エリドゥの地下空間に満ちる空気は、重く、硬質で、人工的な冷気に満ちていた
幾層にも重なる多重高層ブロック、縦横無尽に張り巡らされた巨大な高圧電線束、そして果てなく続くコンクリートの巨大建造物群。全自動都市としての異様な静寂を保っていたはずのその区画は、いまや激しい戦闘の余波と高圧エネルギーの破砕音によって、絶え間なく震えていた
「—こちらヴェリタス。エンジニア部から回された制御ノードの接続、完了したよー。撃墜した治安維持ドローンと四足歩行ロボの基板、かなり強引に書き換えられてるね……さすがエンジニア部と言うべきか、相変わらず無茶苦茶だよ」
通信端末から聞こえるのは、ヴェリタスのハレの少し眠たげでありながら手慣れた声だ
「助かるわ。そちらで制御下のドローンを先行索敵に回してちょうだい。エリドゥの防衛AI……会長であるリオの監視網を掻い潜りながら最短ルートを維持するのは、想像以上に骨が折れるわね」
青花ヒバナは、自身の愛銃である『アナリス・フィードバック』のボルトを軽く引き、クリアランスを確認しながら通信に応じた。白い研究衣の裾を揺らし、眼鏡の奥の瞳で薄暗い通路の先を鋭く見据える。その立ち振る舞いには、修羅場を幾度も潜り抜けてきた元研究者特有の、冷徹なまでの余裕と知的冴えが漂っていた
「了解〜。メインタワーまでのルート上に設置された自動防衛ターレットは、エンジニア部がハッキングした重ロボットを突撃させて強行突破の足がかりを作る。……先生、ゲーム開発部の皆も、足元に気をつけて進んでね」
「ありがとう、ハレ! エンジニア部の皆も頼もしいよ!」
先生の声が、隊列の先頭から響いた
先生のすぐ隣には、二丁のハンドガンを握りしめ、呼吸を荒らせながらも懸命に前を見つめるモモイ、その背中を支えるように慎重に周囲を警戒するミドリ、そして大型の狙撃銃を抱えておどおどと息を殺すユズの姿があった
ゲーム開発部の目的はただ一つ。このエリドゥの中心部に位置する巨大タワーの最深部——そこに閉じ込められ、無機質な要塞都市のシステムの一部として組み込まれようとしている仲間、アリスを奪還することだ
隊列の先頭を先生とゲーム開発部が走り、その周囲をガードするようにネクストライスクールとミレニアムの混成部隊が固めている
黒髪のウルフカットに鮮やかなターコイズカラーの毛先を遊ばせ、男性的で引き締まった佇まいで周囲の動体反応を殺気とともに探るのは、ネクストライの現場総責任者・赤坂レイカ
その横で、1年生らしい引き締まった体幹と無駄のない動作で『NOTバック』を保持し、防衛部との連携通信を小まめにチェックしているのは立火ジュカ
そして、ミレニアムサイエンススクールの生徒会『セミナー』の副会長でありながら、完璧な洗練された制服姿で縦横無尽に警戒線を張っている八金タチカだ
「ふぅ……目的地のエリドゥ中央タワーまで、あとほんのわずか……距離にして約2ブロックというところでしょうか。ここまでは想定以上のハイペースで突破できていますね」
タチカが公的な、どこまでも上品で落ち着いた副会長としての声色で言った。ミレニアムの誇る洗練されたエリートとしての笑みを浮かべているが、そのダークネイビーのミディヘアの下の瞳は、絶えず周囲の建造物の影を走査している
「ああ。エンジニア部が敵のドローンを強奪してヴェリタスに回線をぶん投げたのが効いてるな。リオの防衛網も、まさか自分とこのセキュリティ端末が味方に牙を剥くとは思ってねぇはずだ」
レイカは愛銃『ゼロモーメントポイント』を低く構え、短く吐き捨てるように答えた。男性的で自然体なその口調には、焦りは一切ない。前世での経験、そしてこのキヴォトスでネクストライスクールをゼロから立ち上げてきた叩き上げの修羅場が、彼女の胆力を極限まで錬成していた
「ですが、油断は禁物です、レイカ先輩」
隣を走るジュカが、簡潔で職務的な口調で補足する
「エリドゥのメインサーバーがこちら側のハッキングパターンを学習し、迂回プロトコルを形成するまでのタイムリミットは長くありません。一刻も早くタワー内部の直通エレベーターへ到達する必要があります」
ジュカはモモイやミドリ、ユズと同じ1年生世代だ。だが、前世でブルーアーカイブを徹底的にやり込み、キヴォトスの戦術構造を熟知している彼女の判断力は、そこらの上級生を遥かに凌駕していた。先端技術や状況判断を実務レベルで処理するその能力は、この過酷なエリドゥ攻略戦において不可欠な潤滑油となっている
「分かっているわ、ジュカ。……先生、モモイちゃん、ペースを落とさないで。あとふた街区を走り抜ければ、中央タワーの基底エリアへ進入できるわ」
ヒバナが余裕のあるお姉様らしい笑みをたたえつつ、前方を示した
巨大なコンクリート遮音壁の合間から、エリドゥの象徴たる漆黒の超高層タワーが、まるで天を突く杭のように聳え立っているのが見えた。あの中にアリスがいる。先生の表情にも決意のの色が宿る
「よし……みんな、あと少しだ! アリスのもとへ――」
先生が全員に声をかけ、一挙に加速しようとした、まさにその瞬間だった
《警告:極大脅威アプローチ。防衛エリア・ブロック02における排他的排除プロトコル起動》
電子合成音声による無機質なアナウンスが、地下区画全体に重々しく響き渡った
直後―
ズズズズズズズズズズズズズズズッ!!!!
