ゴオオオッ……!
白き貨物機関車は、幾重にも重なる地下の暗黒トンネルを激しく揺れながら疾走していた。背後から迫るカイザーの追撃車両からは、先ほどの混乱を立て直したのか、なおも執拗な銃撃や妨害が浴びせられている
だが、事態はもはや単純な追いつ追われつのチェイスの域を超えようとしていた
「リーダー、後方から何か異質な反応が来ますっす……! 音が……重低音が、あきらかにおかしいっすよ!」
貨物の上から、LMG『ラッシュTHEネーム』を抱えて警戒にあたっていた霧状ヘルタが、冷や汗を流しながら叫んだ
その警告の直後、轟音を立てて並走するカイザーの列車群の中央から、ガキン、ギギギ……と重苦しい金属音を響かせながら、ひときわ巨大な影がせり出してきた
「……あれは!」
前方を見据えていた赤坂レイカが何事かと思い後ろを振りむくと……
そこに姿を現したのは、かつてアビドス砂漠地帯の騒乱や対策委員会の戦いでその名を轟かせた巨大自走兵器『ゴリアテ』のシルエットだった
しかし、今回現れたそれは、広大な砂漠を制圧するための巨大な初期モデルとは異なり、地下の狭いトンネル網や鉄道規格に合わせて大幅な簡略化と軽量化が施された『車載モデル』であった
それでもなお、圧倒的な装甲厚と、搭載された大口径砲身が放つ威圧感は健在だ。ゴリアテの車載簡易型は、走行するプラットフォームの上でありながら、照準を白き貨物機関車へと確実に固定していた
「厄介な代物を出してきやがったな……! だが、ここで足を止めるわけにはいかない!」
レイカは愛銃『ゼロモーメントポイント』のグリップを強く握り締め、背後に迫る小型版ゴリアテへの迎撃態勢を取る。ヘルタもまた、「めんどくさい相手っすけど、ここで叩き潰すっす!」と気負いを見せ、制圧射撃の銃口を向けた
機関車の運転席で全体を見守る先生の的確な指示のもと、レイカとヘルタは車体の隙間を縫うようにして、車載ゴリアテの装甲の継ぎ目や駆動系へと容赦ない弾丸を叩き込んでいく。金属の砕ける高音と火花が、地下の暗闇の中で激しく散り乱れた
一方その頃、機関車の最前線に陣取り、死物狂いで計器盤や旧時代の地下鉄データ端末と格闘していた天笠ネカは、冷や汗を拭うことも忘れ、丸眼鏡の奥の目を丸くしていた
(――見えた……! この路線の先に、かすかに光の差し込む空間がある……!)
ネカがデータと目の前の線路を照らし合わせた瞬間、彼女の視線の先にひとつの希望、そして新たな障害が飛び込んできた
線路の遥か前方、闇の向こう側に、外の世界へと通じる出口らしき空間が存在していたのだ
しかし、その出口の門扉やトンネルの開口部は、分厚い木の板や頑丈な古びたバリケードによって完全に塞がれていた
(どうしよう……! このまま減速すれば後続のカイザーに追いつかれるし、かといってあの障害物に突っ込めば、機関車ごと大破してしまう……!)
