「おーし! 学園事業は順調か?」
「おう! 建設部改め土建部は、学内に住む生徒やら住人が一気に増えたから、俺らが総出で家を建てまくってるぜ! 現場のやりがいが凄まじいわ!」
「アーティファクト研究部も順調に成果を上げています。地下発掘現場からのオーパーツ解析データを、新兵装や学内の省エネ設備へ順次フィードバック中ですよ」
「防衛部の方も抜かりはありません。学内の治安維持活動をはじめ、従来通り外部からの不法侵入に対する防壁の防衛ラインも完全に維持できています。元警察官のメンバーを中心に、学内警察部隊の組織化も完了しました」
「こちら工芸部も順調です! 学外からの購入者が後を絶ちません!」
俺――赤坂レイカは、活気にあふれる学内を歩き回りながら、各部門の責任者たちから進捗報告を聞いて回っていた
開校当初のドタバタが落ち着き、西条ハレカを筆頭とする生徒会組織の運営が本格的に軌道に乗ったこともあり、俺たちは学園のさらなる発展と効率化を目指して、一部の行政機能を専門の「部活動」として独立・組織化する形を取っている
俺自身は生徒会長の座をハレカに譲り、現在は生徒会役員という肩書だ。だが実際の役割は、複雑なデスクワークや外交交渉というよりも、各部活動と生徒会の橋渡しを行う相談役、あるいは学内に増え続ける住人たちの要望を聞き入れるなんでも屋のような立ち回りを行っている
現状、立ち上がった主要な部活動は実に頼もしい顔ぶれだ
土建部の部長である木村ミヤカは、元ガテン系の血と前世の知識をフル活用し、学内での暮らしを望む生徒や住人のために日々建築とインフラ整備に明け暮れている
アーティファクト研究部の青花ヒバナは、地下から発掘された未知のオーパーツを日夜解析し、そこから得た相転移技術などの革新的なデータを武器や防衛設備にフィードバックし続けている
防衛部のツヨシさんは、元自衛官としての知識に加え、前世で警察官だった転生者たちを取りまとめて学内警察部隊を編制し、内部の治安維持と外部からの威嚇を完璧にこなしていた
そして、工芸部。
ここは、ほんの10日ほど前に立ち上がったばかりの新しい部活動なのだが……
「サレ、また砂が足りなくなったのか?」
「えぇ、まさかガラス細工でここまで砂を消費するとは思ってもみませんでしたね……」
作業着の袖をまくり、汗を拭いながら困り顔で答えたのは、工芸部の部長を務める佐屋サレだった
そう、ネクストライスクールの名物となりつつある工芸品は、まさかの“ガラス細工”だ
こうなった経緯をざっくり言えば、前世で日本の伝統工芸職人だったサレが「この世界でも自分の技術を活かして日本の伝統工芸を作り、学園の資金源にしたい」と提案してきたのがきっかけだった
前世の職人たちが培ってきた技術の凄まじさを身をもって知っている俺としては、その才能を眠らせておくのはあまりにも勿体ないと感じ、すぐに部活としての設立と販売を許可したのだ
……だが、そこで想定外の事態が発生した
「うちの学園の敷地内だけじゃ、とても足りねえぞこれ……」
想像を遥かに超える勢いでガラス細工が売れてしまったのだ。切子ガラスのような繊細な美しさと、キヴォトスには珍しいオリエンタルなデザインが受けて、学外の一般市民や商人からの注文が殺到。その結果、完全な「原料不足」という壁にぶち当たっていた
