転生者共の学園生活   作:矢守龍

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Vol.7 勇者が連れていかれたミレニアム

ミレニアムサイエンススクールの広大なキャンパスに、ネクストライスクールの連絡用車両が滑り込む。幾何学的な近代高層建築群と透き通るようなガラス張りの研究棟が立ち並ぶその光景は、いつ訪れても圧倒的な科学技術の威容を誇っていた

 

車を降りた生徒会役員兼現場総責任者の赤坂レイカと、防衛部実戦テスターの志賀カエデを迎えたのは、連絡を受けて一足先に到着していた生徒会執務補佐の立火ジュカ、そしてアーティファクト研究部部長の青花ヒバナだった

 

「レイカ先輩、カエデ先輩! お疲れ様です、無事に合流できて良かったです」

 

赤髪を短く切りそろえた1年生のジュカが、愛銃であるグレネードランチャー『NOTバック』を肩にしっかりと固定し、簡潔かつハキハキとした声で頭を下げる。その隣では、白衣を羽織った3年生のヒバナが、重厚な金属製のアタッシュケースを何食わぬ顔で片手に下げ、眼鏡の奥の瞳を知的に光らせていた

 

「ヒバナ……お前、そのゴツいアタッシュケースはなんだ?」

 

レイカが引きつった苦笑いを浮かべると、ヒバナはふっと余裕のあるお姉様らしい微笑を浮かべ、細い指先で眼鏡のブリッジを押し上げた

 

「あら、レイカ。何かかしら? 研究者として、現場の『予期せぬ負荷環境』で試作機のテストデータを収集するのは至極当然の義務だわ。地下ラボで埃を被らせておくより、実地で運用した方がずっと有意義でしょう?」

 

「やっぱり勝手に持ってきてやがったか……。まあいい、事故だけは起こすなよ。何かあっても俺は庇いきれんからな」

 

レイカは肩をすくめると、黒髪のウルフカットを軽くかき揚げ、ターコイズカラーの毛先を揺らした。腰のホルスターに収まった愛銃『ゼロモーメントポイント』の感触を確認し、隣に立つカエデを見る。背中に『パルスライフル改』を背負ったカエデは、一切の油断なく周囲の警戒にあたっていた

 

「レイカ先輩、案内役のミレニアムの生徒が待っています。こちらへ」

 

ジュカの導きに従い、4人はミレニアム本校舎の深部、厳重なセキュリティプロトコルが施された特設会議室へと向かった

 

 

 

重厚な自動ドアが左右に滑り開くと、室内に漂う異様なまでの緊張感と密度の高い空気が、レイカたちの皮膚を刺した

 

「……これは、また豪勢な面々が揃ったな」

 

レイカが低く呟く

 

会議室の奥、中央のホログラムプロジェクターを挟んで立っていたのは、シャーレの先生だった

その表情はいつもの温厚なそれではなく、焦りと深い憂慮に満ちている

 

先生の隣には、ミレニアムの生徒会『セミナー』の面々が並んでいた

中央に立つのは、セミナー副会長であり3年生の八金タチカ。その脇を固めるのは、2年生の後輩役員である会計の早瀬ユウカと書記の生塩ノアだ

 

さらに室内を見渡せば、ミレニアムの主要部活の第一線級が勢揃いしていた

 

ソファの端で今にも飛び出しそうなほど膝を震わせ、怒りと不安を露わにしているのは『ゲーム開発部』の才羽モモイ、才羽ミドリ、そして膝を抱えて俯く花岡ユズ

部屋の壁際に背を預け、鋭い眼光で静かに殺気を撒き散らしているのは『C&C』の部長であり、タチカやリオと同級生の3年生・美甘ネル。その周囲には一ノ瀬アスナ、角楯カリン、室笠アカネの3人が待機している

さらに部屋の上手には『エンジニア部』の白石ウタハたちが端末を叩き、『ヴェリタス』の各務チヒロや小鈎ハレたちが通信モニターの調整に追われていた

 

