ミレニアムサイエンススクールのメインキャンパス内に設けられた広い展示会場
その空間は今、キヴォトス全域から集まった熱気と、常識を遥かに置き去りにした異次元のテクノロジーの閃光によって充満していた
年に一度開催される、ミレニアム最高の技術の祭典『ミレニアムプライス』
会場内の透過型ホログラムスクリーンには無数の実験データやエントリー作品のシリアルナンバーがリアルタイムで更新され、小型の撮影ドローンが無数に飛び交っている。視界のすべてが「先鋭化された技術の都」という名の熱狂に塗りつぶされていた
昨夜のミレニアムタワーでの騒ぎは、セミナー副会長・八金タチカの手配によってスムーズに処理され、ゲストとして招かれたネクストライスクール使節団には独立した出展条件が約束されていた。現場責任者の赤坂レイカと補佐の霧状ヘルタは学園の運営に戻るため帰路についたが、バックアップとして残った街肩カリネと、使節団の3名――青花ヒバナ、志賀カエデ、立火ジュカは、この賑やかな会場の中にいた
「……すごいですね、ミレニアムプライス! どこを見てもミレニアムらしいというか、尖りすぎた発明品ばかりで目が回りそうです!」
短く切り揃えた赤髪を揺らし、愛銃である40mmグレネードランチャー『NOTバック』を背中に納めたジュカが、興奮気味に周囲を見回した。前世では『ブルーアーカイブ』を徹底的にやり込んだプレイヤーであり、キヴォトスの設定や各学園の風土を知り尽くしていた彼女にとっても、実際に肌で感じ取るミレニアム生の熱量は別格のものだった
「ええ、発想の自由さという点においては、確かに目を見張るものがあるわね」
白衣のポケットに両手を突っ込み、眼鏡のブリッジを指先で静かに押し上げたのはヒバナだった。黒髪ショートの隙間から覗く瞳は、最先端の物理学と材料工学を修めた元研究者としての知的な光を宿し、左右のブースに並ぶ装置群を観察している
「ただし、安全性とエネルギー効率の観点から言えば課題だらけね。あちらの『超高速全自動お掃除ロボット』なんて、摩擦熱の冷却系が追いついていないわ。あと10分連続稼働させれば、メイン基板が溶融して爆発する計算になるわよ」
「フッ、ヒバナ部長の言う通りだな。だが、あの『全自動重火器搭載型アタッチメント付き清涼飲料水販売機』などは、野戦陣地における固定銃座の代用品としては奇抜で面白い。正面装甲をもう少し傾斜させれば、アンブッシュ用のトラップとして使えそうだ」
愛銃『パルスライフル改』のストラップを肩に掛け直し、周囲の死角や動線を警戒しながら歩くカエデが、冷静なトーンで短く感想を述べた。前世で特殊部隊系の過酷な現場を生き抜いてきた彼女の視点は、どれほど華やかな会場であっても常に実戦と生存率へ直結している
「カエデ先輩、自動販売機を陣地に改造するのはミレニアムでも流石に特殊すぎますって……!」
ジュカが苦笑いを浮かべつつツッコミを入れる
カリネがブース側の初期セッティングや各種手続きを片付けに行っている間、3人は開会式前の空き時間を利用して、広大な展示会場を見て回っているところだった
全自動で歩行するが角を曲がれない搭乗型二足歩行メカ、重力を局所的に遮断しようとして周囲の文房具を天井へ撒き散らしている実験装置、光学迷彩を試みた結果としてユーザーの服だけを透明にしてしまう大惨事を引き起こしている謎のデバイス――
どれもこれも、ミレニアムの生徒たちが己の欲望と探求心を抑えきれずに作り上げた異作ばかりだった
そんな熱狂と混沌が渦巻く展示会場の東側区画。メインストリートから少し外れた静かな壁際のブースに差し掛かった時だった
ジュカの足が、ピタリと止まった
「あ……あれって……!」
ジュカが驚きに目を見開き、ブースの上部に掲げられた手作りの看板を指差した
そこには、カラフルな絵の具とホログラムで、どこか懐かしく、異様な熱量を放つ文字が踊っていた
『ゲーム開発部特製! レトロ・ファンタジー超大作RPG――【テイルズ・サガ・クロニクル2】試遊コーナー!』
「ゲーム開発部……『テイルズ・サガ・クロニクル2』……! 原作の、あの……!」
ジュカが喉を鳴らし、思わず言葉を呑み込んだ。前世で画面越しに見ていた、あのゲーム開発部が廃部の危機を乗り越えるため、そして自分たちの夢を証明するために死力を尽くして作り上げた、伝説のクソゲーにして彼女たちの魂の結晶