「とりあえず砂に関しては海方面の工事で廃棄予定の砂を流用する形でいけるか?」
「えぇ、土建部にお願いできれば非常に助かります」
砂問題は一時的にどうにかなると見込み、土建部の方へ連絡を取ろうとした際、ポケットの中の端末が激しく震えた。アーティファクト研究部からの着信がきて、画面をスワイプして耳に当てる
『すいません、リーダー。至急、アーティファクト研究部へお越しいただけませんか?』
受話器の向こうから聞こえるヒバナの声は、どこか切迫しているようでもあり、同時に彼女特有の「大発見をした時の興奮」を帯びていた
「分かった、今行く……ミナサ、済まないが土建部に問題になってた砂の処理先を工芸部にする様に言ってくれ」
「了解! ミヤカさんたちに伝えておくね!」
元気に返事をしたミナサだったが、ふと耳を小さくピクッと動かして目を丸くした
「あれ……? レイカくん、今の通信の奥でヒバナさんがボソッと言った『これで能力の理論値が繋がる……』って声、すっごくクリアに聞こえたよ? 地下数百メートルからの通信ノイズの奥なのに……なんだろ、最近遠くの音や細かい機械音が変にはっきり聞き取れるんだよね」
「……え? マジか?」
そう言えばミナサは最近、遠くの足音や微細な環境音を異常な精度で察知することが増えていた。ただの勘の良さだと思っていたが……まさかね……
「ミナサ、その件も含めてヒバナに話してみるよ。工芸部の方、頼んだぞ!」
「うん、任せて!」
俺はミナサに後を託すと踵を返し、校舎地下深くへと通じるエレベーターへと足を速めた
校舎地下深くに位置するアーティファクト研究部
重厚な防音扉をくぐり抜けると、そこには無数のモニターと測定機器、そして白衣を着た転生者たちが忙しく動き回る異様な光景が広がっていた
「待っていましたよ、レイカ」
白衣のポケットに手を突っ込み、眼鏡の奥の瞳を怪しく光らせながらヒバナが出迎えてくれた。
「急に呼び立ててすまないわね。だが……どうしてもあなたに一番に見てほしかったの」
「いいよ、何か進展があったんだろ? 例のオーパーツの解析か?」
「ええ。それも二つ、極めて重大な成果が得られたわ。まずは……こちらの新兵装から見てもらいましょうか」
ヒバナは俺を射撃テスト用の防爆エリアへと案内した。強化ガラスの向こう側には、テスト用の頑丈なターゲット用ダミー装甲車が鎮座している
防爆射撃場の中央に立ったテスト担当の生徒の手には、これまでのレールガンとは異なる、重厚で武骨な角型キャリングハンドルとデジタル残弾カウンターを備えた特有の大型アサルトライフルが抱えられていた
「これまでの『個人型レールガン』は一撃の威力こそ絶大ですが、エネルギー充テンに時間がかかり、連射が利かないのが弱点でした。そこで、高い貫通力を持つ小口径高速弾5.7×28mm弾をそのまま使用し、オーパーツ由来の電子パルス励起システムで射出速度と連射性能を極限まで引き上げる実体火器を開発したのよ」
ヒバナが手元の端末で「射撃準備」の合図を送る
テスト用の生徒が重厚な銃身をターゲットへと向け、構えた。側面のデジタルカウンターが40の数値を青く発光させる
ヒバナが「撃ちなさい」と指示を出す
生徒が引き金を引いた瞬間――
ダダダダダダダダダダンッ!!!!