(ゲーム開発部、C&Cのフルメンバー、エンジニア部にヴェリタス……そしてセミナー。ミレニアムの主力がこれだけ一堂に会するなんて、理由は一つしかない)

 

レイカの隣で、ジュカが息を呑むのが分かった。前世でゲーム『ブルーアーカイブ』を深くやり込んでいたジュカの目にも、この状況の意味が明白に理解できているはずだ

 

「メインストーリー『時計仕掛けのパヴァーヌ編』第2章……天童アリスの奪還戦前夜だ……」

 

ジュカがレイカだけに聞こえる極小の声で囁く。レイカもまた、無言で深く頷いた

 

キヴォトスを滅ぼす無名司祭の兵器でありAL-1Sとしての本質を持つ少女、天童アリス。彼女が自らの存在によって仲間やミレニアムを傷つけることを恐れ、そしてそれを危惧したミレニアム生徒会長・調月リオの手によって連れ去られた――あの最悪の事件が、今まさに発生したのだ

 

ヒバナとカエデは原作の展開を知る由もないが、プロフェッショナルとしての鋭い察知力で部屋の異質さを読み取っていた。カエデは射撃体勢を阻害しない位置へ静かに身を置き、ヒバナは持ち込んだアタッシュケースを脚元に降ろすと、興味深そうに室内の中央モニターを見つめている

 

「先生、そしてミレニアムの皆さん。ネクストライスクールより現場総責任者の赤坂レイカ以下、4名が到着いたしました」

 

タチカがすっと一歩前に出て、澄んだ美しい声で全員に告げた。その立ち振る舞いは、ミレニアムの秩序を束ねる格式高い「完璧な副会長」そのものであり、裏で自分と同じく日本のオタクゲーマーとしての前世を持つ転生者であることなど微塵も感じさせない

 

「レイカさん、急な要請に応じていただき感謝いたします」

 

「気にすんな、タチカ。先生からの連絡だ、断る理由もない。……それで、一体何が起きたんだ? ゲーム開発部のアリスの姿が見えないようだが」

 

レイカが直球で切り込むと、部屋の温度が一段と下がった

 

モモイがギュッと拳を握り締め、歯を食いしばる。ユウカが辛そうに視線を落とし、タチカがゆっくりとうなずいた

 

「はい。順を追ってご説明いたします。……本日未明、ミレニアム生徒会長である調月リオ先輩が、ゲーム開発部所属の天童アリスさんを拘束し、姿を消しました」

 

タチカの声が静かに室内に響く

 

「リオ会長は、アリスさんの身体構造およびその深層に眠る神秘――いえ、『不可解なコード』が、将来的にミレニアム、ひいてはキヴォトス全土に不可逆的な危機をもたらす『破滅のトリガー』であると断定されました。そして、彼女の機能を永久に凍結・廃棄するため、自らが秘匿裏に建設を進めていた全自動防衛要塞都市……『エリドゥ』へとアリスさんを連れ去ったのです」

 

「なっ……生徒会長が、自分の学校の生徒を廃棄するために!?」

 

カエデが驚きに目を見張る。前世で装備開発に関わっていた彼女にとって、組織の最高首脳が自校の生徒を「危険物質」として独断で処分しようという構図は、極めて不条理に映ったはずだ

 

「嘘だ……アリスはそんな奴じゃない! アリスは私達と一緒にゲームを作る、大事な友達なんだよ!!」

 

モモイが耐えかねたように叫び、机を叩いた。ミドリがその肩を悲痛な表情で抱きかかえる

 

「……リオ先輩の危惧も、論理的には理解できます。ですが、私たちはアリスさんを捨てることなんてできません。先生も、ゲーム開発部も、そしてC&Cも……アリスさんを取り戻すために立ち上がることを決めました」

 

後輩である2年生のノアが、静かだが揺るがない決意を込めて言葉を継いだ

 

