「……マジで言ってるのか、これは?」
連邦生徒会の執務室。書類の山を前にして、対応に当たっていた役員の女子生徒は、目の前に提出されたぶ厚い用紙と束になった申請書類を二度見、三度見していた
そこに記されていたのは、キヴォトス行政区画の外縁部に位置する、長く放棄されていた巨大な廃校エリアの管轄権譲渡申請
そして――新規学園の設立許可を求める、総勢542名に及ぶ生徒の署名簿だった
「……身元不明の生徒が五百人以上……? しかも全員、既存のどの学園の学籍も持っていない……!? どこからこんな大人数が出てきたのよ!?」
「えーっと、噂と口コミでちょっとずつ集まりまして……」
応接用のソファに深々と腰掛け、愛用の銃を膝の上に置きながら、俺――赤坂レイカは悪びれもせずに笑ってみせた
隣には、前世は敏腕弁護士だったというスーツ姿の決まった転生者・佐藤ナイトと、前世の官僚経験を活かして書類を寸分の隙もなく完璧に作り上げた加藤レンスが控え、冷徹なまでの笑みを浮かべ上げている
「連邦生徒会法規第4条第12項に基づき、一定規模以上の生徒数および管理可能な自治管区を所有する場合、生徒会への新規学園申請および行政補助の受給が認められるはずです。書類に不備は一切ありませんよ?」
サトウが眼鏡の奥の目を光らせて畳みかける
「くっ……! だ、だとしても、こんな前代未聞のゲリラ開校なんて……! そもそも学園の名前は何なんですか!?」
役員が生徒会のデータベースへ入力しようとキーボードに手をかけながら問う
俺は立ち上がり、窓の外――どこまでも広がるキヴォトスの青空と、自分たちの手で修繕を終えたばかりのあの”廃校”の方向を見つめた。
「名前は――『ネクストライスクール』だ」
暗闇のような孤独と混乱を抜け出し、自分たちの手で新しい夜明け(青春)を掴み取る
そして、元大人は「もう一度人生に挑む」、前世で途切れてしまった現役の学生は「やり直せなかった青春に再び挑む(Next Try)」という意味を込めて決定した、俺たちの理想の城の名前だった
「……ネクストライスクール……分かりました。連邦生徒会として、暫定的な学園設立および自治区の管轄権を承認します……はぁ、本当に頭が痛いわ……」
頭を抱える役員を後に、俺たちは連邦生徒会室を後にした。
廊下を出た瞬間、ナイトとレンス、そして待機していたミナサやアリカと顔を見合わせ――全員で盛大にハイタッチを交わした
「やった……! やったぞ!!」
「勝訴!! いや、開校決定やーーーっ!!」
一週間後
かつては廃校と呼ばれ、不気味な噂の絶えなかったDU外縁部の広大な敷地は、劇的な変貌を遂げていた
元・ガテン系の木村ミヤカ率いる土木・改修工事組が昼夜を問わずリフォームを施した校舎は、新築同様の輝きを取り戻している
元・自衛官たちが中心となって築いた防衛システムとバリケードは、不良グループの襲撃を鼻で笑って弾き返すほどの鉄壁さを誇っていた
さらには元・料理人たちが腕を振るう学食、元・整備士たちがカスタマイズした車両群……
前世で大人の社会的経験を積んできた者達や身体の若さなど、五百人の知識と技能が結集したその場所は、もはやキヴォトスのどの主要学園にも引けを取らない、完璧な自治領域へと変貌していたのだ
「――全校生徒、気をつけ!」
新設された講堂
ピシッと仕立て直された新品の制服に身を包んだ、五百人以上の女子生徒たち
その頭上には、色とりどりのヘイローが誇らしげに輝いている
壇上に立った俺は、マイクに向かって息を吸い込んだ
「これより――第一回、ネクストライスクール・入学式を執り行う!」
『うおぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!』
割れんばかりの歓声と拍手が講堂を揺らした
最前列では、ミヤカが「もうワンオペバイトしなくていいんだ……!」とボロ泣きし、アリカとミナサが笑顔で肩を組んでいる
前世ではバラバラの人生を歩み、事故で死に、異世界に放り出された迷子たち
だが今、俺たちはここに第一期生として集い、自分たちの足で新しい青春の第一歩を踏み出そうとしているのだ
(さて……これで身分も、居場所も手に入った)
俺は胸元に手を当て、そっと窓の外を見やった
ゲーム本編が始まるまで、あと約3年
ゲヘナでは『雷帝』が暴れまわり、トリニティやアビドスでも時代の大きなうねりが始まろうとしている
だが、どれほど未来の大事件が巻き起ころうとも――俺たちには、頼れる五百人の「仲間」と、自分たちで作り上げた「学園」がある
モブとして怯えて暮らす時代は終わった
ここから始まるのは、転生者たちによる、破天荒で、賑やかで、ちょっとシリアスな――俺たちだけの新しい青春ストーリーだ!
