Vol.1 トリニティからの招待状
ネクストライスクールの生徒会室は、いつものように慌ただしい喧騒と、微かに響く電子機器の駆動音に包まれていた
壁際に並ぶ端末のディスプレイには、学園各所の防衛グリッドやインフラの稼働状況を示すデータが流れている。その中心にある大きな執務デスクで、赤坂レイカは山積みの書類に目を通しながら、ため息交じりにペンを走らせていた
「……また予算の申請か。土建部の奴ら、今度は裏庭の地下拡張スペースに資材置場を新しく作りてぇとか言い出してるし……。まあ、あそこはインフラの要だから通すしかないか」
ボソリと呟きながらハンコを押そうとした時、生徒会室の扉が勢いよく開け放たれた
ガチャン、と少し荒っぽい音がして、金髪のツインテールを揺らしながら飛び込んできたのは生徒会補佐の佐藤アリカだった
「レイカ大変や! えらいこっちゃでホンマに!」
「うわ、なんだアリカ。そんな大声出して、またヒバナがやべぇ新型火器でも爆破させたのか?」
「違う違う、そうやなくて……これ見てや!」
アリカがバッと差し出してきたのは、純白の上質紙に金色の箔押しが施された、いかにも高級感漂う一封の封筒だった。キヴォトスの一般的な封筒とは一線を画す、厳かな雰囲気をまとっている
「なんだこれ。ラブレターか? アリカに恋愛泥棒でもされたからその予告状か?」
「冗談言うてる場合ちゃうわ! 差出人を見てみそ、これ……トリニティやで!」
「トリニティ?」
レイカは怪訝な顔をしながら受け取り、封筒の表と裏に目を走らせた
そこには、格式高いフォントで確かにこう記されていた
——『ティーパーティー サンクトュム派首長補佐 夢見チト』
「……夢見チト。トリニティ・総合学園の意思決定機関『ティーパーティー』、そのサンクトュム派の首長補佐からの直接の招待状……ねぇ」
レイカはスッと目を細め、腕を組んだ
『ブルーアーカイブ』という前世の記憶を持つレイカにとって、その名前と役職が持つ意味は痛いほどよく分かっていた
トリニティの内部派閥であるサンクトュム派。そしてエデン条約の締結を控え、水面下で様々な思惑がうごめいているこの時期に、ネクストライスクールの実質的な現場責任者である自分へ接触を図ってきたのだ
「確かネクストライはトリニティとの交流で正式な相互不干渉・経済友好協定を結んでいるはずだったな……」
「どうするん? 断るか? それとも、ハレカに相談してみるか?」
アリカが心配そうに眉をひそめる。彼女の播州弁混じりのトーンには、どこか警戒の色が滲んでいた。ネクストライスクールが「第四の学園」としてキヴォトスで確固たる認知を得つつあるからこそ、既存の大規模学園の権力中枢からの接触は、一歩間違えれば厄介な政治闘争に巻き込まれるリスクを孕んでいる
しかし、レイカはわずかに思案した後、首を横に振った
「いや、ハレカに相談する前に、まずは俺が話を聞いておくべきだな。ハレカなら政治的な利害や裏の意図まで徹底的に分析してくれるだろうが……向こうが直接指定してきた以上、無碍に突っぱねるのは得策じゃない。それに、トリニティがわざわざ招待状を送ったという事は何かしらのあるのは確定だしな……」
レイカは招待状をデスクの上に置き、キッと前を見据えた
「行くさ。表と裏のお茶会ってやつに、どんな用件があるのか乗ってやろうじゃないか」
ティーパーティーからの招待状をいったん引き出しの奥にしまい、今後の対応についてアリカと大まかな方針を詰めていたその時だった
卓上の内線端末がピピッと軽快な電子音を鳴らす
『あー、レイカ聞こえるー? 応答をー、オーバー』
受話器から聞こえてきたのは、どこか気怠げでありながらも、知的な好奇心に満ちた青花ヒバナの声だった。ネクストライスクールのアーティファクト研究部を率いる部長であり、最先端物理や材料工学の元研究者である彼女だ
「聞こえるぞ、ヒバナ。どうした? また研究室の機材を吹っ飛ばしたのか、それとも新しい特異点でも見つけたか」
『失礼ね、私をなんだと思っているの。爆発は計画的なものよ。……それより、今すぐ地下の第3研究棟まで来なさい。面白いもの……というか、かなり厄介で興味深い「研究結果」が出たのよ』
ヒバナの声には、普段の冷静さの裏に、珍しく興奮と警戒の色が混じっていた
「厄介で興味深い、ね……分かった。今すぐ行く」
