「――さて、技術交流会という名の『お互いの腹の探り合い』を始める前に、我がミレニアムの誇る最新鋭の研究区画をご案内しましょう」
セミナーの応接室から一転、ユウカに案内されて一行が足を踏み入れたのは、広大なガラス張りの天井と、無数の自動工作アームが稼働する第3プラント区画だった。周囲には見たこともない超大型のサーバーラックや、試験段階の防衛ドローンが整然と並んでいる
「へぇ、これがミレニアムの心臓部か。配管のレイアウトもすっきりしていて、なかなかセンスがいいじゃない。ねえ、そこの中央制御ターミナルのソースコード、ちょっと覗かせてもらってもいいかしら?」
「ちょっとヒバナ主任! 案内してくれているユウカさんを困らせないでください!」
目を輝かせて暴走気味に歩き出すヒバナの白衣の裾を、カエデが冷徹な手つきでひっつかんで引き戻す。その背後で、レイカはすでにこめかみを押さえながら深い溜息をついていた
「おいおい、人のラボでいきなりハッキングしようとするなよ……。頼むからミレニアムを爆破するような大事件だけは起こさないでくれよ、マジで胃が穴が空く……」
レイカのそんな苦労などどこ吹く風と、ミレニアム側の案内役を務めるノアは、どこか楽しげな笑みを浮かべながらメモ帳にペンを走らせていた
「ふふ、レイカさんは相変わらず苦労性が板についていますね。ですが、ご安心ください。我がミレニアムのプラントは厳重に管理されています。万が一、変な実験をして暴走する生徒がいたとしても、すぐに……っと?」
ノアがそう言って微笑んだ瞬間だった――
突如として、プラントの奥からキィィィンと耳障りな高周波の駆動音が響き渡り、すさまじい白煙と共に巨大な機械の影が飛び出してきた
『警告! 試作型自律式多目的装甲モジュール「バスター・ゴーレムMk-III」、制御不能! 出力リミッター解除! 周囲の全オブジェクトを障害物として排除します!』
「ひゃっほーーっ! 見ろよこの完璧な機動性と圧倒的エネルギー充填! 天才エンジニアの私が作った究極の自律実験ロボットが、ついに完全覚醒したぞーっ!」
研究室の一角にある観覧通路から、ゴーグルを頭に引っ掛けたエンジニアリング部の生徒が、興奮した様子で叫び声を上げながら飛び跳ねている。どうやら彼女が、授業の一環か個人的な趣味の暴走で、許可も得ずに超大型の実験ロボットを勝手に起動させてしまったらしい
しかもその「実験ロボット」は、二足歩行の重装甲ボディに巨大なチェーンソーと対物ガトリングをこれでもかと搭載した、どう見ても治安維持用どころか小型要塞クラスの代物だった。それが暴走の形となり、赤く電子アイを光らせながらガトリング砲を回転させ、視察団のいる方向へとまっすぐ突進してきたのだ
「ちょっ……おいおいおいおい! セキュリティのハッキングじゃなくて、単なる頭のおかしい生徒の爆走実験じゃねえか!! 殺す気かあいつの実験!」
レイカが反射的に懐から愛銃のグリップを握りしめ、冷や汗を噴き出させる
暴走した実験ロボットは容赦なく銃口をこちらに向け、大量の実弾弾幕をばら撒こうと砲身を唸らせた
「ふん、相変わらずミレニアムの生徒はネジが何本か抜けていて好感が持てるわね! これだから技術者崩れは面白いんだから!」
ヒバナは恐怖するどころか、不敵に口の端を吊り上げ、懐から取り出した謎の小型デバイスを操作しながらニヤリと笑う。
「ちょうどいいわ、我がネクストライスクールの『オーバーテクノロジー』の性能テストに、格好の実験台が向こうから転がり込んできたじゃない!」
「実験台とか言ってる場合か! 蜂の巣にされるぞ!」
