乾いた砂嵐が舞うアビドスの荒野に、突如として激しい銃声と着弾爆音の合唱が響き渡った
「風紀委員会、前衛部隊は突撃! 側援は牽制射撃を絶破するな! 相手が何人いようと、数と火力で押し潰せ!」
イオリの叫びとともに、赤と黒の制服に身を包んだゲヘナ風紀委員会の兵士たちが一斉に引き金を引いた。大量のアサルトライフルと機関銃から吐き出された鉛の弾幕が、激しい砂塵を巻き上げながらレイカたちへと降り注ぐ
しかし、その圧倒的な物量を前にしても、こちら側の陣形が一寸として揺らぐことはなかった
「シロコ、左翼のカバー! セリカは射角を右三十度に固定して牽制! ノノミ、そのまま火力を集中させて敵の盾持ち前衛を足止めして!アルはスナイパーでシロコの援護射撃!ハルカは前線でレイカのサポート!」
無数の銃丸が飛び交う死線の中央で、穏やかでありながら芯の通った通話越しVoices——『先生』の指示が鋭く飛び交う
シャーレの顧問として数々の戦場を指揮してきた先生の能力は、まさに圧巻の一言だった。戦況をリアルタイムで把握し、弾丸の軌線すら見切るかのような的確な回避指示と射撃タイミングの伝達
「ん、了解。先生の指示通りに……もらった!」
シロコが滑らかな動作で遮蔽物から身を乗り出し、先生の指示した精密なタイミングでアサルトライフルの引き金を弾く。放たれた弾丸は風紀委員会の前衛兵が構える大型シールドの隙間を完璧に穿ち、体勢を崩させた
「ちょっと! なんで先生の指示通りに撃つだけで、相手の隙にばっちり当たるのよ!? すごすぎるでしょ!」
セリカが興奮交じりに叫びながら、崩れた前衛へ向けて連射を浴びせる
「先生の指揮があれば百人力ですね! みなさん、いきますよ〜!」
ノノミが構える大型機関銃がけたたましい打撃音を奏で、圧倒的な火力で風紀委員会の抑え込みを完全に無力化していく。先生の卓越した戦術指揮が組み合わさったことで、アビドス対策委員会の戦闘力は平時の数倍以上にまで跳ね上がっていた
「くっ……! シャーレの指揮がこれほどまでに的確だなんて……! ですが、司令塔を潰せば終わる話よ!」
焦りを募らせたイオリが、長大なスナイパーライフルを構えて跳躍した。倒壊したラーメン屋の瓦礫の頂点へと一瞬で駆け上がり、高所からの絶対的な射撃体勢を整える。ターゲットは対策委員会の中心で指示を出す先生、そして前線で鋭い指示を出している赤坂レイカだ
「そこっ!」
イオリの指が引き金にかかった、まさにそのコンマ一秒前
「――甘いよ」
冷徹で澄んだ少女の声が、イオリの真横から響いた
「なにっ!?」
イオリが驚愕して視線を向けた時には、すでに銀髪の少女――街肩カリネが、重力を無視したかのような超人的な踏み込みで瓦礫の側面に躍り出ていた
カリネの両手に握られているのは、独特の異彩を放つ二丁の大型拳銃。中折れ式(単発拳銃として名高い『トンプソン・コンテンダー』をベースに、キヴォトス特有の技術とカリネ自身のこだわりによって極限までカスタマイズされた至高の逸品――愛銃『タッチ&ラン』である
「タッチ(接触)——」
カリネは空中へと跳ね上がりながら、右手の『タッチ&ラン・第一号』の砲門をイオリのライフルの銃口へ真っ直ぐに向けた。本来なら単発の狩猟・大口径用であるはずの銃身から、耳を裂くような重爆音が炸裂する
バキュン!