「なっ……!?」
薬莢が怒涛の勢いで排出され、銃口から激しいマズルフラッシュが吐き出された。耳を裂くような金属的な連続打撃音が射撃場内に轟く
側面のデジタル残弾カウンターが凄まじい勢いで目減りしていく。一秒間に数十発という狂暴な連射速度で放たれた無数の5.7mm実体弾が、高圧パルスの力で超音速飛翔。ターゲットの装甲車へ着弾すると、高い貫通力で一瞬で装甲を喰い破り、最後は内側から吹き飛ぶように瓦解させた
「高貫通の5.7mm弾を最大40発装填し、高周波パルスによって凄まじい初速と掃射力を叩き込む自動小銃……コードネームは『パルスライフル』。実用性と圧倒的な火力・連射性能を両立させた、我が部の自信作よ」
ヒバナは不敵に微笑む
「圧倒的な火力と取り回しの良さに特化している。弾薬の調達も容易だし、防衛部や前衛部隊の標準兵装として、週内には量産体制が整うわ」
「おいおい……マジかよ。5.7mm弾の40発装填でこの連射力と威力……! この無骨なデザインとデジタルカウンター、まさにあの『パルスライフル』じゃないか! これがあれば制火力は段違いになるぞ!」
俺は目の前の光景に目を見張った。……と、そこでふと疑問が浮かぶ。
「……なぁ、ヒバナ。今のテスト、あの子はどうやってあの猛烈な反動と電子制御をあそこまで精密にコントロールしてたんだ?」
俺の問いに、ヒバナは眼鏡のブリッジをクイと押し上げ、フッと口元を歪めた。
「しっかり見てるわね。そう……それこそが、今日あなたを呼び出した本命の理由よ」
ヒバナはメインモニターに、学園内の生徒たちの生体データおよび波形グラフをずらりと表示させた。
「結論から言うわね、レイカ。……キヴォトスで暮らす時間が長くなるにつれ、私や生徒たちの肉体にも本格的な『神秘』が開花し始めているの」
「神秘が……!?」
「ええ。例えばミナサを計測したデータを見て頂戴。彼女のヘイロー活性に伴い、聴覚器官が異常なレベルまで拡張・強化されているわ。常人には聞こえない遠方の音声や高周波ノイズ、さらには壁の向こうの微小な振動まで精密に拾い上げる……まさしく彼女の『鋭敏な感覚』という個性が、キヴォトスの神秘として顕現した例よ」
「だからさっき、電話越しにヒバナのつぶやきまで拾えてたのか……!」
「ええ。ですが、拡張されすぎた聴覚は、日常生活や戦闘時の音響兵器に対して過剰な負担……最悪の場合、脳疲労やショックを引き起こすリスクがある。だからミナサ向けには、特定の音域や雑音をフィルタリングし、必要な音情報だけを脳へ最適化して伝達する『ヒアリング・コントロールシステム』を並行して開発している最中よ」
過剰な情報量を安全に制御するための「ヒアリング・コントロールシステム」——ミナサの耳を守り、その能力を100%活かすためのデバイスというわけか
「なるほどな……ミナサのフォローまで考えてくれてたのか」
「当然よ。そして……私自身の身体データ解析でも、同じく神秘の発現が確認されているわ」
ヒバナはモニターに自身のヘイローの解析データを映し出し、その特徴を淡々と説明し始めた。
「私の神秘のコンセプトは『
「頭で考えるだけで機械に直接アクセスできるのか……。凄まじい能力だな」
「ええ。ですが……現段階では私自身の脳への負荷が大きすぎるし、他者や広域への同調精度も不安定なの。だから今、この能力を完全に制御・増幅し、周囲のメカニックへ自在にアクセスするための専用インターフェースを設計している段階よ」
ヒバナが取り出したのは、重厚なブラックと青い幾何学ラインが施されたスマートフレーム型眼鏡だった
「これが私のサポートギア……ヒアリング・コントロールシステムを組み込んだ端末よ。まだテクニック・コネクター自体は実装していないから、今回は機能のシミュレーション説明だけにするわね」
ミナサもまた、自身の能力によって拡張された聴覚に集中し、周囲の異変を探ろうとしていた。
「腕時計型の制御デバイスか……まさにヒバナにピッタリの装備だな」
「ふふ。そして……驚くのはまだ早いわ。この神秘の発現解析を進める中で分かったの。……あなたの中にも、とんでもない神秘が眠っているということがね」
ヒバナは画面を切り替え、巨大モニターに幾何学的な波形グラフを映し出した
「先日、定期健診の名目であなたから採血した血液と、ヘイローの波形データ……それを解析した結果、ハッキリしたわ。レイカ、あなたの神秘の定義……それは『運動の起点』、そして『空間内の絶対的な加速』よ」
