荒野の吹きすさぶ風が、切り立った崖の上に立つ三人の髪を激しく揺らしていた
視線の先、不毛の地に突如として出現した異彩の幾何学都市――要塞都市『エリドゥ』
無機質な黒とシルバーの装甲に覆われた超高層ビル群が、夕闇の迫るキヴォトスの空を突き刺すように聳え立っている
しかし、その都市の美しくも異様な景観以上に、彼女たちの皮膚をぴりぴりと麻痺させていたのは、都市の全周を完璧に覆い尽くしている光膜の存在だった。
要塞都市内部の超巨大発電プラントから際限なく供給される高濃度電磁波――それを利用して張り巡らされた多重防衛バリア。透き通るような青と紫の光の幾重もの層が、大気を歪ませながら不気味な脈動を繰り返している。都市そのものが巨大な高エネルギーの繭に包まれているかのようだった
「……やっぱり、近くで見ると余計にエグいな。都市ひとつを丸ごと電磁波の檻で囲い込むとか、調月リオって生徒会長の思考回路はどうなってやがる」
ネクストライスクールの現場総責任者である赤坂レイカは、黒髪のウルフカットをかき揚げ、ターコイズカラーの毛先を風になびかせながら眉をひそめた。腰のホルスターに収まった愛銃『ゼロモーメントポイント』のグリップに手をやり、その冷たい感触に触れることで気持ちを落ち着かせる
その隣では、1年生の生徒会執務補佐である立火ジュカが、愛銃のグレネードランチャー『NOTバック』を抱え直し、引き締まった表情で障壁を見上げていた
「レイカ先輩……。この規模の電磁波バリアなんて、本来の『パヴァーヌ第2章』の要塞都市エリドゥ攻略戦には存在しなかったはずです。リオ会長の防衛プロトコルが強化されているのか、それとも私たちがこの世界に存在していることによる『歴史の歪み』なのか……」
ジュカが声のトーンを極限まで落とし、レイカだけに聞こえるように囁く。前世でゲーム『ブルーアーカイブ』をやり込んでいた彼女の瞳には、原作知識とのあまりに大きな乖離に対する戦慄と焦燥が滲んでいた
本来なら、ヴェリタスの電子戦とC&Cの強行突入によって内部へ侵入できるはずだった。だが、目の前に横たわるのは、ミレニアムの現存する理論科学ではハッキングも物理破壊も不可能な「存在を拒絶する障壁」だ
「ジュカ、戸惑ってる暇はないぞ」
レイカは視線をエリドゥから外さず、短く、しかし力強い声でジュカの言葉を遮った
「原作と違うだの、歴史が歪んだだの……そんなことは後でいくらでも考察すればいい。今の俺たちの目的はただ一つだ。あのバリアをブチ破って、アリスを連れ戻しに行く。それだけだろ?」
「……! はい……っ! すみません、レイカ先輩! 動揺を見せました」
ジュカはハッと息を呑み、即座に姿勢を正して深く頷いた。その直直とした佇まいに、レイカは頼もしさを覚えて口元をわずかに緩める
今回は、防衛部実戦テスターである志賀カエデはこの崖の上にはいない。彼女はすでに、ミレニアムの特殊捜査部隊『C&C』のメンバー――美甘ネル、一ノ瀬アスナ、角楯カリン、室笠アカネたちと共に、後方で待機する武装ヘリへと乗り込んでいる
「バリアに穴が開いたその瞬間に、空から要塞都市の最深部へ最速で躍り出る」という極限の強行突破プロトコルを実行するため、カエデはプロの戦闘員としてC&Cの尖兵・ポイントマンの役割を引き受けたのだ
だからこそ、この地上で「障壁を穿つ」という最も重要かつ過酷な役割は、残された自分たちに託されている
「ふふ……いい覚悟ね、二人とも」
二人の背後から、一切の緊張感を感じさせない、余裕に満ちた朗らかな声が響いた
白衣を風に棚引かせ、眼鏡のブリッジを細い指先でカチリと押し上げたのは、ネクストライスクールアーティファクト研究部部長――青花ヒバナだった
ヒバナは足元に置いていた重厚な金属製のアタッシュケースを軽く蹴ると、目の前に広がる電磁波バリアの極彩色の光膜を、まるで極上の実験サンプルを観察するかのような妖しい瞳で見つめた
「ミレニアムの科学力にも感心させられるわね。都市内部の主発電プラントから供給される膨大な電磁波を共振させ、あらゆる外部物理干渉のベクトルを拡散・打ち消し演算する完全防御……。ウタハたちエンジニア部やハレたちが手を焼くのも頷けるわ」
「おいおいヒバナ、感心してる場合かよ。お前のその自慢の『試作機』で、ホントにあれが破れるんだろうな?」
