ネクストライスクールの生徒会執務室には、夕刻の穏やかな光が大きな窓から差し込んでいた
洗練された木目調のデスクと、最新の通信端末が整然と並ぶ静謐な空間。連邦生徒会から新設学園として暫定認可を受けて以来、行政や法務の専門知識を持つ元大人の転生者たちと、かつて青春をやり直そうと集まった生徒たちが手を携え、一歩一歩築き上げてきた私たちの城塞。その中枢である生徒会室に、いまは三人の姿があった
生徒会長の座に就く西条ハレカ
創設初期メンバーであり、いつも明るい笑顔で周囲を照らす佐藤アリカ
そして、優れた観察眼と豊かな聴覚の神秘を持つ高橋ミナサ
三人の視線は、執務室の中央に浮かび上がる大型の透過型ホログラムモニターへと注がれている。そこに映し出されているのは、ミレニアムサイエンススクールのメインキャンパスで開催されている、年に一度の技術の最前線――『ミレニアムプライス』の熱気あふれる表彰式会場の中継映像だった
「……すごいですね。画面越しであっても、あの会場を埋め尽くすミレニアムの生徒たちの熱量とテクノロジーの閃光が伝わってきます」
上品な陶器のカップを手に取り、温かな紅茶に静かに口をつけたのはハレカだった。前世で国会議員や市長といった高い政治的・行政的立場を経験してきた彼女の瞳には、単なる技術コンテストへの興味にとどまらず、ミレニアムというキヴォトス最大級の先端学園が持つ圧倒的なもの――その源泉への鋭い分析が光っていた
「ほんまやなぁ! どこ見ても見たこともない謎の機械ばっかりやん! カリネたちから届いた連絡やと、うちのアーティファクト研究部が出したPSシールドやら過電流遮断技術のブースも、向こうのエンジニア部の人たちに囲まれてえらい騒ぎになってたらしいで!」
ソファーの上に膝を立てるような勢いで身を乗り出し、金髪のツインテールを揺らしながら声をあげたのはアリカだった。身軽なスポーツウェアに身を包んだ彼女は、感情を隠すことなく表情をころころと変える
「アリカちゃん、ソファーの上で暴れると危ないですよ」
黒髪のボブカットを優しく揺らし、保温ポットからハレカとアリカのカップへとお茶を注ぎ足したのはミナサだ。清楚で落ち着いた雰囲気を纏う彼女は、その穏やかな笑みの裏で、『拡張された聴覚』の能力を常時展開している。画面から流れる微細な音のノイズや背景の歓声までをも聞き分け、会場の混乱具合を正確に把握していた
「でも、本当に大盛況のようですね。現地に残って対応してくれているカリネちゃんも、見事に群衆を裁いてくれているみたいですし……」
「ええ。ヒバナたち使節団がミレニアムへ渡ってから幾度かのトラブルがあったと報告を受けていますが……セミナーの副会長である八金タチカさんの手配と、うちの使節団の連携によって見事に乗り越えてくれましたからね」
ハレカは静かに微笑み、画面へと視線を戻した
「さあ……いよいよ結果発表が始まるようですよ」
中継画面のカメラが、超巨大なホログラムビジョンが設置された特設ステージへとズームインしていく
大歓声が巻き起こるステージの中央へ、一人の少女が勢いよく飛び出してきた。眼鏡をかけたその生徒は、エンジニア部所属の豊見コトリだった
『はいはーい! ミレニアムサイエンススクールの皆さん、そして各学園からお越しのゲストの皆さん、大変お待たせいたしました! 本年度ミレニアムプライス、運命の表彰式司会進行を担当いたしますのは、エンジニア部一年、豊見コトリであります!』
コトリのマイクパフォーマンスに応えるように、会場全体から雷鳴のような歓声とドローン群の駆動音が鳴り響く
『今回出品された数多の応募作品のうち、栄光の座を手にするのはたったの上位7位の作品のみ! どの作品もミレニアムが誇る先鋭化された科学技術と探求心の結晶! それでは早速、第7位から受賞作品を発表いたします! 7位は……!』
コトリがドラムロールの音響効果に合わせて大袈裟にポーズを決める
『第7位! エンジニア部開発、『光学迷彩の下着』! おめでとうございます! 』
生徒会室のアリカが速攻でツッコミを入れる
