転生者共の学園生活   作:矢守龍

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Vol .3 無駄に高い技術に悩まされる人

サンクトゥムタワーの機能復旧から数日。連邦捜査部『シャーレ』の活動が本格化し、キヴォトス全域が緩やかな落ち着きを取り戻しつつある中で、ネクストライスクールの一角ではまた別のベクトルで不穏かつ破天荒な熱気が渦巻いていた

 

「……で? たった今、工芸部とアーティファクト研究部から『とんでもない代物が完成したから大至急来てくれ』って緊急通信が入ったわけだが」

 

ネクストライスクール校舎の地下深く――普段は大型車両の整備や特殊資材の加工に用いられている第3開発ドックの重厚な防音扉を押し開きながら、赤坂レイカは深く溜息をついた

 

黒髪のウルフカットから覗くターコイズカラーの毛先を揺らし、愛銃『ゼロモーメントポイント』のホルスターを腰に揺らしながら足を踏み入れたレイカを迎えたのは、独特な金属とオイルの匂い、そして自慢げに胸を張る一人の少女だった

 

「ふふん、来たわねレイカ! 驚きなさい、そしてこの圧倒的な造形美に平伏しなさい!」

 

腰に手を当て、鼻高々に笑うのは工芸部部長の佐屋サレだ。手業の精巧さで知られる彼女だが、その瞳は怪しいまでの達成感で爛々と輝いている。その隣には、防衛部の実戦テスターを務める志賀カエデと、白衣を羽織ったヒバナ率いる技術陣が満足げな笑みを浮かべて立っていた

 

「お前たちが妙な意気投合をしてる時点でロクな予感がしないんだが……それで、その大層な『完成品』ってのはどこにあるんだ?」

 

「フフ……後ろをご覧なさい!」

 

サレが劇的な身振りと共にドックの天井照明を点灯させる。突如として照射された強力な投光器の光が、ドックの中央に横たわる『それ』の全貌を鮮明に浮かび上がらせた

 

「――は?」

 

レイカの口から、脈絡のない素っ頓狂な声が漏れた

 

視線の先、耐荷重用の巨大な鋼鉄製架台に鎮座していたのは、一振りの「刀」だった

しかし、そのスケールは常識の枠組みを根底から叩き潰していた

 

「……なぁ、サレ。俺の目の錯覚じゃなければ、これ……家一軒どころか、小型の哨戒艇よりデカく見えるんだが?」

 

「錯覚じゃないわ! これこそが我が工芸部とアーティファクト研究部が総力を結集して組み上げた至高の芸術兵器——『対城刀 ランゲージフィルム』よ!」

 

サレが誇らしげに叫び、提示したホログラムモニターに詳細なスペックシートが表示される

 

全長:約15.2メートル

柄(持ち手)の長さ:約3.7メートル

総重量:測定不能(過剰な高密度構造による)

 

「15メートル超え……!? 柄だけで3.7メートルだと……!?」

 

レイカは思わず額を押さえた。15メートルと言えば、ビルで言えば4階から5階に相当する高さだ。もはや刀というよりは、建造物か戦艦の主砲身である

 

「ちょっと待て、ヒバナやカエデまで乗っかって何を作ってるんだよ! こんなもの、どうやって削り出した!? そもそも素材のコストはどうした!? うちの予算からこんなバカげた鋼材の申請なんて出てなかったぞ!」

 

問い詰められたカエデが、パワースーツの調整用グローブを叩き合わせながら楽しそうに笑う。

 

「あはは! レイカさん、そこがこの『ランゲージフィルム』の真骨頂なんですよ! 費用なんて、実質ゼロみたいなものです!」

 

「は? ゼロ?」

 

「ええ!」とサレが引き継ぐ

 

「先日、学園の周辺で暴れまわっていたヘルメット団の重装甲車や、カイザー・インダストリーの廃棄ドローン、それに防衛部が撃滅した過激派の自走砲の残骸……あれらのスクラップをアーティファクト研究部の特殊溶解炉で再錬成したのよ。だから原材料費はタダ!」

 

「じゃあ、かかった費用ってのは……」

 

「試作作業中にみんなで飲んだ600mlのペットボトルお茶とスポーツドリンク、合計1ダース分の代金だけよ! カイザーの不法投棄物をリサイクルして最高級の兵器を作る……これぞSDGsってヤツね!」

 

「SDGsの使い方が間違っとるわ!!」

 

レイカのツッコミがドック内に響き渡る。だが、サレとアーティファクト研究部側の顔は至って真面目だった。サレが手元のコンソールを操作すると、刃の表面が怪しく青白く発光し始める