昨夜、使節団が巻き込まれたトラブルの裏で、モモイたちがセミナーから奪還したハッキングツール『鏡』を経て、いままさにこのミレニアムプライスの舞台に出展されている作品だった
「ジュカ? どうかしたの? 何か気になる技術でも使われているのかしら?」
足を止めたジュカを振り返り、ヒバナが不思議そうに首をかしげる
「あ、いえ! なんでもないっす! ただ……すごく、すごくプレイしてみたいゲームがあったんです! ヒバナ部長、カエデ先輩、ちょっとだけ寄り道してもいいっすか!?」
ジュカの切実とも言える熱意に、ヒバナとカエデは顔を見合わせた
「ええ、構わないわよ。まだメインプレゼンテーションまでは時間があるもの」
「うむ。展示品のチェックばかりでは息が詰まるからな。少し息抜きとしよう」
3人は手作り感満載のブースへと足を踏み入れた
ブースの小さなデスクの上には、解像度の低いホログラムモニタと、プラスチックの質感が無骨なレトロスタイルのゲームコントローラーが3つ並べられていた。ブースの隅には「ご自由にお遊びください! 感想ノートにメッセージ求む」と書かれたポップが置かれている
「これが……『テイルズ・サガ・クロニクル2』……」
ジュカは息を整えると、中央のソファーに腰掛け、コントローラーを手に取った。ヒバナとカエデも興味深そうにその両隣に座り、それぞれコントローラーを持ち上げる
「ゲーム、ね……。キヴォトスの最新型VRシミュレータなら防衛部の訓練で触れたことがあるけれど、こういった2Dグラフィックの画面と物理コントローラーの組み合わせは、この世界に来てからは珍しいわね」
ヒバナが手元のアナログパッドとボタンの配列を観察しながら呟く
「よし……スタート!」
ジュカがスタートボタンを押すと、チープだがどこか耳に残るピコピコとした8ビット風の音源がスピーカーから流れ出し、画面にピクセルアートで描かれたタイトルロゴが躍り出た
ゲームが始まると、画面上にはレトロなドット絵で表現された剣士のキャラクターが現れた
プレイヤーは3人でパーティを組み、広大なドット絵のフィールドを冒険するシステムになっているらしい
しかし――開始わずか1分で、ミレニアムが誇る天才たちの暴走ぶりが牙をむいた
「……ちょっと待ちなさい」
最初に声をあげたのは、理知的な元物理学者であるヒバナだった
画面上のキャラクターが平原を歩いていると、突如として出現した「スライム」のような雑魚敵とエンカウントした。ヒバナが「攻撃」コマンドを選択し、ドット絵の剣士が剣を振るう。しかし、剣のグラフィックは明らかに敵のドットを完璧に捉えているにもかかわらず、画面には非情な『MISS』の文字が表示された
「……おかしいわ。判定のアルゴリズムはどうなっているの? 視覚的なコリジョン(当たり判定)と、内部の命中確率計算が完全に解離しているわ。攻撃モーションの3フレーム目から5フレーム目にかけて剣先が敵の座標と完全に一致しているのに、なぜ外れるの? 運動方程式が崩壊しているわ!」
「ヒバナ部長、理屈で攻めちゃダメです! このゲームの当たり判定は『なんとなく』で設定されてるんっすから!」
ジュカが焦りながらコントローラーを操作する。しかし、次の瞬間、フィールドの何もない平地を1歩歩いただけで、画面が真っ赤にフラッシュした
『主人公たちは毒の沼に足を取られた! 全員に9999のダメージ! GAME OVER』
「な……!? 何も無い平原だったぞ!? トラップの事前兆候も、地形のグラフィックの変化も一切無かったではないか! 索敵スキルも意味をなさんとは、どういう不意打ちだ!?」
冷静沈着な元特殊部隊員であるカエデすら、理不尽極まりない初見殺しの罠に思わず身を乗り出し、珍しく眉をひそめて画面を凝視した
「フフ……あはは! これっす! これぞゲーム開発部クオリティっすよ!」
二人の困惑ぶりとは対照的に、ジュカは大爆笑しながらコンティニューボタンを連打した。原作知識として知ってはいたが、実際にプレイしてみると、開発者の「やりたいこと」と「情熱」が溢れすぎて暴走し、ゲームバランスという概念が完全に吹き飛んでいる
「カエデ先輩、このゲームは『常識』を捨てないと攻略できないっす! 隠し通路は壁じゃなくて、画面の右端の枠外にあるんです! ほら!」