ガトリング砲が火を噴き、無数の弾丸が猛烈な勢いでこちらへ殺到する――その絶体絶命の瞬間
「……五月蠅いですね」
ひときわ冷徹な、しかし不思議と落ち着き払った声が響いた
それは、ヒバナの護衛として常に一歩引いた位置に控えていた防衛部・カエデの呟きだった
カエデは肩から下げていた黒ずくめの巨大なハードケースを地面にドンと下ろすと、鮮やかな手際でそのロックを解除し、銃本体と部品を連結していく………
その見た目はまさに手持ち式の砲撃砲だった………
「ちょ、カエデそれ……! 屋内でそれをブッ放す気か!?」
レイカが思わず叫ぶ。ミレニアムの誇る最新鋭プラントが文字通り粉々に吹き飛ぶ光景が脳裏をよぎり、胃の痛みが最高潮に達する
「大丈夫です。出力の調整は最低限に絞ります。……もっとも、暴走した馬鹿な実験ロボットの装甲をスクラップにするには、これくらいの物理的説得力が必要ですけれど」
カエデは一切の迷いなく、その超重量の巨大火器を軽々と担ぎ上げ、暴走ロボットの群れへと正確に照準を合わせた
周囲でその異様な兵器の威圧感を目にしたミレニアムの生徒たち――ユウカ、ノア、そして遠巻きに様子を見ていたリオまでもが、その余りの規格外さに息を呑み、言葉を失って立ち尽くす
「――排除します」
カエデがトリガーを引いた瞬間、重低音の衝撃波がプラントのガラスを揺らし、銃身から凄まじい閃光と圧縮された空気の奔流が放たれた
それは魔法やオカルトの類ではない。純粋極まりない圧倒的な運動エネルギーと、ネクストライスクールが誇る超電導技術の結晶が生み出した、極太の実弾砲撃の軌跡だった
ドゴォォォォンッ!!
爆音がミレニアムの区画を揺るがし、暴走していたロボットは、反撃する間すら一切与えられず、一瞬にして光の奔流と猛烈な衝撃波に巻き込まれ、粉微塵に吹き飛んだ
ロボットの後ろにあった壁には巨大な穿孔が開き、吹き抜けた風が焦げ臭いにおいを運んでくる。あんなに威勢よく叫んでいた実験中の生徒は、あまりの衝撃に腰を抜かし、その場でへたり込んでブルブルと震えていた
静寂が戻った空間で、白煙の中からゆっくりと銃を下ろしたカエデは、何事もなかったかのようにふうっと息を吐いた
「……ふう。これで、実験の安全管理についての『技術的な是正勧告』にはなったはずです」
「是正勧告のレベルが物理的破壊すぎて、もうツッコミどころが渋滞してるんだよ……! つーかあそこの生徒をどうにかしてやれよ!」
レイカは頭を抱え、その場に崩れ落ちそうになりながら突っ込みを入れる
一方、ミレニアムの中枢であるユウカは、目の前で起きた信じられない光景と、一瞬で消え去った自慢の実験施設の残骸を交互に見つめ、あまりのショックに頭を抱えて絶叫した
「わ、私の預かり知らないところで勝手に治安維持区画でバカな実験ロボットを暴走させた上に、施設ごと消し飛ばされたぁ……!? 会計の予算が、修理費がぁあぁ……!」
ノアは冷や汗を流しながらも、その手元のノートに狂ったようにペンを走らせ、ひきつった笑みを浮かべて呟く
「……これは、学園の安全基準の枠を完全に超越した暴力ですね。レイカさん、御校の護衛の方……恐るべき手際です」
そして、少し離れた場所からこの一部始終を冷静に観察していた天才・リオは、ただ一つ、不敵で、かつ燃え上がるような好奇心を宿した笑みをその唇に浮かべるのだった
「……ふふ。面白いわね、ネクストライスクール……あなたたちの持つその『理不尽なまでの力』、そして予測を完全に超えてくる技術……」
あとがき
はい!今回登場した手持ち式砲撃砲、またの名をリニアランチャーです!
イメージはガンダムSEEDのランチャーパックのアグニが実弾兵器になったものと考えてください!