「っ!? な、なんだ、この地響きは……!?」
モモイが思わず足を止め、悲鳴交じりに叫んだ
前方のコンクリート床が、まるで内側から巨大な爆発が起きたかのように激しく隆起し、蜘蛛の巣状の巨大な亀裂が走る。空気を切り裂く高圧油圧シリンダーの駆動音と、耳を刺すような高周波のモーター音が、閉鎖空間全体に鳴り響いた
一基や二基ではない。目の前を塞ぐ左右の高層建築の壁面、そして前方の目抜き通りの中央から、莫大な質量を持った「何か」が、爆煙と火花を撒き散らしながら躍り出てきたのだ
ドガァァァァンッ!!
激しい粉塵が吹き荒れ、視界が白く染まる
そして、その煙の向こうから姿を現した巨大なシルエットを目にした瞬間、その場にいた全員の動きが完全に止まった
そこに立っていたのは——重厚な超硬合金装甲、無駄に複雑に入り組んだ可動フレーム構造、洗練されたミレニアムの最新技術が惜しみなく投入されているはずなのに、なぜか圧倒的に主張してくる「シュールな造形美」
調月リオが全精力を傾けて開発したとされる、全自動決戦兵器
『アヴァンギャルド君』であった
しかも――
「一、二、三、四……ご……?」
ミドリが指を差し、引きつった声を上げた
そう、1体ではない
そこには、まったく同じ形状をした巨大なアヴァンギャルド君が、隙間なく道路を埋め尽くすように、圧巻の威容で「5体」並び立っていたのだ
「……な、なに……なにあのロボットおおおっ!?」
沈黙を破ったのは、モモイの絶叫だった
「なにあれ!?めちゃくちゃダサい!」
モモイが叫ぶ
普段であれば、「お姉ちゃん、相手の容姿を笑うのはよくないよ」とか「今はそんなことを言っている場合じゃありません!」といったツッコミが入るところだった
しかし――
「………………」
「………………」
「………………」
誰も反論しなかった
先生すらも、苦笑いを超えた困惑の表情で口を半開きにしている。ミドリもユズも、何も言えずにただ引きつった顔でその巨大な異形を見上げるばかりだった。完璧な沈黙が、爆煙の漂う通路を支配する
そして――その状況下で、誰よりも深い、そして別の意味での絶望と衝撃に打ちのめされていたのは、原作知識を持つ転生者たちだった
(……マジで……? マジで言ってるの……!?)
八金タチカの脳内で、理性が悲鳴を上げていた
公的なお堅い副会長の仮面が、内側から激しくひび割れていくのを感じる
(ゲーム画面で見てた時も『なんだこのセンスは……リオ会長、戦闘スペックは完璧なのにデザインセンスだけ致命的に滑ってるだろ……』って思ってたけど!! 実物が!! 全長10メートル超えの圧倒的な質量で!! 5体も並ぶと狂気以外の何物でもないっすよ!? 原作でこんな5体も同時に出てくる展開なんてなかったでしょ!! なんでこんなところで原作改変が起きてるだよー!!)
