転生者共の学園生活   作:矢守龍

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第2章 波動を証明するフォーレ
Vol.1 ミレニアム、再び


巨塔のごとく聳え立つミレニアムサイエンススクールの本部タワー。その上層階に位置する生徒会組織「セミナー」の執務室には、ガラス窓越しに広がる広大な学園都市のパノラマと、冷たくも洗練された電子機器の駆動音が満ちていた

 

整然と並べられた端末群の中央、重厚なミーティングテーブルを挟んで、二つの異なる学園の代表者が向き合っていた

 

片や、ミレニアムの財政と運営を一身に背負うセミナーの会計、早瀬ユウカ。そしてその隣で穏やかな微笑みをたたえながら記録端末を操作する書記、生塩ノア

 

対するは、ネクストライスクールから派遣された三人——白衣を羽織り理知的な視線を送るアーティファクト研究部部長、3年生の青花ヒバナ。背筋を凛と伸ばし、実戦派らしい隙のない佇まいを見せる防衛部実戦テスター、3年生の志賀カエデ。そして、それらの後方で完璧に揃えられた書類のファイルを抱え、緊張感を持って待機する生徒会補佐、1年生の立火ジュカであった

 

「……改めて、ネクストライスクールの皆さん。急な呼び出しにもかかわらず、こうして足を運んでいただき感謝します」

 

ユウカは提出された身分確認のデータを手元の端末で照合し、満足そうに頷くと、整った姿勢で正面を見つめた

 

「先日、我が校のセミナーから送付させていただいた公式親書……『ミレニアムプライス』へのご案内についてですが、まずは会長の西条ハレカさんからの前向きなご回答、非常に嬉しく思っています」

 

「ええ、ハレカも今回の件には非常に強い関心を示していたわ」

 

ヒバナは黒髪のショートヘアを揺らし、白衣のポケットに手を突っ込みながら、落ち着いた声で返答した

 

「我が校は設立から日が浅いけれど、独自の技術開発とアーティファクト解析においては既存の大学園にも引けを取らない自負がある。ミレニアムプライスという、キヴォトス最高峰の技術の祭典に招かれたことは、我がアーティファクト研究部としても非常に光栄なことね」

 

「ふふ、ヒバナさんたちの技術力については、すでに我が校のデータベースでも特筆すべき事項として記録されていますよ」

 

ノアが可憐な笑みを浮かべ、手元の透過ディスプレイを軽やかにスワイプしながら言葉を継いだ

 

「アビドス自治区域におけるカイザーPMCとの交戦データ、ならびにDUシラトリ地区における拠点防衛戦での戦闘記録……そこで提示された高周波パルス技術、および相転移構造を利用したエネルギー拡散シールド。これらは既存のミレニアム製兵器のフレームワークと比較しても、極めて独自性の高い理論に基づいて構築されています」

 

ノアの言葉に、カエデは微かに眉を動かした。軍事知識と実戦経験に長けた彼女にとって、ミレニアムの情報収集能力の高さは想定内でありつつも、改めて感心させられるものがあった

 

「……評価していただき恐縮です。私やヒバナ部長が試作運用している装備は、我が校の技術のほんの一片に過ぎませんが……安全基準と防衛プロトコルに関しては徹底しております」

 

「ええ、その『圧倒的な技術的独自性』と『高度に自律した統率力』こそが、今回セミナーがネクストライスクールに特別なオファーを出した理由です」

 

ユウカが身を乗り出し、真剣な眼差しで二人、そして後ろに控えるジュカを見つめた

 

「今回、ネクストライスクールの皆さんにお願いしたいのは、単なる一般見学や従来の招待校枠ではありません。『ミレニアムプライス特別審査員』としての招聘……そして、異例ではありますが『他学園ゲスト特別展示枠』としての出展依頼です」

 

「審査員、およびゲスト展示枠……ですか」

 

後ろで控えていたジュカが、手元のメモ帳をめくりながら丁寧な口調で復唱した。引き締まった体幹と短い赤髪が特徴的な彼女は、生徒会補佐としての役割を全うすべく、真剣な表情を崩さない