「くっ……あんな大口径の拳銃を二丁射ち……!?」
カリネの放った一撃は、イオリのスナイパーライフルの弾丸と正面から激突し、空中での相殺を引き起こした。凄まじい衝撃波が二人のヘイローを揺らす
だが、カリネの真価はそこからだった
単発拳銃の最大にして決定的な弱点――「一発撃つごとの再装填の隙」。それをカリネは、二丁拳銃による絶え間ない連射テクニックと、洗練された動作によって完全に克服していた
右手を撃ち抜いた直後、左手に構えた銃、『ラン』が火を噴く。同時に、右手の銃、『タッチ』を腰の専用ホルスターの装填爪に引っ掛けて一瞬でラッチを解除し、排莢と同時に予備弾丸を装填。言葉通りの「一瞬のタッチ」でリロードを完了させる
バキュン!バキュン!
「きゃあっ!?」
圧倒的な高火力弾が、超スピードのヒット&アウェイでイオリの足元と肩口を正確に掠めていく
イオリは持ち前の跳躍力と野生的な勘で間一髪回避を続けていたが、息をつく暇すらない。長距離狙撃を得意とするイオリにとって、コンテンダーの超威力弾を二丁交互に叩き込みながら、絶え間なく近撃と離脱を繰り返すカリネの『タッチ&ラン』スタイルは、極限まで相性が悪かった
「なんなだ!?この射撃技術は……!? 単発銃の装填スピードじゃない……! 近づいたと思ったら速射され、間合いを取ろうとすれば高火力の狙撃弾が飛んでくる……くっ、手も足も出ないっ!」
「僕を抑え込もうとしても無駄です。毎週、カエデさんやら防衛部にしごかれてましたからね」
カリネは空中での着地と同時に滑らかな回転を加え、イオリの長距離射撃を完璧に相殺し、完全に彼女をその場に足止めしてみせた
イオリという風紀委員会最大の打撃力がカリネ一人によって完全に封じ込められたことで、戦況の傾きは決定的なものとなった
「よし、カリネがイオリを完全に抑えてくれたぞ! シロコ、セリカ! 右翼の敵自動砲台を叩け! 俺が正面の迫撃砲を沈める!」
「了解!」
レイカは愛銃『ゼロモーメントポイント』を構えると、低く地を這うようなステップで風紀委員会の前衛へと突撃した。接近してくる敵兵の銃撃を最小限の動きで回避し、ゼロ距離からの精密射撃で次々と無力化していく
レイカの圧巻の前線突破能力、先生の神がかり的な全体指揮、そしてカリネの超絶的な個の戦闘力
この三点が完璧に噛み合った結果、本来なら数と装備で圧勝しているはずのゲヘナ風紀委員会は、完全に後手へと回されていた
「な、なぜ……!? なぜアビドスの廃校寸前の生徒たちと、ネクストライスクールのたった3人に、我が風紀委員会の正規部隊が押し返されているのですか!?」
ドローンから映し出される映像をみて、アコは書類を抱えたまま叫ぶように憤慨していた。青い髪を乱し、普段の冷徹な余裕は跡形もなく消え失せている
「イオリが抑え込まれ、前衛の防衛線が崩壊寸前……! シャーレの先生の指揮があるとはいえ、あのネクストライの赤坂レイカと街肩カリネ……個人の戦闘能力が高すぎる……! これでは……これでは風紀委員会の面目が丸潰れです……っ!」
アコは焦燥感から自身で拳銃を抜き出し、前線へ打って出ようかと歯噛みした
まさに現場が完全な大混乱へと陥り、風紀委員会の敗色濃厚となったその時
戦場の端、崩壊したラーメン屋の瓦礫の向こうから、どこか緊張感の足りない、聞き覚えのある能天気な声が響き渡った
「〜♪ はいはいっ! みなさんそこまでっすよ〜! 本日の特別ゲストをお連れしたっす〜!」
煙の奥からヘラヘラとした笑みを浮かべて現れたのは、ネクストライスクール2年の霧状ヘルタだった。彼女は戦場の真っ只中であるにもかかわらず、呑気に手を振りながら歩いてくる
