ミレニアムサイエンススクールの管理駅における治安部を巻き込んだ一大騒動から、数時間後
ネクストライスクールへと戻ってきた赤坂レイカ、霧状ヘルタと天笠ネカ、そして先生の4人は、どこか重苦しい足取りで生徒会室の扉の前に立っていた
「……はあ。流石に、あの規模で暴れ回ってテレビにも生中継されたとなると、ハレカ先輩の怒りもマックスなんじゃないっすかね……」
ヘルタが冷や汗を拭いながら、おそるおそるドアノブに手をかける
ネカも「ぼ、僕たちの事前準備の甘さもありましたからね……。怒られる覚悟はしておいた方がよさそうです……」と青い顔でうなずいていた
レイカはふっと息を吐き出し、「まあ、起ちちまったもんは仕方ねぇさ。行くぞ」と覚悟を決め、ガチャリと生徒会室の扉を開け放った
しかし、そこに待ち受けていたのは、怒鳴り声を上げるハレカの姿ではなかった
――そこにあったのは、普段以上の「圧倒的な静けさと、冷徹なまでの落ち着きを纏った」西条ハレカの姿だった
上品に足を組み、デスクの上で両手を組んだまま、ハレカは冷ややかな笑みを浮かべながら帰ってきた四人を見据えている。そのあまりの威圧感といつもと違う尋常ではない雰囲気に、レイカたち一堂は思わず一瞬でビビり上がり、その場でピタリと硬直してしまった
「……おかえりなさい、レイカ君、ヘルタさん、ネカさん。そして先生も、お疲れ様です」
ハレカの上品でありながらも、一言一言に重みのある声が室内に響く
ハレカはゆっくりと立ち上がり、冷ややかな視線をレイカに向けたまま、静かに歩み寄ってきた
「それで? ミレニアムの鉄道をジャックし、カイザーの武装勢力と大規模なチェイスを繰り広げ、あげくの果てにクロノスchの全国生中継で華麗なスタントアクションと弾道操作を披露してくれたそうですね……。地下で、いったい何があったのか、最初から包み隠さず詳しく教えてくださるかしら?」
ハレカのその穏やかながらも一切笑っていない眼光に気圧され、レイカは思わず目を逸らしそうになった
しかし、その背後から先生がそっと歩み寄り、レイカの肩にポンと手を置いた。その温かな重みと無言の促しに背中を押されるように、レイカは小さく息を吐き、観念したように頭をかいた
「……わかったよ。包み隠さず全部話すさ」
レイカは、廃校舎の周辺調査から始まり、地下への転落、地下施設での発見、カイザーコーポレーションの陰謀、そしてミレニアムの鉄道を用いた決死の逃走劇と物資の枯渇、さらにはタチカの協力による駅での一網打尽まで、起きたことのすべてを詳細に語り尽くした
すべてを聞き終えたハレカは、しばらく腕を組んで考え込んでいたが、やがてふっと息をつき、いつもの冷静な政治家の表情に戻ると、テキパキとした口調で指示を飛ばした
「なるほど、事情はよく分かりました。……それでは、ミレニアム側で回収したあの白い貨物列車、およびその積み荷、そして機関車の残骸ですが……そのまま放置せず、すぐさま『アーティファクト研究部』に回してください。オーパーツの解析に大喜びで飛びつくはずです」
――え? 怒られないのか?
レイカ、ヘルタ、ネカの三人は顔を見合わせ、拍子抜けしたようにぽかんと口を開けた。もっとこう、こってりとしぼられるかと思っていただけに、あまりにも実務的な指示がいきなり飛んできたことに頭が追いつかない
そんな三人の様子に気づいたのか、ハレカはふわりと優雅に微笑み、壁際の大型モニターのリモコンを手に取った
「何をそんなに驚いているのですか? 怒られると思っていたのですか?」
ハレカはそう言って電源ボタンを押す
パッと明かりが灯ったモニターに映し出されたのは、キヴォトス全域に流れる大手ニュースのダイジェスト映像だった
そこでは、アナウンサーがこう高らかに報じていた
――『……なお、今回のミレニアム自治区近郊における大規模な鉄道衝突およびカイザー社の暴走事件ですが、ミレニアム治安部の迅速な介入により事態は終結しました。現地での調査の結果、事件の発端はカイザーコーポレーション側が新興の有力学園である「ネクストライスクール」の機密情報を不正に盗み出そうとしたことによる侵略行為であり、ネクストライの生徒たちは学園の尊厳と安全を守るため、やむを得ず迎撃にあたったことが判明しております……』
さらに画面には、レイカたちが前線の貨物列車の上でカイザー兵を圧倒していた戦闘シーンの映像が切り抜かれ、「極めて高い戦闘能力と訓練された防衛力」「不当な侵略に屈しない気高き生徒たち」といった賛辞のナレーションとともに大々的に取り上げられていた
ハレカは優雅に紅茶の入ったカップを手に取りながら説明を続ける
「今回の件で、一部の者たちの間でささやかれていた『ネクストライとは何処の馬の骨とも知れない謎の武装集団ではないか』という悪質な噂や懸念は、完全に払拭されました。結果として、カイザーという共通の悪を相手に毅然と立ち向かい、これを退けた『第4の学園』としての確固たる認知と、対外的な高い評価を得ることに成功したのです」
ハレカはそこまで言うと、少しだけ目を細めてレイカたちを真っ直ぐに見据えた
「学園の政治的・対外的な立場という観点から見れば、今回の結果はむしろ大成功と言っても過言ではありません。だからこそ、あなたたちを咎める必要はないのです……が」
ハレカのその言葉の直後、室内の空気が再びキュッと引き締まった
「――次からは、あんな無茶な物資枯渇や弾切れを起こす前に、しっかりと事前の準備と連絡、そしてバックアップ体制を整えてから行動しなさい。今回は運良くタチカさんの手配や治安部の介入が間に合いましたが、一歩間違えれば笑えない事態になっていたのですからね。……いいですね?」
「……はい、肝に銘じておきます」
レイカたちはすっかり頭を下げ、揃って素直にうなずくしかなかった。ハレカの的確すぎる正論と政治的判断の前には、一切の言い訳が通用しないことを彼らはよく知っていたからだ
やがて、説教も終わり、レイカたちがホッと息をつきながら生徒会室の出口へと向かおうとした、その時だった
「あ、そうそう、レイカ君」
背後から、ハレカの落ち着いた声が呼び止める。
「なんだ、ハレカ?」
レイカが振り返ると、ハレカはふと優しげな笑みを浮かべてこう告げた
「さっき、青花ヒバナさんがあなたを探していましたよ?」
「え?ヒバナが?」
レイカが疑問に思っていると……
「なんでも、『手持ちで扱えるサイズだけど、圧倒的な火力を叩き出す特殊な剣』を作ったからテストしたいと言ってましたね」
その言葉を聞いた瞬間、レイカの背筋に冷たいものが走る……
「ぁぁぁぁ!!??そういや忘れてたァァァ!!??」
「リーダー!!ととととにかく急いでいきましょう!!」
「えっ!?ちょ、レイカ先輩とヘルタ先輩!?」
慌てて生徒会室から飛び出していくレイカたちのドタバタした背中を、ハレカは呆れたような、しかしどこか温かい眼差しで見送りながら、再び手元の行政書類へと視線を戻した
こうして、ミレニアムを巻き込んだ大騒動の後処理は、ネクストライスクールにとって新たな対外的評価と絆をもたらし、いつも通りの、しかし少しだけ賑やかな日常へと戻っていくのだった――