ミレニアムサイエンススクールとの事前協議を終え、ネクストライスクールへと帰還した使節団。その足でアーティファクト研究部部長の青花ヒバナは、生徒会執務室のドアを威勢よく押し開けた
執務室のデスクでは、ネクストライの創設者であり現場総責任者である3年生、赤坂レイカが膨大な書類の山と格闘していた。その傍らには、生徒会補佐である2年生の霧状ヘルタと街肩カリネの姿もある
「戻ったわ、レイカ」
「おう、お疲れさん、ヒバナ、カエデ、ジュカ。ミレニアムとの話し合いは上手くいったみたいだな」
レイカは黒髪ウルフカットの毛先に覗くターコイズカラーを揺らし、ペンを置いて顔を上げた
「ええ、ミレニアムプライスでの『特別審査員』と『ゲスト出展枠』を正式に受託してきたわ。本番は8日後……せっかく我が校の技術をキヴォトス最高峰の祭典で提示するのだから、ミレニアムの連中の度肝を抜くような『目玉』を用意したいと考えているの。何かアイデアはないかしら?」
ヒバナが眼鏡の奥の瞳をギラつかせながら尋ねると、レイカは呆れたように苦笑し、椅子の背もたれに体を預けた
「目玉と言われてもなぁ……あいつら、技術に関しては頭のネジが飛んでる連中だろ? 中途半端な実弾兵器やレールガンくらいじゃ、驚きはしても腰を抜かしはしないんじゃねぇか?」
レイカは肘をつき、半ば冗談めかして言った。
「そうだな……いっそのこと、実弾を一切使わないエネルギー武器でも作ってみたらどうだ? ほら、SF映画に出てくるブラスターとか、ビームライフルみたいなやつ。あんな光線銃をポンと出せば、さすがのミレニアムもひっくり返るだろ」
その言葉を聞いて、横にいたヘルタが大きな声をあげて笑った
「あはは! ビームライフルっすか! それ、めちゃくちゃロマンあるっすねリーダー! 男の夢っす!」
「……SF映画の観すぎっすよ、リーダー」
カリネは呆れたように息を吐きつつも、口元に小さな笑みを浮かべた
「でもまあ、既存の物理弾頭の延長線上じゃない兵器っていう意味では、ミレニアムの煽りとしては最高かもしれないっすね」
「だろ? まあ、言うのはタダの冗談だが—」
レイカが笑い飛ばそうとした、その瞬間だった
ヒバナの動きがピタリと止まった。その黒髪ショートの頭上で、見えない電撃が走ったかのように彼女の瞳が極限まで見開かれる
「……実弾を使わない、エネルギーの直接光線化……相転移エネルギーの量子励起……高周波パルスによる収束磁界の超圧縮……」
ヒバナはブツブツと高速で専門用語を呟き始めると、突然バッとレイカのデスクを両手で叩いた
「いけるわ……! 理論上、我が校の相転移技術とパルス理論を応用すれば、エネルギーを拡散させずに『光の束』として投射するペタワット級の光学兵器が構築できる……!!」
「……え?」
「素晴らしいアイデアをありがとう、レイカ! 私は研究室に籠るわ!!」
「おい、待てヒバナ! 俺はただの冗談で――」
レイカの制止も聞かず、ヒバナは白衣を風になびかせ、脱兎のごとく執務室から廊下へと走り去っていった。残された執務室には、ポカンと口を開けたレイカとヘルタ、カリネ、そして事態の恐ろしさを察して引きつった顔をするジュカが取り残されていた
翌朝
生徒会執務室の扉が静かに開いた。そこに立っていたのは、目の下にうっすらと隈を作りながらも、狂気的な達成感に満ちた笑みを浮かべるヒバナだった
その両手には、黒とシルバーの金属フレームで構成され、スリットの隙間から青白いプラズマ光線がパルス状に明滅する、異形の銃器が抱えられていた
「……完成したわ」
ヒバナは誇らしげに、その銃をミーティングテーブルの中央へと静かに置いた
執務室にいたレイカ、ヘルタ、カリネの3人が、吸い寄せられるようにテーブルへと近づく。
「ヒバナ……まさかとは思うが、それ……」
「ええ。レイカの言った通り『実弾を一切使わない光学兵器』……名付けて『波動ライフル』よ」
ヒバナは手元の透過端末を操作し、地下訓練場で行った試射映像をホログラムで再生した
映像の中では、戦闘用ターゲットボットが配置されていた。ヒバナがその銃のトリガーを引くと—音もなく放たれた一筋の青白色の光線がターゲットを貫いた
しかし、ターゲットの装甲には傷一つついていない。爆発も起きず、火花すら散らなかった
「……ん? 外したのか?」