「なっ!?今までどこへ行っていたのよ!?」
セリカが銃を構えたまま呆れたように叫ぶ
だが、次の瞬間。ヘルタの後ろからゆっくりと歩み出てきた「その人物」の姿を目にした瞬間、戦場のすべての銃声が、まるで時間が停止したかのようにピタリと止まった
膝下まで伸びる漆黒のコート。頭上に輝く、圧倒的な存在感を放つ巨大なヘイロー。そして、小柄な身体からは想像もつかないほど重厚で、キヴォトス最強の一角と称される圧倒的な神秘の威圧感
ゲヘナ学園風紀委員長――空崎ヒナ
「ひ……っ!?」
アコの声がひっくり返った。抱えていた書類が手から滑り落ち、パラパラとアビドスの砂埃の上に散らばる
「ひ、ヒナ委員長ぉぉぉっ!??! な、なぜ……なぜ委員長がここに……!?」
瓦礫の上でカリネと打ち合っていたイオリも、ヒナの姿を視界に捉えた瞬間、全身の血が引いたように硬直し、そのまま派手に瓦礫から転げ落ちた
「い、委員長……!? どうしてアビドスのこんな場所に……!?」
ゲヘナ風紀委員会の兵士たちは一瞬で全員直立不動の姿勢をとり、恐怖と敬意の入り混じった戦慄に震え上がっている
ヒナは疲れたように深々と溜息をつくと、紫色の瞳をゆっくりと動かし、惨状と化した現場を見渡した。爆破されたラーメン屋、乱闘の跡、そして狼狽するアコとイオリ
「……はぁ。本当に、言葉もないわね」
ヒナの低く落ち着いた、しかし圧倒的な威圧感を孕んだ声が戦場に響き渡る
「アコ。イオリ。……あなたたち、ここで一体何をしているの?」
「あ、あの! 委員長! これは決して遊んでいたわけではなく……! 指名手配犯である便利屋68を追跡し、治安維持のために……っ!」
アコが必死になって弁明しようと前へ飛び出すが、ヒナは静かに手を挙げてそれを制した
「言い訳はいいわ、アコ。……私に連絡が入ったのよ。『あんたのところのバカ部下たちが、アビドスで勝手に一般店舗を爆破して武力介入し、挙げ句の果てにシャーレの先生にまで難癖をつけて暴れているから、早く引き取りに来い』ってね」
ヒナの視線が、不敵な笑みを浮かべて愛銃を肩に担ぐ赤坂レイカへと向けられた
「レイカ……あなたね。私に直接連絡を越してきたのは」
「ああ、久しぶりだな、ヒナ委員長」
レイカは悪びれもせずにニヤリと笑った
実は、爆破が起きる直前――原作展開を知っていたレイカは、紫関ラーメンに入る前にヘルタへ極秘の指示を出していたのだ。『もし爆破が起きて風紀委員会と泥沼の戦闘になったら、即座にゲヘナに繋いで空崎ヒナを現場へ召喚しろ』と
ヘルタはレイカの指示通り、戦闘が始まると同時に裏でヒナへ通信を入れ、急いでヒナを現場に急行させたのだった
「まったく……相変わらず手際が良いというか、立ち回りが悪質というか……」
ヒナは頭を押さえながら呆れたように呟いた
「ネクストライの執行部筆頭が直々に『うちの生徒とアビドス、そして先生を巻き込んだ国際問題を起こす気か』なんて正式に抗議してきたら、私だって来ないわけにはいかないでしょう」
「くっ……! ネクストライスクール……! 最初から委員長を呼ぶつもりで時間を稼いでいたというのですか……!?」
アコが屈辱に顔を歪ませながらレイカを睨みつける
レイカは肩をすくめ、堂々と言い放った
「当たり前だろ。俺たちは無駄な流血沙汰がしたいわけじゃない。正当なルールに基づいて、暴走するお前らを止めたかっただけだ。……まあ、カリネが暴れすぎて風紀委員会を半壊させかけたのは、ちょっと計算外だったがな」
「リーダー、僕はただ与えられた任務を完璧に遂行しただけですよ?」
カリネが静かに『タッチ&ラン』をホルスターへと収めながら、すました顔で返答する