ジュカが操作するキャラクターが、本来なら画面外であるはずの黒い余白部分へと歩いていく。すると、物理法則もゲームの枠組みすら無視して、隠されたダンジョンへと突入した
「……画面外を歩かせるだなんて、プログラムの領域外メモリアクセスを逆手にとったような仕様ね。正気の設計ではないわ」
ヒバナは呆れ果てたように吐き捨てつつも、眼鏡の奥の瞳に妙な好奇心の火を点していた
「でも……悔しいけれど、次の部屋に何が配置されているのか、予測が全くつかないわね。解析し甲斐があるわ」
「ふむ……敵の行動パターンも解読不能だ。このスケルトン兵、予備動作なしでフレーム単位の即死攻撃を繰り出してくる。……だが、攻撃の出始めに一瞬だけドットのピクセルが1ドット左にズレるな。そこを合わせれば……よし、パリィ成功だ!」
カエデが驚異的な反射神経と集中力を発揮し、理不尽なゲームシステムの隙を突いて敵の攻撃を受け流してみせた
「すごいです、カエデ先輩!2の理不尽即死攻撃を初見でパリィする人、初めて見ましたよ!?」
3人はいつの間にか、試遊台の前に没頭していた
理不尽なエンカウント率、支離滅裂なエンディング分岐、過剰に重厚で無駄にクオリティの高いBGM、そして突如として挿入される開発者の熱いポエムのようなテキスト――
完成された近代的なゲームとは程遠い、歪で、破天荒で、けれど作り手の「好き」という感情だけが爆発している世界
敵を倒し、謎の罠を突破し、次の街へと辿り着いた時――
3人の手が、ふと止まった
ピコピコと鳴り響く、8ビット風のチープなメロディ
ホログラム画面に映し出される、カクカクとした粗いドット絵の街並み
指先に伝わる、プラスチック製コントローラーの硬いボタンの感触
「…………」
誰も言葉を発しなかった
ただ、静まり返ったブースの中で、スピーカーから流れるBGMだけが優しく部屋を満たしていた
胸の奥深くから、じわじわと込み上げてくるものがあった
それは、キヴォトスという「神秘」と「銃弾」に満ちた世界に来てから、久しく忘れていた感情
前世の記憶
日本の、どこにでもある小さな部屋
放課後の夕暮れ時、あるいは深夜の静まり返ったリビング
畳やフローリングの上に座り込み、小さなテレビ画面にかじりついて、友人と、あるいは一人でコントローラーを握りしめていた、あの頃の記憶
最先端のCGIも、VR技術も、神秘的なオーパーツも存在しなかった前世の地球
けれど、あの拙い画面の向こう側には、無限の冒険と、確かに自分たちの青春が存在していた
元物理学研究者として最先端の論文と向き合っていたヒバナ
過酷な戦場で銃を握り、極限の緊張感の中に身を置いていたカエデ
そして、ごく普通の大学生としてゲームを愛し、ブルーアーカイブの世界に夢中になっていたジュカ
立場も、生きてきた環境も全く異なる3人
だが、このキヴォトスという土地に転生し、ネクストライスクールという場所で出会い、いま同じ「ゲーム」という文化に触れている
「……なんだか、不思議ね」
沈黙を破ったのは、ヒバナだった
彼女は画面のドット絵を見つめたまま、白衣の袖で静かに眼鏡を拭い、掛け直した
「こんなにも雑で、論理性に欠けるプログラムなのに……どうしてかしら。胸の奥が、妙に温かくなるわ。昔……まだ私がただの子供だった頃、擦り切れるほど遊んだ、あの古いゲーム機を思い出すわね」
「……ああ」
カエデも静かに息を吐き、コントローラーを握る自分の指先を見つめた
「戦場に立つ前、狭い自室で夜を明かした時のことを思い出した。……技術の優劣や、兵器としての効率など関係ない。ただ『作りたいから作った』という純粋な熱量が、この画面には詰まっているな」
「はい……」
ジュカは、画面の中で元気に跳ね回るドット絵の主人公を見つめ、目元を少し緩めた
「ゲーム開発部の皆が作ろうとしたのは、ただのゲームじゃないんです。自分たちの『大好きな世界』そのものだったんですよね。……前世の私たちが、ゲームという世界に魅了された時の気持ちと、きっと何も変わらないっす」
キヴォトスに来て、銃を持ち、神秘の力や学園同士の抗争に巻き込まれる日々
自分たちが転生者であることを外部に隠しながら、第4の勢力として必死に居場所を守ってきたネクストライスクールの毎日
その忙しない日常の中でかすんでしまいそうになっていた地球での思い出と、二度目の人生を生きる喜びが、この不器用なクソゲーを通じて静かに蘇っていた