「光学迷彩の下着ってそれ下着の意味ないやんけ!!」
「ふふ、ミレニアムの生徒さんたちらしい発想ですね」とミナサがクスクスと笑う
画面の中ではコトリが休む間もなく次の発表へと移っていた
『続いて第6位の受賞作品を発表します! 6位は……! まさかの、トレーニング部開発! 『運動エネルギー局所変換型超負荷ダンベル』! 理論値を超えた筋肉への負荷を実現した異色作であります!』
「筋トレでミレニアムプライス上位に入賞するんかいな!? ミレニアムの科学技術の方向性、どないなっとんねん!」
アリカの絶叫が執務室に響く。ハレカも「筋肉とテクノロジーの融合……ある意味では実にミレニアムらしい着眼点かもしれませんわね」と苦笑いを浮かべていた
『さあさあ、どんどん行きますよ! 第5位は全自動給食分配機! 第4位は超軽量高密度チタンフレームアタッチメント! そして……ここからは怒涛のベスト3の発表であります!』
会場の熱気が一段と跳ね上がる。画面の演出も最高潮に達し、透過型ホログラムが眩い光を放つ
『そして第3位は……サイエンスシュミレーション部の『超物理シミュレーション!』今まで見たことのないシミュレーションができるらしいですよ!』
「うわぁ……ヒバナちゃんがめっちゃ欲しがりそうやなぁー……」アリカが身を乗り出す
『そして! 僅差で第2位を受賞したのは……情報処理部による『超高度自律型分散防衛システム』!』
画面に映し出される順位表。残すは、頂点である『第1位』のみとなった
会場の全員が息をのむ。ドローンの羽音すら消え去ったかのような静寂の中、コトリが大きく胸を張り、マイクを握りしめた
『さあ……! 本年度ミレニアムプライス、数多の天才たちの頂点に立つ、待望の第1位は……! その栄光の作品は……っ!』
コトリが溜めに溜め、全身で緊張感を表現した瞬間――
ジャジャン! というチープな効果音と共に、画面全体に巨大な文字が踊った
『――CMの後で!』
「……は!?」
アリカの動きが完全に止まった
次の瞬間、画面にはミレニアムの購買部や全自動缶バッジ製造機のCMが軽快なBGMと共に流れ始める
「ここでCM挟むんかい!! どこでそんなテレビ番組の悪ノリ覚えてきてんコトリちゃん!! 1位直前でCM入れるとか生殺しもええとこやで!?」
ソファーのクッションを抱えてジタバタと暴れるアリカを見て、ハレカは上品に口元を手で覆いながらクスリと微笑んだ
「素晴らしい演出力ですわね。会場の緊張感を極限まで高めた上でのこのインターバル……なかなか魅せる手法を知っていますわ」
「アリカちゃん、ほら、CMが終わりますよ」
ミナサに促され、アリカが再び画面を凝視する
永遠にも思えたCMの時間が明け、再びステージ上のコトリがカメラの前に現れた
『大変お待たせいたしました! それでは発表いたします! ミレニアムプライス、待望の第1位は……!』
ドクン、ドクンと心臓の鼓動のような重低音が会場に響き渡る
『新素材開発部制作! 『超高耐熱性・自己修復型ナノコンポジット装甲』です!! おめでとうございます!!』
わあっと湧き上がる大歓声。拍手と紙吹雪が画面を埋め尽くす
「これでミレニアムプライスは終了……後は撤収の報告を聞くだけですね」
ハレカが書類をまとめて再び作業に戻ろうとしたその時、画面の中のコトリが一度マイクを下げ、困惑と驚きが入り混じったような表情でステージ袖の審査員席を見つめた
会場のざわめきが大きくなる中、審査員席から一人立ち上がり、コトリからマイクを受け取った
『……ゴホン。受賞者の皆さん、おめでとう。しかし……発表はまだ終わっていない』
審査員の声が会場のスピーカーを通じて響き渡る
『それから……これは審査員全員で緊急協議した結果なのですが、もう一つ……『特別賞』に選ばれた作品を発表したいと思います』
「特別賞……?」アリカがハッと顔を上げた
審査員は会場の生徒たち、そしてカメラの向こうの視聴者に向かって、静かに、しかし力強く語り始めた