タチカは絶句し、眉間を固く揉みほぐしたくなったのを必死で耐えた
一方、レイカもまた、愛銃を構えたまま目を見開いていた
(……知ってはいた。前世のゲーム知識として『アヴァンギャルド君』っていうやつが出てくることは知っていた。……だが、あれは……うん、一体だからこそ良かったんだ……5体並べるものじゃないだろ……つか、本気で誰もツッコミずらくなってるじゃん……だけど……あの強さが5体は訳が違う……しかも、俺らがしってるやつじゃないのは確か……)
一機あたりの火力和力、装甲の厚さは、先ほどまで戦っていた警備ドローンの比ではない。それが5体。絶望的な壁となって、あと2ブロックの道を完全に塞いでいた
ジュカもまた、『NOTバック』のグリップを力強く握り締めながら、冷汗を流していた
(原作知識があるからこそ、あの兵器の基本スペックの高さは知っています……! ですが、5体同時運用なんてあり得ない。ネクストライの介入と戦術的圧力を受けて、エリドゥの並列演算処理能力が過剰防衛モードに移行し、予備機体まで全稼働させたということ……!?)
5体のアヴァンギャルド君の全方位光学センサーが、一斉に怪しい赤と青の光を明滅させた
重厚なアームに懸架された高出力ビームキャノンと、肩部の多連装ミサイルポッドが、ガチガチと重い音を立てて展開される。照準線が、先頭に立つ先生とゲーム開発部の胸元へ、幾重にも重なって照射された
「ターゲット確認。侵入者を一括排除――」
無機質な電子音が5重の輪唱となって地下区画に響き渡る
「くっ……! 全員、回避用意!」
先生が叫び、生徒たちを庇うように手を広げた。だが、狭小な都市ブロックで、5体もの巨大兵器が一斉に掃射を開始すれば、いくら物物陰に隠れようと全域が火の海と化すのは火を見るより明らかだった。アリスの待つタワーへ辿り着く前に、ここで全員が磨耗し、壊滅してしまう
その時だった
「――させませんっ!」
凛とした凛烈な声が響いた
誰よりも早く踏み出したのは、ミレニアム生徒会副会長・八金タチカだった
彼女は洗練された動作で腰のホルダーから愛銃『Q-TEC』を引き抜き、同時に完璧な副会長としての立ち振る舞いを投げ打つかのように、その可変ホルダーを迅速に銃身へ接続。フルオート射撃形態へと瞬時に移行させた
「タチカ!?」
先生が驚愕の声をあげる
タチカは振り返ることもなく、完璧な背すじを伸ばしたまま、毅然とした声で言い放った
「先生、そしてゲーム開発部の皆さん! ここは私が……たった一人で食い止めます! 私が5体の注意を全方向に引きつけている間に、皆さんはこの隙を突いてタワー内部へ突入してください!」
「ハァ!? なに言ってんだお前は!!」
即座に怒声を上げたのはレイカだった
レイカは疾風のような踏み込みでタチカの隣へ並び立ち、その華奢な肩をガシッと掴んで強引に引き留めた
「たった一人で5体相手にするだと!? アホか! アレ一機の火力がどれくらいあるか解って言ってんのか! お前がいくらミレニアムのトップエリートでも、物理的な質量と火力の暴力を一人で受け切れるわけねぇだろ!」
「レイカさん……! でも、ここで全員が足を止められたらアリスちゃんの救出が間に合わなくなります! エリドゥの防衛システムが完全に固まる前にタワーへ到達するのが最優先事項のはずです! 誰かがここで命懸けのストッパーにならなきゃ――」
「だからって、お前一人を捨て駒にするわけねぇだろ!」
レイカは男らしく、力強く言い放った。ターコイズの毛先を揺らし、その鋭い眼光で5体のアヴァンギャルド君を睨みつける
「俺はネクストライの現場総責任者。 俺も残る……二人でこの鉄くず5体を叩き潰す」
「レイカさん!? あなたまで残ったら、ネクストライの指揮陣が……!」
「指揮ならもう出し終わってんだよ!」
レイカは不敵に唇の端を吊り上げると、後ろに控えていたジュカとヒバナへ視線を向けた
「ジュカ! ヒバナ! お前たちに先生とゲーム開発部の護衛を任せる! 俺とタチカでこの通路を完全に塞いで、アヴァンギャルド君の意識をこちらに固定する。お前たちはその脇を抜け、最短ルートでタワーの直通エレベーターを目指せ!」
「……! レイカ先輩……!」
ジュカが一瞬だけ息を呑んだ。だが、彼女は前世で幾多の戦場を画面越しに見つめ、そして今世でネクストライの執務補佐としてレイカの背中を見続けてきた人間だ。レイカが「残る」と決めた時の判断の正確さと、その言葉に込められた絶対的な自信を、誰よりも理解していた