3人は顔を見合わせ、言葉にならぬ想いを共有するように、穏やかに微笑み合った
やがてジュカがゆっくりとゲームを終え、タイトル画面に戻すと、3人は静かにコントローラーをデスクの上へと置いた
「良い時間だったわ」
ヒバナが立ち上がり、白衣の裾を整えた
「さて……そろそろ私たちの『本気』を、ミレニアムの天才たちに見せに行きましょうか」
「ふむ。ミレニアムの突飛な発想も素晴らしいが、ネクストライが積み上げてきた技術と洗練された防衛理論も、負けてはいないからな」
カエデも立ち上がり、背筋を伸ばして『パルスライフル改』の位置を調整した
「はいっす! ネクストライの底力、しっかり披露してやりましょう!」
ジュカも背中の『NOTバック』をポンと叩き、元気に胸を張った
3人はゲーム開発部のブースを後にし、手作りの感謝ノートに「最高の冒険をありがとう。ネクストライより」と一言書き残して、自分たちの出展ブースが待つ展示会場のメイン区画へと戻っていった
ノスタルジックな余韻を胸に抱きながら歩く3人
しかし、自校の割り当てられた特設ブース『ネクストライスクール技術交流&展示区画』へと近づくにつれて、周囲の様子が明らかに異様な熱気と騒然とした空気に包まれていることに気づいた
「……ん? なにかしら、あの人集まりは」
ヒバナが眉をひそめた
自分たちのブースがあるはずの広場が、紺色や白のミレニアムの制服を着た生徒たちで完全に埋め尽くされていたのだ
「な、なんですかこれ!? 人が多すぎてブースが見えないっすよ!?」
ジュカが驚き声をあげる
人垣は重なり合い、何層にもなってブースを取り囲んでいた。ミレニアムのエンジニア部と思われる作業着を着た生徒たち、セキュリティ担当の生徒、さらには情報セクションのヴェリタスや、セミナーの役員バッジをつけた会計監査の生徒まで、学園内のあらゆる部活・委員会の生徒たちが群がっている
そして、その人垣の中心からは、ミレニアム生たちの興奮しきった叫び声や議論の声が絶え間なく響いていた!
「おい、ちょっと待て! この『PSシールド』の相転移分子構造の展開レスポンス、なんだこの数値は!? 外部からの物理衝撃を受けた瞬間に、分子密度が局所的にダイアモンドの数百倍まで跳ね上がってるぞ!?」
「こっちの『波動ライフル』を見てみろよ! 過電流遮断モードの掃射時、発生した熱エネルギーをバイパス回路なしで変換領域に逃がして完全冷却してる! どんな演算理論を使ったら熱暴走なしでこの高出力を維持できるんだ!?」
「おい、この資料に書いてある『滞空型電磁ジェットパック』の姿勢制御アルゴリズム、エンジニア部の最新フレームワークより3世代は先を行ってるぞ……! 誰がこれを設計したんだ!?」
「ネクストライスクール……! DU近郊のあの新興学園、一体どんだけの隠し球を溜め込んでやがったんだ……!?」
歓声、悲鳴、そして技術者としての純粋な驚嘆と熱狂
ブースのホログラムモニタに映し出されたネクストライの技術データ、実機サンプルとして展示されているPSシールド発生装置や過電流遮断技術の解説パネルに対し、ミレニアムの天才たちが目を血走らせて群がり、貪るようにデータを分析していた
前世の地球で培われた先端科学・材料工学の知見
キヴォトスで発見されたオーパーツの解析成果
そして、幾度もの実戦と防衛戦を乗り越えて磨き上げられた、ネクストライスクールの「絶対の技術」
それらは、ただ奇抜さを競うミレニアムの展示物とは異なり、極限まで無駄を削ぎ落とし、「実用」と「理」を極めた本物のテクノロジーだった。ミレニアムの生徒たちのような根っからの技術者だからこそ、その裏にある圧倒的なロジックの凄まじさに瞬時に気づき、暴動寸前と言えるほど興奮しているのだ
「ア、アーティファクト研究部の展示だろ!? 開発者に直接話を聞かせろ!」
「解説者を呼べ! 今すぐだ!」
押し寄せる人波。あまりの熱気にブースの展示パネルが押し倒されそうになり、ヒバナやカエデ、ジュカが対応に入ろうとした――その直前のことだった
「――はいはいそこまで! ミレニアムの皆さん、一旦落ち着いて整列してください!」
凛とした声が、喧噪の会場内に響き渡った
人垣の隙間から滑り込むように現れたのは、銀髪ショートをなびかせ、生徒会補佐としてネクストライ使節団のバックアップを担う街肩カリネだった