 

「はい。現在、ミレニアムプライスには校内から無数の出展申請が寄せられています。ですが、ミレニアム内部の技術者たちはどうしても相互の派閥や専門分野に対する偏りが生じがちです。そこで、外部でありながら先端科学と未知の技術解析において確固たる実績を持つネクストライスクールに、第三者視点からの正当な評価を下していただきたいのです」

 

ユウカの説明を受け、ヒバナは探求心に満ちた笑みを浮かべた

 

「面白いわね。ミレニアムの狂気的な……失礼、先進的な発明品群を正当に査定し、同時に我が校の技術を提示する。外交的にも技術的にも、断る理由が見当たらないわ。審査員プロトコルの詳細と、展示ブースの規定領域に関するデータはこちらで預かっても?」

 

「もちろんです。詳細な規約文書はこちらの端末から、そちらの生徒会補佐——ジュカさんのデータ端末へ直接転送しますね」

 

ノアが操作を行うと、ジュカの手元の端末が控えめな電子音を鳴らした。ジュカは素早くデータを受信し、エラーがないかを確認すると、深くお辞儀をした

 

「受信確認いたしました。セミナーの皆様、本件は生徒会長のハレカ先輩、ならびに現場総責任者のレイカ先輩へ即座に共有し、万全の準備を整えさせていただきます」

 

「完璧な仕事ぶりね、ジュカちゃん。感謝するわ」

 

ユウカは安堵の息を吐き、書類を整理しながら椅子の背もたれに体を預けた

 

「これで公式な事前協議は完了です。必要手続きの署名捺印も確認できました。……ふぅ、ネクストライスクールがまともな手続きを踏んでくれる相手で本当によかったわ。最近は校内のトラブル続きで、胃が痛むことばかりだったから……」

 

「クスクス、ユウカちゃん、本音が漏れていますよ」

 

「コホン! と、とにかく! これで要件は終わりです。せっかくミレニアムまでお越しいただいたのですから、本日の残りの時間はぜひ校内を自由に散策していってください。主要な研究エリアの通行許可証は、その端末に付与してありますので」

 

「ありがとう、ユウカ。助かるわ」

 

ヒバナは立ち上がり、白衣を軽く整えた。カエデもまた、静かに起立して礼を尽くす

 

こうして、ミレニアムプライスに向けた最初の公式交渉は、極めて円滑に妥結したのだった

 

 

 

セミナー執務室を後にした三人は、広大なミレニアムの本部タワーから下層の一般研究棟へと向かう連絡通路を歩いていた

 

頭上を覆う強化ガラス越しには、空を穿つような近代的な高層ビル群と、自動走行する多脚輸送プラットフォームが交錯する未来都市の景観が広がっている

 

「……凄いですね。DU第2校舎の周辺も突貫工事で整備が進んでいますが、都市インフラの密度と自動化の領域においては、やはりミレニアムが一日の長があります」

 

ジュカが感嘆の声を漏らしながら、周囲の建築構造を観察する。実務的で真面目な彼女の視線は、既にネクストライスクールの防壁や地下ドックの拡張工事にどう活かせるかという点に向けられていた

 

「フン、表面的な華やかさは認めるけれど、エネルギー効率の面では無駄が多いわね」

 

ヒバナは天井を走る配管と光ファイバーの束を見上げ、研究者らしい批判的な視線を投げかけた

 

「校内全域の超高伝導送線管……あれだけの電流を流しながら、排熱冷却が局所的な冷却液循環に依存しているわ。相転移分子材料を使った熱変換システムを導入すれば、消費電力を少なくとも一割は削減できるのに。ミレニアムの連中は『新しいものを作る』ことには天才的だけど、『既存のシステムを最適化する』ことには無頓着なようね」

 

「……同感だ」

 

カエデが背中の『パルスライフル改』の固定ベルトを無意識に調整しながら頷く

 

