ズドズドズドズドガァァァンッッ!!!
フルオートショットガンの鼓膜を殴りつけるような重低音が、第十九分館の広大な体育館内に反響した
佐藤アリカの愛銃、AA-12をベースにした高火力ショットガン『ゴー! ジャンプ!』から吐き出される十二ゲージの徹甲スラッグ弾と大口径散弾の嵐が、直線軌道を描いて聖園ミカへと殺到する
しかし、煙が爆散した直後、そこに立っていたミカの身体には目立った傷一つついていなかった
ミカの身体を包み込む圧巻の神秘――それ自体が物理的質量を持った厚い城壁のように、着弾した弾丸の運動エネルギーを強引に圧し折り、弾き返していたのだ
「あははっ! すごい勢い! でもね――速いだけでも、数が多いだけでも、私には届かないよッ!」
ドドンッ! とコンクリートを粉砕する音が響く
ミカが軽やかにステップを踏んだ瞬間、彼女の背後にあった巨大な耐震柱が、衝撃波の余波だけで激しく亀裂を走らせた。ミカの戦闘スタイルは理屈を超越している。純粋で無軌道な暴力の塊。ただ腕を振り下ろし、大地を蹴るだけで、その場の空間そのものが破壊されていく
「くっそ、硬ったいなアレほんまに!! 人間どころか重戦車レベルのゴリラやで!!」
アリカは金髪のツインテールを振り乱しながら、滑り込むように横転してミカの追撃を間一髪で回避した。直後、アリカが直前までいた床へミカの拳が叩きつけられ、コンクリートがまるで水飛沫のように跳ね上がる
アリカは着地の勢いを利用して素早く態勢を立て直すと、AA-12のドラムマガジンを巧みな手つきで叩き込み、再び撃ち開いた
ズドガン! ズドガン!
「ウチを『他学園の子』扱いして見下すんならな、そのナメくさった頭ごと一緒に吹き飛ばしたるわ!! 距離取って穴だらけにしたるッ!」
アリカは決して真正面からミカの怪力を受け止めない。自身の直感をフル回転させ、ミカの圧倒的な間合いからギリギリの距離を保ち続ける。距離を詰められそうになれば、フルオートショットガンの凄まじい面鎮圧能力でミカの足を一瞬だけ止め、その隙に素早く位置を変える
パワーと機動力
互いの強みがぶつかり合い、体育館のコンクリート床が次々と削られて粉塵が巻き上がっていく
一方、体育館の反対側では、補習授業部とネクストライの出向組による防衛戦が展開されていた
「アズサ、左側から回り込んでくる敵を牽制して! コハルはヒフミのカバーを!」
「了解! 」
「来るなら来なさいよーッ!」
下江コハルが顔を真っ赤にしながら愛銃を乱射し、白洲アズサが手際よく精密射撃でアリウス生の脚部を撃ち抜いていく
その傍らでは、高橋ミナサと天笠ネカが後方を固めていた
ミナサはアンニュイな目元を引き締め、愛銃『トランスデューサー』を構えながら、耳に装着したインナーイヤフォン型のヒアリング・コントロールシステムに全神経を集中させていた
「右奥の観客席裏、三人潜んでる。……コハルちゃん、そのまま右へ銃口を向けて撃って」
「へっ!? あ、本当だ! 命中! なんで分かるのよー!?」
「音の反響と床の振動で立体的に把握できるからね……」
ミナサの拡張された聴覚は、混戦の中でもアリウス生の足音や呼気、銃の作動音を正確に捉えていた。ネカもまた、丸眼鏡を指で押し上げながら、1年生ながらも確実な射撃でミナサの死角をフォローする
だが、戦況は決して楽観できるものではなかった
先生の的確な指示とミナサの索敵、補習授業部員の奮闘によってどうにか戦線を維持してはいるものの、相手は100人を超えるアリウスの大部隊である
「はぁ、はぁ……っ! な、なんで……撃っても撃っても、次から次へと入ってくるんですかー!? 体育館の入り口、アリウスの人たちで埋まってるじゃないのよーっ!」
コハルが絶叫しながら弾切れになったライフルに、慌ただしく弾薬を装填する
「ダメです……! 敵の数が多すぎます! このままじゃ弾薬が底を突いちゃいますよ……!」
阿慈谷ヒフミも悲痛な声を上げた
実際、アズサの弾倉も残り僅かとなり、アリウス生の押し寄せる波を押し返しきれなくなりつつあった。体育館の正門付近は黒い防護服に身を包んだアリウス生で密集し、じわじわと補習授業部を包囲するように包囲網を狭めてきている
「くっ……増援が止まらない……! どうすれば……!」
コハルが半泣きになりながら引き金を突き引いた、その時だった
――ズドォォンッ!!!!
突然、体育館の正門とは真反対――搬入用として使われていた重厚な金属製の裏手非常扉が、凄まじい衝撃音とともに内側へ向かって吹き飛んだ
「きゃああっ!?」
「な、なに!? 何が起きたの!?」
破砕された金属扉の破片が激しく飛び散り、白煙が体育館の北側エリア一面に立ち込める
アリウス生たちも予期せぬ方向からの破壊音に一斉に銃口を向け、緊張を走らせた
煙の奥から聞こえてきたのは、キヴォトスで一般的な実体弾の銃声とは一線を画す、独特な金属機械音だった
――キュイイイィィン……ドカバキッ! ズドン! ズドン!