「う〜ん、結果オーライっすね! ヒナ委員長が来てくれたなら、これで一件落着っす!」
ヘルタが脳天気に拍手をし、現場の張り詰めた緊張感が急速に解けていく
ヒナは再び深く溜息をつくと、冷ややかな視線をアコとイオリへと向けた
「アコ、イオリ。撤退用の輸送機を手配しなさい。全員、即座に撤収よ」
「し、しかし委員長! 便利屋68がまだ……!」
イオリが食い下がろうとするが、ヒナの眼光が一瞬鋭さを増した
「……そういえば、小鳥遊ホシノはいないの?」
ヒナがそう呟いた、まさにその瞬間
「うへ〜……なんか凄まじい音がしたから来てみたら……何が起きてるの、これ?」
瓦礫の隙間から、大きなアタッチメント付きの銃袋を肩に担いだピンク髪の少女――アビドス対策委員会委員長、小鳥遊ホシノがくあくあ欠伸を噛み殺しながらひょっこりと顔を出した
「ホシノ先輩!! 今までどこ行ってたんですか!!」
セリカの絶叫のようなツッコミが響き渡る。ホシノは「うへえ、セリカちゃん怖いなぁ。おじさんはちょっと日陰でお昼寝してただけだよ〜」と頭を掻きながら、ヒナと視線を交わした。かつての「アビドスの悪夢」と「ゲヘナ最強」の視線が交差し、一瞬だけピリッとした空気が走るが、ホシノはすぐに脱力した笑みを浮かべた
「アビドス自治区内における無許可の武力行使、一般店舗の破壊、そして他校およびシャーレに対する不当な威圧……これ以上の過失を重ねるつもり? それに……先生にも迷惑をかけているわ」
ヒナは先生の方を振り返ると、少しだけ表情を柔らかくし、申し訳なさそうに頭を下げた
「先生……うちの部下が大変な迷惑をかけて、本当にごめんなさい。この場の収拾と損害については、後日私からアビドスとネクストライ側に正式に謝罪と補償の手続きを行う」
「ヒナが気にすることじゃないよ。来てくれて助かった、ありがとう」
先生が優しく声をかけると、ヒナは少しだけホッとしたように口元を緩めたが、すぐに表情を引き締め直してアコたちに向き直った
「さあ、行くわよ。反省文と始末書の準備をしておきなさい」
「うぐぅ……はい、委員長……」
アコは完全に意気消沈し、ガックリと肩を落とした。イオリも「くそーっ! ネクストライの銀髪……次は絶対に負けないからな!」と捨て台詞を残しながら、すごすごと風紀委員の部隊とともに撤退を開始した
そんな中、ヒナは先生の近くに行き何かを話すと風紀委員会と合流して帰っていった
風紀委員会が去り、アビドスの荒野には再び静寂が戻ってきた
「ふう……なんとか助かったわね。一時はどうなることかと思ったわ……」
セリカがアサルトライフルを背負い、深く息を吐き出した
「ん。ネクストライスクールの三人、本当にありがとう。助かった」
シロコがレイカたちの元へ歩み寄り、静かに謝意を表す
「礼には及ばないさ。俺たちはただ、美味しいラーメンを食べに来て、巻き込まれただけだからな」
レイカはニッと笑うと、物影から恐る恐る顔を出した柴大将と、ガタガタと震えている便利屋68のアルたちへと視線を向けた
原作の激動の展開を、知識と圧倒的な実力、そして卓越した立ち回りで完全に塗り替えてみせたネクストライスクールの面々
そんな中、ヘルタがレイカの耳元でとある提案をする
「そういえばリーダー……うちの工芸部、砂を探して枯渇してなかったっすか? アビドスのこの広大な砂……ここで交渉すれば、タダ同然で譲ってもらえるんじゃないっすかね……?」
「………なるほど、その交渉をするのもありだな。とりあえず、先生こんな場所じゃ話すことも話せないしな」
レイカの軽やかな呼びかけに、先生とアビドス対策委員会のメンバーは顔を見合わせ、安堵の笑みを浮かべるのだった