その時、壁際に立っていたC&Cのリーダー、3年生の美甘ネルが苛立ちを隠さずにスカジャンを鳴らし、同じ3年で同級生である副会長のタチカに向かって不満げに言った

 

「……話の筋は分かった。アリスを連れ戻すためにあの面に拳骨を叩き込んでやる、そこまではいい。だがな、タチカ」

 

ネルは指骨をぽきぽきと鳴らしながら、鋭い眼光を向けた

 

「なんでここに、外部のネクストライの連中が呼ばれてんだ? これはミレニアムの内部紛争だ。あたしたちC&Cとエンジニア部、ヴェリタスがいれば、要塞だろうがなんだろうが力ずくで叩き潰してアリスを奪い返せるはずだろ」

 

ネルの指摘は、組織の人間として至極当然だった。同級生としての忌憚のない意見に、タチカは落ち着いた態度で応える

 

「ネル、気持ちは分かりますが落ち着いてください。本来ならミレニアム内部の力のみで解決すべき問題です。……ですが、事態は私たちが想定していた以上に深刻なのです」

 

タチカは同級生のネルを宥めつつ、後輩のユウカやノアにも配慮しながらホログラムプロジェクターの操作パネルに手元の端末からデータを転送した

 

「ウタハ、チヒロ。回収された最新の偵察データを投影してください」

 

「了解だ」

 

ウタハが端末を操作すると、部屋の中央に立体映像が浮かび上がった

 

そこに映し出されたのは、荒野の只中に突如として現れた、黒とシルバーの幾何学的な巨大高層建築群――要塞都市『エリドゥ』の姿だった。だが、そこに集まった全員の目をとらえたのは、都市のデザインではない

 

要塞都市エリドゥの全周を、まるで巨大な卵の殻のように完全密閉して覆い尽くしている、幾重もの高濃度位相エネルギーの光膜――透き通るような青と紫の多角形バリアであった

 

「タチカ先輩……このバリアの数値は一体……!?」

 

2年生のユウカが、先輩であるタチカの提示した解析画面を見て息を呑む

 

「ええ、ユウカちゃん。これがリオ会長の構築した要塞都市『エリドゥ』の完全防衛障壁よ……」

 

その映像を見た瞬間、レイカとジュカの心の中に激しい衝撃が走った

 

(……待て、おかしい!!)

 

レイカはターコイズの瞳を限界まで見開いた。前世の知識、そして原作の『パヴァーヌ第2章』の記憶が脳内で高速回転する

 

原作におけるエリドゥ攻略戦では、リオが築いた要塞都市は自動防衛システムやアビスガード、C&Cのパトロール、電子ロックによって厳重に守られていたはずだ。しかし、これほどまでに物理的に都市全周を遮断する「多重高出力エネルギー障壁」など、最初から存在しなかったはずなのだ

 

(原作にこんなバリアは存在しなかった……! これはどういうことだ!? タチカが裏で介入した影響か、それとも俺たちネクストライという異物の存在によって、キヴォトスの歴史そのものが変化してしまっているのか!?)

 

レイカの隣で、ジュカが冷や汗を流しながら息を呑んでいる。ジュカもまた、原作知識との明確な「乖離」に強い戦慄を覚えていた

 

「な……なんですか、あの密度のバリアは……。通常の物理砲撃はおろか、電子的な侵入すら完全に遮断するレベルですよ……!?」

 

ジュカが思わず声を漏らすと、ヴェリタスのハレが青ざめた顔でキーボードから目を離し、深いため息をついた

 

「……その通りだよ、ネクストライの君。僕たちヴェリタスとエンジニア部で、エリドゥの外部通信と防衛プロトコルを解析しようとしたんだ。でも……ダメだった。あのバリアは、要塞都市内部の発電所によって供給される電磁波を利用したバリアに阻まれてね」

 