「みんな! 一緒に最高の青春を送るぞ!!」
「「「おおおおおおおっ!!!!」」」
青空の下、五百個以上のヘイローが一斉に輝きを増した
こうして、キヴォトスの歴史の影で生まれた異例の”転生者たちの学園”は、ゲーム本編の開幕に向けて、静かに、そして力強くその一歩を踏み出したのだった
「……ハァ? 『ネクストライスクール』……?」
ゲヘナ学園の万魔殿
巨大なモニターに映し出された連邦生徒会からの定期速報を目にして、情報部のヒナはわずかに眉をひそめた
その背後では、ゲヘナの頂点に君臨する”雷帝”が、不機嫌そうに鼻を鳴らしながら腕を組んでいる
「身元不明の生徒が突如五百人以上現れて、DU外縁部の不法占拠地域を接収しただと……? くだらん。どこぞの野良どもが集まって、おままごとでも始める気か?」
雷帝はそう告げるが………
「ですが、スケバンやヘルメット団の比ではないほど強く、我がゲヘナ学園の風紀委員会と互角にやりあえるほどだと」
「ふん、まあいい………だが、その学園にはしっかり見ておけ」
一方、トリニティ総合学園。正義実現委員会の執務室
「ハッ! どこかの野良生徒どもが集まっておままごとですかぁ!?」
書類を握りつぶしそうな勢いで怒号を上げたのは、ティーパーティーのパテル派の首長だった
「ですが……報告によると、彼女たちが使用している兵器や防衛陣地は、素人の域を超えているとのことです。熟練の大人と、血気盛んな若者が入り混じったような妙な連携で陣地を構築し、DU外縁部を荒らしていたヘルメット団を一瞬で返り討ちにしたとか……」
「ちっ……調子に乗って……トリニティの自治区や面汚しになるような真似をするようなら、即座に叩き潰して……!」
キヴォトスの二大学園――ゲヘナとトリニティの双方で、突如として表舞台に現れた"謎の第三勢力"に対する警戒と不信感が、静かに、しかし確実に広がり始めていた
――そして、当のネクストライスクール
「……なぁ、ミナサ。なんか外が妙にピリついてないか?」
校長室兼、生徒会室として暫定的に作られた部屋で、俺――レイカは、窓の外を望遠鏡で覗きながら首をひねっていた
校門の向こう側、少し離れた街頭の影から、明らかにゲヘナやトリニティの偵察と思われる生徒たちがチラチラとこちらを窺っている
「そりゃそうですよレイカさん。身元不明の女子高生が五百人以上集まって、いきなり不法占拠地域を制圧して独立宣言したんですから。既存の二大学園からすれば『謎のゲリラ武装組織』にしか見えません」
隣で綺麗にファイリングされた書類を整理しながら、ミナサが苦笑いを浮かべる
現状、生徒会メンバーがはっきりしていないのも要因の一つとしてある。その為、生徒会長代理としている形になっているが、今後しっかりとした生徒会長を建てる方針となっているが、その間はしっかりと仕事をしている
「まあ、書類上は連邦生徒会のお墨付きを得た正当な学園だからな。向こうから攻めてこない限り、こっちから手を出す必要はない。……それより、開校後の各部署の状況はどうだ?」
「バッチリですよ!」
バタンと威勢よくドアを開けて入ってきたのは、作業着姿のミヤカだった。タオルで汗を拭いながら、満足げに親指を立てる
「改修工事組の仕事は完璧だ! 俺みたいなガテン系の元大人と、現役で建築科に通ってた高校生転生者がタッグを組んでさ! 校舎の耐震補強もバッチリ終えたぞ。インフラも元プログラマーの大人と、パソコン好きの高校生たちが連邦生徒会のラインに……ゲホン、正規の手続きで接続完了した! 学食も大盛況だ!」
「助かるよミヤカ。元大人の経験値と、現役高校生の柔軟なアイディアが噛み合ってるのはデカいな」
「へへっ、自分の家を作ってると思えば、残業だって苦にならねえよ!」
ミヤカが豪快に笑う
前世で社会を経験した大人たちと、前世で現役の学生だった高校生たちが互いの得意分野を持ち寄り、協力し合っているのだ。建築、インフラ、防衛、法務、部活動の企画に至るまで、全てがすごいスピードで整備されていく
