ネクストライスクールの生徒会室
外の喧騒が嘘のように穏やかな空気が流れるその場所で、生徒会長の西条ハレカ、生徒会補佐の街肩カリネ、そして生徒会執務補佐の立火ジュカの三人は、淹れたての紅茶の香りに包まれながら、極めて呑気にお茶の時間を楽しんでいた
上品にカップをソーサーに戻しながら、カリネがふと窓の外の青空を見上げて首をかしげる
「それにしても、リーダーとヘルタとネカは何処に行ってるんですか?こっちに仕事を置いたままだし……」
カリネのその問いに、ハレカは優雅に微笑みながら、紅茶を含んだ口元をカップで軽く隠して答えた
「レイカ君には、少し離れた廃校舎の周辺調査を頼んでいます。レイカ君達の事ですし、またすぐに何か面白いお土産でも持って帰ってくる頃ですね」
ハレカがそう言ってふわりと微笑んだ、その直後だった
ガチャンッ!! と生徒会室の扉が物凄い勢いで乱暴に開け放たれた
「――は、大変やっ……! ハレカ、一刻も早くテレビをつけるんや!」
息を完全に切らせ、金髪のツインテールを大きく揺らしながら飛び込んできたのは佐藤アリカだった。そのすぐ後ろから、高橋ミナサもまた、何か信じられないものを見たというようなアンニュイかつ焦った表情で駆け込んでくる
「アリカ? 一体どうしたのですか、そんなに慌てて……」
「いいから、言葉より映像を見る方が早いねん! ほら、早く!」
アリカに急かされるまま、ジュカが備え付けのリモコンを手に取り、壁際の大型モニターの電源を入れた
チャンネルが合わさり、画面に映し出されたのは、キヴォトス全域に放送されている超有名ニュースチャンネル『クロノスch』のライブ中継映像だった
画面の上空にはクロノススクールの報道ヘリが旋回しており、お馴染みのレポーターである川流シノンが、興奮気味にマイクを握って実況中継を繰り広げている
――『さあ、皆様ご覧ください! 現在、ミレニアム自治区の近郊を走る鉄道線路上にて、突如として謎の暴走列車とカイザーコーポレーションの武装車両群による大規模なトレインチェイスが展開されています! 一体何が起きているのでしょうか、この凄まじい火力戦――!』
シノンの甲高い声とともに映し出された映像を見た瞬間、生徒会室の空気が完全に凍りついた
画面に映っていたのは、他でもない――白い貨物機関車の屋根の上で、次々と飛び乗ってくるカイザー兵たちを鮮やかなCQCと銃撃で叩き伏せている赤坂レイカと霧状ヘルタの姿だった……
さらに、運転席の窓からは愛用の対戦車火器『Shotゴー』を手にした天笠ネカの姿が確認でき、車内の最前線には、あの冷静沈着な「先生」が陣取って全体の的確な指揮を執っているではないか
「っ……!?」
ハレカは驚愕のあまり、手元に持っていたティーカップを支える指の力を完全に失った
ガシャアァン……! と、上質なカップが床に盛大に落ちて砕け散り、紅い紅茶が絨毯に広く染み広がっていく。しかし、ハレカはその音すら耳に入らない様子で、目を見開いたままモニターに釘付けになっていた
クロノスのヘリが捉えた映像の中では、事態がさらに凄まじい展開を見せようとしていた
並走するカイザーの列車から、ひときわ屈強なカイザー兵の幹部クラスが雄叫びを上げながらレイカめがけて直接飛びかかってきたのだ
「――邪魔だ!」
レイカは一歩も引かず、その場で身を翻してカイザー兵と真っ向から取っ組み合いの殴り合いを展開する。互いの拳が激しく交錯する……
その圧倒的な力と技の応酬の勢い余って、二人はそのまま、複線ですれ違ったばかりの一般通勤列車の窓ガラスを盛大に突き破り、乗客たちの悲鳴が響く車内へと激しくもつれ込んでいった
「り、リーダー……っ!?」
カリネが思わず椅子から立ち上がり、モニターに向かって叫ぶ
だか、そんな心配を他所にレイカは左フックを決めると怯んだ相手に容赦なく銃弾を叩き込み、容赦なくまた殴り合う……
そんな中ヘルタも、貨物列車の上に乗ってこようとするカイザー兵達に『ラッシュTHEネーム』の銃口を向け、圧倒的な連射の弾幕で次々と退けていく。ネカもまた、運転席の窓からカイザーの列車めがけて牽制の砲撃を浴びせ、完全に敵の動きを縛り上げていた
そして、通勤列車の荒れ狂う車内での激しい殴り合いの末、レイカは相手の鳩尾に強烈な一撃を叩き込んで完全に沈黙させると、割れた窓ガラスの残骸を踏み台にして、一瞬のスキを突いて再び外を走る白い貨物機関車の屋根へと見事に飛び戻ってみせた
――『な、なんと危険なスタント行為でしょうか! 暴走する列車の間を飛び交う驚異的な身体能力です!』
シノンの実況がさらにボルテージを上げていく
だが、カイザー側もこれで引き下がるわけにはいかなかった
上空の異変に気づいたのか、カイザーの戦術ヘリが2機、突如として雲間から姿を現し、機関車に乗るレイカたちめがけて一斉に機銃の照準を合わせたのだ
「――しつこい連中だな!」
レイカは冷ややかな笑みを浮かべ、ホルスターから愛銃『ゼロモーメントポイント』を瞬時に引き抜いた
狙いは上空を旋回する戦術ヘリのコクピットとメインローター
神秘『絶対加速』の出力を引き上げ、極限まで研ぎ澄まされた集中力のもと、レイカは容赦なく引き金を絞った
パンッ! パンッ! パンッ! パンッ!
