「はぁ……」
俺は木村ミヤカ
前世はガテン系、いわば工事現場で汗を流すしがない作業員だったのだが、現場での事故であっけなく死亡
目覚めたらなんと華奢な女子高生の姿になっており、頭に光の輪っか浮かぶ、銃撃戦が当たり前の狂った世界に叩き落とされていた
生きていくためには金がいる。というわけでコンビニでバイトを始めたのだが――
「なんだよあの店長……学生相手に平気で残業だの長時間労働だの頼んできやがって……労働基準法仕事しろよ……」
見た目こそ中3から高1あたりの女子生徒だが、中身は労働の厳しさを知る元・大人だ
連日ワンオペ気味にシフトを詰め込まれ、毎日へとへとになりながら働いて5日が過ぎた頃だった
ある日、店内に一人の少女が入ってきた
「すいません、こんな落とし物が店前に落ちてましたよー」
「えっ、あ、はい……って、うち交番じゃねえんだけど……あれ? もういねえ?」
面倒なものを押し付けられたと溜息をつきつつ、受け取った紙くずを処分しようとした私は、そこに書かれた文字に目を丸くする。手書きの簡素なメモにはこう書かれていたのだ
『君は転生者? そうなら今日の夜9時にここに来て』
地図の略図と共に記された一文……それを見た瞬間、胸の奥から猛烈な驚きと、それを遥かに上回る歓喜が湧き上がってきた
(マジかよ……私以外にも、この世界に仲間がいたのか……!!)
ただそれだけのことだったが、孤独に怯えていた私にとっては救いの光だった
俺はワクワクを抑えきれず、店長に体調不良をでっち上げてシフトを早めに切り上げると、指定された場所へと急いだ
「……なぁ、50人どころじゃなくねぇか?」
「見間違いじゃねえぞ……200人以上いる、これ……」
なるべく人目につかない、頑丈な鉄骨造りの廃病院を集合場所に選んだらしいのだが、それにしても人が多すぎる
薄暗いロビーに集まった女子生徒たちの会話に耳を澄ますと、あちこちから飛び交うのは懐かしい日本の単語ばかりだった
「あんた元自衛官か! すげえな!」
「あぁ、まさか前世で使ってた89式じゃなくて、この世界の銃を握ることになるとは思わなかったがな」
「私達だけかと思ってたけど、こんなにいたんだね!」
「口コミだけでここまで広がるって、日本人どんだけ転生してんだよ!」
「にしても、まさか”ブルーアーカイブ”の世界にこんなに来てたとはなぁ……」
「わかる! 推し生徒に会いたいけど、今はそれどころじゃないよね!」
集まった全員が殆どが日本人転生者だった。前世の知識を持ち、この世界の異常さに困惑し、そして同じ故郷の仲間と出会えたことに目を輝かせていた
その時――崩れかけた受付カウンターの上に、すっと一人の少女が駆け上がった
黒髪ウルフカットにターコイズの毛先、背の高いボーイッシュな少女………
腰には折りたたみ式のピストルを下げている
そして彼女こそが、私にあのメモを渡させた張本人であり、ここに転生者を集めた張本人だった
その子は大声を張り上げ、場内を一気に沈黙させる
「みんな! よく集まってくれた!!」
一斉に、200人以上の視線が彼女に集中する
「俺のここでの名前は赤坂レイカだ!!急にここに呼び出されて戸惑っているやつもいるだろう! だが、ここにいるやつは全員、日本からの転生者だ! このわけのわからない世界に放り出されて、初日にカツアゲされたやつも、銃声に怯えてたやつもいるはずだ!」
レイカの叫びに、周囲から共感と怒号の嵐が巻き起こる
「あぁ! 初日に不良に絡まれてカツカツだったんだよ!」
「銃声が怖くて部屋から出られなかったよぉ……!」
「私は理不尽な長時間労働させられてたよ!!」
私も思わず拳を握りしめて叫んでいた
「わかる!」レイカは大きく頷き、集まった200人の仲間たちを見渡して堂々と本題を突きつけた
「俺がみんなをここに呼んだのは――このキヴォトスに、”俺達だけの学園”を作るのに協力してほしいからだ!」
「学園……?」
「えっ、なんでわざわざ学園を作るの?」
ブルアカの知識がない転生者たちが首をかしげる。だが、知識のある奴らが即座にハッとした声を上げた
「そうか! 学園か!! この世界、どこかの学園に所属して『学籍』を得ないと、身分証明も戸籍も手に入らないんだ!」
「既存の学園に身元不明のまま入学するのはリスクが高すぎる……! でも自分達で学園を作れば……!」
知識組の説明を受け、場内に理解と納得の波が広がっていく。レイカはさらに熱を帯びた声で言葉を重ねる
「そうだ! 数百人の規模になれば、連邦生徒会に新しい学園として申請できる! そうすれば学籍も戸籍も手に入り、住む場所も、安全も保証される! 既存の学園の争いに巻き込まれず、自分達だけの居場所が作れるんだ!!」