「ハッキングも、ウタハたちのレールガンや重火器による集中砲撃も、あのバリアを前にしては『存在しないもの』として処理されちゃうんだよね……。破る手段が、ミレニアムの現存する理論上に存在しない」

 

ハレの言葉に、ネルが忌々しそうにチッと舌打ちをした

 

「……だからって、手をこまねいている時間はないんだろ?」

 

「はい」

 

こうしている間にも刻一刻の時間が迫っていた

 

「リオ会長のアリスさん凍結プロセスは、恐らくもう少しだと思います。ヴェリタスによるハッキングやC&Cの強行突破という従来の手法では、バリアの解析と突破だけで最低でも丸三日は要します。……それでは、アリスさんの救出には間に合いません」

 

タチカは集まった全員を見渡し、そしてまっすぐに同級生であるレイカたちネクストライの面々へと視線を向けた

 

「だからこそ……私はネクストライスクールに協力を要請いたしました。この常識外れのバリアを破り、要塞都市エリドゥへの電撃侵入を可能にする力……キヴォトスの既存の科学を超越したオーパーツ技術と、それを運用する絶対的な突破力を持つ『心強い味方』として、彼ら以上の適任はいません!」

 

タチカの力強い宣言が会議室に響き渡る

 

その瞬間、部屋の中の視線が一斉にレイカたちへと集まった

 

ミレニアムの面々は、先日のミレニアムプライスでのネクストライの圧倒的な成果と異次元の技術力を思い出していた。既存のミレニアムの論理では解明できないエネルギー技術、そして実戦部隊の恐ろしいほどの練度

 

ネルは不満そうに鼻を鳴らしたが、それ以上は何も言わなかった。アリスを救うために背に腹は代えられないことを、理解しているからだ

 

「……なるほどね」

 

静寂の中、ヒバナが不敵な、そして研究者としての抑えきれない悦びに満ちた笑みを口元に浮かべた。彼女はゆっくりと歩み出ると、ホログラムに映し出されたエリドゥのバリアの波動データを細い指先でなぞった

 

「面白いわね……干渉を無効化する防御機構……ミレニアムの生徒会長も、なかなか素晴らしい思考の持ち主のようだわ」

 

ヒバナの眼鏡がカチリと白く光る。その声には、未知の高度技術を前にしたお姉様風マッドサイエンティストとしての興奮が滲み出ていた

 

「けれど……完璧に見えるその電磁波の遮断も、エネルギーである以上は必ず『周波数』と『ベクトル』が存在するわ。外からの干渉を弾くというなら……その電磁波に対して、さらに高次元の『回転運動』を加えて叩き込んであげればどうなるかしらね?」

 

「……ヒバナ、お前まさか……」

 

レイカが呆れたように呟くと、ヒバナは脚元に置いた大きなアタッシュケースをポンと叩き、余裕たっぷりの笑みを投げかけた

 

「ええ、レイカ。我がメインラボで組み上げておいた試作機……この異次元のバリアを穿ち、風穴を開けるための最高のテスト環境になってくれそうだわ。物理破壊を起こさずにこのバリアを捻り切る私の技術と、このバリア……どちらが上か、証明して差し上げようじゃないの」

 

ヒバナの自信に満ち溢れた言葉に、エンジニア部のウタハが目を丸くし、即座に手元の端末を叩き始めた

 

「な……なんだと!? 電磁波バリアの軸線に回転を加えて干渉を無効化するだと……!? 待て、そんな計算、通常の演算ユニットじゃ破綻するはず……いや、ネクストライのあの独自の位相技術なら理論上成立するのか……!?」

 

ウタハの技術者としての血が騒ぎ出し、ヒバナとの間で一瞬にして高度すぎる物理議論が始まりそうになった

 

カエデもまた、静かに背中のパルスライフル改のグリップを握り直し、冷静な口調でレイカに告げる

 

「リーダー。バリアの突破口さえ作れるのであれば、その後の突入、要塞内部の警戒網の排除、およびCQBでのポイントマンは私とジュカで務められます。防衛部の実戦テスターとして、要塞攻略のプロトコルは頭に入っています」