連続して放たれた4発の9mm弾
そのうちの2発は正確にヘリの装甲を捉えて貫通したが、残りの2発は激しい横風とヘリの急機動によってわずかに軌道が逸れ、そのまま空の彼方へと飛んでいくように見えた
――だが、レイカの放つ弾丸は、ただの直進弾ではない
空間基準の外部書き換えと運動体の再定義による『弾道操作』
空中で不自然に描いた軌道修正の弧は、まるで意思を持つ生き物のように急激に曲がりくねり、逃げようとした戦術ヘリのローターと機体の結合部分へと、一糸乱れず完璧に直撃したのである
キイイイィィン……! ガガガガッ……!
結合部分を致命的に破壊されたカイザーの戦術ヘリは、瞬時に揚力を失って制御不能に陥る。プロペラから黒煙を噴き上げながら、フラフラと空中でバランスを崩し、そのまま遠方の荒野へと真っ逆様に墜落していった
ドオオオッ……! と、遠くで盛大な爆発音が轟く
『な、何ということでしょう!!弾丸が曲ったァァァァ!!!そんな事が可能なのでしょうか!!』
その信じられない光景の一部始終を、クロノスchの中継カメラは余すところなくキヴォトス全域へと電波に乗せて流し込んでいた
生徒会室に訪れた、数秒間の静寂
アリカは口をあんぐりと開けたまま固まり、ミナサは「……やっちゃったね」と小さく呟く
ジュカは冷や汗を流しながら「あれは……流石に報告書が大変なことになりますね……」と頭を抱えた
カリネは自分の額に手を当て、深い溜息を吐きながらハレカのほうを見る
「ハレカ先輩……あの、リーダー達……完全にやらかしちゃってますけど……これ、どうするんですか……?」
ハレカは砕けたティーカップの破片が散らばる足元からゆっくりと視線を上げ、信じられないものを見たあとの虚ろな目から、いつもの冷静で凛とした政治家らしい瞳へと戻っていった
彼女は一言もしゃべらないまま、壁際の大型モニターへと歩み寄り、リモコンの電源ボタンをそっと押した
パチン、と音を立てて、大暴れするレイカの姿が映っていた画面の光がスッと消え去る
ハレカは静かに息を整えると、生徒会室のメンバーを見回し、まるで何事もなかったかのように穏やか、かつ有無を言わせぬ凛とした声音で言い放った
「……大丈夫です。あれだけの派手なパフォーマンスをしてくれたんだもの、きっと本人たちもそれなりの言い分があるはずです。今日の一件に関する始末書や対外的な言い訳の準備は、私の方で綺麗にまとめておきます」
ハレカはそこで一度言葉を切り、背筋をスッと伸ばして微笑んだ
「――レイカ君達が無事に学園へ帰ってきたら、たっぷりと事情を聞かせてもらいましょう。さて、いつまでもボーッとしていないで仕事に戻りましょう。私たちのやるべきことは他にもたくさんありますから」
ハレカはそれ以上何も語らず、優雅な足取りで自身のデスクへと戻ると、何事もなかったかのように山積みの行政書類の山へと向き合い、ペンを走らせ始めた
その圧倒的な仕事の切り替えの早さと、リーダーに対する全幅の信頼?を目の当たりにし、カリネ、ジュカ、アリカ、ミナサの四人は顔を見合わせて苦笑いを浮かべるしかなかった
こうして、ミレニアム自治区を巻き込んで派手に暴れ回ったレイカたちの姿は、キヴォトス全域に大きな衝撃と波紋を残すことになったのだった――