「俺の……神秘……」
「あなたは自分の愛銃であるケルテック SUB-SDPに『ゼロモーメントポイント』と名付けたわね? ゼロから動き始める地点、力学的運動の起点……まさしくその言葉通り、あなたのヘイローは『自身の運動エネルギーの基準点を強制的に再定義し、加速させる』能力を秘めている。発動時、あなたの脳と肉体は『周囲の時間を置き去りにするほどの超高速運動』を可能にするポテンシャルを持っているわ」
「時間すら置き去りにする加速……」
自分の両手、そして腰のホルスターに収まった愛銃『ゼロモーメントポイント』を見つめる。
ミナサの『拡張された聴覚』、ヒバナの『機械遠隔操作』、そして俺の『空間内の絶対加速』
この世界に馴染むにつれ、俺たちの前世の意志や生き様、発展させた技術、そして武器に込めた想いが、キヴォトスの『神秘』として形を成し始めていたのだ
「……ただし」
ヒバナは声音を落とし、冷徹な現実を突きつけた
「今の段階でその『神秘』を全開で発動させれば、あなたの肉体と脳は過大な負荷に耐え切れず自壊するわ。ヘイローからの過剰出力で脳が焼き切れ、最悪の場合、存在そのものが
「自壊……」
「ええ。生身で音速を超えようとするようなものだからね。……だが、諦める私ではないわ」
ヒバナはニヤリと、研究者としての挑戦的な笑みを浮かべた
「私が現在設計を進めている『テクニック・コネクター』の技術と、アーティファクト研究部の持てる総力を結集して、あなたの加速能力を安全かつ完璧にコントロールするための専用システム……それを今から開発・実装するわ」
モニターの画面が切り替えられ、「レイカ専用の腕時計型デバイス」の洗練された3D CAD設計図が表示された
「余計な外付けユニットは一切不要。能力発動時の過剰なエネルギーを一時的に外部へバイパスし、肉体や脳への負荷を完璧に相殺するリミッター機能を、この端末ひとつに集約させるわ。あなたが身につけるその腕時計型デバイスの操作ひとつで、神秘の出力調整から絶対加速の発動までを一括コントロールできる設計よ。過給機(ターボチャージャー)のように、あなたの『神秘』を爆発的に増幅・制御するシステム……」
ヒバナはホワイトボードに太いマーカーでそのシステムの名称を力強く書き殴った
「その名も――『ミスティック・ナイトロシステム』」
「ミスティック・ナイトロシステム……」
「そう。あなたの愛銃『ゼロモーメントポイント』、相転移シールド、そしてその腕時計型デバイスを組み合わせることで、あなたはこのキヴォトスで唯一無二の『超高速戦闘の体現者』となる。……どうかしら、学園の創立者として、このシステムの被験者になってくれる?」
俺は提示された設計図を見つめ、静かに呼吸を整えた
3年後、このキヴォトスには嵐が吹き荒れる
連邦生徒会長の失踪、各学園の対立、そして未知の脅威。自分たちの愛する「ネクストライスクール」と500人以上の仲間たちの青春を守り抜くためには、圧倒的な「力」が必要だ
俺は腰の愛銃『ゼロモーメントポイント』のグリップに手を当て、左手首の未来のデバイスを見つめるイメージをしながら、不敵に笑ってみせた
「あぁ、望むところさ。自分がつけた銃の名前のように、俺の力を試してみてくれ」
「ふふ、最高の回答ね」
ヒバナは満足そうに頷き、周囲のアーティファクト研究部のスタッフへ一斉に指示を飛ばす
「全員、ただちに『ミスティック・ナイトロシステム』および『テクニック・コネクター』、そしてミナサの『ヒアリング・コントロールシステム』の開発・実装フェーズへ移行! レイカの身体データの詳細フィードバックを開始しなさい! 最高の決戦兵装を完成させるわよ!」
「「「オーッ!!!」」」
研究室内に歓声と機械の駆動音が響き渡る
工芸部のガラス細工が学園の経済を支え、土建部が居住地を広げ、そしてアーティファクト研究部が未知の領域へと足を踏み入れる
俺たちのネクストライスクールは、ただ生存するだけの場所ではない
どこまでも進化し、あらゆる未来を切り開く――最強の「居場所」へと、また一歩大きく加速しようとしていた
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佐藤アリカ
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