アビドス砂漠で繰り広げられたカイザーPMCとの激戦、そして「七囚人」の一人である狐坂ワカモとの死闘から数週間が経過していた
ネクストライスクールの中央校舎、その最奥に位置する生徒会執務室には、落ち着いた重厚な空気が流れていた。窓から差し込む陽光が、磨き上げられた木製の長テーブルを優しく照らしている
テーブルの上には、行政担当の加藤レンスと法務担当の佐藤ナイトが連名で作成した、極めて分厚い「カイザーグループ関連法的処理・過払い金回収完了報告書」が誇らしげに置かれていた
「—以上の通りです、ハレカ会長、レイカ君。法務部および行政部の連帯により、カイザーローンに対する違法金利の引き直し計算、ならびにアビドス自治区域への不法侵入・事業妨害に伴う損害賠償請求は、連邦裁判所からの仮差押命令を経て、完全に強制執行されました。カイザー側が差し押さえを逃れるために隠蔽していた裏口座からも、法的手続きに基づいて巨額の資金が我が校の公金口座へと送金完了しております」
スーツを完璧に着こなした佐藤ナイトが、眼鏡の端を指で軽く押し上げながら、冷徹かつ満足気な笑みを浮かべて報告を締めくくった
「素晴らしい成果です、ナイト君、レンス君。ただ銃弾を交えるだけでなく、社会のルールと法的ロジックで悪徳企業を完敗させる……まさに、我が校が誇る『大人の知恵』の真骨頂ですね」
生徒会長である3年生の西条ハレカは、優雅な動作で紅茶のカップを口元へ運び、心底誇らしそうに目を細めた。前世で政界の泥と光を熟知していた彼女にとって、こうした合法的かつ徹底的な勝利は何よりも好ましいものだった
その隣で、黒髪のウルフカットの毛先に鮮やかなターコイズブルーを覗かせた少女——創設者であり現場総責任者を務める3年生の赤坂レイカは、長椅子に深く背を預け、苦笑交じりに首を振った
「つくづく恐ろしい法律家だよ、お前らは。カイザーの連中、弾丸で撃たれるより胃に穴が空く思いだったろうな。……まあ、あいつらが自業自得で吐き出したその資金、どう使うつもりなんだ、ハレカ?」
「我がネクストライスクールは、今年度だけで全校生徒数が1300名を突破しました。既存のインフラだけでは遠からず限界が来ます。ですから、回収したこの資金は全額、DU第2校舎および防壁の強固化、さらには地下開発ドックの大型拡張と専門実習棟の新設へと投資します。アビドスから定期輸入する高品質な珪砂と砂利があれば、我が校は名実ともに揺るぎない防衛力と生活環境を確立できます」
「施設拡充か。文句なしだな」
レイカが満足そうに頷いたその時、執務室のドアが静かにノックされた
「失礼いたします、ハレカ先輩、レイカ先輩」
入ってきたのは、今年度から生徒会新執務補佐として加わった1年生の立火ジュカだった。短く切り揃えた赤い髪に、引き締まった体幹。生真面目で実務的な彼女は、手元に大切そうに抱えた一通の豪華な羊皮紙封筒を掲げていた
「我が校の正門窓口に直接届いた特筆すべき親書がございます。確認をお願いいたします」
ハレカがそれを受け取り、封を改める。封蝋には、ミレニアムサイエンススクールの生徒会組織「セミナー」の紋章が刻印されていた。ハレカは手紙の内容を目で追い、やがて興味深そうに目を細めた
「—開催期日は、今から一か月半後。ミレニアムサイエンススクールで全校を挙げて開催される世紀の発明品コンテスト『ミレニアムプライス』。その開催にあたり、我がネクストライスクールに対し『特別審査員およびゲスト展示校』としての公式参加を要請する、セミナーからの招待状です」
「なっ……!? ミレニアムプライスが、一か月半後……!?」
その言葉を聞いた瞬間、レイカと、同じく原作知識を持つ1年生補佐の天笠ネカの背筋に冷たい緊張が走った
レイカは思わず立ち上がりかけ、額を押さえた。脳裏に前世の記憶—ゲーム開発部、C&C、ヴェリタス、エンジニア部が引き起こす数々の爆発とトラブル、そしてパヴァーヌ編を巡る危険な動乱の予兆が駆け巡る
「まずいぞ、ハレカ……! ミレニアムってのは外見こそ理系名門校だが、その実態は『狂気的な技術バカと天才変人の巣窟』だ! そんな場所で開かれる祭典に審査員として首を突っ込んだら、ミレニアムの内部抗争や危険な古代兵器騒動に巻き込まれかねない!」
「れ、レイカ先輩の言う通りです……! 一か月半後なんてあっという間です! 生半可な準備で乗り込んだら、過激な珍発明の爆風に巻き込まれて全滅しますよ……!」
ネカが丸眼鏡を震わせながら叫ぶが、ハレカは落ち着いた様子で手紙をデスクに置いた
「レイカ君、ネカちゃん。お二人が警戒する理由はよく分かります。ですが……生徒数が1300名を超えた我が校が、トリニティやゲヘナ、ミレニアムといった巨大勢力から『謎の危険武装集団』ではなく『信頼に足る第4の学園』として認められるためには、この招待を受けるべきです。一か月半という猶予は、外交的・技術的準備を整えるには十分な時間です」
ハレカの完璧な外交的論理に、レイカは深く溜息をつき、頭を掻き回した
「……分かったよ。受けよう。だが現地に送る使節団のメンツは慎重に選ばねえとダメだ」
「ええ、すでに最適な陣容を考えてあります」
ハレカは優雅に微笑んだ
「アーティファクト研究部部長、青花ヒバナ君。防衛部の実戦テスター、志賀カエデ君。そして生徒会からの実務窓口として、立火ジュカ君。この3人を我が校の公式代表使節団として派遣します」
直後、ドアが勢いよく開かれ、白衣をはためかせたヒバナが飛び込んできた
「ハレカ、レイカ! 聞いたわよ! 一か月半後にミレニアムプライスですって!? くふふ……一か月半もあれば十分よ! 我が研究部が誇る相転移分子構造の応用技術とパルスチャージ理論の論文を引っ提げて、ミレニアムの理系エリートどもの鼻を明かしてやるわ!」
続いて静かな足取りで現れたカエデも、背中の『パルスライフル改』を引き締めながら力強く頷いた
「防衛部としても、この一か月半の間にPSシールドの連続展開テストと迎撃シミュレーションを完了させます。アウェーの地でも、使節団の安全は完璧に確保してみせます」
二人からの熱意と頼もしさに接し、最後に名前を呼ばれたジュカも、緊張を振り払うように胸を叩いた
「レイカ先輩、ハレカ先輩! 一か月半の本番に向け、セミナーとの事前交渉や事務手続き、完璧に仕切ってみせます!」
レイカはニッと温かい笑みを浮かべ、3人の背中を見つめた
「決まりだな。これからの一か月半、技術も警備も外交も、一切の妥協なしで仕上げるぞ。ミレニアムの天才変人どもに、ネクストライの底力を見せてやろうじゃないか!」
カイザーからの資金回収と施設拡充を進める傍ら、一か月半後に迫る「ミレニアムプライス」に向けて
「第4の学園」としての威信をかけたネクストライスクールのカウントダウンが、今、力強く刻まれ始めたのだった