場所はない。

止めた状態を保ち、少しずつ弦を戻す。

上下で曲がり方は違っても、戻り始める時機にずれはない。

同じ負荷でもう一度引く。

結果は変わらない。

さらに負荷を上げる。

弓が大きくしなり、試験台の固定具が低く鳴った。

戻りの釣り合いは崩れない。

記録用紙へ試験結果を書き足した。

 

「台の上はこれでいい」

 

《終わった?》

《今度こそ直った?》

《あとは試射とか?》

《店では撃てないか》

 

弓を試験台から外し、弦を緩める。

表面を先端から先端まで指でなぞった。

開いた境目は残っていない。

軽くしならせても、途中で引っかかる感触はなかった。

曲げても、魔力を通しても、店の試験では異常は出ない。

だが、この弓が散ったのは、柴崎が強い魔力を通して矢を射った時だ。

同じ条件を俺が作っても意味はない。

使う本人の引き方と魔力で確かめる必要がある。

 

「残りは本人の試射だな。今日はここまで」

 

《持ち主が撃つのか》

《試射も配信する?》

《結果が気になる》

《ここまでやってまだ終わりじゃないのか》

 

配信を切り、記録用紙をケースへ戻す。

柴崎へ試射の予定を確認する連絡を送った。

店でできる作業は終わった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。