レイカが苦笑混じりに尋ねると、ヒバナは「心外だわ」とばかりに肩をすくめて微笑んだ
「失礼ね、レイカ。私がいつ、実現不可能な理論を口にしたかしら? 完璧に見える電磁波の網目も、エネルギーの定在波である以上、必ず『周期』と『位相の節』が存在するわ。どれほど高出力の電磁波であろうと……その周波数を完全に同調させ、さらに高次元の回転ベクトルを加えて干渉させてあげれば、どうなると思う?」
ヒバナはアタッシュケースのロックを解除した。カチャリという硬質で重厚な金属音が響き、ケースの蓋が滑らかに開く
中に収められていたのは、通常のキヴォトスの火器体系とは明らかに一線を画す、流線形と複雑な幾何学フレームが組み合わさった長尺の大型光学兵器――かつて『ミレニアムプライス』の展示および実証戦闘において、観客とミレニアムの技術者たちの肝を冷やさせた異次元の兵器、『波動ライフル』であった
黒と銀の重厚なフレームの隙間から、淡い青白い光膜が明滅している。それはキヴォトスの既存の物理法則と、ネクストライが独自に解析・応用を進める未知のオーパーツ技術が融合した、文字通りの規格外兵装だった
「ウタハたちの既存のレールガンや重粒子砲では、どれほど出力を上げても『単なる直線的な物理エネルギー』として処理されて、バリアの電磁場に拡散されてしまうわ。けれど……この波動ライフルから放たれるのは、空間そのものの位相を捻じる高次元パルス」
ヒバナはアタッシュケースから波動ライフルを軽々と持ち上げると、それをレイカに向かって差し出した
「さあ、受け取ってちょうだい、レイカ。この試作機の真価……現場総責任者であるあなたの手で証明して見せなさい」
「……へいへい。相変わらず無茶ぶりばかりしてくれるぜ、うちのマッドサイエンティスト様は」
レイカは口元を不敵に歪めると、手袋を嵌めた手で波動ライフルの重厚なグリップを握り締めた
ズシリとした重量感が腕に伝わってくる。だが、単に重いだけではない。グリップを通じて、レイカの体内に流れる神秘――自身を加速させる『絶対加速』の波長と、ライフル内部のエネルギーコアがかすかに共鳴するような感覚があった
ヒバナが開発した負荷軽減システム『ミスティック・ナイトロシステム』を経由し、レイカ自身の感覚が研ぎ澄まされていく
レイカは崖の端へと一歩踏み出し、両脚を肩幅に開いて深く重心を落とした。波動ライフルのストックを右肩にしっかりと固定し、大型のホログラフィックサイトに左目を重ねる
視界の中に、要塞都市エリドゥを包み込む広大な青紫の障壁が拡大表示される
「ジュカ、周囲の警戒。万が一、バリアの自動防衛ドローンが察知して飛んできたら落とせ」
「了解です! レイカ先輩、射撃に集中してください! 半径100メートルの防空圏は私が死守します!」
ジュカが『NOTバック』を構え、即座に索敵モードへと移行する。その背中は、1年生とは思えないほどの安定感とプロフェッショナルな鋭さに満ちていた
「ヒバナ、出力調整は?」
「すでに最大よ。エネルギー充填率120%。オーバーヒートで壊れる前に……一発で決めてちょうだいね」
ヒバナがレイカの隣で、優雅に腕を組んで微笑む
レイカは深く息を吐き出し、精神を集中させた
(絶対加速――ON)
レイカの瞳の中で、ターコイズの光彩が一段と強く輝いた。周囲の風の音、遠くの砂塵の動き、バリアが発する電磁波の微細なパルス周期――そのすべてがスローモーションのように引き延ばされていく
ホログラフィックサイトの照準線が、巨大な電磁波バリアの表面を高速でスキャンする
(見えた……! プラントからの電磁波が交差する、エネルギー波形の『結節点』……!)
どれほど隙のない完全防御に見えようとも、人工物である以上、必ず波形の干渉によって強度がわずかに低下する「波の谷間」が存在する。レイカはその極小のピンポイントへ、波動ライフルの銃口を寸分の狂いもなく固定した
指が、冷たい金属のトリガーにかかる
「貫け……っ!!」
レイカが叫ぶと同時に、トリガーを強く絞り込んだ
次の瞬間――世界からすべての音が消失したかのような錯覚が、その場にいた全員を襲った
波動ライフルの銃身全体に刻まれた幾何学模様の刻印が、眩いばかりの純白と藍色の光を放つ。ライフル内部の相転移コアが狂おしいほどの超高回転を開始し、大気が極限まで圧縮される甲高い高周波音が空間を切り裂いた
ド……パンッ!!!