「警備システムを見てもわかる。自動防衛ターレットの配置間隔が広すぎる。高低差を利用した死角のカバーが甘い。実戦でヘルメット団や不良どもの強襲を受けた場合、第一ラインが破られれば即座に中央サーバー室まで到達される構造だ。……防衛部のツヨシ先輩が見たら、即座に不合格を出すだろうな」

 

二人の専門家的な、そしてやや辛辣な意見を聞きながら、ジュカは苦笑いを浮かべた

 

(相変わらず二人とも、ネクストライ基準で物事を見ているなぁ……。でも、それがうちの強みでもあるんだけど)

 

ジュカは自分の内面に意識を向けた。彼女自身、このネクストライスクールにおける「転生者」の一人であり、前世では『ブルーアーカイブ』という作品を熟知していたプレイヤーであった

 

外部に対しては「前世の記憶」や「日本人転生者であること」は絶対の極秘事項として隠し通さなければならない。しかし、彼女の脳裏にはミレニアムサイエンススクールでこれから起こる数々の騒動——「パヴァーヌ編」や「ミレニアムプライス」を巡るドラマの知識が、明確なタイムラインとして記憶されていた

 

(ミレニアムプライス……ゲーム開発部……天童アリス……。まさか、自分がこの目で直接その歴史の渦中を見ることになるなんて……)

 

ジュカが内心で胸の高鳴りを抑えようと深く息を吐いた、その時であった

 

—ズドン!! ドカァン!!

 

静寂な通路に、地鳴りのような重低音と、明らかに金属が破壊された甲高い衝撃音が響き渡った

 

「っ!? 砲撃音……!?」

 

カエデが瞬時に反応し、左手を腰のピストルグリップへ伸ばしながら前傾姿勢をとる。実戦テスターとしての反射神経が、0.1秒で戦闘体制を構築していた

 

「落ち着きなさい、カエデ。爆発音の後に警戒アラートが鳴っていないわ。……それに、この独特の焦げ臭い硝煙とオゾン臭。事故ではなく、いつもの『日常』のようね」

 

ヒバナは白衣の袖を軽く払うと、音の発生源である右手の区画—「第3工学実験工房」と書かれた巨大なハッチを見つめた

 

ハッチの隙間からは、白煙とともに聞き覚えのある威勢の良い叫び声と、少女たちの喧噪が漏れ聞こえていた

 

「す、すごいよ!!」

「まるで砲撃……」

「い、威力がすごい……」

 

(この声……才羽モモイ!? 才羽ミドリ!? 花岡ユズ!? ということは、この場所は……!)

 

「あら、賑やかね。どうやらミレニアムが誇る名物部活のひとつのようだわ」

 

ヒバナが面白そうに目を細め、ためらいなく吹き出す煙を押し分けてハッチの先へと足を踏み入れた

 

「ヒバナ部長、待ってください! 危険です!」

 

カエデが即座に追従し、ジュカも慌てて二人の後を追った

 

第三節:運命の武器と「大人」との再会

 

煙が立ち込める工房の内部は、足の踏み場もないほどに散らばった機械パーツ、測定端末、そして巨大な溶接機で溢れかえっていた

 

その空間の中央には、二つのグループが存在していた

 

一つは、ミレニアムが誇る技術集団「エンジニア部」。部長の白石ウタハが、目の前のロボットのパーツを工具で器用に手入れしながら何やら喋っている。その横では猫塚ヒビキがヘッドホンをいじりながら調整を行い、豊見コトリが早口で怪しい兵器の解説を展開していた

 

そしてもう一つは、ゲーム開発部の面々—モモイ、ミドリ、ユズ

 

さらに彼女たちの中心、重厚な鋼鉄の作業台の上には、到底ひとりの生徒が持ち運べるとは思えない巨大すぎる兵器—レールガン『光の剣:スーパーノヴァ』が鎮座していた。そしてその傍らでは、長い髪を揺らした小柄な少女・天童アリスが、物珍しそうに目を輝かせながらその巨大な銃身を見つめていた

 

「ふむ、どうやら君が持つに相応しいようだね」

 

ウタハが腕を組み、誇らしげに胸を張る

 