レイカが足早に生徒会室をあとにして、学園の地下深く、厳重なセキュリティゲートをいくつもくぐった先にあるアーティファクト研究部へ足を踏み入れると、そこには相変わらずモニターの光と複雑な配線に囲まれたヒバナの姿があった
「お疲れ、レイカ。早かったわね」
白衣の裾を翻しながら、ヒバナは手元のタブレット端末をレイカに向ける。その背後では、巨大なシールドガラスの向こう側に、禍々しくも美しい青白い光を放つ円筒形の金属タンクが鎮座していた
「で、その『厄介なもの』ってのは、例の未知のオーパーツのことか?」
レイカはタンクを一瞥し、腕を組んだ
「そうよ。例の『神秘が詰まったタンク』の解析を進めていたんだけどね……ついに、その内部エネルギーの性質と、生体への影響についての具体的な研究結果が出たの」
ヒバナはメガネを押し上げ、真剣なまなざしをレイカに向けた
「結論から言うとね、あのタンクの中に充填されている『神秘』は、特定の条件下において、人間の身体能力や、個人が持つ固有の『神秘』そのものを爆発的に増幅させる効果があることが分かったわ。あなたの『絶対加速』みたいな特殊な現象に対しても、一時的に出力を何倍……いや何十倍にも跳ね上げる触媒になり得るの」
「ほう……身体能力や神秘の増幅か。それはまた、戦術的にはとんでもない代物だな」
レイカが感心したように呟くと、ヒバナは小さく首を横に振った
「単純なメリットだけならね。問題は……その『代償』よ。出力が跳ね上がる分、肉体や精神にかかる負荷が尋常じゃないの。下手な人間がそのエネルギーに触れれば、細胞レベルで崩壊するか、自身の神秘の暴走に呑み込まれて二度と元に戻らなくなる。まさに『諸刃の剣』どころか、使う人間を選ぶ呪いの装備ね」
ヒバナの言葉に、レイカは険しい表情を浮かべた
キヴォトスにおいて「神秘」は生徒たちの存在基盤そのものであり、それを人工的に、しかも制御しきれない暴力的な方法で増幅させる技術など、外部に知られればどんな狂乱を生むか分かったものではない。カイザーコーポレーションのような連中にでも渡れば、それこそキヴォトス全域を揺るがす大惨事になりかねない代物だ
「……なるほどな。強力すぎるがゆえに、絶対に表に出しちゃいけない技術ってわけだ」
「そういうこと。だから、このタンクに関するデータや解析結果、そして実物の存在については、学園の極秘事項……完全な『秘匿対象』として処理すべきだわ。下手に外部の耳に入ったら、それこそカイザーみたいな厄介な連中が群れをなして奪い合いに来るでしょうね」
ヒバナの冷静な進言に、レイカは深くうなずいた
「異議なしだ。この件は、俺とヒバナ、そして必要最小限のメンバーだけでガチガチに秘匿する。タンク自体の安全管理と封印プロトコルも、より一層厳重にしておいてくれ」
「了解。任せてちょうだい。研究者としての知的好奇心はそそられるけれど、私の専門はこれを暴走させて世界を滅ぼすことじゃないからね」
ヒバナはフッと不敵に笑うと、パチンと指を鳴らしてデータの暗号化処理を実行した
トリニティからの不穏な招待状
そして、学園の深部に隠された、あまりにも危険なオーパーツの神秘
ネクストライスクールがキヴォトスの表舞台へと歩みを進めれば進めるほど、その足元には巨大な影がつきまとう
「表のティーパーティー」と「裏のオーパーツ」
二つの出来事が奇しくも同じ時期に交差したことで、レイカは、これから自分が踏み出そうとしている世界が、単なる「楽しい学園生活のやり直し」などではなく、キヴォトスの根幹を揺るがす大きなうねりの一部であることを改めて痛感するのだった
「さて……まずは、あの夢見チトって野郎の待つ『お茶会』とやらに顔を出して、連中の腹積もりを引っこ抜いてやるとするか」
レイカはポケットに手を突っ込み、不敵な笑みを浮かべながら、生徒会室へと引き返していく
静まり返った廊下の向こうで、新たな波乱の予感が、ひそやかに息を潜めて待っていた——
おまけ
イベントストーリー ラビリンス・オブ・エクスプレスでレイカ達が乗った列車の末路
レ「この列車、とりあえずアーティファクト研究部で管理よろしく」
ヒ「わかったわ、研究材料として使わさてもらうわ」
〜数日後〜
レ「よぉ!あの貨物列車どうなっ……えっ?一両増えてね?」
ヒ「あれを研究して新しいのを作ったのよ!今度、ハイランダーに納品予定よ!」
レ「えぇ……」
研究・解析されて新しい車両を作ってハイランダーに納品される(ちなみに例の双子からもいい評価を得てる)