爆音という言葉すら生ぬるい、空間そのものが破砕されたかのような不気味な重低音が轟いた
銃口から放たれたのは、通常のレールガンやプラズマ砲のような「単なる直線的な光線」ではなかった
それは、青白く輝く極太のエネルギーパルスが、幾重もの螺旋を描きながら激しく軸回転する、巨大な「光のドリル」だった
光線は放たれた瞬間から高次元の回転運動を伴い、周囲の大気を巻き込んで巨大な竜巻状の衝撃波を形成しながら、まっすぐに要塞都市エリドゥの電磁波バリアへと着弾した
ズズズズズズズ……っ!!!
凄まじい金属摩擦音と電磁波の衝突音が、荒野全体に響き渡る
波動ライフルから放たれた回転光線は、エリドゥのバリアに接触した瞬間、弾かれて拡散することなく、その場に留まって力ずくで障壁を穿ち始めた
「な……なんだ、あのエネルギー収束率は……!? 物理破壊を起こさずに、バリアの電磁場そのものを回転軸で巻き込んで相殺している……!?」
崖の後方に待機していたエンジニア部の白石ウタハが、手元の計測端末の数値を見て叫んだ。端末の画面には、解析不能を示すエラー表示と、跳ね上がるエネルギー強度のグラフが狂ったように点滅している
「すごい……! まるでゲームの世界みたい!!」
ゲーム開発部のモモイやミドリも、目の前で起きている信じられない光景に目を丸くして息を呑んでいた
エリドゥの多重電磁波バリアの表面で、光のドリルが猛烈な勢いで回転を続ける
バリバリバリバリッ……!!
青と紫の美しい光膜に、強烈な不協和音が走り始めた
波動ライフルの回転パルスが、バリアを構成する電磁波の周波数を強引に捻じ曲げ、エネルギーのバランスを崩壊させていく。着弾点を中心に、まるでガラスの表面に圧力をかけたかのような、蜘蛛の巣状の「光の亀裂」が急速に広がっていく
「押し込め……っ! 砕けろぉぉぉっ!!」
レイカが反動に耐えながら、歯を食いしばって叫ぶ
絶対加速によって限界まで高められたレイカの全神経が、波動ライフルを通じて光線の回転ベクトルをさらに加速させる。ミスティック・ナイトロシステムが過熱し、警告音が脳内で鳴り響くが、レイカは構わずにエネルギーを注ぎ込み続けた
ギギギギギ……
パキィィィン……!!
空間が悲鳴を上げた
そして――
ドカァァァァァンッッ!!!
爆発的な光のフラッシュとともに、要塞都市エリドゥを包み込んでいた絶対不可侵の多重電磁波バリアが、まるで巨大なガラス細工が粉砕されたかのように、音を立てて木っ端微塵に砕け散った
無数の光の破片が、美しいオーロラのような粒子となって荒野の空へと舞い散っていく
都市を覆っていた圧迫感が一瞬にして消し飛び、エリドゥの無機質な高層建築群が、遮るもののない生の姿を白日に晒した
「バリア破砕を確認……! ブレイクスルーが開いたわ!」
ヒバナが眼鏡の奥の瞳を輝かせ、満足気な笑みを浮かべて叫ぶ
その瞬間を、空中で待機していた「本物のプロフェッショナルたち」が見逃すはずがなかった
「全機、突入!! ネクストライが開けてくれた穴を塞がせるな!」
上空の雲を突き破り、エンジン音を轟かせて急降下してきたのは、ミレニアムの特殊捜査部隊『C&C』と、ネクストライ防衛部の志賀カエデを乗せた大型武装ヘリだった
ヘリの側面ドアが豪快に開かれ、スカジャンを羽織ったC&Cのリーダー・美甘ネルが、愛銃のダブルサブマシンガンを構えて身を乗り出している。その隣には、背中に『パルスライフル改』を背負い、PSシールドをいつでも展開できるように構えたカエデの凛々しい姿があった
「へっ……上等じゃねえか、ネクストライの連中! おい野郎ども、乗り込むぞ!!」
ネルが凶悪な笑みを浮かべて叫ぶ
武装ヘリは、レイカたちが穿ち払ったバリアの巨大な穴を通り抜け、一直線に要塞都市エリドゥの上空へ、そして最深部の構造体へと疾風のように突入していった!