彼女は手に持っていた透過型タブレットを素早く操作すると、無駄のない洗練された所作で、瞬時にブースの周囲へホログラムのパーテーションと色鮮やかな誘導ラインを空中展開させた。そのあまりにも手慣れた動きと、一切の迷いがない統括オーラに、大声を出していたミレニアム生たちが思わず気圧されて口をつぐむ
「PSシールドの相転移構造に関する数式データをお求めの方は、こちらのQRコードからQ&Aシート第1章をダウンロードしてください! 波動ライフルの過電流遮断技術についての詳細スペックは、15分後から行う技術プレゼン内で一括して解説します! 質問のある方はあちらの整理券発行ターミナルへ一列に並ぶこと! 割り込みは禁止っす!」
まるで長年巨大イベントや技術展示会の運営を統括してきたかのような、完璧で一切の隙がない群衆誘導
「え、あ、はい……!」
「あ、Q&Aシートあるんだ……ダウンロードします……」
あれほど狂乱していたミレニアムの天才たちが、カリネの放つ圧倒的な仕切りのオーラと理路整然とした指示に従い、吸い寄せられるように素直に列を作り始めていく
それだけに留まらず、カリネは一人で同時に何十人もの対応を流れるようにこなしていった
「そちらのエンジニア部の方、実機サンプルへの直接タッチは厳禁です。データシートの閲覧ならこちらの貸出端末からどうぞ。――あちらのヴェリタスの方、非公開の回路図へアクセスしようとハッキングを試みないでくださいね? アクセスログはすべてこちらでリアルタイム記録しています。後でセミナーに報告しますよ? ――セミナーの会計監査の方ですね、技術ライセンスに関する打診なら専用の申請窓口フォームを今端末にお送りしましたので、そちらから正式な手続きをお願いします!」
「〜っす」という少し砕けた口調を保ちつつも、言葉選びは実に丁寧で、感情に流されず冷静沈着。銀髪ショートの頭脳派補佐官は、流れるような手捌きでタブレットをフリックし、押し寄せるミレニアム生の膨大な要求を秒単位で分類し、対処し、追払い、あるいは完璧に誘導していく
物理的な武力でも難解な技術理論でもない。「事務処理」「危機管理」「群衆統括」という別のベクトルにおける、圧倒的なカリネの一人舞台だった
「……すごいです。あの猛者揃いのミレニアム生たちを、カリネ先輩がたった一人で完完封してる……」
あまりの手際の良さに、ジュカは手に持ったパンフレットを抱えたまま口をぽかんと開けて見惚れていた
「ええ……大したものね」
ヒバナも感心したように眼鏡のブリッジを押し上げた
「私たちが下手に技術理論で相手をしていたら、議論が白熱して朝まで解放されなかったでしょうね。あの狂乱を一人で完全に制御下に置くなんて、大した統括能力だわ。レイカが彼女をバックアップとして残していった理由がよく分かるわね」
「うむ。個個の戦闘力だけでなく、こういった後方管理や群衆コントロールの腕も一流だな。……カリネ一人で完全に戦線を維持している」
カエデも感嘆の息を漏らし、構えかけていた愛銃のストラップをそっと肩に戻した
当のカリネは、額に薄っすらと汗を浮かべながらも、二挺拳銃『タッチ&ラン』を腰に下げたスタイリッシュな佇まいのまま、一切の隙を見せずに笑顔でミレニアム生たちを捌き続けている
「さあ、順番に案内しますからね! ネクストライスクールの技術展示、ルールを守ってじっくり見ていってください!」
『テイルズ・サガ・クロニクル2』で胸に刻んだ前世の温かなノスタルジーをエネルギーに変えるように
一人でブースの混乱を見事に収めて見せたカリネの頼もしい背中と、それを見守るヒバナ、カエデ、ジュカ
夕陽の光が展示会場の窓から差し込み、床に長い影を伸ばしていく中、ネクストライスクールのブースはカリネの見事な手腕によって整然と、そしてミレニアムプライス会場の中で最も熱い注目の的として輝き続けていた
オリジナルイベント!ネクストライをテーマにしたオリジナルイベントストーリー!
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どっちもやる!
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いや、やらなくていい