「――もうすぐ、タチカ副会長が指定してくれたミレニアムの管理駅に到着するはず……っ!」
白き貨物機関車の運転席から、天笠ネカが汗を拭いながら切羽詰まった声を張り上げた
ミレニアムサイエンススクールの広大な領域内を貫く鉄道路線を、幾多の銃弾と爆音を背負いながら駆け抜けてきた逃走劇も、いよいよ大詰めを迎えようとしていた。セミナーの副会長である八金タチカが手配してくれた封鎖駅は、もう目の前である
しかし、その希望の終点へとたどり着く直前になって、追撃の手を緩めないカイザーコーポレーション側の攻勢は、これまで以上に凄まじいものへと変貌していた
先ほどの戦闘の激化により、機関車そのものに大きな負荷がかかったのだ
「ネカ、前方の計器はどうなってるっすか……!? 機関車のエンジン音、あきらかにおかしくなってるっすよ!」
車体の端にしがみつきながら、霧状ヘルタが叫ぶように問いかける
ネカが必死の形相で青く光るコンソールパネルを確認すると、そこには絶望的な数値が映し出されていた
「……だめです! メインの燃料系統が敵の攻撃で損傷……! もう燃料は完全に枯渇しました……! 現在の駆動は非常用のバッテリー出力のみ……これ以上はスピードを出せません……っ!」
ネカの報告を聞いた瞬間、白き貨物機関車はググッと露骨にその速度を落とし始めた
重苦しい鉄の巨体が徐々に減速を強いられていく。その失速を見逃すカイザー側ではない。背後から追走し、並走体制を維持していた追加のカイザー武装列車が、一気に距離を詰めてきたのだ
「ちっ……! 動力が落ちた隙を突いてきやがったか……!」
赤坂レイカは鋭い眼光を走らせ、愛銃『ゼロモーメントポイント』のグリップを握り締めた。しかし、その銃口の先で虚しく乾いた金属音が響く
――カチリ
「……チッ!弾切れか!」
長きにわたる激戦の果てに、レイカの愛銃に込められていた9mm弾は完全に底をついていた
隣でラッシュTHEネームを抱えていたヘルタも、引き金を引いた瞬間に「うそっ、こっちも弾が切れたっす……!」と青ざめる
ネカの持つ対戦車火器『Shotゴー』も、カイザーの列車への牽制射撃で撃ち尽くしており、すでにただの重い筒と化していた
絶望的な物資の欠乏。しかし、目の前にはなおも殺気を漲らせたカイザー兵たちが、新たな列車から次々と飛び移ろうと迫ってきている
だが、そんな中レイカは一人のカイザー兵に目をつけると……
「なら、鹵獲するまで!」
レイカは怯むどころか、神秘『絶対加速』の出力を一瞬で跳ね上げ、常人の目を置き去りにする超高速の踏み込みで、間近に迫ってきたカイザー兵の懐へと飛び込んだ
驚愕する兵士の腕をひねり上げ、その手から無理やりアサルトライフル⸺『HK433』を引ったくるように奪い取る
「使わせてもらうぜ……!」
レイカは奪い取ったばかりのHK433のストックを肩に当て、迷うことなく引き金を絞った
ダダダダダッ……! と乾いた銃声が響き渡り、機関車へ這い上がろうとしていたカイザー兵たちを次々と的確な射撃で押し返していく
「負けてられないっすね……! そっちがその気なら、こっちも同じ手で行くっす!」
ヘルタも負けじと、隣のカイザー兵めがけて跳躍し、その手からブルパップ式アサルトライフル『F2000』を鮮やかに強奪した
「よっと! あまり見たことの無いし、自分のものとは勝手が違うっすけど……暴れるには十分っす!」
ヘルタは奪ったF2000を豪快に連射し、圧倒的な制圧射撃の弾幕を浴びせて、機関車への侵入を試みる敵の群れを次々と撃退していく
持っている銃の弾が切れたら、奪って撃つ……
文字通り血みどろの、しかし一歩も引けない泥臭い攻防戦の末、白き貨物機関車はついに、タチカが手配を整えていたミレニアムの巨大なプラットフォーム――指定された駅のホームへと滑り込んだ
「――着いた……! ここが、指定の駅です……っ!」
ネカが最後の力を振り絞ってブレーキレバーを引く