「「「おおおおおっ!!!!」」」
地鳴りのような歓声が廃病院を揺らす
「俺は事故で死んで、一度人生が終わった! だが幸か絶望か、この狂った、だけどとびきり綺麗な青空が広がる世界で二度目の生を得た! だったら――既存の学園に怯えて過ごすなんてクソくらえだ!」
レイカは腰の銃をドンと突き上げ、叫ぶ
「前世でやり残した青春も、大人としての知識も、全部詰めた”俺達だけの学園”を一から作ってやろうじゃないか! 設立申請の目標人数は500人! さらに仲間を呼び集めるぞ!!」
「「「ウオオオオオオオオオッ!!!」」」
もはや誰も迷っていなかった
ただの迷子だった転生者たちが、赤坂レイカという一人のリーダーのもと、一つの巨大な「目的」へと結束した瞬間だった
俺、木村ミヤカも胸の奥が熱くなるのを抑えきれなかった。ワンオペバイトなんてやってる場合じゃない。このカッコいいリーダーと一緒に、自分たちの居場所を作ってやる
――――――――――
「レイカさん、署名が200人分集まりました!」
ミナサが嬉しそうに書類を抱えて駆け寄ってくる。横ではアリカが「ウチらメッチャ頑張ったで!」と胸を張っていた。最初に会った時のような勢いのある播州弁も、今はすっかり心地よい賑やかさとして馴染んでいた
「しかし……めっちゃ盛り上がったな」
「あんさんの演説にみんな共感しただけや………」
全員が俺に対してリーダーと言ってくる………
「俺、政治系まるまる転生した政治家とかにやらせるつもりなんだが……」
「まあ、学園を作るまでのリーダーとして引っ張っていくためにも少しの間だけでも頑張ってください」
そういわれて、あきらめるしかなかったが………
それでも学園成立の第一歩を踏み出せたのは大きかった………
「人の問題は解決……次は土地だ………」
「ねー、いくら人がいても土地がないとね……」
学園を建てるなら土地が必要……だが、そんなでかい土地をどう確保すればいいのか?
そんなことを考えていると………
「すいません……それなんですけど……」
一人の転生者が声をかけてくる……
「一様知識ある状態での転生なんですけど……確か、ゲーム内の任務で確か#廃校や#学校の怪談とかあった気が………」
それを聞いた俺は………
それだああぁぁぁ!!!!
土地問題があっさり解決するかもしれない事態に大声を上げてしまう………
「よし!そうとなれば後は資金と人だ!ここにいる転生者全員に連絡網をしいて、署名取るぞ!」
鉄は熱いうちに打てという言葉の通り、集まった転生者同士での連絡先交換会が始まり、署名などを貰っていった
「木村ミヤカです。前世はガテン系の現場作業員だった!力仕事と建築関係の基礎なら任せてくれ!」
ミヤカが力強く署名用紙に名前を書き込む。彼女の申し出は実に頼もしかった
廃校の校舎を修繕するとなれば、建築や土木の知識を持つ人材は喉から手が出るほど欲しい
「おー、木村さん助かる! 実は元・建築士の転生者も一人確保しててさ、一緒に校舎の補修計画を立ててほしいんだ!」
「おう、任せろ! ブラックなコンビニバイトなんか辞めて、こっちの現場作業に全力投球してやるよ!」
ミヤカのように、自分の前世の知識や技能を”学園作りのため”に提供してくれる仲間が、続々と名乗りを上げていく
元・自衛官の人達は”学園の防衛ライン策定と、戦闘訓練の指導”
元・整備士の人達は”車両や機械類のメンテナンス整備班の立ち上げ”
元・プログラマーの人達は”独自通信網の構築”
元・弁護士の人達が”キヴォトスに合わせた学園成立のための書類作り”
200人以上の転生者が本気を出した時の行動力は、恐ろしいほどだった
最初は生き延びることに必死だった迷子たちが、いまや自分たちの”理想の城”を作るために、目を輝かせて協力し合っている
「レイカさん、署名が200人分集まりました! それと新たに連絡がついた転生者が、あと50人近くいるみたいです!」
ミナサが興奮気味に集計用紙を持って走ってくる
「よし……! 土地の候補地絞り込みと並行して、口コミの輪をさらに広げる。目標の500人まで、あと半分だ!」
俺は窓の外を見上げた
街の明かりが遠くに見える、キヴォトスの夜空
頭上に浮かぶヘイローの光が、廃病院の窓ガラスに静かに反射していた
既存の学園へ進学するくらいなら、自分たちだけの学園を作ろう
ただの突飛な思いつきから始まったその計画は、転生者同士の連絡網による勧誘、200人の仲間たちの熱量によって、絶対の現実へと変わりつつあった
連邦生徒会に学園立ち上げの書類が出されるのも近い未来となっていた………