「ねぇぇぇええッ!?何でこんなところまで来ちゃったの!?トリニティのど真ん中じゃん!?色んな人に追われるしっ、服はずぶ濡れだしっ、走り回って疲れるしッ!」
「仕方ありません、あのゴールドマグロと聞いては黙って見ている訳にもいきませんし☆」
「ふふっ、あの伝説のマグロを只の観賞用として扱うだなんて……そんな事、美食に対する礼儀がなっていないというものですわ」
トリニティ自治区、交差点。背後を頻りに気にしながら叫ぶのは美食研の一人ジュンコ
そんな彼女の叫びを聞きながら運転をし、微笑むのは金髪の髪を持つアカリ
そして皆を率い、先頭を駆けるのは銀髪を靡かせ、改造制服の裾を揺らす美食研究会、会長のハルナ
これに巨大なゴールドマグロを抱えたイズミを含めた四名が、ゲヘナでも悪名高いテロリスト集団、美食研究会である
「美食というものは、孤高でありながら普遍的でなくてはなりません……ただ見世物としてお金稼ぎの手段に終わるなど、このゴールドマグロさんも望んでいない筈……私達はただ、その声に共鳴しただけ……そうですよね、フウカさん?」
「んんっ!?んーっ!?んんんッ!?」*1
「んもう♡そんなに興奮して……よほどこのゴールドマグロが食べたいのですね!」
「んんっ―――!!!!」*2
そんな声を挙げている人物、ゲヘナ給食部部長のフウカに語り掛ける。簀巻きにされ口に布を噛ませられたフウカは、ハルナに顔全体で訴えかけるがハルナには伝わらなかったようだ
「御覧なさい、このゲヘナ給食部部長の感涙に咽び泣く程の同意をッ!」
「猿轡のせいで、何を云っているのかさっぱりですけれどね☆」
「わっ、このマグロまだびちびち跳ねてるっ、ヒレでびんたされ、ひぶっ!?」
「イズミ、ちゃんと捕まえていてっ!それ、すっごく高いんだからッ!」
「わ、分かってるよぉ!」
「せっかく隙をついてフウカさんを拉致し、そのまま逃げてこのゴールドマグロを手にしたのです……無下にしてはいけませんよ?」
「分かってるってばー!」
と美食研究会が逃げていると、背後から追いかける先生を含めた補習授業部達や、ネクストライの生徒であるレイカ、そしてチトが乗る車二台が猛追していた
「先生!前を走る車のタイヤを撃ち抜いてもいいか!?」
「待って!走ってる車のタイヤを狙ってもピンポイントで止めるのは難しいし、装甲やタイヤの仕様によってはそのまま走り続けられる……!」
ミナサが冷静に分析し、アズサの提案を制止する。車のタイヤを撃っても完全に足止めできるとは限らない。どうしたものかと先生が助手席で眉間を押さえて悩んでいると、レイカの車に同乗しているチトが意味深に微笑み、ふと奇妙な形状の棒を取り出した
「ふふ、あんなところで逃げ回るなんて……少し、足止めを手伝いましょうか」
「おっ、何か出す気か?」
「先生、よろしいですか?……これ、私が用意したちょっとした特製品ですので」
先生が頷くのを確認すると、チトは車の窓を開け、レイカ達に見せたその不思議な棒を力強く投げ放った
その棒はまっすぐ投擲軌道を描くのではなく、空中で複雑な軌道を描きながら変則的に加速し、美食研究会の乗る車のタイヤめがけて正確無比に飛び込んでいく
「なっ、何あれ!? 弾道が曲がっ――」
パシュッ! と乾いた破裂音が響き、美食研究会の車のタイヤが見事に貫かれた。バランスを崩した車体は激しくきしみ、ハルナは即座に判断を下す
「ふむ……車はここまでですね。皆、足を使って逃げますよ!」
「これもったまま歩き!?」
美食研究会はたまらず車を捨て、道路脇の路地へと走り出して逃走を図る。先生たちもすぐに車を急停止させ、ドアを開けて飛び降りた