『ミレニアムプライスはこれまで、生徒たちの溢れんばかりの才能と能力によって作られた作品に対し、"実用性"を最重要な軸に据えて授賞を行ってきました。これは、より良い未来を科学の力で求め、実現していくという我が学園の趣旨に基づいています』
審査員は一呼吸置き、会場を見渡した
『しかし……今回の出品作の中には、全く新しい角度から"実用性"という概念を感じさせてくれるものが存在しました。……とあるゲームが、実際にプレイした我々審査員の心に働きかけ、懐かしい過去をありありと思い出させ、そして未来への無限の可能性を感じさせてくれたのです』
会場がざわめく。エンジニア部も、ヴェリタスも、セミナーの役員たちも、何が起きているのかと息をのんで見守っている
『よって私達はこの度、ミレニアムプライスの歴史においても極めて異例な選択をする決断をしました。今回は急遽、規約を変更し……"特別賞"を設けることとします!』
審査員が声を張り上げた
『その授賞作品は……!』
ドロロロロ……と、効果音が鳴り響く
『ゲーム開発部制作――『テイルズ・サガ・クロニクル2』です!』
『レトロ風という時代を超えたコンセプト、常識に縛られず次々と創造を超えていく破天荒な展開、一見してそれらとマッチしてなさそうな不可思議な世界観……と、最初に触れた時は困惑の連続でした。理不尽なエンカウント、解読不能なフラグ、枠外を歩かせる破天荒な構造……!』
審査員の顔に、柔らかな、どこか子供のような無邪気な笑みが浮かぶ
『しかし……プレイし進めるうちに、我々は忘れていたものを思い出しました。かつて、まだ幼かった頃、初めてゲームという未知の世界に触れ、時間を忘れて夢中になったあの頃の熱い思い出を……鮮明に思い出したのです。技術とは本来、人の心を動かし、豊かにするためにあるもの。そういった精神性を高く評価し、この作品に……今回ミレニアムプライス特別賞を授与します!』
割れんばかりの拍手が会場を包み込んだ
「すごいですわね……」
ハレカが感嘆の息を漏らした。その目には、政治家として数々の人間模様を見てきた彼女ならではの深い感動が宿っていた
「数値化できるスペックや実用性だけが技術の価値ではない……人の感情を揺さぶり、過去と未来を繋ぐ力。それをミレニアムの技術者たちが認めたということです。……素晴らしい賞ですね」
会場の大きな拍手の中、審査員に促されてステージ中央へと歩み出たのは、今回特別ゲストとして招かれていたネクストライ使節団の青花ヒバナだった。彼女は審査員からマイクを受け取ると、少し緊張した面持ちで口を開いた
「あー……ごほん……本日特別ゲスト参加と審査員を務めた青花ヒバナよ。今回の特別賞に関しても、最初は私たちもどう評価すべきか悩んでいたわ……でも、私たちネクストライの使節団も実際に遊んだの。久しぶりに、研究以外のことにも夢中になれたわ……一見すると時代に遅れたものかもしれないけれど、その中にこそ大切な価値があるというのを再認識させられたわ」
そう言い終えると、ヒバナはマイクをコトリへと返し、丁寧にお辞儀をして退場した
画面の中で誇らしげに胸を張るヒバナの姿を見つめながら、ミナサが優しく口元をほころばせる
「前世の私たちが、ゲームや物語に心を救われたように……世界が変わっても、人の心を動かす『情熱』の本質は変わらないんですね」
特別賞の表彰が終わり、会場が温かな余韻に包まれる中、表彰式のフィナーレを迎える時間がやってきた
コトリが再びマイクを握る
『感動的な特別賞の授与に続きまして、本年度ミレニアムプライス閉会の辞を執り行います。登壇されるのは、本イベントの運営統括およびセミナー代表として、副会長・八金タチカ先輩です!』
会場から大きな拍手が湧き起こる
ステージの袖から、一人の少女が悠然とした歩調で登壇してきた
深く整えられたダークネイビーのミディアムヘア。ミレニアムのフォーマルで洗練された制服のデザイン性の高いジャケットを羽織り、胸元にはセミナーの証明証が誇り高く輝いている。身長は163cmほど、洗練された美しい佇まいと、隙のない立ち振る舞い