「パンパカパーン! アリスは勇者の剣を手に入れました!」

「やったねアリス! これで武器のことは大丈夫だね!」

 

モモイが歓喜の声をあげて跳びはねる

 

しかし、ジュカの視線はゲーム開発部でもエンジニア部でもなく、その作業台のすぐ脇に立つ、ひとりの青年の姿に釘付けとなっていた

 

シックなスーツを身に纏い、困ったような、しかしどこか温かい苦笑いを浮かべながら少女たちのやり取りを見守る人物

 

「—あ」

 

ジュカの口から、思わず小さな声が漏れた

 

その声に反応するように、大人—キヴォトスにおいて「シャーレ」を率いる「先生」が振り向いた

 

 

先生の目が丸くなり、次いでパッと表情が明るくなる

 

「あれ……? ジュカ!?」

 

「せ、先生……!? どうしてここに!?」

 

ジュカは思わず一歩踏み出し、普段のクールな実務態度を忘れて素の驚きを露わにした

 

「ジュカ! 久しぶりだね! ネクストライの正門で会って以来かな? 元気にしていた?」

 

先生は気さくに手を振りながらジュカへと歩み寄ってきた

 

本来なら、連邦生徒会直属の機関「シャーレ」の最高責任者である先生。しかし、彼は以前、ネクストライスクールを単身訪問した際、警備や生徒会の混乱を意に介さず、生徒たちに対して対等で温かい「大人」として接した経緯があった

 

その際、レイカやハレカだけでなく、補佐官であるジュカたちに対しても「呼び捨てで呼んでほしい」という申し出を受け入れ、一気に距離を縮めていたのだ

 

「は、はい! おかげさまで! 生徒会業務も防衛部との連携も順調に進んでいます! 先生もお変わりなさそうで……って、違います! 先生こそ、ミレニアムで何をされているんですか!?」

 

ジュカが慌てて姿勢を正すと、先生は苦笑しながらゲーム開発部の面々を指さした

 

「いやあ、ゲーム開発部のみんなから『どうしても手伝ってほしいことがある』って連絡をもらってね。新しい仲間……アリスを迎えるための準備をしているところだったんだよ」

 

「天童アリス……!」

 

ジュカの胸が激しく高鳴った

 

(本物だ……本物のパヴァーヌ編第1章、アリスの『光の剣』受領イベントの現場だ……!! ゲームで見たあの名シーンが、いま目の前で繰り広げられている……!!)

 

ジュカの内心のオタク魂が狂喜乱舞し、語彙力が崩壊しかけていた。しかし、彼女は必死で歯を食いしばり、生徒会補佐としての理性を保つために顔面をピクピクと引きつらせていた

 

「……ジュカ、そちらの方は?」

 

後ろから静かな声がかけられた。ヒバナとカエデが、先生の存在に気づいて歩み寄ってきたのだ

 

「あ、はい! こちらはシャーレの『先生』です! ……先生、こちらのお二人は我がネクストライスクールの先輩方です」

 

ジュカが紹介すると、先生は丁寧にお辞儀をした

 

「初めまして。シャーレの先生です。ネクストライの生徒さんたちには、いつもシャーレ前防衛戦やアビドスでの件で助けられています。本当にありがとう」

 

「初めまして、先生。アーティファクト研究部部長、3年生の青花ヒバナよ」

 

ヒバナは理知的な瞳で先生を観察するように見つめ、優雅に挨拶を返した

 

「レイカやハレカから話は聞いているわ。『頼りなさそうに見えて、根っこは完璧な大人』とね。フフ、実際に会ってみると、確かに不思議な包容力を感じるわね」

 

「防衛部兼アーティファクト研究部の実戦テスター、3年生の志賀カエデだ」

 

カエデもまた、隙のない動作で一礼した

 

「レイカ先輩やツヨシ責任者から、先生の指揮能力については伺っています。戦場において生徒の安全を最優先に確保するその手腕、敬意を表します」

 

「あはは……みんなからそんな風に評価されているなんて、少し照れるな」

 

先生は頭を掻きながら、柔らかく笑った

 

(……すごい。ヒバナ先輩もカエデ先輩も、先生と初対面なのに全然物怖じしていない。これがネクストライの3年生の威厳なんだ……!)

