ストーリーを進める上で恐らく障害になると考えでの変更となります!
DU外縁部に位置する要塞都市と化した校舎の一角、地下深くにある中央技術研究所――通称アーティファクト研究部は、いつ訪れてもすさまじい熱気に包まれていた
白衣を翻し、複雑な配線や青白く光るオーパーツの結晶をいじり倒しているのは、研究部部長の青花ヒバナだ
そして、その研究室の一角で、これからテストに赴こうとしている一人の少女がいた
「分かりました。このバックパック装備のテストですね」
「そうね、飛行及び電磁シールドの耐久テストを頼むわね。……カエデ、くれぐれも無茶はしないでよ?」
現場総責任者である赤坂レイカが、心配そうに眉をひそめながら声をかける
志賀カエデ。彼女の所属は学園の治安維持を担う、防衛部所属だが、その驚異的な身体能力と冷静沈着な判断力を買われ、アーティファクト研究部が開発した最新鋭装備の過酷な実地テストを請け負うことが最も多い生徒だった
カエデが背負っているのは、通常の航空力学を完全に無視した代物だった。重力制御と高密度プラズマジェットを組み合わせ、電力のみで自在に空中浮遊・高速機動を可能にする『滞空型電磁ジェットパック』である
さらに彼女の手には、研究部が独自にチューニングを施した愛銃――最新鋭の『パルスライフル改』がしっかりと握られていた。元特殊部隊員としての前世の記憶と戦闘技術を持つカエデにとって、この重武装は手足のように馴染む相棒だった
「大丈夫です、レイカさん。私、こういうスリリングな任務は前世でも慣れてますから。……では、行ってきます」
カエデは微塵も揺るがない冷静な笑みを浮かべると、背中のジェットパックを起動させた
轟音と共に青白いプラズマの尾が引かれ、カエデの身体は一瞬にして研究室の天井抜け穴から、DU外縁部の蒼穹へと弾き出されていった
テストフィールドとなったのは、DU外縁部から少し離れた荒涼とした工業地帯の上空だった
カエデは空中で軽やかに身体を反転させ、バックパックの出力と電磁シールドの展開具合をモニタリングデバイスで確認する
「出力安定、シールド展開よし……。これなら数分間の空中戦機動も余裕ですね」
だが、その順調なテストの時間は長くは続かなかった
キヴォトスの空を荒らすハイエナども――カイザーPMCの戦闘ヘリ部隊と無人メカの群れが、突如としてその空域に姿を現したのだ。どうやらネクストライスクールの動向を偵察に来ていた部隊が、ぽつんと単機で飛んでいるカエデを見つけて標的に定めたらしい
「――おや、向こうから格好の標的が湧いてきましたよ」
カエデは焦るどころか、むしろ冷徹な戦闘マニアの眼差しを光らせた
前世で修羅場をくぐり抜けてきた特殊部隊員の血が、脳裏でアドレナリンを加速させる
「キッ! あの新興校のガキか! 撃ち落とせ!」
カイザーの戦闘ヘリから一斉にロケット弾とガトリングの銃口が向けられる
凄まじい弾幕がカエデを襲ったが、彼女は慌てず騒がず、バックパックの推力を急激に反転させた
「遅いですね」
ガキン、と空間を切り裂くような音と共に、カエデの周囲に展開された電磁シールドが敵の弾丸をすべて弾き飛ばす。衝撃も熱量も位相の歪みによって完璧に無効化されている
カエデは宙返りしながらパルスライフル改の銃口を敵の戦闘ヘリコプターのコクピットへと正確に向け、容赦なくトリガーを引いた
ズガガガガッ! と高精度の電磁パルス弾が連射され、カイザーの先頭を走る戦闘ヘリのメインローターを一撃で粉砕する
「なっ、なんだあいつ……!? 一人でヘリを落としたぞ!?」
慌てふためく残りの敵部隊に対し、カエデは冷ややかに言い放った
「テストの邪魔をしないでいただけますか。こっちは忙しいんです」
空中を縦横無尽に跳ね回り、圧倒的な機動力と射撃精度でカイザーの部隊を次々と沈めていくカエデ
その戦闘はテストというよりも、もはや一方的な蹂躙劇であった………
経った2分、周囲の空域からカイザーの姿は綺麗に消え去り、残されたのは静寂と、機体のあちこちに微量の摩耗を見せたジェットパックのエンジンの排気音だけだった
「ふぅ……。耐久テストとしては、上々のデータが取れましたね。これなら合格です」
カエデは淡々とミッションを完了させ、何食わぬ顔でネクストライスクールへと帰還の途についたのだった
一方その頃、ミレニアムサイエンススクール――セミナーの執務室
静まり返った部屋に、けたたましい電子音が鳴り響いていた
モニターの前に陣取る少女――セミナーの会計を務める早瀬ユウカが、目を血走らせてディスプレイにかじりついていた
「なっ……なんだこれ、一体どういうことなのよ……!?」
ユウカの目の前で再生されていたのは、DU外縁部の上空で撮影された極秘の盗撮映像……いや、カイザーPMCの偵察部隊が残した、自動記録カメラの映像データだった
そこに映っていたのは、翼もないのに空を自在に駆け巡り、最新鋭の電磁シールドとパルスライフルでカイザーの部隊をものの数分で壊滅させる一人の少女――志賀カエデの姿だった
「ジェット推進による完全な空中浮遊機動……しかも、我がミレニアムの科学力でもまだ実用化に何年もかかるレベルの相転移シールドを、あの新興校の生徒が個人装備として運用している……!? おまけにあんな落ち着き払った戦闘スタイル……本当にあの学校は一体なんなのよ!?」
ユウカは頭を抱え、パニック寸前で電卓を叩きまくっていた
ミレニアムの誇る超科学が、DU外縁部のよく分からない新興の廃校に軽く凌駕されているという現実。計算しても計算しても、その技術的特異点の数理モデルが弾き出せない
「のんびり予算案なんか通してる場合じゃないわ……! あの『ネクストライスクール』、一体裏でどれだけの技術を隠し持っている気なの……!?」
セミナーの部屋にユウカの焦燥しきった絶叫が響き渡る中、ネクストライスクールの脅威は、いよいよミレニアム全体を巻き込む巨大なうねりへと発展しようとしていた