ヘリの風圧と爆音が荒野を駆け抜ける
「よしっ……! C&Cとカエデの第一陣が突入した! 俺たちも続くぞ!」
レイカは過熱して煙を吹く波動ライフルをヒバナへと手渡し、腰の『ゼロモーメントポイント』を引き抜いた
「はいっ! ネクストライ、突入開始です!」
ジュカが『NOTバック』を抱えて崖を駆け下りる。ヒバナもまた、手際よく波動ライフルをケースに収めると、白衣をなびかせて軽快な足取りで二人の後を追った
崖の下では、待機していたミレニアムの主力部隊が一斉に動き出していた
「みんな、遅れるな! アリスを取り戻すんだ!」
ゲーム開発部のモモイが、サブマシンガンを空にかざして叫ぶ。ミドリとユズがその両脇をしっかりと固め、強い決意を瞳に宿して走り出す
「エンジニア部、ヴェリタス! 突入ルートのセキュリティー解除とサポートを並行して行います! 急いでください!」
エンジニア部の白石ウタハや猫塚ヒビキ、豊見コトリが、機材を積んだ移動車輌とともにエリドゥの正門エリアへと雪崩れ込んでいく
その喧騒と怒号の渦の中で、一人、完璧な姿を保ったまま迅速に指示を出している少女がいた。
ミレニアム生徒会『セミナー』副会長――八金タチカである
ダークネイビーの髪を揺らし、隙のない洗練されたミレニアムの制服に身を包んだタチカは、手元の端末で要塞内部のマップデータをリアルタイムで更新しながら、澄んだ声で全員に指示を飛ばしていた
「ユウカ、ノア。私の権限を使ってエリドゥに関連するものの妨害を!私はこのまま突入する」
その凛とした立ち振る舞いは、どこからどう見ても「ミレニアムの秩序を統括する完璧な副会長」そのものであった
だが、突入の最中、レイカとすれ違う一瞬の隙――他のミレニアム生徒たちの死角に入ったその刹那
タチカはすっと顔をレイカの方へ向け、その整った顔立ちを崩して、心底焦ったような、それでいてハイテンションな「裏の顔」を全開にして囁いてきた
「(マジで助かったっすレイカさん!! あのバリア見た時、マジで詰んだかと思って冷や汗止まらなかったっすよ!! ネクストライの技術力マジで異次元すぎるっす!!)」
前世でブルアカのガチ勢プレイヤーであり、ミレニアム内部から原作のバッドエンドを回避しようと奔走していた転生者・八金タチカ
そのオタクとしての本音が溢れ出た情けないような素の表情に、レイカは駆け抜けながらニヤリと苦笑いを返した
「(礼ならヒバナに言え! さあ、ここからは時間との勝負だぞ、副会長殿!)」
「(了解っす! アリスちゃん絶対に救出するっすよ!!)」
タチカは即座に表情を切り替え、再び完璧な副会長の顔に戻ると、愛銃のハンドガン『Q-TEC』のグリップを握り直して一歩前に出た
要塞都市エリドゥの内部へと、砕け散ったバリアの光の粒子が降り注ぐ
無機質なアスファルトと近代的な高層ビル群が立ち並ぶその街並みは、静まり返っているようでいて、奥底から無数の自動防衛兵器の起動音が不気味に響き始めていた
天童アリス――無名司祭の兵器としての宿命を背負わされ、仲間を傷つけないために自ら囚われとなった少女。彼女はまだ、この要塞の最深部で眠っているはずだ
だが、彼女を救うために立ち上がった者たちが、今、確かにその足でこの要塞都市の土を踏みしめた
「ジュカ、ヒバナ! 敵の防衛ラインを突破して、C&Cと合流するぞ!」
「了解っす……あ、違った、了解ですレイカ先輩!」
「ええ、行きましょうか。要塞都市の自動防衛システム……どこまで私の研究の知的好奇心を満たしてくれるか、楽しみだわ」
レイカ、ヒバナ、ジュカの三人は、後続のゲーム開発部やエンジニア部、そしてタチカ率いるミレニアムの仲間たちを引っ張るように、要塞都市エリドゥの深部へと勢いよく駆け抜けていった
貫かれたパルスの光線が開いたのは、単なる障壁の穴ではない
原作の不条理な運命を書き換え、自分たちの手で新たな未来を掴み取るための――確かな勝利への一歩だった
オリジナルイベント!ネクストライをテーマにしたオリジナルイベントストーリー!
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どっちもやる!
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いや、やらなくていい