 

ジュカが一人で感動していると、工房の奥からウタハたちの声が響いた

 

「おいおい、そっちの客人は誰だい? ネクストライスクールの生徒……? まさか、あの噂の『第三勢力』かい?」

 

ウタハが興味津々といった様子で歩み寄ってきた。モモイやミドリ、ヒビキたちも物珍しそうにヒバナたちを取り囲む

 

「ネクストライスクール……!? あの、アビドスでカイザーPMCのゴリアテを一瞬で吹き飛ばしたっていう噂の学校!? カッコいい〜!」

 

モモイが目を輝かせ、ミドリがそれを後ろから引っ張る

 

「ちょっとお姉ちゃん、失礼でしょ! ……あ、初めまして、ゲーム開発部の才羽ミドリです」

 

「部外者の乱入……? でも、先生の知り合いなら問題ない……はず」

 

ユズが箱の中からひょっこりと顔を出して呟いた

 

混沌とした室内。しかし、ヒバナの視線は、既に少女たちではなく、作業台の上に置かれた『光の剣:スーパーノヴァ』へと注がれていた

 

第四節:波動の証明と個人携行型レールガン

 

「……ほう」

 

ヒバナが白衣のポケットから手を出し、作業台の巨大な電磁投射砲へとゆっくり近づいた。その瞳には、研究者としての強烈な探求心と知的な光が宿っている

 

「これが……あなたたちが組み上げたレールガンね」

 

「おや、わかるのかい?」

 

ウタハが口元をニヤリと歪め、自慢気に向かい立った

 

「そうだ。これは我がエンジニア部が予算の7割を使って製作したもの……通称『光の剣:スーパーノヴァ』!」

 

「なるほど。出力の数値だけ見れば確かに圧巻ね」

 

ヒバナは指先でスーパーノヴァのバレル側面を軽く叩き、フレームの伝導率やエネルギーラインを目で追った

 

「……けれど、設計思想が極めて大雑把ね。超伝導コイルの配置が単一の同軸構造になっているせいで、発射時の磁界歪みがフレーム全体にダイレクトに負荷を与えているわ。それに、コンデンサのエネルギー密度を補うために冷却ユニットを無理やり外部拡張しているけれど……これでは質量効率が悪すぎる。これだけの重量を持たされたら、通常の生徒では構えることすら不可能なはずよ」

 

「な、何言ってるの……!?」

 

モモイが思わず声を詰まらせ、抗議の声をあげる

 

「アリスはこの武器を持って、ゲーム開発部の一員として戦うんだから! 重いのは……まあ、ちょっと重いけど! ロマンがあるからいいの!」

 

「ロマン、ね。技術者としてその情熱は否定しないわ」

 

ヒバナはフッと口元を緩め、振り返ってカエデを見つめた

 

「けれど……『ロマン』と『実用性』は両立できるものよ。……カエデ、あなたが実戦テストを行っている我が校の装備をお見せしなさい」

 

「了解」

 

カエデは短く答えると、背中に背負っていた長方形の専用ハードケースへ手をかけた。ロック解除の電子音が響き、ケースが観音開きに展開する

 

そこに収められていたのは――マットブラックの特殊複合装甲で覆われた、極めて洗練されたコンパクトな形状を持つ兵器であった

 

一見すると大型のアサルトライフルや対物ライフルほどのサイズ感。しかし、そのバレル構造と内部から漏れ出るかすかな相転移粒子の残光は、それが尋常ならざる兵器であることを物語っていた

 

 

「な……なんだい、その武器は……!?」

 

ウタハ、ヒビキ、コトリの三人が、吸い寄せられるようにケースへと身を乗り出した

 

「我がネクストライスクール・アーティファクト研究部が開発し、防衛部で実戦テストを行っている『個人携行型レールガン』だ」

 

カエデは慣れた手つきでケースからレールガンを取り出し、作業台の空きスペースへと静かに置いた

 