 

「笑い事じゃないわよ、レイカ。見てみなさいこの刃紋……オーパーツの解析データを応用した相転移分子構造によって、構成原子の結合密度が極限まで引き上げられているわ。硬度は天然ダイヤモンドを遥かに凌駕し、キヴォトスに存在するあらゆる特殊装甲、果ては重巡洋艦の主装甲板すら紙くずのように断ち切るわよ」

 

「ダイヤモンド以上の硬度で一瞬で何でも切断できる15メートルの刀……。スペックだけ聞けば完全に神話の兵器か超兵器だが……」

 

レイカは絶句しながら、巨大な柄の前に歩み寄った。高さ3.7メートルの柄は、見上げるほどに太く、人間が素手で握るようなサイズ感を端から放棄している。

 

「……で? これ、誰がどうやって持つんだ?」

 

「そこよ!」

 

サレが待ってましたと言わんばかりに指をさした

 

「この『命長刀 ランゲージフィルム』はあまりの超高密度構造ゆえに、並の生徒の『神秘』や筋力では持ち上げることすら叶わないわ。現状、この刀を物理的に保持し、振るうことができる適合者は——学園内でたったの『3人』しか存在しないの」

 

「3人……?」

 

「ええ。まず一人目は、アーティファクト研究部の実戦テスターである志賀カエデ!」

 

サレが合図を送ると、ドックの奥から重厚な機械駆動音が響いてきた

現れたのは、カエデが乗り込んだ大型の歩行型アームド・フレーム——かつてアビドスやミレニアム周辺で目撃されたという大型パワースーツ『アビ・エシェフ』に極めて酷似した、重構造のパワーローダーだった

 

油圧シリンダーがプシューッと高温の蒸気を吐き出し、パワーローダーの無骨なマニピュレーターが『ランゲージフィルム』の柄をガチリと掴む

 

「このパワーローダーの出力と神秘増幅器をフルパワーに同調させれば、私でもなんとか持ち上げて振り下ろすことくらいはできます! ……まあ、一回振るだけでフレームの関節という関節が悲鳴を上げますけどね!」

 

カエデがコクピットから顔を出して苦笑いする

 

「そして二人目は……我らがネクストライスクールの特攻隊長、佐藤アリカね」

 

「アリカか……あいつの常識外れな神秘出力とバカ力なら、生身でも勢いと根性で持ち上げかねんな……」

 

レイカは容易に想像がついて頭が痛くなった。播州弁で叫びながら15メートルの大刀を振り回す金髪ツインテールの姿は、完全に災害そのものである

 

「そして最後の三人目が……レイカ、あなたよ」

 

「俺だと?」

 

「ええ。あなたの持つ神秘『絶対加速』——空間内の絶対的な運動基準を強制再定義するあの能力なら、この刀の質量そのものを移動ベクトルに乗せることができる。理論上、あなたがこの刀を持った瞬間、一閃で街区一つが文字通りまっ二つになるわ」

 

「絶対お断りだ!!」

 

レイカは即座に手を横に振った

 

「誰がそんな超巨大な近接兵器持って戦場に走るか! 目立ちすぎる上に、市街地で振ったら味方への被害の方か大きくなるだろ! 第一、持ち運びはどうするんだよ! 馬鹿でかいトレーラーでも用意する気か!?」

 

「あ、運搬方法については現在アーティファクト研究部が折りたたみ機構を検討中でして……」

 

「折りたたんでも7メートル以上あるだろ!!」

 

レイカの至極当然なツッコミに、サレもカエデも「まあ、そうですよねー」と呑気に首を傾げるばかりだった

 

「ハァ……とにかく! 性能と無駄に高い技術力は認めるが、こんな規格外のシロモノ、今の段階じゃ実戦投入なんて到底無理だ! 運搬方法と運用ドクトリンが確立するまで、この刀は地下ドックに厳重保管! いいな!?」

 

「ちぇっ、せっかくの最高傑作なのに……」

 

サレが不満そうに唇を尖らせたが、レイカの厳しい視線に押し切られ、しぶしぶと「保管手続きに入るわよ」と手元のコンソールを操作し始めた

 

ダイヤモンドより硬く、あらゆるものを切断し、制作費はペットボトル1ダース分

技術の無駄遣いにも程があるネクストライスクールの名物を目の当たりにし、レイカはどっと疲労感を覚えるのだった

 

 

 

「――というわけだ。あいつら、俺がちょっと目を離した隙に15メートルの大刀なんて作りやがって……」

 

「あはははは! リーダー、それマジっすか!? 15メートルって、怪獣と戦うレベルじゃないっすか!」

 