ガゴゴゴゴッ……! と激しい摩擦音を立てながら、満身創痍の白き貨物機関車はついにホームの定位置で完全に停止した
「やったっすか……!?」
ヘルタが息を弾ませながらその場に膝をつきかける
だが、運命はまだ彼らに安息を許してはくれなかった
停止した機関車の真横、並走していたカイザーの武装列車の屋根の上で、追い詰められたカイザーの幹部が狂気じみた笑みを浮かべ、個人携行式ロケットランチャーを肩に担ぎ上げていたのだ
「ここまで引っかき回しやがって……! 一緒に吹き飛べええっ!!」
「――っ危ない……!!」
レイカが反射的に叫び、近くにいたヘルタを突き飛ばして身構えたが、時すでに遅かった
ズドンッ!! と、至近距離から放たれたロケット弾が、貨物列車の先頭部分とプラットフォームの接続部を完全に直撃した
凄まじい爆風と熱量が周囲を覆い尽くし、発生した強烈な衝撃波が、機関車の屋根の上で踏み留まっていたレイカとヘルタの身体を容赦なく吹き飛ばす
「きゃああっ……!」
「ぐっ……!」
二人の身体は宙を舞い、そのまま硬質なアスファルトとタイルが敷き詰められた駅のホームへと激しく叩きつけられた
「レイカ先輩っ! ヘルタ先輩っ……!!」
運転席から決死の思いで飛び出してきたネカが、悲鳴のような声を上げながら真っ先に二人のもとへと駆け寄る
そして、その後方から、機関車の最前線で状況を見守り続けていた「先生」もまた、鋭い足取りでホームへと降り立ち、すぐさまレイカとヘルタの無事を確認するために駆け寄ってきた
「二人とも、大丈夫!?」
先生が屈み込み、レイカの肩を支えながら声をかける
レイカは荒い息を整えながら、倒れ込んだ身体を起こし、苦笑いを浮かべた
「……あぁ、生憎と頑丈さだけが取り柄なんでね。これくらいの衝撃じゃ、まだ骨の一本も折れちゃいないさ……っ」
そう言って立ち上がろうとしたレイカたちの周囲を、ガシャアァン……! と重苦しい金属音が取り囲んだ
爆破の隙を突き、カイザーの残りの兵士たちが、銃口を向けながら一斉にレイカたちや先生を包囲するように詰め寄ってきたのだ
「ハハハ……! 逃げ場はなくなったぞ! おとなしく捕まりな……!」
カイザー兵のリーダー格が勝ち誇ったように銃を突きつける
絶体絶命の包囲網
しかし、その不敵な笑みは、レイカのとある発言で覆る……
「おいおい……あんたら……忘れたのか?ここらネクストライの自治区じゃない……ましては、地下じゃない……」
――ゴオオオッ……! ズウゥン……!
突如として、駅の全方向から地響きのような圧倒的なエンジン音と、無数のパトライトの赤く冷たい光が押し寄せてきた
上空を旋回する強力なサーチライトの群れが、カイザーの兵士たちを容赦なく照らし出す
「なっ……なんだ……!?」
カイザー兵たちが驚愕して周囲を見回すと、そこにはミレニアムサイエンススクールの治安を維持する精鋭――ミレニアム治安部の完全武装した部隊が、隙間なく幾重にも展開していたのだ
装甲車両がホームの退路を完全に塞ぎ、無数の治安部員たちが一斉に冷徹な銃口をカイザーの包囲網へと向けた
通信機を通じて、治安部からの冷徹で威厳に満ちたアナウンスが響き渡る
『――こちらミレニアム治安部。貴らの一連の暴走行為、およびミレニアム管理下の鉄道インフラに対する不法侵入と破壊工作を確認した。これより貴らの一切の抵抗を許可しない。おとなしく武器を捨て、その場に跪きなさい』
「くそっ……! まさか、ミレニアムの治安部がここまで素早く動くなんて……っ!」
追い詰められたカイザー兵たちは、もはや逃げ場がないことを悟り、絶望的な表情を浮かべながら次々と持っていた武器を取り落とした
チャリン、チャリンと、銃器が冷たいホームの床に転がる音があちこちで響く
「後でタチカにはお礼を言っておかねぇとな……」
こうして、ミレニアム自治区の鉄道を舞台に繰り広げられた大暴走事件は、治安部による完全包囲と一網打尽という形で、劇的な終結を迎えることになったのだった