ほんの一瞬の躊躇……
だが、ネカの後ろではレイカとヘルタがゴリアテや追撃兵たちを相手に激しい死闘を繰り広げている。仲間たちが命を削って稼いでくれているこの時間を、無駄にするわけにはいかない
ネカの中で、執務補佐としての決意が固まった
「――迷ってる暇なんて、ありません……っ!」
ネカは足元に立てかけてあった自身の愛銃、個人携行型の対戦車火器『Shotゴー』を素早く手にとり、肩に担ぎ上げた。丸眼鏡のレンズが、前方から差し込む微かな光を反射して鋭く光る
狙うは、出口を完全に塞いでいる分厚い木製のバリケードの中心軸
「排除します……! 《Shotゴー!》、発射っ!!」
轟音とともに、ロケット弾が凄まじい軌道を描いて前方の障害物へと直撃した
直後、凄まじい爆発と衝撃波がトンネル内を駆け抜け、出口を塞いでいた頑丈な木板や鉄骨の残骸が、まるで紙屑のように粉々に吹き飛ぶ
「ネカが道をこじ開けたよ! 全員、注意して!」
先生の指示が飛ぶと同時に、ネカは機関車の出力を限界まで引き上げ、アクセルレバーをさらに前へと押し込んだ
まだ少しだけ軌道上に残っている障害物の破片や残骸を、白き貨物機関車は車体の前面で豪快に蹴散らし、粉砕しながら、眩い光の渦巻く出口へ向かって猛然と突進していく
轟音と閃光の中を、機関車が一気に駆け抜けた――
そして、激しい光の向こう側、彼らが飛び出したその先にある光景を目撃した瞬間、列車にいた全員が言葉を失った
――そこは、どこかで見覚えのある、美しく整備された鉄道のプラットフォームだった
「ここは……まさか!」
周囲の景色や駅舎の構造を確認したネカが、驚愕に目を見開く
光の正体は、地下から地上へと抜けるだけの場所ではなく、しっかりとした『駅』そのものだった
そして、その駅が管轄している自治区――それは、他ならぬ巨大科学都市・ミレニアムサイエンススクールの領域内であった
(よりによって、ミレニアムの管理下にある鉄道路線に飛び出しちゃいました……!?)
予期せぬエリアへの飛び出しに、ネカが冷や汗を流して焦りを見せる。しかし、背後からは未だにカイザーの追撃車両や小型ゴリアテの脅威が迫っており、のんびりと感嘆している暇など一秒たりとも残されていない
(ネクストライの地下とミレニアムは繋がっていたのか……くそ……他の自治区だから身動きが……いや、あいつがいるじゃないか!)
レイカは瞬時に現状を把握し、胸ポケットから端末を取り出すと、迷うことなくミレニアムの内部に潜入し、セミナーの副会長として暗躍しているあの人物へと連絡を入れた
相手は、ネクストライスクールの外部協力者であり、ミレニアム内部の事情に通じている八金タチカだ
コール音が数回鳴った後、すぐに回線が繋がる。
レイカは緊迫した声音で、現在の状況と緊急の協力を手短に要請した
「――タチカ、済まないが助けてほしい!今、列車でカイザーに追われてる!このまま行くと他の自治区に行っちまう!その前にカイザーをなんとかしたい!」
通信の向こう側で、普段の完璧で格式高い副会長としての面持ちを少し崩し、タチカはフランクかつ頼もしい声音で即座に返答した
――『分かりましたレイカさん!ユウカちゃん、ノアちゃん!ハイランダーに連絡してミレニアム〇〇駅を封鎖を!詳細は後で言う!暴走列車がそこで停車する様に!と言うことで、レイカさん……ミレニアム〇〇駅まで耐えてくださいっす!』
タチカの力強い了承の返事を聞き届けると、レイカは「頼んだぞ」と短く告げて通信を切断した
外部との連携の目処が立ったその矢先、状況はさらに激しさを増す
先ほどまで単線だった地下区間から、地上に近づいたことで線路が複線へと切り替わった
その広がりを利用するかのように、並走してきたカイザーの追撃列車が、ついに白き貨物機関車の真横へとピタリと横付けしてきたのだ
「ちっ、横から並びやがったか……!」
複線区間を利用した、列車同士の直接的な並走戦闘
カイザーの輸送車両の窓や扉が荒々しく開き、そこから身を乗り出した武装したカイザー兵たちが、機関車めがけて直接乗り込もうと殺気を滾らせて飛び移ってくる
「ふざけた真似を……! ここに上がり込んでくる連中は、ここで全員叩き落とすっす!」
ヘルタがラッシュTHEネームを構え直し、横付けされたカイザーの列車から這い上がってくる敵兵へと銃口を向ける
レイカもまた、ゼロモーメントポイントを構え、神秘『絶対加速』の微細な制御で自らの運動性を極限まで高めながら、次々と乗り込んでくるカイザー兵たちの急所を正確に撃ち抜いていく
背後からは先ほどの小型版ゴリアテからの砲撃の余波が轟き、横からは容赦ない白兵戦と銃撃戦の嵐が吹き荒れる
ミレニアムの自治区へと飛び出したレイカたちを乗せた白き貨物機関車は終点へと差し掛かっていた……