ミレニアムサイエンススクール・セミナー3年生副会長――八金タチカ
彼女がマイクの前に立つと、会場の空気が一瞬でピシッと引き締まった
「……ミレニアムサイエンススクールの生徒の皆さん、ならびに本日ご来場いただいた各学園の使節団の皆様」
タチカの声は、凛としていてクリアだった。通りが良く、聴く者の耳にスッと入ってくる格式高い声調
「本年度のミレニアムプライスも、皆様の並々ならぬ情熱と類まれなる知性により、無事にすべてのプログラムを修了することができました。まずは、出展されたすべての生徒の皆さん、そして運営に尽力してくださったエンジニア部や各委員会の方々に、セミナーを代表して深く御礼申し上げます」
彼女は完璧な所作で一礼した。指先の先まで無駄のない、まさに「お堅い完璧な副会長」そのものの立ち振る舞い
「ミレニアムプライスとは、単に技術の優劣を競う場ではありません。私たちが生きるこのキヴォトスにおいて、科学とは何か、実用性とは何か、そして未来へ向かって私たちが提示すべき価値とは何かを問い続ける探求の場です」
タチカの視線が、受賞者たちの席、そして特別賞を獲得したゲーム開発部のブースへと優しく向けられる
「本日の展示において示された先進技術の数々、そして既存の枠組みにとらわれない自由な創造性の閃光は、必ずや我が学園の、ひいてはキヴォトスの明日を照らす大きな光となるでしょう。セミナーは今後も、皆様の不屈の探求心と挑戦を全面的に支援し続けることをお約束いたします」
力強く、そして知性に満ちた締めくくりの言葉
「……以上をもちまして、本年度ミレニアムプライスを閉会といたします。皆様、誠にありがとうございました!」
美しく完璧な一礼
次の瞬間、会場全体を揺るがすような盛大な拍手が巻き起こった。ドローンが一斉に祝いの紙吹雪を舞わせ、ミレニアムプライスは最高の熱気と共にその幕を閉じた
画面越しにその演説を見ていたハレカが、感心したように頷いた
「相変わらず、隙のない見事な演説ですね、八金副会長は。大衆の心を掴みつつ、組織としての威厳と方針を過不足なく提示する……一朝一夕で身につく政治手腕ではありません」
「ほんまやなぁ。表のタチカさん、めちゃくちゃお堅くてカッコええ副会長様って感じやもんなぁ」
アリカがクスクスと笑う
「まあ……レイカ達から聞いた裏の顔を知ってると、ギャップで頭痛くなってくるけどな!」
「ふふ、それだけ彼女が一人でミレニアムという巨大な組織の中で生き抜き、結果を出してきたということでしょうね。……裏でどれほどの努力と苦労を重ねてきたか、頭が下がります」
ミナサが温かいまなざしで画面の中のタチカを見つめていた
閉会式が終わり、会場の喧噪が徐々に遠のいていく夕刻
ミレニアムサイエンススクールのメインタワー上層階。セミナー執務室へと続く静かなガラス張りの回廊には、茜色の夕陽が斜めに差し込み、長い影を床に落としていた
その回廊の壁に背を預け、腕を組んで立っている人物がいた
黒髪のウルフカット、毛先に鮮やかなターコイズカラーを覗かせたボーイッシュな美少女。約165cmの引き締まったスタイルに、黒を基調としたジャケットを羽織っている。腰のホルスターには、彼女の愛銃であり決意の象徴――『ゼロモーメントポイント』が納められていた
ネクストライスクール創設者にして現場総責任者――赤坂レイカである
レイカは静かに目を閉じ、ミレニアムの風を感じていた。昨夜の激闘、そして今日の賑やかな展示会の喧噪。前世では画面越しに眺めていたゲームの世界に、いまこうして自分の足で立ち、歴史を変えてきたという実感が胸を満たしていた
カツン、カツンと、洗練された靴の音が回廊に響く
「……ふぅーーーーーっ!!!」
足音が近づいてくると同時に、重々しいため息が漏れ聞こえてきた
歩いてきたのは、先ほどまでステージ上で完璧な演説を披露していた八金タチカだった。彼女は回廊の周囲を見回し、防犯カメラの死角に入ったことを確認した瞬間――肩の力を一気に抜き、先ほどまでの威厳あふれる副会長のオーラを完全に消し去った