地下ドックでの騒動から数時間後

すっかり頭がオーバーヒートしたレイカは、気分転換と息抜きを兼ねて校舎を出ていた。その両脇には、久しぶりに連れ出した後輩二人――茶髪ロングをなびかせる2年生の霧状ヘルタと、銀髪ショートの街肩カリネの姿があった

 

「笑い事じゃないぞヘルタ。あんなものをアリカあたりが面白がって持ち出してみろ、DU地区の道路が穴だらけになる」

 

「でもでも! 制作費がペットボトル1ダースってのは超エコで最高じゃないっすか! うちのアーティファクト研究部、相変わらず技術のベクトルがバグってるっすね!」

 

ヘルタが弾んだ声で笑うと、隣を歩くカリネも苦笑いを浮かべながら頷いた

 

「ヘルタの言う通り技術力はバグってますけど……さすがに15メートルの刀は『技術力の無駄遣い』の極みですね。市街地で振り回されたら被害担当の私たちが胃を痛めることになります」

 

「だろ? だから厳重保管を命じておいたんだ。はぁ……日頃のセキュリティチェックや書類仕事で頭が固くなってたから、今日は二人も誘ってスカッと美味いものでも食べに行こうと思ってな」

 

レイカはそう言って、ポケットの中の交通ICカードに手を触れた

 

「目的地はアビドス自治区だ」

 

「アビドス……!?」

 

ヘルタとカリネの目が同時に輝きを放った。レイカと同じく前世で『ブルーアーカイブ』の原作知識を持つ二人にとって、その地名が持つ意味はあまりにも大きい

 

「アビドスってことは……もしかして、またあそこに行くってことっすか!?」

 

「ええ……! もしかして『紫関ラーメン』ですか!?」

 

「フッ、二人とも察しがいいな。久しぶりにあの大将が作る特製ラーメンが食いたくなってな」

 

「よっし! ついていきますよリーダー!」

 

「私も楽しみです! 今度はチャーハンもセットで頼んじゃいましょうか!」

 

原作知識を持つ者同士、美味しいラーメンとアビドスの雰囲気を楽しもうと、二人は一気にテンションを上げた

 

ネクストライスクールが位置するDU地区近郊から、定期バスとモノレールを乗り継ぎ、揺られること小一時間。車窓からの風景は徐々に緑を失い、見渡す限りの広大な砂漠と、半分砂に埋もれた廃墟群へと移り変わっていった

 

キヴォトスの中でも最も衰退し、広大な敷地の大部分が砂漠化してしまった悲劇の学園都市——アビドス

 

「うわぁ……久しぶりに来ましたがやっぱすごいっすね……」

 

車から降りたヘルタが、口元を手に当てて感嘆の声を漏らす。風が吹くたびに細かい砂粒子が肌を撫で、どこか物哀しい雰囲気が漂っている

 

「まあ、前回と違って人も減ってるだろうし……まあ、俺らには関係ないか……」

 

レイカの案内で、倒壊しかけたビル群の合間を縫うように伸びる寂れた商店街を歩いていく。すると、砂埃の向こうに、一軒の小さくも暖かみのある赤提灯と、風にたなびく「ラーメン」の暖簾が見えてきた

 

『紫関ラーメン』

 

「おっ! 久しぶりにきたっす!」

 

「あたたかい提灯の光が沁みますね……」

 

ヘルタとカリネが嬉しそうに店内を覗き込む

 

「行くぞ」

 

レイカがガラガラと音を立てて引き戸を開けると、香ばしい豚骨醤油とニンニクの香りが鼻腔をくすぐった

 

「いらっしゃい! 久しぶりだな!」

 

厨房の奥から声を上げて出迎えてくれたのは、ねじり鉢巻を頭に巻いた凛々しい柴犬——紫関ラーメンの店主、柴大将だった

 

「よお、大将。元気にしてたか? 二人も一緒だぜ」

 

「歓迎するよ、ささ、空いてるカウンターでもテーブルでも座っておくれ!」

 

大将の温かい笑顔に、三人の表情も一気に和らぐ

 

「リーダー! 自分、チャーシューメンの大盛りで! トッピング全部乗せっす!」

 

「ヘルタ、いきなり図々しいですよ……。私は普通の醤油ラーメンとチャーハンでお願いします」

 

「俺はいつもの特製豚骨醤油な。大将、餃子も一皿頼むよ」

 

「あいよ! すぐ作るから待ってな!」

 

威勢の良い返事とともに、厨房から麺を湯切りする心地よい音が響き始める

 

狭い店内は、どこか懐かしく、そして温かい空気に満ちていた。外の砂嵐の音を遠くに聞きながら、熱々のラーメンを待つこの時間こそが、慌ただしい日々を送るレイカたちにとって何よりの癒やしだった

 

「うわ〜、スープの匂いだけでご飯三杯いけるっす……」

 

「落ち着きなさいヘルタ。お行儀が悪いですよ」

 

後輩二人のやり取りを眺めながら、レイカはふと、店内奥のテーブル席へと視線を巡らせた

 

カウンター席から少し離れた、店の最奥にある小さなボックス席

そこには、自分たちとは別に、4人の生徒たちが身を寄せるようにして座っていた

 

(ん……?)