高周波パルスの駆動音と、高圧エアによる特殊作動音。他学園では滅多に耳にすることのない、極めて機械的で高精度な重厚な駆動音
だが、その音を聞いた瞬間、ミナサとネカの表情が劇的に変わった
「あ……この音って……!」
ネカが目を輝かせ、思わず声を上げる
「はぁ、まさかとは思ったけど……ようやく来た……」
ミナサはホッと安堵の息を吐き、唇を緩めた
煙が徐々に薄れていく中、そこから堂々と足を踏み入れてきたのは、作業服を脱ぎ捨ててネクストライ制式戦闘服に身を包んだ、洗練された武装集団だった
相崎ツヨシ率いる防衛部の精鋭たち。そしてその先頭に立つのは、茶髪のロングヘアをなびかせてLMG『ラッシュTHEネーム』を肩に担いだ霧状ヘルタと、銀髪のショートヘアを整えながら二丁拳銃『タッチ&ラン』を構える街肩カリネ
そして――その中央をゆっくりと歩いてくる人物がいた
黒髪のウルフカットに、鮮やかなターコイズカラーの毛先
肩にかけた愛銃『ゼロモーメントポイント』のスライドをカチャリと戻し、不敵な笑みを浮かべたネクストライスクール現場総責任者――赤坂レイカである
突如として現れた重武装の第三勢力に、体育館全体の動きがピタリと止まった
凄まじい激闘を繰り広げていたアリカとミナサ、そして聖園ミカまでもが攻撃の手を止め、それぞれの陣営の近くまで距離を取って、裏口から乗り込んできた集団を注視する
「ハァ……ハァ……! レ、レイカ……! 遅いねんダボが! いいところで来よってからに!」
アリカは肩で息をつきながらも、レイカの姿を認めて口元をニヤリと歪めた
一方、ミカは急に乱入してきたネクストライの制式部隊を眺め、首をかしげながら呆れたような、しかし冷ややかな声を響かせた
「あは……何かな? 補習授業部のお手伝いさんだけじゃなくて、今度は本格的な部隊まで入ってきたんだ? ねぇ、いくらなんでもやりすぎじゃない? なんでトリニティの敷地内で、他学園の防衛部隊が堂々と武力介入してるのかな……? これって立派な『侵略行為』になっちゃうと思うんだけど?」
ミカの視線には、明らかな不快感と圧迫感が籠もっていた
だが、先頭に立つレイカは一切怯むことなく、鼻で笑って見せた
「ハッ、侵略行為だと? 随分と都合のいい言葉を使うじゃねえか、ティーパーティーのパテル派の首長様よ」
レイカは堂々と歩みを進め、胸ポケットから折りたたまれた二枚の公式書簡を取り出し、指先で優しく弾いてみせた
「悪いが、俺たちは不法侵入でも無断介入でもねえよ。シスターフッドを経由してな、ティーパーティーの正式な権限……つまりホスト権限で『資材搬入の許可』と、万が一の際の『ネクストライ生徒に対する正当防衛および武装の使用を全面的に許可する』旨の特別契約書を、事前にバッチリ取り付けさせてもらったからな……!」
「……は?」
ミカの笑顔が、一瞬でピキッと凍りついた
「なに……それ……? ナギちゃんが……そんな契約書を結んだ……? 私の知らないところで……?」
ミカの頭の中に浮かんだのは、当然ながら桐藤ナギサの顔だった
(ナギちゃんが……シスターフッドを通して、あらかじめネクストライの武力介入を合法化する書類にサインしていた……? 嘘でしょ……? ナギちゃん、万が一に備えて私の動きを警戒して、ここまで裏で手を回していたっていうの……!?)