「逃がすかよ! 追うぞ!」
レイカが前衛に出て地を蹴る。ハルナは背後を振り返り、これ以上は振り切れないと直感すると、追手に向かって冷徹に銃口を向けた
「これ以上しつこく纏り付くというのなら……お仕置きが必要ですね」
「ッ、来るぞ!」
激しい銃撃がレイカたちの方向へ雨あられと降り注ぐ。しかし、レイカは怯むことなく一歩前に出ると、前方に強固な硬質シールドを展開。飛来する銃弾をすべて弾き飛ばし、その勢いのまま『絶対加速』の力を足元に纏わせて爆発的な速度で急接近した
「甘いッ!」
「なっ……!?」
ハルナの横をすり抜けたレイカは、そのままの勢いで最後尾にいたジュンコを捉え、圧倒的な機動力による高速タックルで近くのコンクリート壁まで一気に押し飛ばす
「がはっ……!?」
「ジュンコさんっ!?」
「隙だらけだぞ!」
仲間が壁に激突して崩れ落ちるのを見たアカリとイズミが慌てて銃を向けようとするが、そこへ冷静に状況を把握していたミナサの『拡張された聴覚』による正確な索敵情報がレイカへと飛ぶ
「先生、左前方から一人が回り込む。――それと拘束を解除する隙ができる」
「分かった!レイカはアカリの対処を!アリカはフウカの拘束を解く補助を!」
「了解!」
「ウチに任せとけって! ゴー! ジャンプ! で一網打尽や!」
アリカが豪快に愛用のショットガンを構えて威嚇射撃を放ち、イズミの動きを完全に封じ込める
さらに、チトが持っていた武器『Mistake Six』の銃口をさりげなく向けつつ、逃げ場を巧みに塞いでいく
「ふふ、これ以上は大人しく降参した方が身のためですわよ、美食研究会の皆さん?」
「うぅ……ここまで完璧に包囲されてしまうとは……計算外ですわね……」
ハルナは優雅さを保とうとしつつも、すでに退路が完全に断たれている悟り、ふぅと小さく息を吐いた。ジュンコは壁にもたれてぐったりとし、イズミはゴールドマグロを抱えたまま目を回している
「はぁ……本当にとんでもない連中ですね……」
ぐったりと息を吐くフウカの拘束を、駆けつけた風紀委員の羽川ハスミたちが手際よく解除していく。周囲の混乱がようやく落ち着きを見せる中、先生は額の汗を拭いながら、やれやれといった様子でハスミに向き直った
「ハスミ、すまないが後の後始末と、美食研究会の身柄の引き取りは頼めるかい?」
「はい、先生。お怪我がなくて何よりでした……。まったく、ゲヘナの連中にはいつも手を焼かされますが、今回は特に大立ち回りを演じてくれましたね。風紀委員として、しっかり厳重注意と反省文の徹底を行っておきます」
ハスミが凛とした表情で頷き、取り押さえられた美食研究会のメンバーたちを回収していく。それを確認したレイカは、愛用の『ゼロモーメントポイント』をホルスターに収めながら、軽く肩を回した
「さて、こっちのドタバタもこれで一件落着だな。……俺たちはそろそろネクストライに戻るとするか。ハレカへの報告書も面倒臭そうだしな」
「そうですね。私も、これ以上ここに長居すると面倒なことに巻き込まれそうですし……それに、そろそろ良い時間ですしね」
レイカの言葉に続いて、チトも上品に微笑みながらドレスの裾を軽く整える
「じゃあ先生、俺とチトはこれで。また何かあったら連絡してくれ」
「ふふ、先生、お疲れ様でした。……それでは、私はこれで自宅の方へ失礼させていただきますね。あまり遅くなると、あちこちで気苦労が絶えませんので」
そう言ってチトは軽やかに一礼し、レイカと共にその場を離れていく
騒がしかった交差点の風がふと静かに吹き抜け、こうして一連の騒動はそれぞれの帰路へと落ち着いていくのだった