ジュカは躊躇を捨て、敬礼に近い動作で深く頷いた
「了解しました、レイカ先輩! ……必ず、先生とゲーム開発部の皆さんをタワー最深部まで送り届けてみせます! 任せてください!」
職務的で、引き締まったジュカの力強い返答
そして、その隣でヒバナが「ふふっ」と余裕のあるお姉様らしい笑みを漏らした
「やれやれ……相変わらず無茶な現場判断をするわね、レイカ。でも、あなたの『フィジカル』と戦闘センスなら、時間を稼ぐどころか本当にあの巨大な鉄くずを解体してしまいそうね」
ヒバナはアナリス・フィードバックをクルリと指で回すと、眼鏡のブリッジをスッと押し上げた
「ジュカ、行くわよ。先生たちの背中は私たちが守るわ。……レイカ、副会長さん。死なない程度に暴れてちょうだいね」
「任せとけってんだ、そっちは頼んだぞ!」
「分かりました。……先生、ゲーム開発部の皆さん行ってくださいっ!!」
レイカとタチカの喝が響いた
先生は一瞬、強い葛藤に表情を歪めたが、二人の固い決意に満ちた瞳を見て、深く頷いた
「レイカ! タチカ! 絶対に……絶対に無事でいてくれ!! 行こう、みんな!」
「う、うん……! レイカさん、タチカさん、ありがとーっ! 後で絶対に合流してよねっ!」
モモイが叫び、ミドリとユズ、そしてジュカとヒバナが先生を囲むようにして、アヴァンギャルド君の死角となる建造物の隙間へ向かって一斉に走り出した
「侵略者の逃走を確認。……主目標の追撃へと移行——」
アヴァンギャルド君5体の一斉に高圧スラスターが噴射され、先生たちの方角へ巨大なアームが向けられようとした——その瞬間。
「――どこを見てるんすか、このバカでかい鉄くずどもがぁっ!!」
ヒュンッ!!
空間を引き裂く重低音とともに、青白い閃光が走った
タチカが可変フルオートとなった『Q-TEC』の引き金を絞り切っていた
ガガガガガガガガガガガガッ!!
高密度の9mm弾幕が、最前列に立つアヴァンギャルド君1号機の光学カメラユニットへと正確無比に叩き込まれる。パチパチと激しい火花が散り、1号機がわずかに後ろへと揺らぐ
「ターゲット変更。脅威度判定の上昇に伴い、目の前の個体を優先排除——」
5体のアヴァンギャルド君の照準が、完全に先生たちから逸れ、狭い通路に残されたレイカとタチカの二人へと集中的に固定された
ズドォォォォンッ!!
赤坂レイカの身体が、爆発的な衝撃波とともに掻き消えた
ネクストライ創設者・赤坂レイカの神秘——【絶対加速】
運動の基準点を再定義し、空間の慣性を強制的に書き換える異次元の機動
一瞬で最前線のアヴァンギャルド君の頭上へと跳躍したレイカは、ゼロモーメントポイントの銃口をその光学センサー基部へと叩きつけた
「死角から目を離すなと言ったはずだぜ!!」
バババババンッ!!
神秘を付与された9mm弾が超高圧のエネルギーを伴って装甲を貫通、内部回路を焼き切る! 1体目のアヴァンギャルド君が火花を散らして大きく体勢を崩した
「行かせませんよ……っ! ミレニアムの領域で、好き勝手させないのがセミナーの仕事ですからねっ!!」
タチカもまた、脱兎のごとき速度で反対側の死角へと滑り込んだ
Q-TECをフルオートモードに切り替え、腰だめに構えて引き金を絞り切る
ドドドドドドドドドドンッ!!
ハンドガンとは思えない圧倒的な火線が伸び、2体目のアヴァンギャルド君の関節駆動部を的確に削り取っていく
「今です、先生! 走ってっ!!」
「行くよ、みんなっ!!」
レイカとタチカが描いた圧倒的な足止め陣形の中を、先生、ゲーム開発部、ジュカ、ヒバナの5人が一気に駆け抜けていく。アヴァンギャルド君たちの巨体が阻み、反撃の銃弾が二人へ集中する中、一行はついにタワー内部へと続く奥のゲートへと姿を消した
——残されたのは、広大なアトリウム区画
そして、2人の3年生と、5体のアヴァンギャルド君
「……ふぅ」
レイカはコンクリートの床に着地し、ゼロモーメントポイントのマガジンを素早くチェンジした。ターコイズ色の毛先を汗で濡らしながら、不敵な笑みを絶やさない
「よし……これで邪魔者は居なくなったな」
「ええ……! 心置きなく、大暴れできますね!」
タチカもまた、Q-TECの熱を持った砲身を軽く振り、普段のお堅い副会長の仮面を完全に脱ぎ捨てた
普段は組織のリーダーとして、現場総責任者として、あるいはセミナーの副会長として、書類仕事や根回し、後輩たちの育成と指導に追われている3年生たち
だが、彼女たちがなぜ「上」に立つことができているのか?