 

レイカの目が、微かに細められた

 

その4人組の放つ空気感は、明らかに普通の「通りすがりの生徒」のそれとは異なっていた

 

一人は、深紅の上質なコートを身に纏い、豪奢なライフルを脇に立てかけ、いかにも「無法者のボス」といった風情で腕を組んでいる赤髪の少女。……しかし、その表情はどこか背伸びをしているような、必死に格好をつけているようにも見える

 

(あの特徴的な赤いコート……それに、あいつらの佇まい……)

 

レイカの脳内で、前世の記憶と原作の知識が瞬時に合致する

 

(……まさか、便利屋68!?)

 

陸八魔アル、浅黄ムツキ、伊草ハルカ、鬼方カヨコ

アビドス自治区を舞台に、さまざまなトラブルと奇想天外な珍騒動を巻き起こすあの4人組が、目と鼻の先でラーメンが運ばれてくるのを待っていたのだった

 

「リーダー? どうしたんすか、じっと奥の方見て……」

 

「……何かありましたか、レイカさん?」

 

ヘルタとカリネが不思議そうにレイカの視線を追い、店の奥へと目を向けた

 

次の瞬間、二人も息を呑んで目を見開いた

 

「えっ……!? 便、便利屋68!?」

 

「嘘でしょ……!? なんであいつらがここに……っ!?」

 

原作知識を持つ二人にとっても、便利屋68の存在はあまりにも強烈だった。今、まさに『先生』がアビドスに赴任し、対策委員会の生徒たちと共にアビドスの危機に立ち向かっているこのタイミング

 

「え? なんで便利屋がこんなところに……あっ! そうか、今……!」

 

ヘルタの額から冷や汗が噴き出す。カリネも顔を青ざめさせながら、手元のテーブルを思わず強く握りしめた

 

「リ、リーダー……! この時期のアビドスで、紫関ラーメンに便利屋68が揃ってるって……それって確か……!」

 

「う、うん……俺も完全に忘れてたよ……」

 

レイカも青ざめた顔で額を押さえた

 

(しまった……! 原作のアビドス編で、ハルカの過剰な忠誠心の暴走(本当は風紀委員会の砲撃)によって紫関ラーメンが粉々に爆破される、あの伝説の激動イベント発生直前じゃないか!!)

 

原作知識を持つ3人全員が、これから起きる惨劇を同時に理解し、完全に固まって冷や汗を流していた

 

「ど、どうするっすかリーダー!? 今すぐ逃げないと巻き込まれるっすよ!?」

 

「でも、あの大将を置いて逃げるわけには……っ!」

 

カリネとヘルタがパニックになりかけながら、声をひそめて交信するように焦りまくる。

レイカが「今すぐ大将を避難させるか、俺たちの神秘で爆発を抑え込むか——」と判断を下そうとした、まさにその瞬間だった

 

店外の砂嵐の向こうから、凄まじい風切り音と共に「何か」が高速で飛来してくる音が響き渡った。

 

『ちょっとハルカ!? 待っ――』

 

店内奥で、アルの悲痛かつ唐突な絶叫が響き渡る

 

「!! 伏せろ!!」

 

瞬時に状況を悟ったレイカは、叫ぶと同時に爆発的な速度でカウンター内へと跳び込み、呆然としていた柴大将の身体を強引に抱え込んで床へと伏せた

 

「ひえっ!?」

「カリネ、テーブルの影っ!!」

「了解っす!!」

 

原作知識があるからこそ一切の迷いなく動いたヘルタとカリネも、超人的な反応速度でテーブルの陰へと同時にダイブし、頭を抱えて身を縮めた

 

その直後――

 

 

ドカァァァァンッ!!

 

 

激しい衝撃波と爆炎が紫関ラーメンの店舗を正面から突き破った

 

悲鳴を上げる暇すら与えず、木製の壁や屋根が豪快に吹き飛び、途方もない量の瓦礫と赤土の砂煙が店内全体を容赦なく呑み込んでいくのだった

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