そこへ、慌ただしい足取りでアリカが飛び込んできた
「レイカ! 大変や! 門の前に、怪しい集団が押し寄せてきてるで!」
「何!? ゲヘナか、それともトリニティの強硬派か!?」
俺は腰のゼロモーメントポイントを確かめ、即座に立ち上がった
ミヤカやミナサも顔つきを変え、武器を手に取って校門へと急ぐ
校門前に到着すると、そこには十数人のヘルメット団やスケバンたちが、武器を手に校門を囲んでいた
だが――彼女たちの表情には怒りや威圧感ではなく、あきらかな困惑と焦りが浮かんでいた
「な、なぁ……! ここって本当に新しい学園なのかよ!?」
「あたしたちが隠れ家にしてた廃ビル、全部勝手にリフォームされて綺麗になっちゃってるんだけど!?」
「あ?」
門の前に立っていたのは、元自衛官のツヨシや、前世でサバゲー好きだった高校生転生者たちで構成された防衛組だった。バリケードの後ろから銃口を構え、鋭い視線を送っている
「なんだ、ただの野良の不良か。ここは連邦生徒会に正式認可された『ネクストライスクール』の敷地だ。不法侵入ならびに威嚇行為とみなした場合、即座に自衛戦闘を開始する」
「ひっ……! なんだよこいつら、プロみたいな動きしてきやがる……!」
「おい、あいつらの連携見たか!? スケバンの鉄砲玉なんかより遥かに洗練されてる……!」
カチリ、と一斉に安全装置が外される音が響き、ヘルメット団の連中は悲鳴を上げて逃げ出していった
「……ふう。追い払えたか」
俺は銃を収め、胸を撫で下ろした
「助かったよツヨシさん、それと元・高校生組のみんなも」
「はは、大人の戦術知識と、若いみんなの機動力が合わさると心強いよ、レイカくん。だが、これでハッキリした。俺たちの存在は、周囲の不良どもや既存の学園にとって異物だ」
ツヨシは真剣な表情で、遠くに見えるキヴォトスの街並みを見つめた
「今はまだ様子見段階だが、いずれ必ず、ゲヘナやトリニティ、あるいは連邦生徒会本体からの本格的な介入が入る。俺たちがこの『居場所』を守り抜くためには、単に逃げ込むだけじゃ足りない。もっと組織として強くなる必要がある」
「ああ……分かってる」
俺はヘイローの光を宿した仲間たちの顔を見渡した
ミヤカ、ミナサ、アリカ、ツヨシ、ナイト、レンス――
元大人も、元高校生も、ここには分け隔てなく集まっている
前世では全く違う立場を生きていた。事故で死に、異世界に放り出され、絶望しかけた迷子たちだった
だが、もう俺たちはただ守られるだけの存在じゃない
大人の知恵と経験、高校生たちの若さと情熱。その全てを武器にして、俺たちはここに自分たちの青春を創り出すんだ
「3年後……ゲーム本編が始まる時、このキヴォトスがどうなっているかは分からない。だが、誰が相手だろうと、俺たちの居場所は渡さない」
青空に吹き抜ける風が、俺たちの新しい制服を揺らした
キヴォトスの歴史の影で産声を上げた、五百人の転生者による史上最大のゲリラ学園
『ネクストライスクール』の物語は、ここから本当のスタートを切るのだった
キャラ設定
赤坂 レイカ
本作品のメイン視点。前世は男性だったが、現在は黒髪ウルフカットで毛先に鮮やかなターコイズカラーが入った、身長約165cmのボーイッシュな美少女になっている
持っている武器にゼロモーメントポイントがありケルテック社のSUB-SDPが元になっている
佐藤アリカ
レイカが初めて会った転生者一人。前世は大学生だったがスポーティーで活発な印象を与える小柄な少女。動きやすい服装を好み、表情がコロコロと変わる感情豊かな顔立ちをしている
持っている武器にゴー!ジャンプ!といいAA-12が元になっている
高橋ミナサ
レイカが初めて会った転生者一人でありアリカと共に出会った。前世は高校生だったが現在は柔らかく落ち着いた雰囲気を纏う清楚な佇まいの少女になっている
所持している武器にはトランスデューサーといいAS VALが元になっている