レイカが首を傾げた直後、ターゲットボットの動力シグナルが「完全遮断」を示す赤から黒へと切り替わり、そのまま糸が切れた人形のように崩れ落ちた
「外していないわ。これこそが、この兵器の真骨頂……高度な『セーフティー機能』よ」
ヒバナは自慢げに胸を張った
「相転移波動は、物理的な破壊力を生み出さないの。人体やヘイローを持つ生徒に命中した瞬間、セーフティー機構が働いて光線のエネルギーが神経系の過剰電気信号へと変換されるのよ。結果として……『相手に怪我や痛みを一切与えず、確定で気絶・沈黙させるだけ』の完璧な非致死性・安全仕様になっているわ!」
「……」
執務室に死のような静寂が訪れた
レイカの顔から血の気が引いていく
「……なぁ、ヒバナ。怪我をしないのは良いことだが……どんな装甲やヘイローの上からでも、命中したらノーリスクで強制気絶させるってことか……?」
「ええ! どれだけ強固なシールドを張っていようが、被弾すれば一瞬でぐっすり夢の中よ! これ以上ないくらい安全で優しい兵器でしょう?」
「気絶させるだけって、逆にめちゃくちゃタチが悪くて怖いっすよヒバナ部長ーーーっ!?」
ヘルタが引きつった笑顔のまま、半ば悲鳴をあげて半歩後ろへ退がった
「痛くないのはいいっすけど、戦場において反撃の余地すら与えずに一瞬で昏睡させられるとか、凶悪すぎる暗殺兵器っすよ!!」
「……実質、安全に敵を確定無力化する極悪光線銃っすね」
カリネも珍しく冷や汗を流しながら、テーブルの上の恐ろしい発明品を見つめた
「……『人にあたっても気絶するだけ』っていうセーフティーの解釈が、完全に研究者のそれっす……」
3人揃って、心の底からドン引きであった
「いや、俺はもっとマイルドなやつを想像してたんだよ! なんで『ノーリスク確定沈黙銃』が上がってくるんだよ!?」
レイカが頭を抱えて叫ぶ。しかしヒバナは至って真面目な顔でメガネをクイと上げた
「何を言っているの、レイカ。ミレニアムプライスで『他学園の圧倒的技術』を見せつけるのよ? これくらい洗練された安全制御と理論を提示しなければ、あの理系バカたちの鼻を明かすことなんてできないわ」
「言ってることは理解できるが……ハァ、もういい。持っていけ。ただし! 試射は絶対に許可された実験場以外でやるなよ!? いいな!?」
レイカの切実な怒鳴り声が、執務室に虚しく響き渡ったのだった
それから更に数日後
ミレニアムプライス本番まであと8日と迫ったこの日
特別展示ブースの設営準備、搬入機材の安全審査、そしてセミナーとの事前打ち合わせのため、ネクストライ使節団——ヒバナ、カエデ、ジュカの3人は再びミレニアムサイエンススクールへと足を運んでいた
「ミレニアムプライスまで、あと8日か……。ブースの最終調整も含めて、今日はミレニアムに泊まっていきましょう」
セミナー側の配慮により、3人はミレニアム本部タワー上層階に位置する豪華な来賓用ゲストハウスへと案内されていた
洗練されたモダンな客室。窓の外には、夜の静寂の中に青や白のイルミネーションを輝かせる学園都市の美しい夜景が広がっている
「ふぅ……ミレニアムの客室は案外悪くないわね」
「盗聴器や隠しカメラもありませんし、大丈夫でしょう」
ヒバナは白衣を脱ぎ、ソファに深く腰掛けた。コンテナに納められた例の「波動ライフル」の数値を手元の端末で微調整している
カエデは窓辺に立ち、視線を外の暗がりへと走らせながら、定期的な警戒を怠らない
(ミレニアムプライス本番までは、あと8日……)
ジュカは自分のベッドの端に腰掛け、手元の端末を眺めながら胸の高鳴りを抑えていた
(本番の祭典に向けて準備が進んでいる……。でも、今日昼間にエンジニア部で出会った天童アリスと『光の剣:スーパーノヴァ』。原作のタイムラインなら、ミレニアムプライス直前のこの時期に、大きな事件が起きるはず……)
ジュカは前世のプレイヤーとしての記憶を巡らせる。ゲーム開発部が部活を存続させるため、そして廃墟から持ち帰ったものを解析するためにセミナーの管理区域へ侵入し、「鏡」——ハッキングツールを持ち出そうとがしている
(私たちはゲーム開発部のみんなとはまだ直接深く関わっていない……。でも、間違いなく裏で歴史は動いている。ネクストライが存在するこの世界で、そのシナリオはどうなっていくんだろう……?)