 

「はい! NOTバックによる特殊エアバースト射撃で、狭小スペースの自動防衛兵器は一網打尽にしてみせます!」

 

ジュカも頼もしく頷いた

 

ネクストライのメンバーたちの圧倒的な頼もしさと異次元の技術力に、ゲーム開発部のモモイたちが目を見開く

 

「すごい……! ネクストライの人たち、めちゃくちゃカッコいい……!」

 

「これなら……これならアリスを助けに行けるよ、モモイちゃん!」

 

希望の光が見えたことで、沈み込んでいたゲーム開発部に一気に活気が戻ってくる

 

だが――ここでレイカは腕を組み、ターコイズの瞳を深めて先生とタチカに向き直った

 

「……待ってくれ。話の筋と、俺たちが力になれるってことは分かった。だが……一つ根本的な問題がある」

 

レイカの声は、冷水のように場の熱気を沈めた

 

「タチカ、そして先生。……これはミレニアムサイエンススクール内部における、生徒会長と生徒たちの対立だ。そこに外部勢力であるネクストライスクールが武力介入するとなれば……どうなるか分かってるな?」

 

レイカの問いかけは、きわめて現実的かつ政治的な指摘だった

 

「表向きの言い訳がどうあれ、他学園の最高幹部である俺たちが、ミレニアムの要塞都市を攻撃し、内部に突入する。下手をすればミレニアムとネクストライの全面戦争、最悪の場合は『外部勢力による他学園への武力侵攻・内政干渉』として連邦生徒会や他学園から苛烈な糾弾を受けることになるぞ。ネクストライの立場としても、無条件で首を縦に振るわけにはいかない」

 

レイカの指摘に、2年生のユウカとノアがハッとして息を呑んだ。自分たちの「アリスを救いたい」という感情に必死で、政治的なリスクとネクストライにかける負担の大きさに思い至っていなかったからだ

 

「それは……確かに、レイカさんの言う通りです……。ネクストライにそこまでのリスクを負わせるわけには……」

 

ユウカが申し訳なさそうに言葉を詰まらせかけた、その時――

 

ずっと静かにレイカたちのやり取りを見守っていたシャーレの先生が、ゆっくりと歩み寄ってきた

 

先生はレイカの目の前に立つと、優しく、しかしどこまでも力強い眼差しでレイカの瞳をまっすぐに見つめた

 

「レイカ」

 

先生の声には、キヴォトスのすべての生徒を背負う大人としての、絶対的な揺るぎなさが宿っていた

 

「心配してくれてありがとう。でもね……大丈夫だよ」

 

「……何が大丈夫なんだ、先生? 政治やルールの話をしてるんだぞ」

 

レイカが眉をひそめると、先生は柔らかく微笑み、言葉を重ねた。

 

「アビドスの時と、同じだよ」

 

「……アビドスの時?」

 

「そう。あの日、アビドス対策委員会がカイザーインダストリーやワカモと戦った時……君たちネクストライは、ルールや政治のためじゃなく、『困っている友達を助けるため』に駆けつけてくれただろう?」

 

先生の言葉に、レイカは胸を突かれたようになった

 

「今回も同じなんだ、レイカ。これはミレニアムの内政干渉でも、学園同士の政治闘争でもない。……理不尽な運命に押し潰されそうになっている一人の生徒……天童アリスという少女を助けるために、大人と、その仲間たちが手を取り合うだけの話なんだ」

 

先生はレイカの肩にポンと温かい手を置いた

 

「ネクストライスクールは、シャーレの傘下でも、ミレニアムの従属でもない。君たちは独立した、自分たちの青春を生きる誇りある生徒たちだ。……だからこそ、俺は政治の要請じゃなく、一人の『大人』として、そして君たちの『友達』として、頼みたい」

 

先生はまっすぐにレイカを見つめ、深く頭を下げた

 