それは単に手続きが得意だからでも、原作知識があるからでもない
いざという時、後輩や仲間を守るための何かを有しているからに他ならない
『——ターゲット再設定。赤坂レイカ、八金タチカ。排除レベルを極大に引き上げます——』
頭部を損傷した1体を含む、5体のアヴァンギャルド君が一斉に二人を取り囲んだ
アサルトライフル、大型ミサイルポッド、重粒子砲のチャージ音が空間に共鳴する
「タチカ! 左右から挟撃だ!」
「了解っすレイカさん! 」
ドバババババババババッ!!!!
5体の一斉射撃が解き放たれ、アトリウム全体が激しい爆煙と火柱に包まれた
しかし——その爆炎を切り裂いて躍り出たのは、光速の残像を引く赤坂レイカだった
【絶対加速】の神秘が全開で駆動する
周囲の景色がスローモーションのように停滞し、飛来する弾丸が止まって見える。レイカはその弾道の隙間を滑らかなステップでかわし、1体目のアヴァンギャルド君の胸部へと肉薄した
「食らえっ!」
バババッ!!
ゼロモーメントポイントから放たれた9mm弾が、空中であり得ない角度で屈曲。アヴァンギャルド君の装甲の僅かな隙間から内部へと侵入し、メインジェネレーターを直接破壊した!
ズドォォォォンッ!!
1体目のアヴァンギャルド君が激しい内部爆発を起こし、膝から崩れ落ちて機能停止する
「1体目撃破っ!!」
「次は私がいきますよっ!!」
崩れ去る1体目の巨体を踏み台にして、空中に跳躍したのは八金タチカだ
彼女は空中でQ-TECのフルオート射撃を全開で解き放つ
ドドドドドドドドドドンッ!!
寸分の狂いもない精密射撃。2体目のアヴァンギャルド君の両眼センサーと、肩部のミサイルポッドの誘爆用信管をピンポイントで撃ち抜く
チュドチィィィンッ!!
内部誘爆を起こした2体目が猛烈な炎を上げて吹き飛んだ
「2体目完了っ! どうですかレイカさん、私のフィジカルも伊達じゃないでしょう!?」
「上出来だ、タチカ! だが喜ぶのは早いぞ、残り3体が来る!」
残された3体のアヴァンギャルド君が、仲間が短時間で解体された事実を検知し、防衛アルゴリズムを急変させた。重装甲を前面に押し出し、互いに死角を補い合う密着陣形へと移行する
「チッ……! 陣形を組んできやがったか!」
「伊達にミレニアムの自動防衛AIじゃないですね……! 物理的なゴリ押しが効きにくくなりました!」
3体のアヴァンギャルド君から放たれる高密度の弾幕とミサイルの群れが、レイカとタチカを追い詰めていく
レイカの【絶対加速】は強力だが、身体と脳への負荷が凄まじく、長時間の連続使用は肉体を自壊させる危険を伴う。タチカのQ-TECも弾薬消費が激しく、残弾インジケーターが急速に減少していた
だが——二人の表情に、諦めの色は一切なかった。
「ハッ……面白い。組織のトップってのはな、こういう無理難題を笑って突っ切るためにいるんだよ!」
レイカはゼロモーメントポイントのマガジンを最後の予備へと叩き込み、鋭い眼光で前方に立ちふさがる3体の巨体を見据えた
「そうですね……っ! 後輩たちに『やっぱり3年生の先輩たちは凄かった』って思われたいですからね! 私だって、セミナー副会長としての意地がありますっ!!」
タチカもまた、Q-TECの予備マガジンを装填し、腰を低く落として戦闘態勢を再構築する
崩れ落ちるガレキの粉塵の中、二人の3年生は互いに背中を預け合い、静かに息を整えた
前方には、いまだ健在な3体のアヴァンギャルド君
赤く光る光学センサーが、二人を逃さぬとばかりに殺気を放っている
「行くぞ、タチカ! 残り3体——一気にお片付けだ!!」
「了解っす、レイカさん! 上を支えるものの本気、見せてやりましょう——っ!!」
二人の咆哮と同時に、ゼロモーメントポイントとQ-TECの怒涛の火線が、残る3体の異形の巨体へと向けて再び解き放たれた