「基本構造は電磁投射砲。だが、ヒバナ部長が解明した『相転移技術』と『高周波パルスチャージ理論』を組み込むことで、コンデンサの容積を従来の二十分の一まで圧縮している。初速・貫通力ともに戦車砲級の出力を維持しながら、一人の兵士が携行・連射可能なサイズまで小型化・軽量化を達成している」

 

「な……二十分の一……!? 携行型で戦車砲級の初速だと……!?」

 

ヒビキがヘッドホンを外し、目を丸くして感応センサーの数値を食入るように見つめた

 

「う、嘘ですよね……!? このコンパクトなフレーム構造で、どうやってローレンツ力による強烈な反作用と内部熱暴走を抑え込んでいるのですか!? 外部冷却機構も見当たりませんよ! 要するに、物理法則を無視していると言っても過言ではありません!」

 

コトリが興奮のあまりメガネの位置を何度も直しながら捲し立てた

 

「フフ……それが我が校のコア技術、『相転移分子構造』よ」

 

ヒバナは誇らしげに胸を張った

 

「発射時に生じる膨大な熱エネルギーと構造負荷を、相転移素材が一時的に別の運動エネルギーへと変換・拡散させているの。だから巨大な冷却ファンも、外部バッテリーパックも必要ない。これが、ネクストライスクールの技術力よ」

 

「す、すごーーーいっ!! 何これ、めちゃくちゃ格好いいじゃん!!」

 

モモイとミドリがカエデのレールガンを取り囲み、目を輝かせて歓声をあげる

 

「小さくて、軽くて、なのにすごパワー……! モモイ、これうちのゲームの裏ボスが持つ隠し武器に採用しようよ!」

 

「ちょっとモモイ、勝手に決めないで! でも……本当にすごい技術……」

 

ウタハは驚愕の表情から、やがて不敵で猛烈な技術者としての対抗心に満ちた笑みへと変貌させた

 

「ハ……ハハハ! 面白い! まさかミレニアムの外に、これほどまでのオーバーテクノロジーを平然と形にする技術者がいたとはね……!」

 

「ええ、ミレニアムプライスでの再会が、俄然楽しみになってきたわ」

 

ヒバナとウタハの視線が交差し、見えないスパークが散った。理系天才同士の、火花散るライバル関係がここに芽生えた瞬間であった

 

その光景を横で見ていた先生は、感嘆の溜息をつきながらジュカの肩を優しく叩いた

 

「いやぁ……ネクストライの技術力は本当に凄いね。ハレカやレイカだけじゃなく、みんながそれぞれの分野で圧倒的な力を持っている」

 

「あ……はい! ヒバナ先輩は我が校の誇る最高の頭脳ですので!」

 

ジュカは嬉しそうに胸を張った。先生に自分の学校を褒められることが、誇らしかった

 

(……すごい。原作のシナリオが、私たちの存在によって確実に新しい形へ進化している。ミレニアムの『光の剣』と、ネクストライの『個人携行型レールガン』。この二つが交差するミレニアムプライスは、きっと原作以上の激動の展開になる……!)

 

ジュカは内心で確信していた

 

アビドスでの過酷な戦いを乗り越え、カイザーからの法的・金銭的勝利を収めたネクストライスクール。彼らが次に挑む舞台—「ミレニアムプライス」

 

それは単なる発明品のコンテストではなく、キヴォトス全体の勢力図と未来を塗り替える、新たなる波動の始まりに他ならなかった

 

「よし! カエデ、ジュカ! 散策のつもりが思わぬ大収穫だったわね。一度校舎へ戻り、ハレカとレイカに展示ブースの仕様変更と、ミレニアム側の技術水準について報告書を作成しましょう!」

 

「了解だ、ヒバナ部長」

 

「はい! 即座にデータをまとめます!」

 

夕暮れ時の陽光がミレニアムのガラス壁を真っ赤に染め上げる中、ネクストライの使節団は確かな手応えと新たな火種を胸に、自校へと帰路につくのであった

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