「ネクストライの力を……君たちの強さを、アリスを救うために貸してくれないか?」

 

「……先生……」

 

部屋の中が静まり返る

 

レイカは天を仰ぎ、黒髪のウルフカットを乱暴にかき揚げると、ハッと大きなため息をついた

 

(……くそっ、これだからこの大人はずるいんだよな……)

 

前世で社会の煮え湯を飲み、政治や不条理を知り尽くしたレイカだからこそ、この「先生」という大人の、愚直なまでの真っ直ぐさと温かさが胸に染みるのだ。利害や政治を超えて、ただ生徒のために頭を下げる大人。そんな存在を、無下に突っぱねられるはずがなかった

 

レイカは口元を歪め、ニヤリと挑発的な笑みを浮かべた

 

「……はぁ。まったく、先生がそうやって真っ当な『正論』をぶつけてくるなら……俺がこれ以上野暮な理屈を捏ねるわけにはいかなくなるだろ」

 

レイカは腰の『ゼロモーメントポイント』のグリップを拳で軽く叩き、力強く言い放った

 

「いいぜ。アビドスの時と同じ……『友達の助け出し』だ。内政干渉だなんだって言ってくる外野がいたら、全部俺たちがぶっ飛ばしてやるよ!」

 

「レイカさん……!」

 

2年生のユウカの瞳にパッと感動の光が宿る。モモイとミドリは「やったー!!」と歓声をあげて跳び上がった

 

「ふふ、最初からそう言ってくれると信じていたわ、レイカ」

 

ヒバナが満足気にアタッシュケースを持ち上げ、カエデとジュカも口元に頼もしい笑みを浮かべた

 

その狂喜乱舞する室内の喧騒からほんの少し離れた場所で――副会長のタチカが、公的モードの崩れないギリギリの範囲で、同級生のレイカに向かって親指を立て(グッジョブ)、口パクでメッセージを送ってきた

 

(マジで助かったっす、レイカさん! 超頼もしいっす!!)

 

そんなタチカのオタクな「裏の顔」の心の声が聞こえてくるような素振りに、レイカは苦笑いを返した

 

「これなら、アリス奪還作戦もいけますね……エンジニア部とヒバナさんはバリア破りの準備を、ヴェリタスは要塞内部のルート案内、C&Cとゲーム開発部、そしてネクストライはバリアが開いた瞬間にエリドゥへ突入する準備を」

 

タチカが指示を出すと、全員が一斉にそれぞれの配置へと動き出す

 

その喧騒の最中、レイカは静かに会議室の隅へ移動し、通信端末を取り出して暗号化回線を繋いだ。数回のコール音の後、気心の知れた少女の声が繋がる

 

『あれ? リーダー? どうしたんすか? 今日は休日でしたよね?』

 

「あぁ、訳あってミレニアムにいるがな……ヘルタ、試作品番号X122とX045並びにX098を、今から送るミレニアムの指定座標に向けて、今すぐに運べるか?」

 

『え? あっ! 了解っす! 座標は……って、リーダー、もしかしてここって……』

 

「お前の予想通りだよ……」

 

『わかりましたっす! すぐに輸送手配をかけるっす!』

 

端末の向こうでキーボードを叩くヘルタの威勢の良い返事を聞き届け、レイカは通信を切った。秘匿端末をポケットに放り込み、中央で指示を出すタチカ、そして笑みを浮かべる先生の方へと歩み寄る

 

原作の知識を超えた異変、立ちはだかる未知の障壁。だが、前世の記憶とキヴォトスの神秘、そして仲間たちとの絆を胸に抱く彼らに、退くという選択肢は存在しない

 

「さて、ジュカ……準備はいいか?」

 

「はい!バッチリです!」

 

ジュカの元気の良い返事を聞き届けたレイカは、不敵な笑みを浮かべ、要塞都市攻略の最終準備のために勢いよく走り出した――

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  • ラビリンス・オブ・エクスプレス
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