そんなジュカの思考を断ち切るように、突如として空間が激しく揺れ動いた
——ズゥゥゥン……!! ドッカァァァン!!
ガラス窓がバリバリと振動し、足元から地鳴りのような重低音がタワー全体を駆け抜けた
「っ!?」
ジュカが瞬時に立ち上がる
次の瞬間、客室内に入り付けられた緊急警告スピーカーから、甲高いアラート音が鳴り響いた
『警告。タワー中層・第4管理区画において原因不明の爆発が発生。生徒および来賓の皆様——』
「爆発……!? 敵襲か!?」
突如、停電が起き、カエデが0.1秒で腰のピストルグリップに手を伸ばし、背中の『パルスライフル改』を構える体制をとる。実戦派としての鋭い眼差しが、瞬時に客室の出口と構造図へと向けられた
「待ちなさい、カエデ。火災報知器の作動パターンと衝撃波の伝散速度……これは外部からのミサイル攻撃じゃないわ。タワー内部の特定区画における内側からの物理破壊ね」
ヒバナも冷静に立ち上がり、コンテナから自分の愛銃『アナリス・フィードバック』を取り出す
「タワー内部での大規模な交戦音……内部での非常事態だ。理由はどうあれ、見知らぬ他校のタワー内で籠城するのは戦術的に愚策だ」
カエデが素早くドアのロックを解除し、廊下の安全を確認しながら決断を下す
「ヒバナ部長、ジュカ。ミレニアムタワーから脱出する。外の広場へ退避し、状況を把握した上でセミナーの連絡を待つぞ」
「了解したわ」
「は、はい!」
3人が廊下へと飛び出す中、ジュカは走りながら脳内で激しい思考を巡らせていた
(この爆発音……そして時期……間違いない! ゲーム開発部のモモイたちが、セミナーから『鏡』を奪還するために仕掛けた突入作戦だ……!!)
昼間、エンジニア部で先生やアリスたちと遭遇したばかりだ。まだゲーム開発部の面々とは詳しい事情を話したわけではないが、原作知識を持つジュカには、今何が起きているのかが手に取るように理解できた
(ゲーム開発部がセミナーから『鏡』を取り戻すために動いている……! だからセミナーの防衛システムと衝突して爆発が起きたんだ! でも、カエデ先輩の判断は正しい……今の私たちは他校のゲスト。この混乱の渦中に下手に巻き込まれたら、外交問題になりかねない……!)
「ジュカ、遅れるな! 足元に気をつけろ!」
カエデの鋭い声に、ジュカはハッと我に返り、自身の銃である『NOTバック』を手に取り走る
「はい! カエデ先輩!」
緊迫したアラートと白煙が立ち込めるミレニアムタワーの通路を、ネクストライ使節団は疾走する
本番まであと8日。原作の運命が激しく激突する夜、ネクストライスクールという規格外の存在を乗せたミレニアムプライスは、誰も予想し得ない混乱と激動の渦へと飲み込まれようとしていた
キャラ設定
立火ジュカ
前世が大学生でブルアカをかなりやりこんでおり、身体は短く切り揃えた赤髪に引き締まった体幹を持った一年生
自身の銃である『NOTバック』はアメリカ軍が開発中断したXM25 IAWSが元ネタとなっているが、弾丸は40×46mmとなっている
その他設定
波動ライフル
ヒバナがミレニアムプライス用に作成したもの
パルス技術を使ったライフルでヒバナが取り付けたセーフティー機能……相転移波動により対処を傷つける事なく無力化が可能
だが、ほんの少しの調整でレールガン以上の火力が出せるライフルに早変わりする(物理的ロックで出来ない様にはなってる()