「はぁ〜〜〜〜! 疲れたーっ! マジで疲れたっすよレイカさん! 見てました!? 私の閉会の挨拶! 噛まないで言えましたよーっ!」
ハイテンションでフランクな口調。距離感を全く感じさせない勢いで、タチカはレイカの目の前まで詰めてくると、バシバシと自分の胸を叩いた
「お堅い副会長モード、マジで精神削られるんすからね!? 『皆様の不屈の探求心を支援します』とか言いながら、心の中では『うおー! タスサガ2特別賞おめでとうモモイ! アリスー!』って叫びたいのを必死で抑えてたんすから!」
レイカは組んでいた腕を解き、フッと口元を緩めた
「お疲れ、タチカ。相変わらず見事な大女優っぷりだったぞ。どこからどう見ても『厳格で優秀なミレニアムの副会長』そのものだった」
「もう〜、レイカさんまで面白がらないでくださいよー!」
タチカはぶつぶつと言いながらも、嬉しそうにレイカの隣の壁に背をあずけた
レイカは夕陽に染まるミレニアムの街並みを見つめながら、ふと思いついたように口を開いた
「しかし、俺も予想外だったよ……ヒバナが『テイルズ・サガ・クロニクル2』を遊んで、あんな評価をするなんてな」
「あはは、それだけ何か心にこみ上げるものがあったんでしょうね」
タチカも柔らかく目を細め、遠くの景色を眺めた
「自分も実際にプレイしてみましたが……なんだか昔懐かしい気持ちになれましたよ。技術の高さだけじゃ測れない、作り手の『熱』みたいなものがちゃんと伝わってくる良いゲームでした」
「そうだな……あいつらの情熱が、ちゃんと届いたってことだな」
二人は顔を見合わせ、満足そうに小さく笑い合った
ふと、タチカの表情からフランクな笑みが消え、真剣な眼差しへと変わった
「……さて。雑談はこのくらいにして、本題を話さないとっすね」
「本題……?」
レイカはわずかに眉をひそめ、首を傾げて聞き返した。タチカがここまでの表情を見せるということは、ミレニアム内部の雑務やミレニアムプライスの件ではない
「うん。あっさりとまとめるなら……私やレイカさんたちみたいな『転生者』についての話っす」
「……!?」
レイカの身体がわずかに強張った。組んでいた腕に力が入り、ターコイズの瞳がタチカを射抜く。ネクストライスクール以外にも転生者が存在する可能性は常に考慮していたが、タチカの口から具体的な話が出るとは思っていなかったのだ
「今、私が独自に情報を集めて確認できている範囲での話なんですけどね……」
タチカは声をさらに低く落とし、防犯カメラの死角の奥へと視線を巡らせながら告げた
「ゲヘナ学園の『万魔殿』の副議長……彼女、たぶん間違いなく私達と同じ『あっち側』の人間っすね」
「ゲヘナの万魔殿副議長……だと?」
レイカの脳裏に、キヴォトス三大学園の一角であるゲヘナ学園の頂点に君臨する生徒会の構図が浮かび上がる。権力の中枢に転生者が潜み、動いているのだとすれば、その影響力は計り知れない
「確証を得るのに少し時間がかかっちゃいましたけど、動きや言動の節々に『原作知識』を知っているような節があるんすよ。ネクストライのネットワークと機動力なら、接触して確かめるのも早いと思って。情報共有です!」
「……助かる、タチカ。貴重な情報だ」
レイカは息を深く吐き出し、覚悟を決めたように頷いた
「ゲヘナ学園か……分かった。戻ったら速攻でハレカや情報部と連携して調べてみる。……それじゃ、学園で待ってる奴らがいるから、俺はこれで帰るわ」
「はい! 気を付けて帰ってくださいね! またいつでも遊びに来てくださいっすよー!」
タチカはいつもの明るい笑顔に戻り、大きく手を振った
「ああ、またな」
背を向け、回廊を歩き出すレイカ。その足取りは、新たな謎と可能性を前にして、どこか力強く、そして昂ぶっていた
夕闇が刻一刻と迫るミレニアムの空。星々が瞬き始めるその夜空の下で、転生者たちの運命の歯車は、また一つ大きく動き出そうとしていた
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