実際には、夢見チトが裏でシスターフッドを動かし、レイカが条件として突きつけて成立させた契約書であったのだが、事情を知らないミカにとっては「ナギサが自分への保険として準備していた周到なトラップ」にしか見えなかったのだ
ナギサを精神的に追い詰め、完璧に詰ませたはずだった計画
そこにきて浮上した、あまりにも巨大な番狂わせ
ミカの額に激しい青筋が浮かび上がる
「あは……あはははっ! すごいなぁ、ナギちゃん……!万が一に備えて、私を邪魔するための罠を仕掛けてたんだ……! 本当に、どこまでも甘くて……どこまでも余計なことをしてくれるよッ!」
ミカはドス黒い殺意を隠そうともせず、強烈な神秘を全開にして周囲の空間を威圧した
「でもね……! そんな紙切れ一枚で、私が退くとでも思ったのかな!? 誰が相手だろうと関係ないよ! 邪魔するやつは、全部まとめてここで叩き潰すだけだもんッ!」
「やってみろよ、お嬢様」
レイカは冷たい視線でミカの威圧を受け止めると、アリカの側へと静かに歩み寄った
「レイカ……」
「へばってねえだろうな、アリカ」
「誰がへばるかアホ! ウチはまだまだピンピンしとるわ!」
アリカは強がりを言ってみせたが、AA-12を保持する両腕は激しい連射とミカの衝撃波を受けて微かに震えていた。ミカの圧倒的なパワーをたった一人で受け止め続けていたのだから無理もない
レイカはそんなアリカの様子を察し、自身のポケットから『あるもの』を取り出した
それは、鮮やかなターコイズブルーと、深みのあるネイビーが美しく混ざり合った、スタイリッシュなデザインのシリコン製リストバンドだった。ネクストライの学園カラーを想起させる洗練されたアイテムである
「ほらよ、アリカ。これ着けとけ」
レイカはそれをアリカに向かって放り投げた
アリカは慌ててそれを手で受け止め、不審そうにリストバンドを見つめた
「……なんやこれ? これってヒバナの試作兵器か? なんか特殊なバリアでも張れるんか?」
アリカが期待に目を輝かせて尋ねると、レイカはあっけらかんと肩をすくめた
「いや? 特になんの効果もないらしいぞ。ヒバナが俺のやつを改修する時に作って余ってたから作られた、ただのシリコンバンドだよ」
「効果ないんかいッ! 紛らわしい渡し方すなアホ!」
アリカは盛大に突っ込みを入れた
だが、レイカはニッと口角を上げ、アリカの肩をポーンと力強く叩いた
「効果なんかなくても関係ねえだろ。景気づけのお守りだ。俺たちの『ネクストライの色』を身につけておけってことさ。現場総責任者からの支給品だ、ありがたく着けとけ」
「…………っ」
アリカは一瞬だけ目を見開き、それから「ハッ……ほんま、相変わらず適当なんやから」と嬉しそうに笑った
アリカは迷うことなく、そのターコイズブルーとネイビーのリストバンドを自身の右腕にしっかりと装着した
腕に伝わる適度な締め付け感。ネクストライの仲間が、信頼するリーダーがここにいるという絶対的な安心感
その瞬間、アリカの全身にメラメラと新しいエネルギーが満ち溢れていくのが分かった
「……よっしゃあ! 気合い入ったわ!!」
アリカはアゴを上げ、戦う前よりも遥かに高いボルテージで『ゴー! ジャンプ!』を構え直した
一方、ミカはアリカたちのやり取りを見て苛立ちを隠さず、背後のアリウス生たちに向かって冷酷な指示を飛ばした
「全員、何してるの!? 突っ立ってないで撃って! 新しく入ってきた奴らも、まとめて蜂の巣にしなきゃ☆」
一斉に銃口を向けて前進を開始するアリウスの大群
それを見たレイカは、即座に背後の部隊に向かって指示を飛ばした
「ツヨシ! 防衛部は補習授業部と合流して陣地を構築しろ! 体育館の正門側から押し寄せるアリウスの雑魚どもを片片端から押し返せ!」
「了解! 防衛部、前へ! 補習授業部を保護しつつラインを下げさせるな!」
「ヘルタ、カリネ! お前たちもツヨシたちと連携してアリウス生の掃討に集中しろ! 数の暴力を力ずくで押し潰すぞ!」
「了解っすリーダー! 『ラッシュTHEネーム』の全開火力で雑魚どもを蹴散らすっすよーッ!」
「了解。ヘルタが逃したものを排除する」
指示を受けた防衛部とヘルタ、カリネが一斉に動く
ネクストライの制式火力がアリウスの大群へと叩きつけられ、圧倒的だった戦力差が一気に覆されていく
そして――レイカはあえて、聖園ミカから視線を外し、アリカの背中へと視線を向けた
「アリカ。ミカはお前に任せる。あの怪力女の相手、やってくれるか?」
「当たり前やろレイカ!! ウチがやらんで誰がやるねん!」
アリカは右腕のリストバンドをギチッと鳴らし、真っ直ぐにミカを見つめた
レイカはミカと直接戦うのではなく、ミカの圧倒的な暴力という「台風の目」に対し、アリカをタイマンで集中させる環境を整える道を選んだのだ。アリカの感情とプライド、そして仲間を思うエモーションが、あの絶対的な怪力を突破すると信じていたからこそ
「へぇ……! 私に一対一で勝てるつもりなのかな……!?」
ミカが激怒の表情で大地を蹴り、爆音とともにアリカへと肉薄する
「へっ!しっかり覚えときや!ウチはネクストライの佐藤アリカやッ!! いくぞゴリラ女ぁぁぁッッ!!」
ズドズドズドズドガァァァンッッ!!!
再び、体育館内にフルオートショットガンの爆音と、ミカの拳が放つ破壊の衝撃波が激突する。
パワーとエモーション――理屈を超えた二つの意志が激しく火花を散らし、体育館を揺るがす決戦の火ぶたが、再び盛大に切り落とされたのだった
おまけ
この一件の前
ヒ「にしても、何故レイカはこの前私が提案したAIシステムをなぜ却下したのかしら……」
ジュ「あはは……なんででしょうね……(言えない……あの事件が収まるまで許可が出せないなんて言えっこない……)」